Lesson28「占い再訪・凶のち大吉」
Lesson28「占い再訪・凶のち大吉」
星形にんじん大量生産事故から一週間後の火曜日。雪杉さんが朝からなんとなく元気がなかった。
「おはようございます」
いつものように煮干しだしマグカップを持って現れたが、声に覇気がない。
「おはようございます。どうかしましたか?」
「いえ……少し考え事していて……」
雪杉さんが浮かない顔をしている。
「何か悩み事ですか?」
「実は……」雪杉さんが恥ずかしそうに言う。「昨日、ネットで占いをやってみたんです」
「占い?」
「はい。恋愛運を調べてみたくて……」
恋愛運という言葉に、僕の心拍数が上がった。
「それで?」
「最悪でした……」雪杉さんがため息をつく。「恋愛運0%って出たんです」
「0%?」
「はい。『今月の恋愛成就可能性:0%。諦めて仕事に専念しましょう』って……」
確かに、それは凹む結果だ。
「でも、ネットの占いなんて当てにならないですよ」
「そうでしょうか……」雪杉さんが不安そうに呟く。「もしかしたら、本当に私には恋愛は向いてないのかも……」
「そんなことありません」僕が強く否定する。
「でも……」
「雪杉さん、もしそんなに気になるなら、ちゃんとした占い師さんに見てもらいませんか?」
「ちゃんとした占い師?」
「はい。以前行った星予堂とか」
雪杉さんの顔が少し明るくなった。
「そうですね……星予堂の先生なら、ちゃんと見てくれるかも……」
「今度の土曜日、一緒に行きませんか?」
「本当ですか?」
「はい。僕も、雪杉さんの本当の恋愛運が知りたいです」
雪杉さんが嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。お願いします」
土曜日の午後、僕たちは久しぶりに星予堂を訪れた。
「いらっしゃいませ〜」
例の紫色のドレスを着た占い師さんが、相変わらずの大げさな口調で迎えてくれる。
「あら、前にいらした方々ですね〜」
「はい、覚えていてくださったんですね」
「もちろんですよ〜。あの時は素敵な展開でしたからね〜」
占い師さんがニヤニヤしている。
「今日はどのようなご相談でしょうか?」
「恋愛運を見ていただきたくて……」雪杉さんが切り出す。
「恋愛運? お二人の相性ではなく?」
「いえ、私個人の恋愛運です」
「なるほど〜。何か気になることでも?」
雪杉さんがネット占いの結果を説明すると、占い師さんが大げさに驚いた。
「0%ですって? とんでもない!」
「え?」
「そんなデタラメな占い、信じちゃだめですよ〜」
占い師さんが憤慨している。
「では、ちゃんと占ってみましょう」
占い師さんがタロットカードを取り出す。
「恋愛運を占うには、まず現在の状況を確認しないと」
カードをシャッフルしながら、占い師さんが質問してくる。
「雪杉さん、現在気になる方はいらっしゃいますか?」
雪杉さんが僕をチラッと見る。
「はい……います……」
「その方との関係は?」
「とても大切な……友人です……」
僕の心臓がドキドキする。
「なるほど〜。では、カードを引いてください」
雪杉さんがカードを一枚引く。
「出ました〜」
占い師さんがカードを見て、また大げさに驚く。
「これは……すごいカードが出ましたね〜」
「どんなカードですか?」
「『恋人』のカードです。しかも正位置」
「恋人?」
「はい。恋愛運としては最高のカードの一つです」
雪杉さんの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか?」
「本当です〜。ネット占いの0%なんて、とんでもない間違いですね〜」
占い師さんが続ける。
「でも……」
「でも?」
「現在の状況はちょっと複雑みたいですね〜」
占い師さんが別のカードを引く。
「『正義』のカード……逆位置ですね〜」
「逆位置?」
「はい。これは『タイミングのズレ』を意味します」
タイミングのズレ……確かに、僕たちの関係にはズレがある気がする。
「どういうことでしょうか?」
「お二人の気持ちは通じ合っているのに、タイミングが合わない状況です」
占い師さんが僕の方を見る。
「上村さんも、カードを引いてみてください」
「僕も?」
「はい。お二人の運勢は密接に関わってますから」
僕もカードを一枚引いた。
「おお〜」占い師さんが感嘆する。
「『愚者』のカード……正位置ですね〜」
「愚者?」
「これは悪いカードではありませんよ〜。新しい始まり、純粋な気持ちを表します」
「新しい始まり……」
「はい。上村さんには、勇気を出して一歩踏み出すことが必要ですね〜」
占い師さんの言葉が胸に響く。
「つまり……」
「つまり」占い師さんが声を大きくする。「雪杉さんの恋愛運は最高潮! ただし、タイミングを逃すと運気が下がってしまいます」
「タイミングを逃すと?」
「はい。『正義』逆位置の意味は、決断の遅れによる機会損失です」
占い師さんが真剣な顔になる。
「今月中に行動を起こさないと、せっかくの運気が離れていってしまいます」
「今月中……」
「はい。特に」占い師さんが最後のカードを引く。
「『星』のカード! これは希望と願いの成就を表します」
「希望?」
「そうです〜。お二人の願いは必ず叶います。ただし……」
「ただし?」
「勇気を出して、正直な気持ちを伝えることが条件です」
占い師さんが僕たちを見回す。
「特に上村さん。あなたが行動を起こすことで、全てが良い方向に向かいます」
僕の顔が熱くなった。
「分かりました……」
占い結果を聞いて、星予堂を出た僕たちは、近くのカフェで一息ついていた。
「すごい結果でしたね」雪杉さんが嬉しそうに言う。
「そうですね。恋愛運最高潮だって」
「ネット占いの0%は何だったんでしょうね」
「きっと、間違いだったんですよ」
雪杉さんがホッとした表情を見せる。
「でも」雪杉さんが少し心配そうに言う。「タイミングのズレって、どういう意味でしょうか?」
「さあ……よく分かりませんが……」
でも、僕には心当たりがあった。僕がなかなか告白できずにいることが、タイミングのズレなのかもしれない。
「あと」雪杉さんが続ける。「上村さんが勇気を出すって言ってましたね」
「はい……」
「何の勇気でしょうね?」
雪杉さんが不思議そうに首をかしげる。その無邪気な表情を見ていると、僕はますます告白したい気持ちが高まってきた。
「雪杉さん」
「はい?」
「実は……」
言いかけた時、僕のスマホが鳴った。
「あ、すみません……」
碓氷係長からの電話だった。
「もしもし?」
「上村君、今どこ? 緊急事態だ」
「緊急事態?」
「筋膜リリースガンが壊れた。明日のプレゼンで使う予定だったのに……」
「プレゼン?」
「健康経営の社内発表で、実演する予定だったんだ。代わりのガンを探してるんだが……」
係長が慌てている。
「分かりました。僕が何とかします」
「本当? 助かる!」
電話を切ると、雪杉さんが心配そうに見ていた。
「どうかしましたか?」
「係長の筋膜リリースガンが壊れて……」
事情を説明すると、雪杉さんが手を叩いた。
「それなら、私が貸してあげます」
「え?」
「私も筋膜リリースガン、持ってるんです」
「そうでしたっけ?」
「はい。この前、同じ型を買ったんです」
雪杉さんが嬉しそうに言う。
「係長に喜んでもらえますね」
「本当ですか? 助かります」
こうして、僕たちは急遽雪杉さんのアパートに向かうことになった。
「すみません、せっかくのカフェタイムだったのに……」
「いえいえ、困った時はお互い様です」
雪杉さんのアパートで筋膜リリースガンを受け取りながら、僕は占い師の言葉を思い出していた。
「今月中に行動を起こさないと、運気が下がる」
あと2週間しかない。
「上村さん、どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです」
「そうですか? なんだか考え事をしてるみたいでしたが……」
雪杉さんが心配そうに見る。
「実は……」
僕が再び言いかけた時、また電話が鳴った。
今度は蓮見さんからだった。
「上村君、お疲れ様。明日の会議資料、確認してもらえる?」
「はい……」
結局、その日は告白のタイミングを逃してしまった。
翌日の月曜日、係長のプレゼンは大成功だった。
「雪杉さんのおかげです」係長が感謝している。
「いえいえ」
「でも、上村君も助かったよ。ありがとう」
「こちらこそ」
お昼休み、雪杉さんが僕のところにやってきた。
「上村さん、昨日の占い、すごく当たってると思いませんか?」
「そうですね」
「私の恋愛運、本当に上がってる気がします」
「それは良かったです」
「でも」雪杉さんが少し困ったような顔をする。
「でも?」
「タイミングのズレって、まだ解決してない気がするんです」
雪杉さんの言葉に、僕はドキッとした。
「どうしてそう思うんですか?」
「なんとなく……ですが」
雪杉さんが僕を見つめる。
「上村さん、何か言いたいことがあるような気がするんです」
僕の心臓がドキドキし始めた。
「雪杉さん……」
「はい?」
「実は……」
その時、また誰かが近づいてきた。
(今度は何だ……)
でも、今度こそ、今月中には必ず伝えよう。
占いの言葉を信じて、勇気を出そう。
そう決心した僕だった。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――凶も大吉も、心の持ちよう。
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




