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塩辛くて悪かったね

作者: 山谷麻也

 ◆定番は塩サバ

 Uターンして、閉口したことがいくつかあった。

 そのひとつが、弁当の焼き魚の辛さだった。


 弁当は、忙しい時など、娘が近くの食料品店で買ってきたものだ。たいてい塩サバが入っている。半分食べても喉の渇き、胸やけに襲われる。そのうち、箸さえつけなくなった。


「健康志向に逆行しているな」

「味見はしてないのだろうか」

 などと、いつも思っていた。 


 ◆魚の行商

 最近、同郷の先輩がよく治療に見える。その方の実家は魚屋だった。よもやま話に、秘境にまで行商していたという話が出た。


 軽トラックで魚市場に仕入れに行き、秘境へと向かう。昔、山間部で鮮魚を食する機会はめったになく、たまに食卓を彩るのは塩サバくらいだった。そこへ、新鮮な魚類が行商されるようになった。魚好きには感謝されたことだろう。


 この様子を取材していたテレビ局があった。一か月以上カメラを回し、編集して放送したのが、NHKの『新日本紀行』だった。番組では「塩サバから刺身に食習慣を変えた」という意味の解説をしたらしい。 


 ◆食品貯蔵術

 しかし、そのナレーションは早計だったのではないか。


 筆者の少年時代など一般には冷蔵庫が普及していなかった。加えて、クルマの入らない村だったこともあり、魚と言えば、地元の商店で買ってきた塩サバか缶詰だった。

 奥の秘境も、多くは筆者の生まれ育った村と似たり寄ったりだったに違いない。


 サバは日持ちさせるため、塩漬けにしたうえ、大量に塩を振っていた。この地域では、塩サバは激辛と相場が決まっていたようだ。


 四〇年ほど前、長男が生まれたので、親戚デビューのために帰省した。

 訪問先で、長老が息子に何か食べさせようとしている。魚の切り身だった。見るからに日にちが経っている。私は思わず、息子を抱き寄せてしまった。


 長老にしてみれば、山間部の伝統食、大好物の塩サバで新入りをもてなそうという親切心だったのだろう。私の所作を見て、明らかに気分を害したようだった。


 ◆引きずる記憶

 くだんの食料品店の奥さんも、おそらく地元の出身。激辛でなければ塩サバにあらず、と刷り込まれて育ったのではないか。


 子供心には、焼き魚よりもサバ缶が好きだった。サバ缶には限りない郷愁を覚える。やはり、フレークよりも、こってりした味噌煮がいい。ご飯のおかずはもちろん、酒のアテとしても右に出るものはない。


 ひもじい腹を抱えて食べたものの味は、忘れがたい。山岳民族にはいつまでも「塩抜き」できない舌の記憶があるようだ。

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