○星降り祭りの夜○
ユシカのホシから眺めたなら、今宵の銀河はとても壮観で真に壮麗なものだった。
幾千万の群星を鏤めた天幕が飾られたテントの中にいるかのように、手を伸ばせばすぐにでも掴めそうな満天の星々。
今にでも落ちてきそうな流星雨。
カシオペア座のアステリズムは、まるで鋭い剣で刻まれたように、在り在りとWの文字を描き、天の北極を探すための指極星としてその役割を遺憾なく発揮している。
またオリオン座のアステリズムは、まるで銃で撃ち抜いたかのように七つの穴を見事なまでに開け放ち、オオグマ座の北斗七星の近くで輝く北極星は、宝石のように目映く煌然と煌めいていた。
これほど美しく希有な銀河は数年に一度、いや、数十年に一度見られるとも約束されないほど得難い経験であり、ことその器が100年と保たないユシカにとって、それは夢のような出来事に違いない。
そしてそれが年に一度だけ執り行われる、ユシカノ魂を幾久しく永遠の平穏を祈願する鎮魂の祭儀、"星降り祭り"の夜とあっては、万分の一の偶然もないと思われた。
夜空を一文字に切り裂くように流れる雲状の光の帯とも見える天の河が、まるで乳白色の上等な絹のカーテンのようにも見え、時間をも超越し、永遠とも思われる天外の銀河で月が煌いていた。
天満星の中、穏やかにユシカノホシを照らす淡く光る月影。
月光に照らされ月に目を注ぐユシカの子供達。
あらゆる恒星が驚喜乱舞する如くひしめき合う今宵の銀河と同じく、異彩を放ち見事に金光りする月は、そう幾度と拝観できる定例はなく、あり得ない奇跡を照覧するほどに有意義であり、
偏に得難い体験だが、ユシカの子供らはそのような尊い邂逅には全く興味を示さず、小童故の愚かさを遺憾無く発揮し、丸い月が目の前にあったのなら、思わずつまんで口に入れたくなる飴玉のように見えたようで、
「わーい。金の飴、金の飴! 降ってこい! 降ってこい!」
そう言いながら無知で拙い小童は、銀河に向かって柳に飛びつく蛙のごとく、唯々飛び跳ねていた。
惑うことなく秀麗に煌く月であったが、その表面には汚れが付着したように、また穴でも開いているかのように、どす黒い影が張り付いており、漆黒の影は事あることに風に踊る柳のように、有情の如く、ぐにゃりぐにゃりと揺れていた。
「また影が動いたよ? あの影は生きているのかな?」
「いやいやあれは違うよ。うちのおと様が言っててね。(あれはただの影だな。ただの影が動くわけないでね。光りの加減で動いているように見えてるだけだね。月も動いてるから、光のあたり具合とかだね)そう言ってたよ」
「そう。あれはただの影なの?」
ユシカの子供らは首を傾げ、満天の星空で煌く星々と同じく、眼をキラキラと輝かせながら、不思議そうに煌煌と煌く月を眺めていた。
「けれどもやっぱり生きているみたいだ。まるで自分で考えて動いてるみたい。なんだか僕の影のようだよ」
するとユシカの子供らは、月に照らされた自分の影法師を見つめながら、手や足を上下前後、また少しでも真似されないようにと思い、クルクルと肩を回したり、跳んだり跳ねたりと、愚かにも派手に激しく動かした。
すると影法師はユシカの子供らの行動を、どれ一つとっても間違えることなく真似をするので、いつの間にか影法師を友達のようにして、ユシカの子供らは、わいわいと遊びはじめた。
その声は銀河の世界からユシカノホシを眺めるウサギの耳にも届くほどであった―――