Lesson25「だしマグ争奪ビンゴ」
Lesson25「だしマグ争奪ビンゴ」
佐々木の雨中疾走から三日後の日曜日。会社で月末恒例の「お疲れ様会」が開催されることになった。
「皆さん、お疲れ様です」本山課長がマイクを持って司会を始める。「今月も皆さんの頑張りで、良い成果を出すことができました」
13階の多目的ホールには、各部署から50人ほどが集まっている。
「それでは、恒例のビンゴ大会を始めたいと思います」
「おー」
みんなから拍手が起こる。
僕と雪杉さんは隣同士に座っていた。木曜日の「大切な人」発言以来、なんとなくいい雰囲気が続いている。
「今回の景品は、こちらです」
課長が景品テーブルを指差す。
「1等は温泉旅行ペアチケット、2等は高級グルメセット、3等は……」
景品の説明が続く中、雪杉さんが突然身を乗り出した。
「あ!」
「どうしました?」
「あそこ、見てください」雪杉さんが指差した先に、見覚えのあるマグカップがあった。
「あれって……」
「だしマグカップです!」雪杉さんが興奮している。
確かに、景品の中に煮干しの絵が描かれたマグカップがある。
「でも、あれって雪杉さんが使ってるのと同じですよね?」
「違います」雪杉さんが真剣な顔で答える。「あれは限定版です」
「限定版?」
「はい。『だし職人シリーズ』の完全限定品なんです」
雪杉さんの目が輝いている。
「普通のだしマグとは、機能が全然違うんです」
「機能?」
「保温性能が3倍、だしの味を引き立てる特殊コーティング、それに……」
雪杉さんが熱弁を振るう。
「底に『だし道』という文字が刻まれてるんです」
(だし道……なんか大げさだな)
「どうしても欲しいです」雪杉さんが僕の袖を引っ張る。
「でも、ビンゴは運ですから……」
「大丈夫です。宇宙が味方してくれます」
またしても宇宙頼み。
そんな会話をしていると、蓮見さんと佐々木がやってきた。
「お疲れ様。隣、座ってもいい?」
「どうぞ」
佐々木は雨中疾走以来、蓮見さんとの仲がさらに良くなっている。
「雪杉さん、何を見てるの?」蓮見さんが聞く。
「あのだしマグカップです」雪杉さんが指差す。
「だしマグカップ?」
「はい。限定版なんです」
雪杉さんが再び説明を始める。
「へー、そんなに特別なの」
「はい。でも」雪杉さんが急に心配そうな顔になる。
「でも?」
「あれって、何等の景品なんでしょう?」
みんなで景品テーブルを確認する。
「えーっと……5等みたいですね」
「5等?」
「はい。5等から10等までの中に、色々な雑貨が入ってるみたいです」
雪杉さんがほっとした表情を見せる。
「5等なら、そんなに難しくないかもしれませんね」
その時、碓氷係長がやってきた。
「皆さん、お疲れ様です」
「係長、お疲れ様です」
「ビンゴ、楽しみですね」係長が景品テーブルを見る。
「おお、あのダンベルセットいいですね」
係長の視線の先には、確かに小さなダンベルセットがある。
「係長もビンゴ、本気ですか?」
「もちろんです。あのダンベルセット、デスクワーク用に最適なんです」
(デスクワーク用ダンベル……係長らしい)
「では、ビンゴを始めます」課長がアナウンスする。
「ビンゴカードを配ってください」
スタッフがビンゴカードを配り始める。
僕は自分のカードを確認した。なかなか良い数字が並んでいる。
「どうですか?」雪杉さんが心配そうに聞く。
「まあまあですね。雪杉さんは?」
「完璧です」雪杉さんが自信満々に答える。
「完璧?」
「はい。宇宙のエネルギーが込められてます」
(また宇宙か……)
「それでは、ビンゴを開始します」
課長がビンゴマシンを回し始める。
「最初の番号は……B-7」
「あ!」雪杉さんが声を上げる。
「ありました?」
「はい、ど真ん中です」
雪杉さんが嬉しそうにマークする。
「次は……I-19」
「あった」係長が声を出す。
「次は……N-34」
僕のカードにもあった。
こうして、ビンゴが進んでいく。
「O-65」
「やった!」蓮見さんが喜ぶ。
「リーチですか?」
「はい。あと一つ」
「すごいですね」
でも、雪杉さんも負けていない。
「私もリーチです」
「え?」
雪杉さんのカードを見ると、確かにあと一つでビンゴだ。
「すごい……」
「宇宙のパワーです」
その時、営業二課の田中さんが立ち上がった。
「ビンゴー!」
「あー、1等出ちゃった」
温泉旅行ペアチケットは田中さんのものになった。
「続けましょう」
ビンゴが再開される。
「G-56」
「あ!」雪杉さんと蓮見さんが同時に声を上げた。
「二人ともビンゴ?」
「はい!」
「やった!」
雪杉さんと蓮見さんが同時にビンゴを達成した。
「では、どちらが先に手を上げましたか?」
司会の人が確認する。
「うーん……同時でしたね」
「では、二人とも2等ということで」
「やった!」
雪杉さんと蓮見さんが喜んでいる。
でも、雪杉さんが急に心配そうな顔をした。
「でも、2等だとだしマグはもらえませんよね……」
「そうですね。2等は高級グルメセットですから」
雪杉さんががっかりしている。
「大丈夫ですよ」僕が励ます。「まだチャンスはありますから」
「そうですか……」
ビンゴが続く。
「B-15」
今度は佐々木がビンゴを達成した。
「3等ですね」
4等、5等と続いていく。
「次の方は5等です」
雪杉さんが祈るような表情でビンゴマシンを見つめている。
「頑張って……」僕も応援する。
「I-21」
「あー! 惜しい!」
雪杉さんのカードを見ると、I-20はあるが、I-21はない。
「N-42」
係長がビンゴを達成した。
「5等ですね。お好きな景品をどうぞ」
係長が景品テーブルに向かう。
「あ……」雪杉さんが青ざめた。
係長の手が、だしマグカップに向かっている。
「係長、まさか……」
でも、係長は隣のダンベルセットを取った。
「よかった……」雪杉さんがほっとする。
ビンゴが続く。
6等、7等、8等……だんだん景品が減っていく。
でも、だしマグカップはまだテーブルに残っている。
「頑張って、雪杉さん」
「はい……」
雪杉さんが必死にビンゴカードを見つめている。
「O-69」
「あ!」
今度は僕がビンゴを達成した。
「やりましたね」
「はい……でも……」
僕は景品テーブルを見る。だしマグカップが、まだ残っている。
「上村さん」雪杉さんが僕を見つめる。
「はい?」
「もしよろしければ……」
雪杉さんが言いかけた時、司会の人が言った。
「8等の方、景品をお選びください」
僕は迷わず、だしマグカップを取った。
「ありがとうございます」
席に戻ると、雪杉さんが泣きそうな顔をしている。
「雪杉さん……」
「上村さんが取ってくれたんですね……」
「はい。でも」
「でも?」
「これ、雪杉さんにプレゼントします」
「え?」
僕がだしマグカップを雪杉さんに差し出すと、彼女の目に涙が浮かんだ。
「本当ですか?」
「はい。雪杉さんの方が、このマグカップにふさわしいと思います」
「ありがとうございます……」
雪杉さんが嬉しそうにマグカップを受け取る。
「でも、いいんですか?」
「もちろんです。雪杉さんが喜んでくれるなら、それが僕にとって一番の景品です」
雪杉さんが僕を見つめる。その目に、特別な感情が込められているのが分かった。
「上村さん……」
「はい?」
「私……」
雪杉さんが何か言いかけた時、司会の人がアナウンスした。
「それでは、ビンゴ大会を終了します。皆さん、お疲れ様でした」
拍手が起こる中、雪杉さんが小声で言った。
「私、とても嬉しいです」
「よかったです」
「でも、嬉しいのはマグカップだけじゃありません」
「え?」
「上村さんの気持ちが嬉しいんです」
雪杉さんの言葉に、僕の胸がドキドキした。
「雪杉さん……」
「はい?」
「僕も……雪杉さんに喜んでもらえて嬉しいです」
その時、蓮見さんが近づいてきた。
「お疲れ様。二人とも、いい雰囲気ね」
「蓮見さん……」
「上村君のプレゼント、素敵だったわ」
蓮見さんがニヤニヤしている。
「たまたまですよ」
「たまたまじゃないでしょ? 雪杉さんが欲しがってるの分かってて取ったんでしょ?」
確かに、その通りだった。
「優しいのね」
「そんなことは……」
「雪杉さんも嬉しそうだし」
確かに、雪杉さんはマグカップを大切そうに抱えている。
「でも」蓮見さんが付け加える。
「プレゼントって、気持ちが大切よね」
「気持ち?」
「そう。物をあげることじゃなくて、相手を思う気持ちを伝えることが大切」
蓮見さんの言葉が胸に響く。
「佐々木君のサンドイッチもそうだったし、上村君のマグカップもそう」
「なるほど……」
「大切な人のことを思って行動する。それが一番のプレゼントよ」
帰り道、雪杉さんが大切そうにマグカップを持ちながら歩いている。
「上村さん、本当にありがとうございました」
「いえいえ」
「このマグカップで、明日から特別なだしを作りますね」
「楽しみです」
「今度、上村さんにも飲んでもらいたいです」
「ぜひお願いします」
「あの」雪杉さんが立ち止まる。
「はい?」
「今日のこと、とても嬉しかったです」
「マグカップですか?」
「それもありますが……」雪杉さんが恥ずかしそうに言う。
「上村さんが、私のことを考えてくれたことが嬉しかったんです」
「雪杉さん……」
「私も、上村さんのために何かしたいです」
「何かって?」
「まだ分からないですが……」雪杉さんが微笑む。
「きっと、宇宙が教えてくれます」
その夜、僕は今日のことを振り返っていた。
雪杉さんの喜ぶ顔、蓮見さんの言葉、そして雪杉さんの「私のことを考えてくれて嬉しい」という言葉。
確実に、僕たちの関係は進展している。
(もうすぐ、ちゃんと告白しよう)
そう決心した僕だった。
翌日の月曜日、雪杉さんは本当に新しいマグカップでだしを作ってきた。
「上村さん、特製だしです」
「ありがとうございます」
一口飲むと、確かにいつものだしより美味しい気がした。
「美味しいですね」
「でしょう? 愛情が込められてますから」
愛情……その言葉に、僕の心が躍った。
「愛情?」
「はい」雪杉さんが照れながら言う。
「感謝の愛情です」
感謝の愛情か。でも、いつかは……
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
雪杉さんが嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見ていると、僕はもっと彼女を幸せにしたいと思った。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――本当の景品は、相手の笑顔。
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




