ハートが破れる音
「みさき~!おまえどーしてそーわがままばっか言うの?!」「あっかんべーだ、たつやったら」
恋心は複雑ね。
沙華やや子の作品に出会って下さりありがとうございます♪ 短めのお話なのでリラックスして楽しんでね✰
あじゃぱ!な空模様だわ、ヤンなっちゃう。梅雨だよねー。縮毛矯正のお金とっとくの忘れたよ~・・・すっかり忘れてパソコンの高額なセキュリティソフト買っちゃったよ~!・・・ま、どのみち要るものなのだが。
深咲は恨めしそうに窓の外の雨粒をぼんやり見ている。いま彼女が思うのはきのうお家映画で観た作品のこと・・・ あのワンコや…そう!熊もシカもいたよね?!どうやって演技したのだろうか。というかさせられちゃったの?考えると悪い想像ばかり浮かび動物のことが気の毒になってくる。
素敵な泣ける映画だったが。そして直後浮かんだのは(あたしなら、兌夜に調教される側が良いわ)キャ♪毎日そんな事ばかり考えている能天気な女だ。
深咲は今年で32歳。夢は兌夜31歳の花嫁さん。二人は仲の良い恋人同士だ。
「せんぱ~い、深咲さんと結婚しないんすか。誰かに取られちまいますよ!結構彼女のファン多いからー」・・・ここは夜の蝶ひしめくおとなのお店。後輩のボーイ絵斗が先輩ボーイの兌夜のひじを突っつく。「ば~っか、おまえなぁ、ここでは恋未って言えよッ
」兌夜がかわいいがドジな後輩に注意を促す。「あ、すんませーん」絵斗が口をとがらせる。
甘いトワレと酒の匂いが充満する華やかな場だ。
クラブ「月に海」に先に勤めだしたのは深咲のほうだ。その約1年後に兌夜は入店した。面接の際には兌夜が想定していた事が起こった。店長から「ほう…キミ、いい名前だね!夜の仕事にピッタリだワッハッハ」。「ありがとうございます」そう返事をし、顔色一つ変えない兌夜であった。
極度の甘えん坊の深咲から逃れるかのごとく、飄々とお一人様ライフを満喫中の兌夜。デートをすればとろけるチーズよりも蕩けるが、やきもちやきで束縛したがる深咲にはほとほと手を焼いている。
「聞いてもいいっすか?先輩」「なに」今夜は店が暇だ。両手を前に組み姿勢よく立っている兌夜の横で話しかける絵斗・・・「嫉妬って、無いんですか?」「は?」絵斗の唐突な質問に目が点になる兌夜が訊きなおす「え?誰が誰にだ?」…「みさ、ぁ、いえ恋未さんが他の客とくっついてるのとか~‥そのぉ・・・」・・・。しばし兌夜は考えた・・・というか、考えたことがなかった。仕事だし。「ないな」ひと言答えた。そうしてるうちに、恋未こと自分の大事なリトルダーリン深咲のお客様のお見送りタイムとなった。兌夜がお客と深咲の前を歩き扉までゆく。後ろでイチャイチャするような二人の声が聴こえない訳でもない。
ピリ!・・・なんだ?紙が破れるような音が確かに兌夜の耳に響いた。え、なに。胸が…痛い、オレ。
扉の前で兌夜と源氏名恋未が一礼する。
「どうしたの?たつや、浮かない顔しちゃって...だいじょうぶ?」小声で何かおかしい様子を見て取った深咲がサッと声を掛けポンッと肩を叩きニコッと微笑んだ。すぐに次の指名客の元へ行かねばならぬ深咲は兌夜の淋しげな表情に後ろ髪をひかれながらも職務全うだ。
・・・半年後、二人は揃って店を退職してしまった。
そうして深咲の一番のお願いごとが叶ったのだ。
「たつやぁ~、愛してるよぉ・・・今日もキスしたまま朝まで寝よ!」「うん」まんざらでもない兌夜。
これからはお家映画も一人じゃないわ!
兌夜、深咲!これからもずっとお幸せにねっ・・・
だれにでもみせたくない感情ってありますよね。でも、あまりにも閉じ込めすぎると暴れて飛び出してきちゃうよ?!
兌夜の夜は明けたんだね。
あなたの今日がステキでありますように・・・ by 沙華やや子
※ 挿絵は【みてみん】サイト様の雪森十三夜さまによるものです。感謝いたします。