Lesson33「昼寝会議室リターンズ」
Lesson33「昼寝会議室リターンズ」
火曜日の午後、僕は資料整理をしていると、雪杉さんが興奮した様子で近づいてきた。
「上村さん!すごいことになりました!」
「何がですか?」
「会議室BにVR瞑想マシンが導入されたんです!」
VR瞑想マシン?僕は首をかしげた。
「VRで瞑想って、どういうことですか?」
「ヨガの先生が教えてくれたんですが、バーチャル空間で自然の中にいるような体験ができて、より深い瞑想状態に入れるんだそうです」
雪杉さんの目がキラキラと輝いている。
「それで、昼休みに試してみませんか?」
僕はちょっと不安になった。前回の会議室昼寝事件のことを思い出したからだ。吹きもどしに始末書と、散々な目に遭った。
「大丈夫ですか?また何か問題が起きたりしませんか?」
「今度は違います」雪杉さんが胸を張る。「これは正式な福利厚生の一環として導入されたんです。人事部からの通達もありました」
「福利厚生?」
その時、本山課長が通りかかった。
「何の話をしているんですか?」
「VR瞑想マシンの話です」雪杉さんが説明する。
「ああ、あれですね」課長がうなずく。「最近の働き方改革の一環で、ストレス軽減のために導入されたんです。昼休みの利用を推奨しています」
「推奨って、本当にサボり...じゃなくて、休憩していいんですか?」
「もちろんです。むしろ積極的に利用してください」
課長がそう言うなら安心だ。
昼休みになると、雪杉さんに誘われて会議室Bに向かった。扉を開けると、そこには見たことのない機械が置かれていた。
「おお、これがVR瞑想マシンか」
白い近未来的なデザインの椅子が2台、それぞれにVRヘッドセットが接続されている。
「説明書によると、15分コース、30分コース、60分コースがあるそうです」雪杉さんがパンフレットを読み上げる。
「森林浴、海辺、宇宙空間、古代遺跡...色々なシチュエーションが選べるんですね」
「宇宙空間!」雪杉さんが食いつく。「絶対それにします」
(やっぱり宇宙が好きなんだな)
僕たちがVRヘッドセットの設定をしていると、扉が開いて蓮見さんが入ってきた。
「あら、もう使ってるの?」
「蓮見さんも試すんですか?」
「気になってたのよ。でも2台しかないのね」
「次の時間に使えばいいじゃないですか」雪杉さんが提案する。
「そうね。じゃあ見学させてもらうわ」
僕と雪杉さんは椅子に座り、VRヘッドセットを装着した。
「プログラムを選択してください」機械音声が流れる。
「宇宙空間、15分コースでお願いします」雪杉さんが答える。
僕も同じプログラムを選択した。
「プログラムを開始します。リラックスしてお楽しみください」
突然、視界が変わった。僕は宇宙空間に浮かんでいる。地球が眼下に見え、星々が輝いている。
「わあ...」雪杉さんの声が聞こえる。
確かに、これは圧巻だ。まるで本当に宇宙にいるような感覚で、自然と心が落ち着いてくる。
「上村さん、見えますか?土星です」
「本当ですね。綺麗だ」
僕たちは宇宙空間を漂いながら、静かな時間を過ごした。BGMは環境音楽で、とてもリラックスできる。
「これなら昼寝より効果的かもしれませんね」
「そうですね。目は覚めてるのに、すごく休まった感じがします」
15分があっという間に過ぎて、プログラムが終了した。
「いかがでしたか?」蓮見さんが興味深そうに尋ねる。
「すごく良かったです」僕は素直に答えた。
「宇宙で瞑想なんて、贅沢ですよね」雪杉さんがうっとりとしている。
その時、扉がガチャリと開いて、丸山部長が入ってきた。
「おお、何だこれは」
「VR瞑想マシンです」蓮見さんが説明する。
「VR瞑想?面白そうじゃないか」丸山部長の目が輝く。「ちょっと試してみたいな」
「部長、お疲れ様です」僕は慌てて立ち上がった。
「いやいや、座ったままで結構」部長が手を振る。「これ、どうやって使うんだ?」
雪杉さんが操作方法を説明すると、部長は興味深そうにうなずいた。
「なるほど、なるほど。最近の技術はすごいな」
「部長も試されますか?」
「ぜひやってみたい。どんなプログラムがあるんだ?」
「森林浴、海辺、宇宙空間、古代遺跡...」雪杉さんがパンフレットを読み上げる。
「古代遺跡!それだ!」部長が即決する。
「時間はどうされますか?」
「せっかくだから60分コースで」
「60分って、午後の業務時間に入っちゃいますけど...」僕が心配になった。
「大丈夫だ。これも仕事のうちだ」部長がVRヘッドセットを装着する。「新しいテクノロジーの体験は、我々のビジネスにも活かせるかもしれん」
(そういう理屈になるのか)
「古代遺跡、60分コースを開始します」
機械音声と共に、部長の瞑想が始まった。
最初の10分くらいは静かだった。部長は椅子に座ったまま、リラックスしているように見える。
「どんな感じなんでしょうね」蓮見さんがひそひそ声で言う。
「古代遺跡って、エジプトのピラミッドとかでしょうか」雪杉さんも小声で推測する。
しかし、15分ほど経った頃から、部長の様子が変わってきた。
「おお...これは...」部長がつぶやき始める。
「どうされたんでしょう?」
「すごい遺跡だ...こんなものが地球に存在していたとは...」
部長の声が次第に大きくなってくる。
「部長、大丈夫ですか?」僕が声をかけるが、VRヘッドセットをしているので聞こえていない。
「おお、光が...神々しい光が遺跡から放たれている」
(どんなプログラムなんだ)
20分経過。部長の興奮は収まるどころか、エスカレートしていく。
「これは...もしや私は選ばれた者なのか?」
「選ばれた者?」蓮見さんが困惑している。
「そうだ...私はこの世界の救世主として召喚されたのだ」
(救世主?完全に異世界転生モードに入ってる)
30分経過。部長は立ち上がって、エアで何かと戦い始めた。
「邪悪なるドラゴンよ!この丸山二郎が相手だ!」
「ドラゴン?」雪杉さんが首をかしげる。
「はあああ!必殺、社畜一掃斬り!」
部長が大きく腕を振り回す。VRヘッドセットのコードが振り回されて、危険な状態だ。
「ちょっと、誰か止めた方がいいんじゃない?」蓮見さんが心配そうに言う。
その時、扉が開いて碓氷さんが入ってきた。
「あら、何か騒が...部長?」
「碓氷!君もこの異世界に召喚されたのか!」部長が碓氷さんを見て興奮する。
「異世界?」
「そうだ!君の筋肉の力が、この世界を救うのだ!」
「筋肉で世界を救う...」碓氷さんが真剣に考え始める。「確かに、筋肉は世界を変える力がありますね」
(碓氷さん、乗っかっちゃダメだ)
40分経過。部長の妄想はさらに拡大していく。
「我が軍団よ!」部長が会議室の全員を見回す。「雪杉よ、君の癒しの魔法で仲間を回復せよ!」
「癒しの魔法...だしマグカップでしょうか?」雪杉さんが真面目に答える。
「上村よ、君は軍師だ!作戦を立てよ!」
「作戦って...」僕は困ってしまった。
「蓮見よ、君の笑顔で敵を魅了するのだ!」
「敵を魅了...営業スマイルのことかしら?」蓮見さんが苦笑いする。
50分経過。部長はついに魔王との最終決戦に突入した。
「魔王よ!貴様の悪行もここまでだ!」
部長が盛大にエアバトルを繰り広げる。椅子を蹴飛ばし、机に手をついて、完全に現実を忘れている。
「みんな、離れて!魔王の攻撃が来るぞ!」
僕たちは慌てて部長から距離を取った。
「部長の運動量、すごいですね」碓氷さんが感心している。「これもある意味、有酸素運動です」
(今はそういう問題じゃない)
55分経過。ついに佐々木が様子を見に来た。
「何の騒ぎですか?」
「部長がVR瞑想で異世界転生してるんです」蓮見さんが説明する。
「異世界転生?」
「そうです。今、魔王と戦ってます」
佐々木が部長を見ると、ちょうど部長が大きく「はあああ!」と叫んでいるところだった。
「これは...すごいですね」
「勝った!ついに魔王を倒したぞ!」部長が勝利の雄叫びを上げる。
そして60分のプログラムが終了した。
「プログラムを終了します。お疲れ様でした」
機械音声と共に、部長がVRヘッドセットを外した。
「ふう...」部長が深いため息をつく。
僕たちは固唾を呑んで部長の様子を見守った。
「どうでした、部長?」雪杉さんが恐る恐る尋ねる。
「いやあ、すごい体験だった」部長が満足そうに笑う。「古代遺跡の神秘的な雰囲気に、すっかり引き込まれてしまったよ」
(あれ?普通に戻ってる)
「魔王とか、異世界とか言ってませんでしたっけ?」蓮見さんが確認する。
「魔王?何のことだ?」部長がきょとんとしている。
どうやら、VRから戻ると記憶が曖昧になるらしい。
「いやあ、それにしても疲れた」部長が椅子に座る。「もう午後の会議の時間か。みんな、業務に戻ろう」
部長がそう言って会議室を出ていくと、僕たちは顔を見合わせた。
「今のって...」佐々木が困惑している。
「部長、覚えてないみたいですね」碓氷さんが言う。
「VR酔いみたいなものでしょうか」雪杉さんが首をかしげる。
「とりあえず、今日のことは秘密にしておきましょう」蓮見さんが提案する。
翌日、部長はけろっとした顔で会社に来た。
「昨日のVR瞑想、とても良かったよ」部長が僕たちに話しかける。「今度は森林浴を試してみたいな」
「森林浴ですか...」僕は少し不安になった。
「部長、15分コースから始めた方がいいんじゃないでしょうか」雪杉さんが提案する。
「15分?短すぎるだろう。やるなら60分だ」
僕たちは再び顔を見合わせた。
その後、VR瞑想マシンは社内で大人気になったが、60分コースは「部長専用」という暗黙のルールができた。
理由は、みんなよく分かっていた。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――雪杉「VRは現実逃避、でも帰る場所があるから安心」
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




