課外学習 1
前日まで雨が降っていて心配だったが無事に天候にも恵またようで朝食を食べたあと動き易い服装に着替えると王宮から王子とララと共に馬車に乗り込み向かった先は王都近郊の小高い山だ。
王立学園では毎年クラス変えがあって人間関係を再構築する必要があり、学園側も生徒同士の協調性の向上を狙って毎年、春にみんなでハイキングをしよう!といった趣旨の企画をしてくれるのだ。
正直言って、ありがた迷惑も良いところだったけど今年はこの学園の趣旨に沿ってララと王太子の仲を発展させる事ができるかもしれないわ。
山の麓にある学園の施設に到着するとクラスごとに整列して教師から注意事項を長々と聞かせれたあと私達は頂上を目指して出発した。
案の定、王太子が常に私の隣を歩いていてその後ろをララが歩く状況になったがこれは想定内だ。
今回の作戦は私がララと王太子の仲を取り持つ、題して恋のキューピット作戦なのだ!
私という共通の知り合いを挟む事でお互いに緊張が解れ、そして私がララと王太子にいい感じに話題を振って、いい雰囲気になった所で私がこっそり退場すれば任務完了だ。
私は早速二人の仲を取り持つべく話題を振る事にした。
「ララは趣味とかあるの?」
「お金を貯める事ですかね」
「将来の事をしっかり考えているのね、とても素敵だわ、アルフォード殿下もそう思うでしょ?」
「そうだね」
王太子の反応が薄いわね、貯金が趣味って結構いいと思うんだけど。
刺繍が好きなの(ハート)みたいなあからさまに媚びを売っていないあたりがグッドなのに。
とにかくララの話題を振って興味をひかないと。
「ララはとっても仕事熱心で素敵な子なのよ、授業も真面目に聞いてるし」
「授業といえばリーナはよくノートに落書きをしているね」
「なんでその事を知ってるの!」
「あと数学の授業はよく欠伸を噛み殺しているね」
私の事を監視する為に色々やってるとは思ってたけどここまでしっかりと見られていたとは……
授業中に落書きや眠気を我慢しているなんて知られたら私のクールなイメージが崩れてしまう。
王太子は今、脅しをかけてきているのだ、これ以上変な事を企むとお前の醜態を周囲にバラすぞ、と
「あと、リーナはピーマンが嫌いだよね? たまに弁当に入っているとララにこっそり渡してるよね」
「あれは、ララがピーマンが好きって言うから差し上げているだけですわ!」
「逆に好きな食べ物はハムだけど、周囲にバレたくないのかこっそりと味わって食べてるよね?」
「あ、あれは、ハムが好きな訳ではなくて……」
「ハムを啄んでいる時のリーナの幸せそうな顔は好きだよ」
まさか、こんなにも私の弱みを王太子に握られているなんてもはや、人生終了レベルだ。
こんなのが周囲にバレたら恥ずかしくて学園内を歩けなくなるわ!
「あと、紅茶よりもコーヒー派で浅煎り豆より深煎り豆の酸味が少なくてコクの強いやつが好きだよね」
「何が目的なの?」
「ん?」
「私の弱みをこれだけ握って何を要求する気なの!?」
「いや、特になにも」
絶対、誰にもバレてないと思ってたのに!
この国でコーヒー派の令嬢なんて少数派なのに、深煎り豆で濃いブラックが好きだなんて事がバレたら私の純真なイメージを損いかねないわ。
とにかく、ララの話に軌道修正しなくてはと思ってララの方を振り向いた私は固まってしまった。
ララが居ない……
確かにさっきまでは一緒に歩いていたのに。
「ララを探してくるわ!」
私は嫌な予感がして急いで来た道を走って戻りはじめた。
結構来た道を戻るとやがて、登山道から人の気配が無くなった頃にゆっくりと歩くララを発見した。
「ララ!!」
「アデリーナ様……」
「どうしたの!? 大丈夫?」
「申し訳ありません、少し足首を痛めてしまったみたいで」
ララの足を見ると右の足首が赤く腫れ上がっていた。
「引率の先生が後から登ってくるはずだからそこでじっとしてて、助けを呼んでくるわ! どうせアルフォード殿下も追いかけてくるでしょうしララは殿下と一緒にそこに居て」
「ごめんなさい、アデリーナ様」
「そういう時はありがとうっていうのよ」
そう言って私は助けを呼ぶべく、さらに来た道を戻ろうとした時だった。
ララが立ち上がった時にふらついてしまった上に昨日の雨がまだ乾いていなかったのか足を滑らせて、登山道の横の急な斜面に滑り落ちそうになってしまった。
私は咄嗟にララの手を掴んで何とか滑落してしまうのは防げたが……
「重い……!」
「アデリーナ様、重いなら手を離して下さい! このままだとお嬢様も一緒に落ちてしまいます!」
「それだけは絶対に嫌よ!」
ララは幼い時からずっと私にいろいろぶつぶつ言いながらも仕えてきてくれた家族なんだ。
私はなんとかララを引っ張りあげようとするがずるずると引きずられていってしまう。
「アデリーナお嬢様、どうか、ララの手をお離し下さい」
「ちょっと黙ってて!」
私が体の半分ほどを斜面に乗り出しながらも何とかララを助け出そうと悪戦苦闘していると王太子が走って駆けつけてきてくれた。
「リーナ!! 大丈夫か!」
「これが大丈夫に見えまして? でも良かったわ、ララを引き上げるのを手伝って貰えますか?」
「ああ、直ぐに助けるぞ!」
これで助かったと思ったが、雨でぬかるんでしまっていた地面は3人分の体重に耐えれなかったようで崩れてしまい、私達3人は斜面に身を投げ出されてしまった。
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