Lesson32「筋トレ格言Tシャツデー」
Lesson32「筋トレ格言Tシャツデー」
月曜日の朝、僕が会社に着くと、営業三課のフロアがざわついていた。
「おお、今日もいいTシャツですね!」
「碓氷さん、今日のメッセージは何ですか?」
声の方向を見ると、碓氷さんが黒いTシャツを着て立っていた。胸元には白い文字でこう書かれている。
『筋肉は裏切らない。でも今日は月曜日が裏切る』
「おはようございます、上村さん!」碓氷さんが僕に気づいて手を振る。「今日は月曜病対策の格言にしました」
(月曜病対策って...)
「碓氷さん、もしかして毎日違うTシャツ着てるんですか?」
「はい!筋トレ格言Tシャツコレクション、現在97種類所有しています」
97種類って、一体どこで買ってるんだ。
「でも今日のは手作りなんです」碓氷さんが嬉しそうに胸を張る。「週末にアイロンプリントで作りました」
その時、雪杉さんが現れた。今日も相変わらず飄々とした表情で、手にはだしマグを持っている。
「おはようございます」雪杉さんが軽く会釈する。「碓氷さん、今日のTシャツもいいですね」
「ありがとうございます!雪杉さんも何かメッセージTシャツ着てみませんか?」
「メッセージTシャツ...」雪杉さんが首をかしげる。「どんなメッセージがいいでしょう?」
「そうですね...『だしは心の栄養』とか?」
「あ、それいいですね!でも、『昼寝は宇宙との対話』の方がしっくりきます」
(宇宙との対話って何だ)
蓮見さんが近づいてきて、「何の話?」と尋ねる。
「雪杉さんのメッセージTシャツを考えてるんです」碓氷さんが説明する。
「面白そう!私も欲しいかも」蓮見さんが興味深そうに言う。「『営業は筋肉、笑顔は脂肪燃焼』とか?」
「蓮見さんらしくて良いですね!」
そこに佐々木がやってきた。
「おはようございます。今日も賑やかですね」
「佐々木さんもTシャツの話に参加しませんか?」碓氷さんが誘う。
「僕は遠慮しておきます」佐々木が苦笑いする。「目立つのはちょっと...」
「でも、佐々木さんなら『エリートは努力の別名』とか似合いそう」蓮見さんがからかうように言う。
「やめてください」佐々木が顔を赤くする。
僕は今日の雪杉さんを見ていて、ふと思った。彼女がメッセージTシャツを着ている姿を想像すると、なんだか可愛いだろうな、と。
「あの、碓氷さん」僕が声をかける。「どこでそのTシャツ作ってるんですか?」
「駅前のプリントショップです!意外と安くて、1枚1,500円くらいで作れるんですよ」
「そうなんですね」
その時、雪杉さんが僕を見て言った。
「上村さんも作るんですか?」
「あ、えーと...」
実は、雪杉さんとおそろいのTシャツがあったら楽しそうだな、と思ったのだが、そんなことは言えない。
「どんなメッセージにするんですか?」雪杉さんが純粋な好奇心で尋ねる。
「うーん...『常識は非常識の入り口』とか?」
「おお、哲学的ですね」碓氷さんが感心する。
「上村さんらしい」雪杉さんがクスクス笑う。「でも、もっとサボり系の方が似合いそう」
「サボり系?」
「『効率化は愛』とか」
(効率化は愛って何だ)
午前中の業務が一段落した昼休み、僕は一人でプリントショップに向かった。
(雪杉さんとおそろいって、ちょっと恥ずかしいけど...でもせっかくの機会だし)
店内に入ると、Tシャツのサンプルがずらりと並んでいる。色も豊富で、どれにしようか迷ってしまう。
「いらっしゃいませ」店員さんが声をかけてくる。「オリジナルTシャツですか?」
「はい。文字をプリントしたいんですが」
「どのような文字でしょうか?」
僕は少し考えて言った。
「『サボりは芸術、残業は暴力』でお願いします」
「面白いメッセージですね」店員さんが笑いながらメモを取る。「色はいかがしますか?」
「白地に黒文字で。あと、もう一枚同じものを」
「同じもの2枚ですね。サイズは?」
「Mサイズと...」
僕は雪杉さんのサイズを想像してみる。たぶんSサイズだろう。
「Sサイズを1枚ずつでお願いします」
「承知いたしました。お渡しは明日の夕方になりますが」
「はい、それで結構です」
翌日の夕方、僕はTシャツを受け取りに行った。完成品を見ると、なかなか良い出来だ。
『サボりは芸術、残業は暴力』
雪杉さんにぴったりのメッセージだと思う。
でも、どうやって渡そう?
「はい、雪杉さん、おそろいのTシャツ作りました」なんて言えるわけがない。自然な流れで渡す方法を考えなければ。
翌日の朝、僕は袋に入れたTシャツを会社に持参した。
「おはようございます」雪杉さんがいつものように挨拶してくる。
「おはようございます」
僕は手に持った袋をどうしようか迷っていた。
「上村さん、その袋、何ですか?」
雪杉さんの予想外の質問に、僕は慌てた。
「あ、これは...」
その時、碓氷さんがやってきた。今日のTシャツには『火曜日も筋肉は燃えている』と書かれている。
「おはようございます!あら、上村さん、何か買い物でもしたんですか?」
「実は...」僕は意を決して袋から片方のTシャツを取り出した。「メッセージTシャツ、作ってみたんです」
「おお!」碓氷さんが目を輝かせる。「どんなメッセージですか?」
僕はTシャツを広げて見せた。
「『サボりは芸術、残業は暴力』...」雪杉さんがゆっくりと文字を読み上げる。「すごく、上村さんらしいメッセージですね」
「雪杉さんから影響を受けたかもしれません」僕は正直に答えた。
「私から?」雪杉さんが驚いたような顔をする。
「雪杉さんのサボり方を見ていると、確かに芸術的だなって思うんです」
「芸術的...」雪杉さんが嬉しそうに微笑む。「そんな風に言ってもらえて光栄です」
その時、僕は袋にもう一枚入っていることを思い出した。
「あの、雪杉さん」
「はい?」
「もしよろしければ...」僕はもう一枚のTシャツを取り出した。「同じもの、もう一枚あるんです」
雪杉さんの目が丸くなった。
「同じもの?」
「はい。もし、雪杉さんが着てくれるなら...」
僕は顔が熱くなるのを感じた。完全におそろいを提案している状況だ。
「おそろい...」雪杉さんがTシャツを受け取って眺める。
その時、蓮見さんがタイミング悪く現れた。
「あら、何してるの?」
「上村さんがメッセージTシャツを作ったんです」碓氷さんが説明する。
「へえ、見せて見せて」蓮見さんがTシャツを覗き込む。「『サボりは芸術、残業は暴力』...すごいメッセージね」
「しかも雪杉さんとおそろいなんです」碓氷さんが無邪気に付け加える。
「おそろい?」蓮見さんの目がキラリと光る。「ふーん、そうなんだ」
僕は蓮見さんの意味深な視線を感じて、さらに顔が赤くなった。
「別に、そういう意味じゃなくて...」
「どういう意味?」雪杉さんが首をかしげる。
「えーと...」
佐々木もやってきて、状況を把握すると苦笑いした。
「上村、大胆だな」
「大胆って何がですか?」雪杉さんがますます首をかしげる。
「いや、なんでもないです」僕は慌てて話を変えようとした。
その時、本山課長が現れた。
「みなさん、何を騒いでいるんですか?」
「上村さんがメッセージTシャツを作ったんです」雪杉さんが嬉しそうに報告する。
「メッセージTシャツ?」本山課長がTシャツを見る。「『サボりは芸術、残業は暴力』...」
課長の表情が微妙に変わった。
「上村さん、これは...」
「あ、すみません!仕事に関する意味じゃなくて...」
「いえいえ、面白いメッセージですね」課長が意外にも笑顔を見せる。「確かに、無駄な残業は良くないですからね」
(えっ、意外な反応だ)
「でも、サボりが芸術というのは...」
「サボりといっても、雪杉さんのような効率的な休憩のことです」僕は慌てて説明した。
「なるほど、そういう意味ですか」課長がうなずく。「それなら確かに芸術的ですね」
雪杉さんが僕を見て、「上村さん、私のサボりをそんな風に見てくれてたんですね」と嬉しそうに言った。
昼休みに、雪杉さんが早速Tシャツに着替えて戻ってきた。
「どうですか?」
白いTシャツに黒い文字が映えて、とても似合っている。
「すごく似合ってます」僕は素直に答えた。
「ありがとうございます。上村さんも着替えませんか?」
「今ですか?」
「はい。せっかくのおそろいですから」
おそろい、という言葉を雪杉さんの口から聞くと、なんだか特別な響きに聞こえる。
僕も更衣室でTシャツに着替えた。鏡で見ると、確かになかなか良い感じだ。
フロアに戻ると、雪杉さんが待っていた。
「わあ、本当におそろいですね」雪杉さんが手を叩いて喜ぶ。
その様子を見ていた碓氷さんが、「写真撮りましょうか?」と提案した。
「写真?」
「記念撮影です!おそろいTシャツデビューの記念に」
「あ、でも...」僕は恥ずかしくなった。
「撮りましょう、撮りましょう」蓮見さんも乗ってくる。
「私、写真苦手なんです」雪杉さんが遠慮がちに言う。
「大丈夫です。自然に並んでいただければ」碓氷さんがスマホを構える。
僕と雪杉さんは並んで立った。彼女の肩が僕の腕に軽く触れる。
「はい、チーズ!」
パシャリ。
「いい写真撮れました!」碓氷さんが満足そうに言う。
写真を見せてもらうと、僕たちは確かにおそろいのTシャツを着て、なんとなく様になっていた。
「LINEで送りますね」碓氷さんが操作している。
その後、社内でも僕たちのおそろいTシャツは話題になった。
「上村さんと雪杉さん、ペアルック?」誰かがひそひそ話している。
「まじ?付き合ってるの?」
「えー、いつの間に」
僕は恥ずかしくて俯いてしまった。
でも雪杉さんは相変わらず飄々としていて、「ペアルックって何ですか?」と純粋に質問していた。
「恋人同士が同じ服を着ることよ」蓮見さんが説明する。
「恋人...」雪杉さんがポツリとつぶやく。
その時、僕と雪杉さんの視線がぶつかった。彼女の頬が少し赤くなっているような気がする。
「あ、えーと...」僕は慌てて目を逸らした。
午後の業務中、僕は何度も雪杉さんの方を見てしまった。同じTシャツを着ている彼女を見るたびに、なんだか特別な気持ちになる。
定時になって、僕たちは一緒に帰ることになった。
「今日はありがとうございました」雪杉さんが駅まで歩きながら言う。
「こちらこそ、着てくれてありがとうございます」
「すごく気に入りました。特に『サボりは芸術』の部分」雪杉さんがクスクス笑う。
「雪杉さんからインスピレーションを得たメッセージです」
「私から?本当ですか?」
「はい。雪杉さんのサボり方は、確かに芸術的だと思います」
「そんな風に言ってもらえて、すごく嬉しいです」
駅の改札前で、雪杉さんが振り返った。
「上村さん」
「はい?」
「今度、一緒にメッセージTシャツ作りませんか?今度は私がメッセージを考えます」
「どんなメッセージですか?」
「『昼寝は宇宙との対話、だしは心の栄養』」
僕は思わず笑ってしまった。
「長すぎませんか?」
「じゃあ、『宇宙とだし』だけでも」
「それだと意味が分からなくなりそうです」
「確かに」雪杉さんも笑った。
改札を通る時、雪杉さんがもう一度振り返った。
「今日は楽しかったです。おそろい、また着ましょうね」
その言葉に、僕の心臓はドキドキと鳴った。
家に帰って、碓氷さんから送られてきた写真をもう一度見た。雪杉さんと並んで写る自分を見ていると、なんだか本当にカップルのように見える。
(これって、進歩なのかな?)
翌日、雪杉さんはまた同じTシャツを着て会社に来た。
「今日も着てくれたんですね」
「はい。すごく気に入ってるので」
その日から、金曜日は「メッセージTシャツデー」という非公式なイベントが始まった。碓氷さんはもちろん、蓮見さんも『笑顔は最強の営業ツール』というTシャツを作り、佐々木も渋々『努力は必ず報われる...はず』というTシャツで参加した。
でも僕と雪杉さんのおそろいTシャツは、やはり特別な存在として社内で話題になり続けた。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――雪杉「おそろいは心のユニフォーム、一人じゃない証拠」
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




