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尾行

王太子の弱みを握らないとこちらが圧倒的に不利だと言う事を再確認する形になってしまった日から少しずつ準備を進めてきた作戦を決行する時がきた。


朝、起きると、朝食の事前に根回しをしていた公爵家の使いがきて緊急要件なので一度屋敷に戻って欲しいと言われた私は王太子とララに1日、公爵家に戻る事を伝えた後に朝食を食べて、学園に送り出したあと、公爵家の馬車に乗り込み屋敷に戻ったのだ。


屋敷に戻ると、執事のロバートに父が不在な事を確認したら学園から取り寄せた男子制服を着たあとウィッグをつける。


そう、今回の作戦は王太子の弱みを握る為に男子生徒に変装して王太子を尾行するのだ。

学園を実質、公爵家の支配下に置いた事で存在しないはずの生徒の1人や2人を紛れ込ませる事など容易い事になったのだ。


そして、私は普通の生徒のアデルとして、学園に到着すると、私は王太子の教室の反対側にある棟の空き教室に行き、望遠鏡を取り出して王太子の様子を伺う。


「ちょうど歴史の授業中のようね」


眠たい授業の代表格だ、王太子の醜態を抑えて、今後の策への布石にしてやるわ。

退屈な授業ほど落書きをしたり眠たくなってしまうものなのだ。


しかし、王太子は特に変な事をする事は無く、時々左側の空席になったいる私の席を眺めるだけだった。


「これは、持久戦になりそうね」


授業の間の休憩所中も王太子は退屈そうに窓の外に目をやり、その憂鬱そうな顔をみてうっとりする女子生徒が何名か居るだけで特に変な行動を起こしたり弱みになりそうな事は無さそうだ。


「王太子もあんな顔するのね」


いつも、黒い笑みを浮かべているし楽しそうな顔をしていたのであんな退屈そうな王太子は初めて見たかもしれない。

何か嫌な事でもあったのだろうか。

私はそんな事を考えながら王太子に望遠鏡を向け続ける。


そして、ずっと眺め続けていると王太子に動きが出たのはお昼の事だった。

昼休憩の時間になり王太子は席を立ち上がると、ララと少し話をした後に弁当を持って教室を出て行ったので何処に行ったのだろうと望遠鏡で追いかけていると、こちらの棟へ移動してしまい、追いきれなくなってしまいどうしようかと思っていたら私が居る空き教室に入ってきたので私は慌てて隠れる。


今日の王太子は結構不機嫌なのかちょっと距離がある私にも聞こえるくらいのため息を吐くと自分の懐から例のひよこ人形を取り出し、私の名前が書いてある所を指で何度かなぞるように撫で始めた。


わざわざ空き教室まで弁当を食べに来たのかと思ったがどうやら私のぴーちゃんを愛でる為にきたらしい。

王太子もひよこが好きなら言えばいいのに。


「リーナ……」


王太子は指でなぞる動きを止めるとおもむろにぴーちゃんのお尻に唇を近づけ始めた。


私のぴーちゃんに何て事をするの!と思いながらも明らかに変な行為をしている王太子を目撃できた。


(これで王太子は私のひよこ好きを遥かに凌ぐひよこ狂いだという事が分かったわ)


遂に王太子の弱みを握る事ができた達成感に包まれながら王太子が空き教室で1人寂しく弁当を食べた後、出て行ったを見送ると私はガッツポーズをしたのだった。


今度、私のひよこのぬいぐるみに唇をつけていた事を問い詰めてやるわ!


そして、午後も退屈そうな顔をした王太子を眺めていると放課後になり私も王宮に帰ろうと思ったら、階段から足音が聞こえてきたので王太子が来たのかと思った私は再び慌てて隠れる。


足音が近づいてきたあと扉が開き、入ってきたのは頭のネジの緩いアリスと私と同じ学年のグレアム伯爵令嬢といつも彼女と一緒に居るその取り巻きの3人だった。


どうも穏やかな雰囲気では無さそうで、入ってくるなりグレアム伯爵令嬢と取り巻き3人はアリスを取り囲みだした。


「ねぇアリスさん、最近あなたアルフォード殿下の周りをうろちょろしすぎじゃない?」

「いや、別にうろつくつもりはなくって、気に障ったのならごめんなさい」

「あなたの家が伯爵から男爵に落ちてしまったから、焦って王太子妃にでもなろうとしているのかもしれませんが、アルフォード殿下には既にアデリーナ様という素敵な婚約者がいらっしゃるのよ」

「大体、あなたはマナーもなっていないし王太子妃になろうとか身の丈に合わない事を企む前に必要最低限度の常識を身につけた方が良いと思うわよ」


伯爵令嬢達は口々にアリスを責めていて、この展開は私の期待していたやつなんだけど、いじめというよりは普通に注意を受けているような気もするわね。

王太子がこの状況でアリスを助けるのは好感度が足りなくて無理そうだけど、もしかしたらと言う事もあるし私はもう少し成り行きを見守ってみる事にした。


伯爵令嬢達の指摘に対してアリスは頭の緩い子がやりがちな自分を被害者で彼女達を加害者という絵面にしようと考えたのか、目に涙を浮かべ始めた。


「どうして、皆さん私が気に入らないからってそんな事を言うんですか……!」

「当たり前の事を言ってるだけじゃないの、甘えと顔だけでやっていけるほど貴族社会は甘くないのよ」

「それに、アルフォード殿下を見ていれば自分に勝ち目がない事くらい分からないものなの?」

「勝ち目がないってどういう事ですか? 私、皆さんと違って王太子殿下にお声をかけて貰いましたし」


勝ち目が無いと言われたのが気に障ったのか泣いているふりを忘れて伯爵令嬢を睨むアリスに伯爵令嬢は呆れたような顔した。


「そんな事も分からないの? アルフォード殿下はアデリーナ様と居る時と居ない時では明らかに表情が違うでしょう?」

「……いや、アルフォード様は私に微笑みかけて下さいましたわ」

「あれはあなたじゃなくてアデリーナ様に微笑みかけてらっしゃったのよ!」

「アルフォード様はアデリーナ様が側に居ないと全く笑みを浮かべないのよ、よくもそんな勘違いができるわね」


え?王太子っていつもあんな感じだと思ってたけど私の前だけだったの?

確かに今日一日、観察した感じだとあの退屈そうな感じがいつもの王太子なのか。

私は急にまた心臓が早鐘を打ちはじめたのを感じつつこれ以上恥ずかしい話を聞かされる前に止めに入ることにした。


「君たち、もうその辺でやめてあげたらどうだい?」


伯爵令嬢達は掃除ロッカーから急に登場した男子生徒に驚いた表情を浮かべたあと、こちらを睨んできた。



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