Lesson24「走れ!雨天ランチ」
Lesson24「走れ!雨天ランチ」済
社外研修から戻って一週間後の木曜日。僕は佐々木のアドバイスを思い出しながら、雪杉さんへの告白のタイミングを図っていた。
「上村さん、今日も素敵な天気ですね」
雪杉さんがいつものように煮干しだしマグカップを持って現れる。
「そうですね」
でも、窓の外を見ると、雲行きが怪しくなってきている。
「あれ? でも雲が……」
「大丈夫です」雪杉さんが自信満々に答える。「ヨガの先生が言ってました。『雲は宇宙からのメッセージ。心配する必要なし』って」
(また宇宙の話か……でも、雪杉さんのそういうところも好きだな)
午前中、僕は告白のことばかり考えていた。
(どうやって切り出そう……)
(「雪杉さん、実は……」? いや、ベタすぎる)
(「僕と付き合ってください」? 直球すぎて恥ずかしい)
そんなことを考えていると、お昼の時間になった。
「あー!」
突然、蓮見さんの声が響いた。
「どうしました?」
「弁当忘れた……」蓮見さんが頭を抱える。
「え?」
「今朝、バタバタしてて、冷蔵庫に入れたまま……」
確かに、蓮見さんは毎日手作り弁当を持参している。
「コンビニで買えばいいじゃないですか」僕が提案する。
「でも、この雨だと……」
窓の外を見ると、午前中の曇り空から一転、激しい雨が降っている。
「うわあ、すごい雨ですね」
「傘持ってないし……」蓮見さんがため息をつく。
その時、佐々木がやってきた。
「どうしたんですか? 蓮見さん、困ったような顔をして……」
「弁当を忘れちゃったの。でも、この雨じゃ買いに行けないし……」
佐々木の表情が変わった。
「蓮見さんの弁当……」
「ええ」
「僕が買ってきます!」
佐々木が突然立ち上がった。
「え? でも、この雨の中……」
「大丈夫です! 何がいいですか?」
「でも、濡れちゃうわよ」
「平気です!」佐々木が力強く答える。「蓮見さんのためなら!」
(佐々木、急にどうした?)
「じゃあ……サンドイッチがあれば……」
「サンドイッチですね! 任せてください!」
佐々木が勢いよく立ち上がったその時、碓氷係長が現れた。
「どうしたんですか? 佐々木君、気合が入ってますね」
「係長、蓮見さんが弁当を忘れて……」
「なるほど」係長が状況を把握する。「それで佐々木君が買いに行くと」
「はい!」
「でも、この雨の中……」係長が窓を見る。「かなり激しいですよ」
「大丈夫です! 筋肉があります!」
佐々木が腕を曲げて見せる。
「おお」係長の目が輝く。「その意気やよし。でも」
「でも?」
「どうせやるなら、科学的にやりましょう」
係長が何かを思いついたような顔をする。
「科学的?」
「はい。最適な走法、最適なルート、最適な呼吸法で行けば、濡れる時間を最小限にできます」
(係長、何を言い出すんだ……)
「それに」係長が続ける。「せっかくなので、筋肉の動きを観察させてもらいましょう」
「観察?」
「はい。雨中疾走時の筋肉パフォーマンスデータを取りたいんです」
佐々木が困惑している。
「あの……蓮見さんのサンドイッチが……」
「もちろん買ってきます。でも、ついでに筋肉研究もしましょう」
係長が勝手に話を進めている。
「では、準備しましょう」
係長が佐々木を引っ張っていく。
「ちょっと、係長……」
「大丈夫です。科学の力で、完璧な雨中疾走を実現しましょう」
僕と雪杉さんと蓮見さんは、呆然と見送った。
「佐々木君、大丈夫かしら……」蓮見さんが心配そうに言う。
「係長についていけば、なんとかなりますよ」僕が答える。
「でも」雪杉さんが窓の外を見る。「雨がもっと強くなってる気が……」
確かに、さっきより激しくなっている。
5分後、佐々木が現れた。でも、その格好が異様だった。
「佐々木君……その格好は……」
佐々木は、なぜかランニングウェアを着ている。しかも、頭には謎のヘッドバンドを巻いている。
「係長が用意してくれました」
「どこから持ってきたんだ、そんな格好……」
「ロッカーに常備してるそうです」
さすが係長。
「では、出発前に筋肉の状態をチェックします」
係長が登場した。手には、なぜかストップウォッチとメモ帳を持っている。
「係長、何をするんですか?」
「佐々木君の筋肉パフォーマンス測定です」係長が説明する。「まず、安静時の心拍数」
係長が佐々木の手首を取る。
「毎分72回。標準的ですね」
「係長……」
「次に、筋肉の状態確認」
係長が佐々木の腕や太ももを触り始める。
「おお、いい筋肉です。十分な疾走が可能ですね」
「係長、もうサンドイッチを……」
「はい、では作戦説明です」
係長がホワイトボードを持ってきた。いつの間に用意したんだ。
「最短ルートはこちら」
係長がビルの配置図を描く。
「コンビニまで往復800メートル。雨中疾走の場合、濡れ時間を最小にするため、全力疾走が基本です」
「はい……」
「ペース配分は、最初の200メートルで心拍数を170まで上げ、中間400メートルで維持、最後の200メートルでラストスパート」
佐々木が困惑している。
「係長、そんな本格的に……」
「もちろんです。蓮見さんのためですからね」
その言葉に、蓮見さんが顔を赤くした。
「佐々木君……」
「では、出発しましょう」
係長がストップウォッチを構える。
「僕たちは、ここから観察します」
「観察って……」
「はい。窓から佐々木君の走法をチェックして、データを取ります」
僕たちは12階の窓際に移動した。
「見えますか?」
「まだです……あ、いました」
佐々木が1階から出てきた。
「スタート!」係長がストップウォッチを押す。
佐々木が走り始めた。確かに、かなりの速さだ。
「おお、いいフォームです」係長が実況を始める。
「腕の振り、足の運び、完璧ですね」
「すごい速さですね」雪杉さんが感心する。
「現在、時速約20キロです」係長が計算する。「このペースなら、予定通りですね」
佐々木がコンビニに向かって走っている。雨の中を、本当に全力で疾走している。
「あ、コンビニに入りました」
「到着時間、3分12秒」係長がメモを取る。「予想より8秒早いですね」
「佐々木君、すごいわ……」蓮見さんが感動している。
「蓮見さんのためですからね」僕が言うと、蓮見さんがさらに赤くなった。
「あ、出てきました」
佐々木がコンビニから出てきた。袋を持っている。
「復路開始!」係長が再びストップウォッチを見る。
佐々木が戻ってくる。往路より少し遅いが、それでもかなりの速さだ。
「少し疲れが見えますね」係長が分析する。「心拍数は180を超えているでしょう」
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫です。佐々木君の筋肉なら耐えられます」
そして、佐々木がビルに戻ってきた。
「ゴール!」係長がストップウォッチを止める。
「総時間、7分43秒! 素晴らしいタイムです」
僕たちはエレベーターホールで佐々木を待った。
「お疲れ様!」
佐々木がエレベーターから出てきた。全身ずぶ濡れで、息も絶え絶えだ。
「はあ……はあ……蓮見さん……」
「佐々木君、大丈夫?」
「サンドイッチ……買ってきました……」
佐々木が袋を差し出す。
「ありがとう……」蓮見さんが袋を受け取る。
「ハム……サンド……ツナサンド……卵サンド……」
佐々木が息を切らしながら説明する。
「どれがいいか……分からなかったので……全部……」
「全部?」
袋の中を見ると、確かにサンドイッチが5個も入っている。
「佐々木君……」
「あと……」佐々木がもう一つ袋を出す。
「お茶と……コーヒーと……オレンジジュース……」
「こんなに……」
「蓮見さんの好みが……分からなかったので……」
佐々木の気遣いに、蓮見さんの目に涙が浮かんだ。
「ありがとう……本当にありがとう……」
「いえ……蓮見さんのためなら……当然です……」
佐々木がそう言った時、係長が現れた。
「佐々木君、お疲れ様! 素晴らしい走りでした」
「係長……」
「データを取らせてもらいました」係長がメモを見る。
「往路3分12秒、復路4分31秒、総時間7分43秒」
「そんなに詳しく……」
「筋肉の動きも観察しました。完璧な雨中疾走でしたね」
係長が興奮している。
「特に、ラストスパートの時の大腿四頭筋の動きが素晴らしかった」
「あの……タオルを……」佐々木が震えている。
「あ、そうですね」蓮見さんが慌ててタオルを取ってくる。
「はい、これ使って」
「ありがとうございます……」
蓮見さんがタオルで佐々木の髪を拭いている。その光景を見て、僕と雪杉さんは顔を見合わせた。
「いい雰囲気ですね」雪杉さんが小声で言う。
「そうですね」
「佐々木さんの愛情表現、とても素敵です」
愛情表現……その言葉に、僕は研修での佐々木の言葉を思い出した。
「ちゃんと気持ちを伝えた方がいい」
確かに、佐々木は行動で蓮見さんへの気持ちを伝えている。
「上村さん」雪杉さんが僕を見る。
「はい?」
「佐々木さんを見ていると、愛って素晴らしいなって思います」
「愛……」
「はい。相手のために、雨の中でも走れる。そんな気持ちって、とても美しいと思うんです」
雪杉さんの言葉に、僕の心が動いた。
「雪杉さん……」
「はい?」
「僕も……」
言いかけた時、係長が割って入った。
「佐々木君、筋肉の回復具合はどうですか?」
「はあ……だいぶ楽になりました……」
「よかった。でも、今日は無理しないでくださいね」
「はい……」
「蓮見さんも、佐々木君の愛情に応えてあげてください」
係長の言葉に、蓮見さんが真っ赤になった。
「係長……」
「筋肉は正直です。佐々木君の筋肉は、完全に『愛』の動きでした」
(係長、筋肉で愛を測定するの?)
「今度、恋愛時の筋肉データをもっと詳しく研究したいですね」
係長が興味深そうに言う。
その日の夕方、僕は雪杉さんと一緒に帰ることになった。
「今日は面白い一日でしたね」
「そうですね。佐々木さんの雨中疾走、すごかったです」
「愛の力ですね」
「愛の力……」僕が呟く。
「はい。大切な人のためなら、人はどんなことでもできるんです」
雪杉さんの言葉を聞いて、僕は決心した。
「雪杉さん」
「はい?」
「僕も……愛の力を信じます」
「そうですか?」
「はい。そして……」
僕は勇気を出して続けた。
「大切な人のために、頑張りたいと思います」
「大切な人……」雪杉さんが僕を見つめる。
「その人って……」
「雪杉さんのことです」
雪杉さんの顔がパッと明るくなった。
「上村さん……」
「僕の大切な人は、雪杉さんです」
まだ告白ではないが、気持ちを伝える第一歩を踏み出せた。
「嬉しいです」雪杉さんが微笑む。
「私にとっても、上村さんはとても大切な人です」
雨は止んでいたが、僕たちの心は温かかった。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――愛は最高のエネルギードリンク。
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




