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裸一貫で出るより良いスタートになったな

 異世界転生。

 なんかトラックに轢かれたり、寿命で死んだりなんやかんや死んだ後、なんやかんやで地球とは違う惑星に人間と人間そっくりな生物がいる摩訶不思議な世界に生まれ変わるアレである。

 その異世界転生をしてしまったのが俺、カインである。

 おっと、名前を聞いてキラキラネームと勘違いしないでくれ。

 こっちの世界で名付けられた名前でこういうのが一般的なのさ。

 逆に太郎とかそんな名前の方が浮いちまう。

 まぁ、異世界転生した俺は前世の記憶を生かしてチートなスローライフを……。


「遅れねぇんだよなぁ! コレがヨォ!?」


 そう言いながら手に持っているクワを地面に振り下ろす。

 振り下ろした先は畑の土の様に柔らかくはなく、植物の根が絡まった乾いた土の上だった。


「ちょちょちょ、アニキィまたいつもの妄想の話っすかぁ? 俺もう聞き飽きたんで別の奴聞きたいんすけどー」

「ぬぅあにが妄想じゃあ! 全部実話だわ! ロイ!」


 隣で一緒に作業しているロイが茶々を入れてくる。

 昔からの付き合いでこの村で一番仲がいいのが彼だろう。


「そもそもアニキなんでこんなこと真面目にやってんすか? どうせ無駄なのに」

「無駄じゃねぇよ! 村に余裕が出来れば俺らもここに置かせてもらえるかもしれねぇだろ?」

「無駄だと思うっすけどねぇ」


 この村では長男は後継、次男は長男のスペア、三男はそのスペア、その後はスペアのスペア……と言った具合で長男以外はほとんど冷遇されていた。

 15までは飯を食わせるがその後は村から追い出されてしまう。

 自分は四男、ロイは三男で家を継ぐことができない。

 しかし土地を切り開いて畑を増やせばこの村に置いてもらえるかもしれない。

 そんな望みの薄い希望に縋っているというのが自分の今の現状だった。


「それに働き物だと見せれば仏心を向こうが出してくれるかもだぜ?」

「アニキィ、ここの村の奴らにそれはないっすよー。 それに村の外出て行くのも悪くないかもっすよ?」

「ウルセェ!俺はこんなモンスターとか野党が溢れた外の世界に出るの絶対に嫌だからな!」

 

 この世界はファンタジーよろしくモンスターとか危険な亜人種が辺りをウロウロしているのだ。

 そんな危険なところに裸一つで放り出されるのなんて冗談じゃない。

 大丈夫だ、きっとなんとかなるはず、なんとか……


「さぁ、明日にはお前も家を出てもらおうか」


 昼の開墾を終えた後の夜、あまり顔を合わせない父からそう告げられる。

 普段は馬小屋で寝泊まりしている自分が家に招かれて食卓を囲ませてもらったので少しは期待したのだが。


「まぁ、今日は特別だ。 ほれ、お前には勿体無いくらいのご馳走だぞ」


 そう言われて木のボウルが母親から渡される。

 中には具がたくさん入ったシチューだった。

 テーブルに長男と父、母が席につき自分に視線を向ける。


「あの、どうしても出ていかなければなりませんか?」

「……なんだ? 出て行きたくないのか? じゃあそれでも良いぞ? さぁとっとと食べてしまいなさい」

「え? 出ていかなくても良いのですか?」

「あらあら、とりあえずそれ食べちゃいなさい」


 なんなんだ? アッサリとしすぎじゃないか?

 先程まで出て行けと言ったり出ていかなくても良いと言ったり……まるでどちらでも良いみたいな感じだ。

 そうやって疑問に思いつつシチューに手をかけようとした瞬間、家の扉が勢いよく開く。

 開けた人物は自分がよく知る人物、ロイであった。


「アニキ! 無事ですか!」

「なんだ貴様は!? どこの家の餓鬼だ? とっとと出て行け!」


 この世界の父親が立ち上がりながらまくし立てる。

 しかしロイは意に介さずこちらに話しかけてきた。


「アニキこれを見てくれ!」


 ロイはそう言いながら手紙を渡してくる。


「奴隷商人との取引の手紙だ。 コイツら追い出すどころか俺たちを奴隷にして金に変えようとしていやがった!」


 手紙を見ると確かに奴隷取引の内容が書かれていた。


「……なるほど。 どうせ売り払うのだからこの場での話はどうでも良いということですか」

「そんなことない、そんなことないぞ、カイン」

「だったらそこのシチューを食ってみろよ! クソ野郎!」


 シチューを口に運ぶ様にいうが誰一人口をつけようとしなかった。


「大方、コイツに薬が入っているんだろうな。 目覚めた頃には奴隷の仲間入りってことだ」

「だっ! 黙れ! 誰のおかげでここまで育って来れたと……!」

「アニキ! 早く逃げて……!」


 皆が各々に口を開き自分の意見を主張する中、最も早く身体を動かす選択をしたのはカインだった。

 カインは机の上に飛び乗り、父親の首を刈り取る様に蹴りを繰り出した。

 ただの一撃で父親は物言わぬ肉の塊となる。


「「「…!!!」」」


 カイン以外の3人は咄嗟のことに言葉が出ていなかった。

 矢継ぎ早に長男の顔を蹴り倒す。

 長男は咄嗟の攻撃に対処できず床に仰向けに倒れ伏す。

 カインはその隙を見逃さずに机から飛び降り長男の首目掛けて脚を振り下ろした。


「っひ!!」


 二人が殺されたことで状況を把握してきたのか母親が悲鳴を上げようとするがそれは叶わなかった。

 カインがそれより早く母親の首を両手で掴みかかったのだ。

 母親は最初のうちはジタバタと暴れるが最後には白目を剥きながら泡を吹いて死んでしまった。


 齢15のカインが大人を軽々殺せた理由はなんだろうか?

 開墾を実直にこなすことにより、筋力が鍛えられたことが一つ。

 前世の記憶で格闘術の基礎をおぼろげながら知っており、人間の急所もこの世界の人間より知っていること。

 何よりの勝因はカインのそのあり方だろう。

 直上的で悩んだり考えたりしない、悪くいうとバカ、そして善人ではないというところだ。

 完全な悪党では無いが飛びかかる火の粉には容赦なく対処する。

 家族に情があれば結果は変わったかもしれないが生憎、彼らはカインに情を掛ける機会を与えるほどのものを与えていなかった。


「ア、アニキ……」

「さぁ、家のものかっぱいで村を出るか、ロイ。 裸一貫で出るより良いスタートになったな」


 カインは笑顔でロイにそう言った。

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