王子の葛藤2 王子と人との関わり
スレイフルは悩んでいた。
なぜアンデルセンは、おれが王に相応しいと思っているのだろう、思ってくれているのだろう。
おれには才能がないはず。でも、アンデルセンには見えているらしい。どんなさいのうなんだろうか。
考え事をしながら、廊下を歩いていた。特に用事があるわけではなかった。ただ、気分転換に。
「坊ちゃま、おはようございます」
「ああ、おはよう」
途中で何人かの従者とすれ違い、その度に挨拶をしたりされたり。
「う〜ん、どうしよう〜」
「どうかしたの?」
端の方の窓辺で、メイドの一人が手を頬にそえて悩んでいた。
「あ、坊ちゃま、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「実はですね、今度私の弟の誕生日になるんですよ」
「そうか」
「それでですね、なにをプレゼントしてあげようか悩んでいまして」
「弟さんはなんさいに?」
「今年で10です!坊ちゃまより上ですけど、坊ちゃまのほうがよっぽど大人です」
そういって、くすりと笑った。
「そうか、それはそれは。仲はいいの?」
「それはもう!この間も『お姉ちゃんと遊ぶー!』って、仕事に行く私を引っ張って止めようとしてましたからね。かわいいんですよ、ほんとに」
「いい弟さんだな」
「はい、ほんとにかわいくていい弟ですよ!」
腰に手をやり、少しばかり背を反らして、ふふんっといった感じのメイドと、そのまま談笑していた。
「あら、いけないお仕事しなきゃ!すみません坊ちゃま、お話聞いてくださり有難うございました!」
「いいや、こちらこそ、弟さんとこれからも仲良くね」
「はい!」
そういって、走っていったメイドを見ながら、スレイフルは思っていた。いいお姉さんだな、と。あそこまで自分の弟を大事に思っていて、素敵だなと。
これはスレイフルが恋をしたからではない。単に、スレイフルが、だれかのことをそこまで、先のメイドからその弟へのように、思いやることが、自分にはできていないと感じていたからである。
そのあとも、特になにか目的があるわけでもなく、城の敷地内を散歩していた。
その道中でも、すれ違う人みんなと挨拶をしたりされたりしていた。
気が付いたら、庭にいた。
立派な庭師が、一人でずっと整えてくれている庭。
ずっと続けていてくれていることに、スレイフルは感謝と尊敬を抱いていた。
そんな庭を歩いていると、隅の方で誰かが屈んでいるのが見えた。
「どうかしたの?」
「ああ、スレイフル様…」
執事の一人が、俯いていた顔をこちらに向けて、元気のない笑顔で返した。
「…、むりしてない?」
「い、いえ、このくらいは…」
「…。わかった、じゃあここでゆっくりしててくれ。
医務室から人を呼んでくるから」
「し、しかし、」
「待ってて、すぐ呼んでくる」
スレイフルは駆け出した。医務室の方へと一直線に。
「だれか、一人手の空いてる人、いる?」
医務室について、スレイフルは尋ねた。
「はーい、ここにいますよ〜」
おっとりしていて呑気だが、元気な声が聞こえた。
「庭の隅で人がしんどそうにしてる。動けなさそうだったから、来てほしい」
「わかりましたー!ちょっと支度しますねー!」
ちょっと遠くから聞こえる声に、おっとりさはなくなっていた。
「あそこの人だよ」
「わかりましたー!」
スレイフルと医者は、庭で蹲っている執事にすぐに駆けつけた。
「す、スレイフル様…」
「だいじょうぶ?とりあえず、お医者さんにみてもらって」
「はい、じゃあどこがつらいか教えてください」
医者は、簡単な聞き取りを済ませたあと、持ってきた箱の中身から、水と薬をだして、執事に飲ませた。
「はい、これで少しは良くなると思いますよぉ。でも、無理はダメです。数日、そうですねぇ、最低でも3日!自分の部屋で休んでください。それで動けるようになったらいいですけど、だめなようだったらもう少し休んでください。3日後にお部屋に訪ねますので、その時教えてくださいねー」
そういって、医者は医務室へと戻っていった。
「少しは楽になった?」
「はい、スレイフル様、ありがとうございます」
「楽になったのならよかった。無理しないでね。もう動けそう?」
「はい、お陰様で」
「じゃあ、部屋に戻って3日は休んでてね」
「…、ほんとうに、ありがとうございます、スレイフル様」
「どういたしまして、でいいのかな」
医者にも礼を言っていた執事に対して、ちょっともどかしい、でも温かい気持ちになった。