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Lesson31「新人歓迎ボウリング」

Lesson31「新人歓迎ボウリング」


金曜日の午後、本山課長から突然の業務連絡が入った。


「来週火曜日、新人歓迎のボウリング大会を開催します。営業部全体での親睦イベントですので、必ず参加してください」


僕は思わず眉をひそめた。ボウリング、か。学生時代にやった記憶はあるけれど、果たして今でもまともに投げられるだろうか。


「やったー!ボウリング!」


隣の席から雪杉さんの声が響く。振り返ると、彼女は両手を上げて小さくガッツポーズをしていた。


「雪杉さん、ボウリング得意なんですか?」


「得意っていうか、すごく楽しいんです。あのピンが倒れる音とか、ボールの重さとか、全部がヨガに通じるものがあって」


(ヨガに通じる?どういう理屈だ?)


でも雪杉さんの嬉しそうな表情を見ていると、なんだか僕も楽しみになってきた。


「佐々木はどうなんだ?」と蓮見さんが声をかける。


「僕はそこそこですね。学生時代にサークルでやってましたから」


佐々木の余裕そうな答えに、僕は少しプレッシャーを感じた。もし雪杉さんが佐々木のプレイに感動したりしたら...。


「碓氷さんは?」


「筋トレ効果を期待してます!」碓氷さんがきらりと目を光らせる。「ボウリングって実は全身運動なんですよ。体幹、下半身、腕の筋肉、すべて連動して動かす必要があります」


(なるほど、さすが筋肉博士だ)


そして火曜日の夕方。僕たちは港区のボウリング場にいた。平日の夕方ということもあって、館内はそれほど混雑していない。ネオンライトがピカピカと光る中、僕たちは指定されたレーンに向かった。


「うわー、懐かしい匂い!」雪杉さんが深呼吸している。


確かに、ボウリング場特有の匂いがする。ワックスとかシューズとか、あの独特な香り。


「じゃあ、チーム分けをしましょうか」本山課長がメンバー表を見ながら言う。「1レーンは営業一課の皆さん、2レーンは我々営業三課ですね」


僕たちのレーンには、僕、雪杉さん、碓氷さん、蓮見さん、佐々木、そして新人の田中くんがいた。


「順番はどうしましょう?」田中くんが遠慮がちに尋ねる。


「僕が最初に行きます!」佐々木が手を上げる。「手本を見せますよ」


佐々木はボールを手に取ると、助走をつけてスムーズに投球した。ボールは真っ直ぐピンに向かい...ストライク!


「おお、さすが佐々木!」蓮見さんが拍手する。


「学生時代に鍛えてましたから」佐々木が謙遜しながらも満足そうに笑う。


次は蓮見さんの番。彼女も慣れた様子でボールを投げ、7本のピンを倒した。続いてスペアも取って、なかなかの腕前だ。


「蓮見さんもお上手ですね」雪杉さんが感心している。


「昔、よく友達と来てたの」蓮見さんがウィンクする。


続いて碓氷さん。


「筋肉の連動を意識して...」彼女は真剣な表情でフォームを確認し、力強くボールを投げた。


ガラガラガラ...ストライク!


「すげー!」田中くんが目を丸くする。


「やはり基礎的な筋力と体幹があると、どんなスポーツでも応用が利きますね」碓氷さんが満足そうにうなずく。


田中くんは緊張しながらも6本のピンを倒し、「先輩方、レベル高すぎます」と苦笑いしていた。


そして僕の番。正直、みんなのプレイを見てプレッシャーを感じていた。


「上村さん、がんばって!」雪杉さんが応援してくれる。


僕はボールを構え、助走をつけて投げた。ボールはやや右に曲がりながらピンに向かい...8本倒れた。


「お、なかなかじゃない」蓮見さんが評価してくれる。


2投目でスペアを取り、とりあえず面目は保てた。


そして、雪杉さんの番。


「えーっと、どれくらいの重さがいいんでしょう?」


彼女は棚に並んだボールを前に首をかしげている。


「雪杉さんなら、10ポンドくらいがいいんじゃないですか?」佐々木がアドバイスする。


「10ポンド...」雪杉さんがボールを手に取る。「うわ、重い!でも、この重さ、なんか落ち着きます」


(落ち着く?)


雪杉さんはボールを両手で大事そうに抱えながら、レーンの前に立った。


「じゃあ、行きますね」


彼女は小さく助走をつけて、ボールを...


コロコロコロ...


ボールは妙にゆっくりとレーンを転がっていく。まるでゴルフボールのような速度で。


「あれ?なんか遅くない?」田中くんがつぶやく。


ボールはゆっくりとピンに近づいていき...そして右端のガターにポトンと落ちた。


「あー!」雪杉さんが小さく声を上げる。


「大丈夫、大丈夫!2投目がありますから」蓮見さんがフォローする。


雪杉さんは2投目も投げたが、今度は左のガター。


「うーん、難しいですね」雪杉さんが苦笑いしている。


2フレーム目。雪杉さんは今度は少し力を入れて投げたが、やはりガター。そして3フレーム目も、4フレーム目も...


「雪杉さん、ガターの女王ですね」蓮見さんが冗談っぽく言うと、雪杉さんは「女王!いいですね、その響き」と嬉しそうに笑った。


5フレーム目、雪杉さんは投球前にヨガのポーズを取り始めた。


「集中のためのポーズです」


片足立ちで手を合わせる彼女を見て、周りのレーンからも注目が集まる。


「おー、本格的だ」誰かが言った。


しかし結果は...またもやガター。


「でも、なんかすごく気持ちよく投げられました!」雪杉さんは満足そうだ。


6フレーム目、7フレーム目と続けてガターを出す雪杉さん。でも彼女は全然気にしていない様子で、むしろ楽しそうに投げている。


「雪杉さん、ちょっとフォームを見てもらいましょうか」碓氷さんが提案した。


「筋肉的にどこが問題なんでしょう?」


「うーん、まず体幹の使い方と、腕の振り方ですね」


碓氷さんが実演してみせるが、雪杉さんがマネをすると何故かおかしなことになる。


「あれ?同じようにやってるつもりなんですけど...」


8フレーム目。今度は僕が口を出してみた。


「雪杉さん、もう少し狙いを定めてみませんか?」


「狙い...」雪杉さんが真剣な顔でピンを見つめる。「ピンさんたち、倒れてください」


(ピンさんって...)


そして投球。またもやガター。


「あー、ピンさんたちに無視されました」雪杉さんがしょんぼりしている。


9フレーム目。雪杉さんは投球前に深呼吸を始めた。


「今度こそ、1本でも倒します」


彼女の真剣な表情を見ていると、なんだか僕も緊張してきた。周りのメンバーも固唾を呑んで見守っている。


雪杉さんがボールを構える。助走をつけて...


コロコロコロ...


今度は真っ直ぐ転がっていく。みんなが息を呑んで見守る中、ボールはピンに向かって...


ガタン。


右端のピンが1本だけ倒れた。


「やったー!」雪杉さんが両手を上げて喜ぶ。


「おお、ついに!」蓮見さんが拍手する。


「素晴らしい!記念すべき1本目ですね!」碓氷さんも嬉しそうだ。


僕も思わず拍手していた。たった1本のピンなのに、なんでこんなに嬉しいんだろう。


そして最終フレーム。雪杉さんは1投目をまたガターにしてしまったが、2投目で奇跡が起きた。


ボールが真っ直ぐ転がっていき、真ん中のピンに直撃。そして連鎖反応で3本のピンが倒れた。


「わー!3本も!」雪杉さんが飛び跳ねて喜んでいる。


最終スコアは、雪杉さんが4点(全員中最下位)、僕が124点、佐々木が167点、碓氷さんが145点、蓮見さんが98点、田中くんが76点だった。


「いやー、楽しかったです!」雪杉さんが満面の笑みで言う。


「雪杉さん、4点って逆にすごいですよ」田中くんが感心している。


「そうですよね!普通に投げてたら、絶対もっと点数出ちゃいますもん」


(なるほど、確かにその通りだ)


2ゲーム目が始まった。今度は雪杉さんも少しコツを掴んだのか、1フレーム目で2本のピンを倒した。


「おー、調子上がってきましたね」佐々木が声をかける。


でも2フレーム目、3フレーム目とまたガターが続く。


「うーん、やっぱり難しい」雪杉さんが首をかしげている。


4フレーム目。僕は思い切って提案してみた。


「雪杉さん、もしよろしければ、フォームを見させてもらえませんか?」


「上村さんが教えてくれるんですか?嬉しい!」


雪杉さんがパッと顔を輝かせる。その笑顔にドキッとしながら、僕は彼女の後ろに立った。


「まず、ボールの持ち方からなんですが...」


僕は雪杉さんの手にそっと自分の手を重ねた。柔らかくて温かい手だった。


「指はもう少し奥まで入れて...」


「あ、そうなんですね」


雪杉さんの髪からほのかに香るシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。心臓がドキドキと音を立てている。


「それで、構える時は...」


僕は雪杉さんの腕に軽く手を添えて、フォームを調整した。彼女の体温が伝わってきて、さらに心拍数が上がる。


「こんな感じで、まっすぐ...」


「はい」雪杉さんが小さくうなずく。


僕たちの距離は10センチもない。彼女の横顔がとても近くに見える。


「あの、上村さん」


「はい?」


「手、まだ離さないでいてもらえますか?なんか安心するので」


雪杉さんのその言葉に、僕の心臓は完全に暴走した。


「あ、はい...」


僕は雪杉さんの手に自分の手を重ねたまま、一緒にボールを構えた。周りの視線が気になるけれど、今はそんなことどうでもよかった。


「じゃあ、行きますね」


「はい」


僕たちは一緒に助走をつけて、一緒にボールを投げた。


コロコロコロ...


ボールは今度こそ真っ直ぐ転がっていき、5本のピンを倒した。


「やった!」雪杉さんが振り返って僕を見上げる。


その瞬間、僕たちの顔はとても近くにあった。雪杉さんの大きな瞳と視線が合う。


「あ...」


時間が止まったような気がした。雪杉さんの唇が少し開いて、僕はなぜか彼女の唇に視線を向けてしまう。


「おー!雪杉さん、5本も倒しましたね!」


蓮見さんの声で、僕たちは慌てて離れた。


「あ、はい!上村さんが教えてくれたおかげです」雪杉さんが頬を少し赤くしている。


僕も顔が熱くなっているのを感じた。


(今、何が起きそうになったんだ?)


2投目、雪杉さんは1人で投げて2本のピンを倒し、人生初のスペアを取った。


「すごい!スペアですよ!」田中くんが驚いている。


「上村さんのおかげです」雪杉さんがまた僕を見て笑う。


その笑顔に、僕の心臓はまたドキドキと鳴った。


5フレーム目以降、雪杉さんのスコアは急激に上がった。僕が時々フォームをアドバイスすると、その度に彼女は嬉しそうに「ありがとうございます」と言った。


2ゲーム目の雪杉さんの最終スコアは67点。1ゲーム目の4点から考えると、驚異的な成長だった。


「雪杉さん、すごい上達ですね」碓氷さんが感心している。


「上村さんがいいコーチだったんです」雪杉さんが僕を見て微笑む。


ゲーム終了後、僕たちは近くのファミレスで打ち上げをすることになった。


「雪杉さんの最初のガター連発、面白かったなあ」蓮見さんが笑いながら言う。


「でも最後は上村先生の指導で見事に上達しましたね」佐々木が冗談っぽく言う。


「上村先生...」雪杉さんがクスクス笑う。「なんか新鮮ですね」


僕は恥ずかしくて下を向いてしまった。


「でも本当に、手を添えて教えてもらうと全然違いました」雪杉さんが続ける。「なんか、安心して投げられるというか...」


その言葉に、僕の心は再びざわめいた。


(安心って、僕といると安心なのか?)


帰り道、僕と雪杉さんは偶然同じ方向だった。駅まで一緒に歩きながら、雪杉さんが話しかけてきた。


「今日は本当にありがとうございました。初めてボウリングらしいボウリングができました」


「いえいえ、雪杉さんが上達が早かっただけですよ」


「でも、上村さんに教えてもらったからです」雪杉さんが立ち止まって僕を見つめる。「あの、今度また一緒に練習してもらえませんか?」


「練習...?」


「はい。今度は2人で」


雪杉さんのその言葉に、僕の心臓はまた激しく鳴り始めた。


「あ、はい!ぜひ」


僕は少し声が上ずってしまった。


「やった!じゃあ、今度の休日にでも」雪杉さんが嬉しそうに笑う。


駅の改札前で別れる時、雪杉さんが振り返って手を振った。


「お疲れ様でした!ボウリング、楽しかったです!」


僕も手を振り返しながら、今日のことを振り返っていた。


特に、雪杉さんに手を添えてフォームを教えた時のこと。あの時の彼女の温かさ、髪の匂い、近くで見た横顔。


(これって、恋っていうやつなのか?)


家に帰って、僕は今日のことを思い返していた。雪杉さんの「2人で練習」という言葉が頭の中をぐるぐると回っている。


翌日、会社で雪杉さんに会うと、彼女はいつものように笑顔で挨拶してくれた。


「おはようございます、上村先生」


「せ、先生って...」


「昨日のボウリングの件です」雪杉さんがクスクス笑う。「本当に、また教えてくださいね」


その時、蓮見さんが近づいてきた。


「あら、何の話?」


「ボウリングの練習の話です」雪杉さんが答える。


「ふーん」蓮見さんが意味深な笑みを浮かべる。「2人で?」


「はい」


「なるほどー」


蓮見さんのニヤニヤした表情に、僕は慌てて話題を変えようとした。


「あ、あの、今日の資料の件なんですが...」


でも心の中では、次の休日が来るのが楽しみで仕方なかった。


サボりの美学は雪杉さんに学べ。


――雪杉「手を添えられると、心も真っ直ぐになる」


#オフィスラブコメ #社会人 #ラブコメ #現代 #星形にんじん


※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。


※AI補助執筆(作者校正済)


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