将を射んと欲すればまず馬を射よ 1
新学期初日、王太子を陥れる為の策略が全て失敗に終わってしまった。
おまけに生徒会長補佐とかいう喜んで返上したい肩書きが付いた上におはようからさようならまで王太子の監視付きという出だしから灰色まっしぐらの学園生活に突入してしまった。
「どうして、どうしてこんなにも私の策がうまく行かないの?」
確かに今までもうまく行った試しはあんまりなかったかもしれないけど王太子が出てくるまではそれなりに順調だったのだ。
どうして、どうしてと私は自室の枕をポフポフ叩く。
「ねぇ、ララ」
「なんでしょうか?」
「私達は敵の事をもっと良く知る必要があるかもしれないわ」
「婚約者の事を敵というのはともかく、よく知るのは良い事だと思います」
今日みたいに追い込まれた状況に陥ってしまった時、王太子の弱みを知っていれば私は生徒会補佐にならずに済んだのだ。
「それで、どうやって王太子の事をよく知るのです?」
「将を射んと欲すればまず馬を射よ、という言葉を知ってる?」
「まさか、側近のレオン様を?」
「えぇ、レオンと仲良くなってこちら側に引き入れるわ」
レオンと話をする為には王太子の監視を振り切る必要があるがそれが一番難しいわね。
私がベットの上で腕組みをして唸っていると何故かララが青い顔になっていた。
「レオン様とお話をするのは非常に危険を伴うと思います」
「どうして?ちょっとお話をして私と王太子の婚約者破棄とララとの仲を応援して貰うだけじゃない?」
レオンは危険な性格でもしているのだろうか?
王太子が自らの側近にそんな危ない奴を置くとは思えないしレオンも外見は優しそうな感じだけど。
「それにレオンは生徒会副会長でもあるしララを生徒会に入れる根回しをするにはうってつけなのよ?」
「どうなっても知りませんよ」
ララが何を危惧しているのかは良く分からないが、ようは王太子にバレなければ良い話なのだ。
問題はどうやってレオンに接触するかになるわね……
◆◆
そして次の日、昼前の授業が終わって昼休憩に入り、レオンが食堂に向かったのを確認したら私も王太子の監視から逃れる為の行動を開始した。
「私、少しトイレに行ってきますわ」
私は昨日から勝手に昼食を一緒にとろうとしてくる王太子にそう告げるとお腹を抑えながら教室を出たのだ。
王太子も流石にトイレと言われればついてくる訳にはいかないようで黙って見送ってくれた。
あとは食堂に居るであろうレオンに接触して王太子にはお腹が痛かったとか言っておけば完璧ね。
もし王太子が私を探しに来るような事があればララが知らせにくるので抜かりはない。
私は食堂に入ると公爵令嬢が来たからか静まり返ってしまった周囲を見回し、生徒会メンバーや他の側近達と食事をしていたレオンの方へと歩いていく。
「レオンさん、少しよろしいかしら?」
「え? 僕ですか?」
「そう、貴方と少しお話がしたいの」
「アルフォード殿下はご一緒ではないのですか?」
「そうね、貴方と2人で話がしたいのよ」
何故かさっきまで学友達に囲まれ陽だまりの様な笑顔を浮かべていたはずのレオンは青白い顔でカタカタと震えはじめた。
「もしかして、体調が悪いの?保健室まで連れていきましょうか?」
「いえ!体調は万全ですのでお構いなく!ただアデリーナ様と2人でお話をしてしまうと私の首が飛ぶ可能性があるのです」
「誰が貴方の首を飛ばすのよ」
「アルフォード殿下ですよ!」
なるほど、レオンは私と親しくする事で私の謀略に加担していると見られるのが怖いようだ。
それならばと、私は態とレオンの耳元に口を寄せて明らかにやましい事がある雰囲気を醸し出し「王太子にバレなけれ良いだけの事よ」と囁くとレオンは王太子に私と企み事をしていると疑われるのは避けれない事を悟ったようで少しだけですよ、と言うと私とレオンは学園の裏庭のベンチまで移動した。
「それで僕に何の御用ですか?」
「生徒会ってまだ人手が足りてないの?」
「ええ、アルフォード殿下が使えない奴は要らないとか仰って4名クビにしたのでアデリーナ様が補佐に入ってもまだ足りませんが、それが何かありましたか?」
「私のクラスにララっていう子が居るのだけど彼女を生徒会に入れていただきたいの」
「あの大人しそうな感じの女性ですね?」
レオンはそう言うと少し考える素振りを見せてから「分かりました、私の方からみんなにも相談してみます」と頷いてくれた。
「ありがとうレオンさん、それともう一つ伺いたいのだけど」
「何でしょうか?」
「王太子殿下って何か弱点とかないのかしら」
「弱点は考えた事もありませんが強いて言うならアデリーナ様でしょうかね?」
私が王太子の弱点?というよりは公爵家の力が王太子にとっては弱点という事かしらね。
私の後ろにいるお父様の力をチラつかせる事で王太子を抑えれるかも知れないという事ね。
いい事を聞けたし今日はこの辺でいいだろう。
婚約破棄の話はもう少し相手の出方を伺いたいしレオンの人となりが分かっただけでも今日は収穫だ。
「ありがとう、レオンさん、参考になったわ」
「いえ、これで僕は失礼しても良いですか?」
「ええ、私も戻るわ」
あまり長引くと腹が痛かったと言い訳しても不審に思われるだろうし早く教室に戻ろう。
そして公爵家の権力で王太子を抑えれるなら何も問題はない、明るい未来が開けてきたわ。
「探したよリーナ、こんな所で男と2人きりだなんて何を考えているのかな?」
いつの間にか背後を取られていたようで後ろから手を回され抱きしめられてしまう。
私の後ろに居る人はその表情は伺えないがレオンの絶望に満ちた表情から察するに悪魔の様な形相なのではなかろうか?
でも、安心して欲しいレオン、公爵家の力でこの悪魔を調伏してあげるわ!
「あら王太子殿下、今すぐ離れて下さらないとお父様に言いつけますわよ」
「公爵に言いつけても公爵は婚約者同士が仲が良い事はいい事だとお喜びになるだけじゃないかな?」
「いいえ、婚約者同士であっても節度のあるお付き合いをすべきと公爵家は考えてますわ」
「公爵家がどう考えよう勝手だが、まずはレオンとは何を話していたかを答えて貰わないとね」
あれ?公爵家の力効いてなくない?これはまずいんじゃない?
そして、レオンの目の前で耳を噛まれたりと散々な目に遭った私はララを生徒会に入れようとした事や王太子の弱点を探っていた事を洗いざらいはいてしまった。