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『サボりの美学は雪杉さんに学べ』  作者: 白隅 みえい
第4章:サボりは共有財産
17/21

Lesson17「静かな翌日」

Lesson17「静かな翌日」


会議室昼寝事件の翌日、火曜日の朝。僕は昨日の騒動を思い出しながらオフィスに向かった。


(吹きもどし呼吸法、ハイボール騒動、そして始末書回収ミッション……)


あの後、僕たちは夜の9時まで会議室の片付けに追われた。雪杉さんも、珍しく残業に付き合ってくれた。


「おはようございます」


オフィスに入ると、いつものように雪杉さんが煮干しだしマグカップを持って現れた。


「おはようございます」


でも、何かが違う。


雪杉さんの声が、いつもより小さい。歩き方も、なんとなく元気がない。


「雪杉さん、大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


そう答えるものの、明らかにいつもの雪杉さんではない。


いつもなら「今日のだしは特製ブレンドです」とか「宇宙のエネルギーが……」とか、何かしら独特なコメントがあるのに、今日は無言でだしを飲んでいる。


「昨日は遅くまでお疲れ様でした」


「いえ……私のせいで、上村さんにもご迷惑をおかけして……」


雪杉さんが申し訳なさそうに謝る。


「そんなことないですよ。結果的に、みんな楽しんでくれましたし」


「でも……」


雪杉さんの表情が暗い。昨日の騒動を、まだ気にしているようだ。


蓮見さんがやってきた。


「おはよう。昨日はお疲れ様」


「おはようございます」僕が答える。


「雪杉さんも、お疲れ様。あの吹きもどし呼吸法、面白かったわよ」


「すみませんでした……」雪杉さんがさらに小さくなる。


「謝ることないわよ。みんな楽しんでたじゃない」


蓮見さんも、雪杉さんの様子がおかしいことに気づいたようだ。


「雪杉さん、どうしたの? いつもと違うみたいだけど」


「いえ、何でもありません」


雪杉さんが無理に笑顔を作る。でも、その笑顔がいつもより作り物っぽい。


午前中、雪杉さんはずっと静かだった。


いつものだしタイムも、黙々と飲むだけ。同僚から話しかけられても、必要最低限の返事しかしない。


「あれ? 雪杉さん、今日静かですね」


営業一課の田中さんが声をかけても、


「はい……すみません……」


と、申し訳なさそうに答えるだけ。


いつもなら、「今日のだしは○○で、宇宙のエネルギーが……」と、楽しそうに説明するのに。


碓氷係長もやってきた。


「雪杉さん、調子はどう?」


「はい、大丈夫です」


「昨日のハイボール騒動、面白かったよ」


「申し訳ありませんでした……」


係長も首をかしげている。


「どうしたの? いつもの元気がないみたいだけど」


「いえ、特に……」


雪杉さんが係長と話している間、僕は彼女の様子を観察していた。


(明らかに元気がない。昨日のことを、相当気にしてるんだな……)


お昼の時間になった。


雪杉さんは、いつものように昼寝の準備を始める。でも、デスクに突っ伏しても、なかなか眠れない様子だった。


時々、小さくため息をついている。


「雪杉さん」


僕が小声で呼びかけると、雪杉さんが顔を上げた。


「はい?」


「ちょっと話しませんか?」


「話……ですか?」


「はい。屋上で」


雪杉さんが迷うような表情を見せる。


「でも、昼寝の時間が……」


「今日は一緒に昼寝しましょう」


僕の提案に、雪杉さんの目が少し明るくなった。


「一緒に……ですか?」


「はい。屋上で昼寝しませんか?」


「でも、上村さんの昼食は……」


「後で食べます。今は、雪杉さんの方が大切です」


雪杉さんが小さく微笑む。今日初めて見る、本当の笑顔だった。


「ありがとうございます」


僕たちは屋上に向かった。


屋上には、午後の日差しが心地よく差し込んでいる。風も穏やかで、昼寝には最適な環境だった。


「いい天気ですね」


「はい……」


雪杉さんが手すりにもたれる。


「雪杉さん、昨日のことを気にしてるんですか?」


「はい……」雪杉さんが素直に答える。


「みんなに迷惑をかけてしまって……」


「でも、結果的にはよかったじゃないですか」


「そうでしょうか……」


雪杉さんが不安そうな表情を見せる。


「本山課長に叱られるし、始末書は書かされるし……」


「それは僕も一緒です」


「でも、原因は私の提案ですから……」


雪杉さんが自分を責めている。


「雪杉さん」


「はい?」


「昨日、みんなの顔を見ましたか?」


「え?」


「片付けの時、みんな楽しそうでしたよ」


確かに、あの混乱の中でも、みんな笑いながら片付けをしていた。


「碓氷係長なんて、『予想外の全身運動ができた』って喜んでましたし」


「そうでしたっけ……」


「蓮見さんも、『来年もやりましょう』って言ってました」


雪杉さんの表情が、少しずつ明るくなってくる。


「それに」僕が続ける。「丸山部長も、今朝『派手で良かった』って言ってましたよ」


「部長が?」


「はい。『若者らしくて良い』って」


雪杉さんがクスッと笑う。


「部長らしいコメントですね」


「そうです。だから、気にすることないんですよ」


「でも……」


「でも?」


「私、また暴走しちゃうかもしれません」


雪杉さんが心配そうに言う。


「いつも、良かれと思って提案するんですが、結果的に騒動になってしまって……」


確かに、雪杉さんの提案はいつも予想外の展開になる。でも、それが彼女の魅力でもある。


「それでいいんじゃないですか」


「え?」


「雪杉さんの提案で、みんな退屈しないで済んでます」


「そうでしょうか……」


「はい。雪杉さんがいないオフィスなんて、想像できません」


僕の言葉に、雪杉さんの顔がパッと明るくなった。


「ありがとうございます、上村さん」


「いえいえ」


「あの……」雪杉さんが恥ずかしそうに言う。


「はい?」


「今度からは、もう少し慎重に提案します」


「いえ、今のままでいいですよ」


「でも……」


「代わりに、僕がフォローします」


雪杉さんが僕を見つめる。


「フォロー……ですか?」


「はい。雪杉さんが暴走しそうになったら、僕が止めます。逆に、止めすぎたら、僕が後押しします」


「そんなことしてもらって……」


「遠慮しないでください。僕たち、パートナーでしょ?」


パートナーという言葉に、雪杉さんの頬が少し赤くなった。


「パートナー……そうですね」


「はい。これからは、二人で協力しましょう」


雪杉さんが嬉しそうに微笑む。


「では、今日は二人でゆっくり昼寝しませんか?」


「はい」


僕たちは屋上の日陰に座り込んだ。


「あの……上村さん」


「はい?」


「一緒に昼寝するの、初めてですよね」


確かに、雪杉さんの昼寝は見守ったことはあるが、一緒に眠るのは初めてだった。


「そうですね」


「なんだか、特別な感じがします」


雪杉さんが照れながら言う。


「僕もです」


「では、お昼寝しましょうか」


「はい」


僕たちは並んで座り、目を閉じた。


屋上には心地よい風が吹いて、遠くから街の音が聞こえてくる。


「上村さん」


「はい?」


「こうやって一緒にいると、心が落ち着きます」


「僕もです」


「一人で昼寝するより、ずっと気持ちいいです」


雪杉さんの声が、だんだん眠そうになってくる。


「今度からは、時々一緒に昼寝しませんか?」


「いいですね。約束しましょう」


「約束……ですね」


雪杉さんの声がさらに小さくなる。


「上村さん……」


「はい?」


「ありがとうございます……」


そのまま、雪杉さんは静かな寝息を立て始めた。


僕も、雪杉さんの隣で目を閉じる。


確かに、一人で昼寝するより、ずっと心地よい。雪杉さんの存在を感じながら眠るのは、特別な安心感がある。


(これからは、時々こうやって一緒に……)


そんなことを考えているうちに、僕も眠りに落ちていった。


20分後、僕たちは自然と目を覚ました。


「あ……寝てました」


「僕もです」


雪杉さんが伸びをする。表情は、朝とは別人のように明るくなっていた。


「すっきりしました」


「よかったです」


「上村さんと一緒だと、とてもよく眠れます」


「僕もです。今度からは、この時間を大切にしましょう」


「はい」


屋上から降りて、午後の仕事に戻る。


雪杉さんの元気が完全に戻っていた。


「みなさん、午後もがんばりましょう」


いつもの雪杉さんの声が、オフィスに響く。


「あ、雪杉さん、元気になったわね」蓮見さんが気づく。


「はい。上村さんのおかげです」


「そう。よかったわ」


碓氷係長もやってきた。


「雪杉さん、調子が戻ったみたいだね」


「はい。屋上で昼寝をしたら、すっきりしました」


「屋上で昼寝? いいね、それ」


係長が興味を示す。


「今度、私も混ぜてもらおうかな」


「え?」雪杉さんが困ったような顔をする。


僕も少し困った。せっかく二人だけの特別な時間にしようと思ったのに……


「あ、でも」係長が空気を読んで言う。「二人の時間も大切だからね」


「そうですね……」雪杉さんがほっとする。


「でも、たまには三人でもいいかもしれませんね」


「そうですね」


夕方、定時になると、雪杉さんがやってきた。


「上村さん、今日はありがとうございました」


「いえいえ」


「おかげで、元気が出ました」


「よかったです」


「それと」雪杉さんが嬉しそうに言う。


「はい?」


「屋上昼寝、とても気に入りました」


「僕もです」


「今度はいつにしましょうか?」


雪杉さんが待ちきれない様子で聞く。


「そうですね……明日はどうですか?」


「明日も! 嬉しいです」


雪杉さんの笑顔を見ていると、今日一日の心配が嘘のようだった。


「でも」雪杉さんが付け加える。


「はい?」


「今度は、もっと快適な昼寝ができるように、準備してきますね」


「準備?」


「はい。クッションとか、ブランケットとか」


(また何か企んでる……)


でも、雪杉さんの楽しそうな表情を見ていると、どんな準備でも受け入れられそうだった。


「楽しみにしてます」


「はい。きっと、素敵な昼寝時間になりますよ」


帰り道、僕は今日のことを振り返っていた。


雪杉さんが落ち込んでいるのを見るのは、つらかった。でも、一緒に屋上で過ごすことで、彼女の元気を取り戻すことができた。


(屋上昼寝、これから僕たちの新しい習慣になりそうだな)


明日の屋上昼寝が、今から楽しみだった。


サボりの美学は雪杉さんに学べ。

――静寂も、時には最高の会話。


#オフィスラブコメ #社会人 #ラブコメ #現代 #星形にんじん


※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。


※AI補助執筆(作者校正済)


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