Lesson23「社外研修地獄」
Lesson23「社外研修地獄」
Slackスタンプ戦争から一週間後の金曜日。本山課長から突然の呼び出しがあった。
「上村君、雪杉さん、ちょっと来てください」
僕と雪杉さんは課長のデスクに向かった。
「はい、何でしょうか?」
「来週の月曜日から水曜日まで、社外研修に参加してもらいます」
「社外研修?」
「はい。『チームワーク強化合宿セミナー』です」
課長が資料を見せてくれる。
「場所は箱根の研修施設。二泊三日の合宿型です」
「合宿……」僕と雪杉さんが顔を見合わせる。
「営業一課からは佐々木君も参加します」
佐々木も一緒か。
「どのような内容ですか?」
雪杉さんが聞く。
「チームビルディングゲーム、プレゼンテーション演習、グループディスカッションなど」
「結構ハードそうですね……」
「そうですね。でも、いい経験になると思います」
課長が付け加える。
「それと、この研修は会社の評価にも関わるので、しっかり取り組んでくださいね」
(評価に関わる……それはプレッシャーだな)
月曜日の朝、僕たちは新宿駅で待ち合わせた。
「おはようございます」
「おはようございます」
雪杉さんがいつものようにマグカップ……ではなく、今日は水筒を持っている。
「それは?」
「特製だしです」
雪杉さんが水筒を振る。
「研修中も飲めるように、保温水筒に入れてきました」
「すごい準備ですね」
そこに佐々木もやってきた。
「おはよう。今日からよろしく」
「こちらこそ」
僕たちは小田急線で箱根に向かった。
「研修って、どんなことやるんでしょうね」
佐々木が資料を見ながら言う。
「チームワーク強化らしいです」
「緊張しますね」
雪杉さんが水筒のだしを飲む。
研修施設に到着すると、他の会社からの参加者も含めて、総勢30名ほどが集まっていた。
「皆さん、おはようございます」
講師の先生が現れた。40代くらいの男性で、体育会系のノリだ。
「私、研修講師の田村です。今日から三日間、みっちり鍛えますよ!」
(みっちり鍛える……嫌な予感が……)
「まず、アイスブレイクから始めましょう。隣の人と自己紹介を!」
こうして、研修が始まった。
最初のプログラムは「信頼関係構築ゲーム」。
「二人一組になって、片方が目を閉じて、もう片方が誘導してください」
僕と雪杉さんがペアになった。
「では、雪杉さんが目を閉じて、僕が誘導しますね」
「はい、お願いします」
雪杉さんが目を閉じる。
僕は彼女の手を取って、ゆっくりと歩き始めた。
「段差があります。気をつけて」
「はい……」
雪杉さんが僕の手をぎゅっと握る。
その温かさに、僕の心拍数が上がった。
「上村さんがいてくれると、安心です」
「ありがとうございます」
10分ほど歩いた後、今度は役割を交代。
「では、僕が目を閉じますね」
「はい、任せてください」
僕が目を閉じると、雪杉さんが僕の腕を取った。
「こちらです。ゆっくり歩いてください」
雪杉さんの声と手の誘導で、僕は安心して歩くことができた。
「どうですか?」
「大丈夫です。雪杉さんを信頼してます」
「嬉しいです」
このゲームで、僕たちの信頼関係がさらに深まった気がした。
午後はプレゼンテーション演習。
「5分間で自分の会社を紹介してください」
僕と雪杉さんと佐々木は、同じ会社なので一緒に発表することになった。
「どう分担しましょうか?」
佐々木が聞く。
「僕が会社概要、佐々木が営業実績、雪杉さんが……」
「私は何を話せばいいでしょう?」
「企業文化とか、働く環境について話してもらえませんか?」
「分かりました」
準備時間で、雪杉さんが相談してきた。
「上村さん、企業文化って何を話せば……」
「そうですね……雪杉さんらしく、だしとヨガの話でもしますか?」
「え? 大丈夫でしょうか?」
「雪杉さんの個性が出ていいと思います」
発表の時間になった。
僕と佐々木が無難に会社概要と実績を話した後、雪杉さんの番になった。
「えーっと……」雪杉さんが緊張している。
「弊社の企業文化について話します」
「はい」
「弊社では、だし……じゃなくて、出汁……でもなくて……」
雪杉さんが混乱している。
「従業員の健康管理に力を入れています」
なんとか立て直した。
「例えば、ヨガ……じゃなくて、ヨ……よりよい職場環境作りのため……」
やっぱり混乱している。
僕がフォローしようとしたその時、雪杉さんが開き直ったように言った。
「実は、私は毎朝だしを飲んで、ヨガをやってます!」
会場がざわつく。
「だしとヨガで心身ともに健康になり、それが仕事のパフォーマンス向上につながっています!」
「なるほど……」
講師が興味深そうに聞く。
「だしには自然の恵みが詰まっていて、ヨガには宇宙のエネルギーが……」
(雪杉さん、いつものペースに……)
でも、意外にも会場の反応は良かった。
「面白いアプローチですね」
「ユニークな企業文化だ」
結果的に、僕たちのプレゼンは高評価を得た。
夕方、一日の研修が終わって、夕食の時間になった。
「お疲れ様でした」
「雪杉さん、プレゼン良かったですよ」
佐々木が言う。
「本当ですか? 途中でパニックになってしまって……」
「でも、最後は雪杉さんらしさが出て良かったです」
僕が言う。
「ありがとうございます」
夕食後、自由時間になった。
「温泉に入りませんか?」
佐々木が提案する。
「いいですね」
「雪杉さんはどうします?」
「私も後で入ります」
僕と佐々木は男性用の露天風呂に向かった。
「はー、気持ちいいな」
夜の露天風呂は最高だった。
箱根の山々を見ながら、温泉に浸かる。
「上村、聞きたいことがあるんだ」
佐々木が突然言った。
「何ですか?」
「雪杉さんのこと、どう思ってる?」
直球の質問に、僕は戸惑った。
「どうって……同僚ですよ」
「本当に?」
佐々木が僕を見つめる。
「最近、二人の雰囲気が変わったよね」
「そうですかね……」
「Slackのハートスタンプ事件とか、筋膜リリースガンとか……」
佐々木は全部見ていたのか。
「僕にははっきり分かる。上村、雪杉さんのこと好きでしょ?」
佐々木の言葉に、僕はドキッとした。
「それは……」
「正直に言ってよ」
僕は少し考えてから、素直に答えた。
「はい……好きです」
「やっぱりね」
佐々木が苦笑いする。
「佐々木は……雪杉さんのこと……」
「僕も最初は気になってた。でも、今は諦めたよ」
「そうですか……」
「雪杉さんの上村を見る目が、明らかに特別だったから」
「特別?」
「恋する女性の目だよ。僕に対してとは全然違う」
佐々木の言葉に、僕の心臓がドキドキした。
「本当ですか?」
「ああ。それに」
佐々木が続ける。
「僕には蓮見さんがいるしね」
「蓮見さんと、うまくいってるんですか?」
「まあまあかな。GPSタグ事件の後、むしろ仲良くなった」
「よかったですね」
「でも、上村」
佐々木が真剣な顔になる。
「はい?」
「雪杉さんにちゃんと気持ちを伝えた方がいいよ」
「気持ちを伝える……」
「このままだと、曖昧な関係が続くだけだ」
佐々木の言葉が胸に響く。
「でも、もし断られたら……」
「断られたとしても、はっきりした方がいいだろ?」
確かに、そうかもしれない。
「考えてみます」
その時、女性用の露天風呂の方から、雪杉さんの声が聞こえてきた。
「上村さーん、佐々木さーん」
「はーい」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー」
壁越しに会話するのも、なんだか不思議な感じだった。
「雪杉さん、温泉どうですか?」
僕が聞く。
「とても気持ちいいです。だしを飲んだ後の温泉は最高ですね」
(だしと温泉の組み合わせ……雪杉さんらしい)
「明日もがんばりましょうね」
「はい、がんばりましょう」
温泉から上がって、僕たちは部屋に戻った。
部屋は二人一組で、僕と佐々木が同室だった。
「上村」佐々木がベッドに横になりながら言う。
「はい?」
「今日の信頼関係ゲーム、見てたけど」
「はい」
「雪杉さん、すごく嬉しそうだったよ」
「そうでしたか?」
「ああ。君の手を握ってる時の表情、すごく幸せそうだった」
佐々木の言葉を聞いて、僕も今日のことを思い出した。
確かに、雪杉さんが僕の手を握っている時、とても安心したような、嬉しそうな表情をしていた。
「それに、プレゼンの時も」
「プレゼンの時も?」
「君がフォローしようとした時、雪杉さんが君を見る目……完全に恋してる女性の目だったよ」
僕の胸がドキドキする。
「本当に……雪杉さんも僕のことを……」
「間違いないよ。だから、ちゃんと告白しなよ」
「告白……」
その言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「でも、いつ、どうやって……」
「それは君が決めることだ。でも」
佐々木が付け加える。
「あまり長く待ってると、チャンスを逃すかもしれないよ」
その夜、僕はなかなか眠れなかった。
佐々木の言葉が頭から離れない。
(雪杉さんに告白……)
考えるだけで、心臓がドキドキする。
でも、佐々木の言う通りかもしれない。
このまま曖昧な関係を続けるより、はっきりさせた方がいい。
(でも、もし断られたら……)
そんなことを考えているうちに、朝になった。
翌朝、朝食の時に雪杉さんに会った。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました」
でも、実際は一睡もできていない。
「上村さん、少し疲れてるように見えますが……」
「あ、大丈夫です」
雪杉さんが心配そうに僕を見る。
その優しい表情を見ていると、佐々木の言葉を思い出した。
(この人を、僕は本当に愛してるんだ)
そして、その気持ちを伝えたいと思った。
研修が終わったら、勇気を出して告白しよう。
そう決心した僕だった。
サボりの美学は雪杉さんに学べ。
――温泉の湯のように、心も熱くなる。
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




