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運転手

作者: HORA

都内を無数に走るタクシー。そのサービスは会社ごとによって異なる。初乗りの料金が細かく違う事はもちろん、スマホ決済に対応していたり、スマホで簡単に予約でき指定の場所まで来てくれたり、GPSで配車されたタクシーがどの位置にいるかを確認できるサービスすらある。


その中で百発百中の占いをしてくれるタクシー運転手がいる。あなたが運よくそのタクシーに乗車できたなら「来週の富士山の山頂の天候」を話題にしてみよう。すると、あなたの好きな事を占ってもらえる。タクシー料金は占い料込みで10000円ちょうど。占い料はタクシー代で支払う。ただしタクシーとしての役割は無くなり、都内を適当に流すだけで乗車した地点に戻ってくる。時間にしておよそ1時間と少し。目的地を設定してしまうと、占い結果や効果はとたんに効力を失ってしまうので客はそれに従うのだそうだ。


「いや~、、あのタクシーに乗る事ができて運が良かったよ!契約がポシャるところだったのを占いのおかげで見事回避できてね…」


百発百中なのだから悪い口コミが回る事もない。もちろん占い結果を信じずに、、、もしくは面倒くさがって対処せずに面倒に巻き込まれたケースはあったが、そちらの口コミの方がより信憑性を高めることとなっていた。どこか目的地があってタクシーに乗ったはずであったのに、その予定をキャンセルしたり、帰宅を遅らせて、乗った地点に戻って来てなお口コミが素晴らしいのだ。よっぽど充実した1時間なのだろう。


「へ~。運転手さんって昔は占いの館で働いていたんですか?なぜタクシー運転手に?」


タクシー内での占いの後の雑談で運転手さんの過去を聞いた客がいた。そんなに当たるのなら超人気の占い師になれたのではないか?と尋ねると、20年程前の当時は、まだ星の巡り合わせの読み解きが甘かったのだそうだ。それでも的中率は90%程と他から抜きんでていたが、何せ容姿が悪く、あまり指名やリピートがとれなかったのだそうだ。

占い師は雰囲気をしっかり持っている美男美女が、薄暗い部屋で水晶やタロット、分厚い何か資料をぺらぺらとめくりながら、儀式として行うから、信憑性が増すのだという。当時の運転手さんはTシャツとGパンで普通に明るい部屋で面接のように占いをしていたので人気が出なかったとのこと。うーん。そんなものなのだろうか。占い師なのだから的中率がそのまま人気順なのかと考えていたが。他のその雰囲気のある(・・・・・・)占い師達にも嫌われたのだろうな…。


「へーそうなんですね。じゃ今はタクシー車内の何を見て占っているんですか?」


冗談めかして聞くと、タクシーのメーター類の箇所、冷却水のF(上限)~L(加減)の具合を見て占ったり占わなかったりしています、、なんて冗談を言ってくれる。先ほどは何も使わずに占ってるって言ってたのにね。


的中率が100%になったのはタクシー運転手を始めてからしばらくして…の事らしい。たまたま…なのだそうが、そんなたまたま100%になるのか?と不思議に思う。そしてもう占い師として戻るつもりは無いらしい。タクシーの運転手として責任を負わずにたまに理解してくれている人だけを占うというこの形が向いているのだそうだ。


確かにかっこいいタイプの運転手ではない。度のきつい眼鏡をかけていて、太っていて、ちょっと嫌なハゲ方をしている。いや、20年前はどうだったかは分からないが。ただし物腰は柔らかく、丁寧な対応。そして、占いにおいても客がトラブルに巻き込まれそうな注意点を中心にメモを取るように促してくれる。お客様が今後も困らないようという心遣いが素晴らしい。それも口コミを高める要素になっているのだろう。客満足度は最高。嫌な気持ちになる人は一人もいなかったのだ。



しかし

どうも運転手目線で見てみるとこの話はそんな美談では無いようだ。



俺は10代後半からオカルトやこっくりさん、そしてそのまま占いにハマった。様々な手法を研究し、統計を学び、結論にいきつく。100%にすることは無理だ。かなりの紛れ(・・)が介在してしまう。それは複数の手法を組み合わせているからなのか、、、しかし単独では的中率30%程が限界。どうあっても多種多様な相談にそれぞれ対応した解を用意できない。

そこで俺は気づく。

俺の運を上げることで90%を100%に引き上げれば良いのだと。

そのためには俺自身が一所(ひとところ)(とど)まっていてはいけない。外に出て多くの運を得ないと。


結果、選択した仕事はタクシーの運転手。

客を乗せた地点から、客を乗せた地点へと戻す。これには呪術的に客から運の多くを吸い取る力がある。客を不幸にして俺の幸運にすることで、占い結果を100%に押し上げることができると気づいた。

客に降りかかる多くの不幸を、自らが伝えてそれを回避してもらうことで、俺の評価が上がる。それはまさに()()がすこの()が正しい目的地に進んでいることを表していた。

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