春の出会い作戦
新学期がやってきて桜が舞い散る中を真新たしい制服を着た新入生と他の生徒達が希望に満ちた表情で校門をくぐっていく。
そんな春らしい光景を目の前に私とララは転入生と王太子の春の出会いを演出する為に木の陰から王太子がやってくるのを息を潜めて見守っていた。
しばらくして、王太子が歩いてきたのを確認したらララがさり気なく王太子の目の前にハンカチを落とす。
ベタすぎると思うなかれ、ベタな展開こそ相手も何をしたら良いかを理解する事ができ、その後の展開にも期待を持てるのだ。
「ハンカチ、落としましたよ」
「あ、ありがとうございます」
王太子が餌に引っかかり、ドキドキ春の運命の出会い大作戦の出だしは順調そうだと思ったのも束の間、王太子はハンカチを渡すとララに名前を聞いたりする事も無くそのまま立ち去ろうとした。
ここで王太子の印象に残らないと不味いのだ、私は王太子の背中を見送る形になってしまったララにプランBへと移行する様にサインを送る。
「あの、待って下さい!」
「まだ何か?」
「あの、ハンカチを拾って下さったお礼をしたいのですが」
「いや、遠慮するよ、人を探しているのでこれで失礼するね」
王太子は折角可愛い女の子とお近づきになれるチャンスなのに全く反応している気配がない。
打つ手が無くなってしまい出会いの演出は失敗したと思ったが王太子がん?と言って立ち止まるとララの方を振り返った。
「君はもしかして公爵家のメイドで確かララとかいう名じゃなかったかな?」
「あ、はい、そうですけど?」
「リーナに貴族籍に入れて貰ったのかい?」
「はい、お嬢様のメイドとして恥じない教養を身に付けるようにと男爵家の養子にして頂きました」
人の家のメイドの顔を覚えているのなんて彼の記憶力はどうなっているのかしら!
これだと公爵令嬢の取り計らいで折角学園に通う権利を手に入れたのにその婚約者を誑かそうとしているただのヤバい女じゃない!
まさか公爵家のメイドの顔を把握しているとは思わなかった私が木の陰で頭を抱えている間にも王太子は、成る程、と一言呟くと自分の側近であるレオンにララを校舎までエスコートしてあげなさいと指示をだしララとレオンを見送った。
いや、そこはララと一緒に一緒に校舎まで行って周りの生徒達にあの王太子様と一緒にいる女は誰だ!って言われた後にララはいじめられてしまいそれを王太子が庇うっていうのがお約束でしょう!
「そんな所で何をしているんだい?リーナ」
木にもたれ掛かって唸り声をあげていた私は急に耳元でした声にびっくりすると王太子がこちらを覗き込んでいた。
「ちょっと道に迷っていただけですわ」
「2年も通っているのに校門の近くで迷うなんてすごいね」
「今までは人の流れに付いていっていただけなので道順とかは気にしてなかったのよ」
「なら、また迷うといけないしこれからは僕が校舎まで案内してあげるよ」
そう言って王太子は私の手を握ると校舎に向かって歩きだした。
「手を繋ぐ必要はないのではなくって?」
「手を離すとまた迷子になるかもしれないだろう?」
「別に手を離した程度で迷いませんわ!」
私は王太子に捕まっている右手をブンブン振るが離れる気配はなく、通行人達にアルフォード様とアデリーナ様が手を繋いで登校していらっしゃるわ!とか、とてもお似合いねとか、アデリーナ様なんて顔を赤くして照れてらっしゃって可愛いなとか言われる始末だ。
それと、顔を赤くしているのは別に照れてるのじゃなくて怒っているのだ。
「だいたい、今まで一緒に登校する事なんて無かったのにどういう風の吹き回しよ」
「僕は絶対に手に入れたいものの為なら綿密な準備をするタイプでね」
「説明になってないわ」
「そうかな? その準備も終わったし、覚悟しておいてね」
全く意味の分からない事をベラベラと喋る王太子に連れられて私は教室の前までやってきた。
「ここのクラスで合ってるの?何も確認してないわよね?」
「学園長の特別な取り計らいでリーナと僕を同じ教室で隣同士にして貰ったんだよ」
「どうしてわざわざそんな事を?」
「できるだけ一緒に居たいからかな」
こいつ、まさか私が変な事を企まないように見張るつもりではないだろうか?
そんな事を考えていると王太子は手を繋いだまま教室のドアを開く。
手を繋いだまま中に入り、既に席に着いていた生徒たちの生温かい視線を貰いながら中段くらいの列の席の前まで来るとここが僕たちの席だよと言ってようやく王太子が手を離してくれたので私は王太子を睨みながら席に着いた。
どうしてこんな事に、と溜息を吐いていると右側の席にララの姿が見えたので休憩時間中に作戦を練り直すべく目くばせをしララがそれに頷く。
王太子もララの方を見て何やら呟いていたけどやっぱり気になるのだろうか?