表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『サボりの美学は雪杉さんに学べ』  作者: 白隅 みえい
第3章:半径30cmの距離
12/21

Lesson12「恋は筋肉に出るんですよ」

Lesson12「恋は筋肉に出るんですよ」


相合い傘事件から三日後の土曜日。僕は雪杉さんと約束した「雨の日のヨガ」レッスンに向かっていた。


予報通り小雨が降っていて、今度は僕もちゃんと傘を持参している。


「上村さん、お疲れ様です」


ヨガスタジオの前で、雪杉さんが手を振ってくれる。今日はヨガウェア姿だ。


「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ。きっと良い体験になりますよ」


スタジオに入ると、田中先生が迎えてくれた。


「上村さん、いらっしゃい。今日は雨の日のヨガですね」


「はい、よろしくお願いします」


「雨音のCDを用意してあります。とても癒されますよ」


確かに、スピーカーから流れる雨音が心地よい。


「では、始めましょう」


レッスンが始まって、僕は改めて雪杉さんのヨガの美しさに見惚れていた。


(流れるような動き……本当に上手だな)


そんなことを考えていると、バランスを崩してふらついてしまった。


「上村さん、大丈夫ですか?」雪杉さんが心配そうに声をかける。


「あ、はい。ちょっと集中力が……」


「呼吸に意識を向けてくださいね」


雪杉さんが僕の隣に来て、呼吸法を教えてくれる。また、あの時のようにドキドキしてしまう。


(やばい、また心拍数が……)


レッスン後、僕たちは近くのカフェでお茶をしていた。


「どうでしたか? 雨の日のヨガ」


「とても良かったです。雨音で集中できました」


「よかった」雪杉さんが嬉しそうに微笑む。


そんな話をしていると、突然聞き覚えのある声がした。


「おお、こんなところで会うとは!」


振り返ると、碓氷係長がジム帰りらしいスポーツウェア姿で立っていた。


「係長? こんにちは」


「こんにちは。お二人でカフェですか? いいですねー」


係長が意味深にニヤニヤしている。


「ヨガのレッスンの後だったんです」雪杉さんが説明する。


「ヨガ! いいですね。私も興味あります」


「今度一緒にいかがですか?」


「ぜひ! でも……」係長が僕たちを見回す。「お二人の筋肉の状態、とても興味深いですね」


「筋肉の状態?」


「はい。恋をしている人の筋肉には、特徴があるんです」


(恋って……そんなに分かりやすいのか?)


「どんな特徴ですか?」雪杉さんが興味深そうに聞く。


「まず、表情筋が活性化します」係長が専門家のような口調で説明する。「頬の筋肉、口角を上げる筋肉が頻繁に動くんです」


確かに、最近笑顔になることが多い気がする。


「次に、姿勢筋の変化です」


「姿勢筋?」


「はい。背筋が自然に伸びて、胸を張るようになります。これは、相手に良く見られたいという心理の表れです」


僕は無意識に背筋を伸ばしてしまった。


「そして」係長が続ける。「最も顕著なのは、心筋の変化です」


「心筋……心臓の筋肉ですね」


「そうです。恋をすると、心拍数が不安定になります。特に、相手を見た時の心拍変動は劇的です」


(完全に当てはまってる……)


「でも、係長はどうしてそんなことを?」雪杉さんが不思議そうに聞く。


「実は、筋肉と感情の関係について研究してるんです」係長が嬉しそうに答える。「恋愛時の筋肉変化も、私の研究テーマの一つなんです」


「すごいですね」


「ところで」係長が僕たちを見比べる。「お二人の筋肉の状態、今とても興味深いことになってますよ」


「え?」


「まず、上村君」係長が僕を指差す。「表情筋の動きが明らかに増加してます。特に目尻の筋肉」


確かに、雪杉さんを見ると自然に笑顔になってしまう。


「姿勢も以前より良くなってます。無意識に胸を張って、肩の力が抜けてる」


言われてみると、その通りだ。


「そして、心拍数」係長が僕の手首を取って脈を確認する。「おお、これは……」


「どうですか?」


「典型的な恋愛時の心拍パターンですね。安静時より20%増加してます」


(20%も?)


「次に雪杉さん」係長が雪杉さんの方を向く。


「私もですか?」


「はい。雪杉さんの筋肉変化も非常に興味深いです」


係長が雪杉さんを観察し始める。


「まず、呼吸筋の使い方が変わってます」


「呼吸筋?」


「はい。深くて静かな呼吸をするようになってます。これは、相手をリラックスさせようとする心理の表れです」


確かに、雪杉さんといると落ち着く。


「姿勢筋は、上村君とは逆の変化ですね」


「逆?」


「雪杉さんは元々姿勢が良いので、むしろ肩の力が抜けて、自然体になってます」


「そうなんですか?」


「はい。これは、相手に対する警戒心がなくなった証拠です」


雪杉さんが僕に対して警戒心を持っていないと聞いて、なんだか嬉しくなった。


「そして」係長が雪杉さんの手首に触れる。「心拍数は……おお」


「どうですか?」


「上村君と同じような変化ですね。安静時より15%増加」


(雪杉さんも心拍数が上がってる?)


「でも、雪杉さんの場合、心拍の乱れ方が違います」


「どう違うんですか?」


「上村君は瞬発的に心拍数が上がるタイプ。雪杉さんは持続的に上がるタイプです」


係長が専門用語で説明し始める。


「上村君は速筋優位の心拍変化。雪杉さんは遅筋優位の心拍変化ですね」


「速筋と遅筋?」


「はい。恋のパターンが違うんです」


僕と雪杉さんが顔を見合わせる。


「速筋優位の恋は、ときめきが強く、瞬発的です」係長が続ける。「遅筋優位の恋は、じっくりと深まっていく、持続型の恋です」


「なるほど……」


「でも、どちらも素晴らしい恋の形ですよ」係長がニッコリ笑う。


「係長」僕が恥ずかしくなって言う。「そんなに分析しなくても……」


「いえいえ、これは科学です」係長が真剣な顔になる。「恋愛も筋肉の動きも、全て生理現象なんです」


「生理現象……」


「そうです。だから、恥ずかしがる必要はありません」


雪杉さんが興味深そうに聞いている。


「係長、他にも恋愛時の筋肉変化ってあるんですか?」


「たくさんありますよ」係長が嬉しそうに答える。「例えば、瞳孔散大筋の変化」


「瞳孔散大筋?」


「はい。恋をすると、瞳孔が大きくなります。相手をもっとよく見たいという本能です」


言われてみると、雪杉さんの瞳が大きく見える気がする。


「あと、声帯筋の変化もあります」


「声帯筋?」


「恋をすると、声のトーンが変わります。特に、相手と話す時は、普段より優しい声になります」


確かに、雪杉さんと話す時は、自然に声が優しくなる。


「それから」係長がさらに続ける。「手の筋肉の変化も興味深いです」


「手の筋肉?」


「相手に触れたい、触れられたいという気持ちで、手の筋肉が微妙に緊張するんです」


僕は無意識に手をぎゅっと握ってしまった。


「おお、上村君、今まさにそれですね」係長が指摘する。


「え?」


「手を握りしめてます。雪杉さんの手を握りたいという気持ちの表れです」


(バレバレじゃないか……)


雪杉さんが僕の手を見て、少し頬を染める。


「でも」係長が付け加える。「雪杉さんも同じような反応ですよ」


「え?」


雪杉さんも、無意識に手をぎゅっと握っていた。


「お二人とも、同じ筋肉反応をしてますね」係長が満足そうに言う。


「これは、相互恋愛の典型的なパターンです」


相互恋愛……その言葉に、僕の心臓がさらにドキドキした。


「相互恋愛って……」


「はい。お互いが相手に対して同じような感情を抱いている状態です」


雪杉さんと僕が同時に赤面する。


「筋肉は嘘をつきません」係長が断言する。「お二人の筋肉が、はっきりと物語ってます」


「何を物語ってるんですか?」雪杉さんが小声で聞く。


「お互いを想い合ってるってことです」


係長の言葉に、カフェの空気が一瞬止まったような気がした。


「でも」係長が急に立ち上がる。「筋肉の話はこのくらいにして、私はこれで失礼します」


「え? もう帰られるんですか?」


「はい。お二人の時間を邪魔しちゃいけませんからね」


係長がウインクする。


「ゆっくりお話しください。でも、筋肉の緊張をほぐすことも忘れずに」


「筋肉の緊張をほぐす?」


「はい。恋愛時の筋肉緊張は、適度にリラックスさせることが大切です」


係長が去り際に振り返る。


「例えば、手をつなぐとか」


そう言って、係長は颯爽と去っていった。


残された僕と雪杉さんは、しばらく無言だった。


「係長……すごいですね」雪杉さんが苦笑いする。


「ええ……筋肉でそこまで分かるなんて……」


「でも」雪杉さんが僕を見る。「係長の言ったこと、当たってましたね」


「当たってた?」


「心拍数の件とか……」


雪杉さんが恥ずかしそうに微笑む。


「実は、私も上村さんといると、心臓がドキドキするんです」


その告白に、僕の心臓がさらに大きく跳ねた。


「僕もです」


「そうなんですか?」


「はい。特に、この前の相合い傘の時は……」


「私もです」雪杉さんが嬉しそうに言う。「すごくドキドキしました」


僕たちは、お互いの正直な気持ちを確認し合った。


「係長の言う通り、筋肉は嘘をつかないんですね」


「そうですね」


雨が止んで、カフェの窓から日差しが差し込んできた。


「上村さん」


「はい?」


「筋肉の緊張をほぐしませんか?」


雪杉さんが恥ずかしそうに手を差し出す。


僕は迷わず、その手を取った。


確かに、手をつなぐと、筋肉の緊張がほぐれる気がした。


「本当ですね。リラックスできます」


「係長の言う通りでした」


僕たちは手をつないだまま、しばらく窓の外を眺めていた。


「ときめきは速筋優位」


係長の言葉を思い出しながら、僕は雪杉さんの手の温かさを感じていた。


確かに、恋は筋肉に出る。そして、筋肉は正直だった。


サボりの美学は雪杉さんに学べ。

――ときめきは速筋優位。


#オフィスラブコメ #社会人 #ラブコメ #現代 #星形にんじん


※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。


※AI補助執筆(作者校正済)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ