Lesson18「屋上昼寝デート(前編)」
Lesson18「屋上昼寝デート(前編)」
屋上昼寝を約束した翌日の水曜日。僕は朝からソワソワしていた。
「上村さん、今日は何だか落ち着きませんね」
雪杉さんが煮干しだしマグカップを持ちながら、不思議そうに僕を見る。
「そうですかね?」
「はい。足がずっと貧乏ゆすりしてますよ」
確かに、無意識に足が動いていた。昨日約束した屋上昼寝のことを考えると、なぜかドキドキしてしまう。
「今日のだしは何ですか?」話題を変えようとする。
「今日は特別です」雪杉さんが嬉しそうに答える。「屋上昼寝用に、リラックス効果の高いだしを作ってきました」
「屋上昼寝用?」
「はい。昆布と椎茸のブレンドに、少しだけハーブを加えました」
「ハーブ?」
「ヨガの先生に教わったレシピです。『心を静める海の恵み』だそうです」
(また新しいレシピが……)
「それと」雪杉さんが机の下から何かを取り出す。「これも持ってきました」
小さな魔法瓶だった。
「だしフラスコです」
「だしフラスコ?」
「はい。屋上で飲むために、特製だしを保温して持参しました」
雪杉さんの準備の良さに、僕は感心した。
「すごいですね。完璧な準備だ」
「えへへ、昨夜からワクワクして、あまり眠れませんでした」
雪杉さんが照れながら言う。その可愛らしい表情に、僕の心拍数がまた上がった。
お昼の時間になると、雪杉さんが僕のデスクにやってきた。
「上村さん、準備はいいですか?」
「はい」
雪杉さんは、だしフラスコの他に、小さなクッションとタオルも持参していた。
「今日は完璧な屋上昼寝にしましょうね」
「楽しみです」
僕たちは屋上に向かった。
屋上に出ると、心地よい海風が吹いていた。港区のビル群の向こうに、東京湾が見える。
「いい風ですね」
「はい。海風には浄化の力があるんです」雪杉さんが深呼吸する。「ヨガの先生も言ってました」
雪杉さんが持参したクッションを地面に並べる。
「こちらに座ってください」
僕たちは並んでクッションに座った。昨日より、明らかに快適だ。
「では、特製だしをどうぞ」
雪杉さんがだしフラスコから、温かいだしを小さなカップに注いでくれる。
「ありがとうございます」
一口飲むと、確かにいつものだしより深い味がする。
「美味しいですね。海風と合います」
「でしょう? 海の近くで飲む『海の恵みだし』は格別なんです」
雪杉さんが嬉しそうに微笑む。
僕たちはしばらく、だしを飲みながら景色を眺めていた。
「上村さん」
「はい?」
「昨日は、ありがとうございました」
「いえいえ」
「私が落ち込んでいる時、そばにいてくれて……とても嬉しかったです」
雪杉さんの言葉に、僕の胸が温かくなった。
「こちらこそ、一緒に過ごせて嬉しかったです」
「本当ですか?」
「はい。雪杉さんと一緒にいると、時間がゆっくり流れる気がします」
雪杉さんが頬を染める。
「私もです。上村さんといると、心が落ち着きます」
海風が雪杉さんの髪を揺らす。その様子を見ていると、僕はまた心拍数が上がってくるのを感じた。
「では、昼寝しましょうか」
「はい」
僕たちは並んでクッションに横になった。
雲一つない青空が広がっている。海風が頬を撫でて、とても心地よい。
「上村さん」
「はい?」
「こうやって並んで空を見ていると、なんだか特別な気分になりませんか?」
「そうですね」
確かに、雪杉さんと並んで横になっていると、普通の昼寝とは全然違う。
「ヨガの先生が言ってました。『大切な人と同じ空を見ることは、魂の共鳴』だって」
大切な人……その言葉に、僕の心臓がドキドキし始めた。
「魂の共鳴……ですか」
「はい。今、きっと私たちの魂も共鳴してますよ」
雪杉さんが目を閉じる。
僕も目を閉じようとしたが、隣にいる雪杉さんが気になって、なかなか眠れない。
(心拍数がやばい……)
雪杉さんとの距離は、わずか30センチくらい。その近さに、僕はドキドキが止まらない。
「上村さん」
「はい?」
「心臓の音が聞こえますよ」
(え? 聞こえてる?)
「そ、そうですか?」
「はい。とても力強い音です」雪杉さんが微笑む。「きっと、海風で元気になってるんですね」
(海風のせいじゃないんだけど……)
「そうかもしれませんね」
僕は必死に心拍数を落ち着かせようとしたが、雪杉さんが隣にいる限り、無理だった。
「上村さんの心臓の音、安心します」
「安心?」
「はい。とても規則正しくて、力強くて……聞いていると眠くなります」
雪杉さんが僕の方に少し体を向ける。その瞬間、僕たちの距離がさらに縮まった。
(やばい、これ以上近づいたら……)
「すみません、少し離れた方が……」
「え? どうしてですか?」
「いえ、その……」
僕が慌てていると、雪杉さんが不思議そうな顔をする。
「もしかして、私がいると眠れませんか?」
「そういうわけじゃないんですが……」
「安心してください。私、いびきはかきませんから」
(そういう問題じゃない……)
結局、僕は雪杉さんの隣で、ドキドキしながら昼寝時間を過ごすことになった。
雪杉さんの静かな寝息が聞こえてくる。その穏やかな顔を見ていると、僕も少しずつリラックスしてきた。
(こんな時間が続けばいいのに……)
そんなことを考えているうちに、僕も眠りに落ちていった。
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※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。
※AI補助執筆(作者校正済)




