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将を射んと欲すればまず馬を射よ 2

小鳥達がさえずり、教室の窓から朝陽が差し込む早朝といっても良い時間帯。

私とララは一生懸命教室の全ての椅子にクッションを敷いていた。


何故こんな事をしているのかって?


王太子は私を怒らせた。


先日、私はちょっとレオンと話していただけなのに尋問まがいな事をされた挙句、耳を噛まれ変な声を出してしまうという恥辱を味わされたのだ。

確かに王太子の弱みを探ったりしてたけどあれは度を越していると思うのよ!


レオンもあれから生徒会で馬車馬の如くこき使われて可哀想だったし、私はレオンの仇討ちも含めて王太子にも恥辱を味わって貰わないと気が済まないのだ。


謀略家界隈ではやられたら倍返しが基本なので私もそれに倣って王太子には、かつて無いほどの恥辱を献上して差し上げる所存だ。


そして私は分かりやすい様に印がしてあるクッションを王太子の席に設置する。


「これで準備は完了ね!」

「本当にこんな事をして大丈夫なのですか?」

「座った瞬間は冷静さを欠いているだろうし後でこっそりと中身を抜けば問題ないわ」


そう!このクッションは座ると変な音が鳴る仕組みなのだ。

これで王太子の弱みも握れるし一石二鳥だ。


そして私達はしばらくして教室に入ってきた生徒達に「授業中、おしりが痛くなるのを軽減したかったのですけど、私だけなのも嫌だったので皆さんのお席にもクッションを用意させて貰いましたわ」と説明し、クラスの人達はとても喜んでくれた様で口々に褒め称えてくれた。


そしてターゲットである王太子が教室に入って来たが何故かその隣には違うクラスのはずのレオンが居た。


「おはようリーナ、今日は朝早く登校するって言ってたけどクッションを敷いてくれたんだね」

「ええ、王太子殿下もお掛けになって下さい」

「いや、この素敵な私の席に一番最初にに座る権利はレオンにやろう」


王太子は「最近レオンはよく働いてくれているし僕も少々やり過ぎた、君の労をねぎらう事も兼ねて僕の席に座る事を許そう」と言い出した。


レオンはその言葉に感激したようで「ありがたき幸せ!」と席に座ろうとする。


「待ってレオン!」


私の必死の制止も間に合わず、レオンは席に座ってしまいその瞬間、教室内に大きな音が響き、重たい沈黙が場を支配し、レオンも自分から発生した謎の音に固まってしまっていた。


ごめんレオン……


「ねぇ、リーナ」

「な、何かしら?」

「君はレオンの事は呼び捨てにしたのに僕の事は王太子殿下としか呼んでくれないよね」


え?そっち!?

てっきり王太子の席に変なクッションを敷いた事を咎められるのかと思った。


「僕の事もアルフォードと呼んで欲しいな」


そう言って王太子は私の耳に口を寄せてきてまた噛まれるのかと身構えた私に小声で「そしたら、変なクッションの事は見逃してあげるよ」と囁いた。


「分かりましたわ、アルフォード殿下」


私は悔しさで王太子を睨み、王太子は嬉しそうな笑みを浮かべた。


その後、先生が教室に入ってきてレオンからした変な音は日常の喧騒に押し流され忘れ去られていったがレオンは私の顔を見ると距離を取るようになってしまった。


◆◆


その日の夕刻、私は早々に屋敷に帰り次こそは王太子をギャフンと言わせる為の策を練るべくララと自室で作戦会議をしている時だった。


屋敷内が急に慌ただしくなり執事のロバートが王太子殿下が父と私に面会を希望していると告げてきたのだ。


私は事前の連絡も無しに急に会いたいだなんて余程の事があったのだろうかと思いながらも急いで来客用の部屋に向かうとそこには見覚えのあるクッションを片手に持つ王太子が居た。


「やあリーナ、待っていたよ」

「それで、王太子殿下、我が公爵家になんの御用で?」


父が謎のクッションを持つ王太子を訝しげに見て私はヒヤヒヤとした面持ちで王太子から目を逸らした。


まさかクッション如きで家まで抗議をしに来るとは思わなかったし見逃してあげるって言ってたのに!


「実は今日、リーナが私の側にずっと居るレオンに焼きもちを焼いて悪戯をしましてね」

「殿下の側近のレオン殿にそのような事をしてしまうとは申し訳ありません」

「いや、その事はもう良いんだ」

「抗議にいらっしゃったのでは無いのですか?」


私がレオンに焼きもちを焼いているとかいうとんでもない解釈したらしい王太子は今日は抗議では無く提案をしに来たんだと父に言った。


「私もリーナに寂しい想いをさせてしまったみたいだしこれを機にリーナには王宮に移住して貰おうと思ってね」

「それは有難い提案ですが娘と殿下はまだ婚約中の身の上ですし少々気が早すぎるのでは?」


とんでもない提案をしてきたわ、この王太子!

誰が敵の懐で生活がしたいって言ったのよ!


何としてもお断りしないとこのまま王太子妃にされて好き勝手できない日々が始まってしまう。


「リーナには辛い想いをして欲しくないし、あまりに悪戯が過ぎるとこちらも婚約自体の見直しを迫られる事になりかねないんだ」

「それはいけませんな、娘も王宮に移った方が心穏やかに過ごせるでしょうし公爵家としては異存ありません」

「既に必要な道具は王宮に用意しているし表に荷馬車も用意してあるので今日にでも王宮に移ってもらうという事で良いかな?」

「すぐに用意させましょう」


権力大好きお父様が速攻で折れてしまった。

お父様のそういう所は好きだったけど今日はその部分を発揮しなくてもよかったのに!


というかこういうのって本人の気持ちが一番大事なんじゃないの?


「リーナもそれでいいね?」

「私は王宮には行きたくありませんわ」

「アデリーナ、これも領地の領民の生活を豊かにする為だ、王宮に行って貰えるかい?」

「リーナは恥ずかしがってるだけだと思うから公爵殿が気に病む事はないよ」


これが、四面楚歌というやつか……

何を言っても王宮に連れて行かれる未来しか見えない……


その後も私は必死の抵抗を続けたがなす術も無く、公爵家からララを付けて貰うという条件を引き出すのが手一杯でいつ間にか馬車に荷物を積み込まれ私は王宮へ運ばれてしまった。


クッション一つでこんな事になるなんて……


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