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プロローグ

「マイヨール子爵令嬢、貴女との婚約を破棄する!」


卒業パーティーの場に似つかわしくない言葉に驚ろいた人々が声のした方向を振り返り、先ほどまで騒がしかったパーティー会場は一気に静まり返る。


自分の側に居る少女を守るように庇いながら正面に居るマイヨール子爵令嬢を睨みつけているのはマイヨール子爵令嬢の婚約者で伯爵の息子であるテオドールだ。


「どうしてか、理由を伺っても?」

「君はここに居るソフィアを虐げていただろう!」


マイヨール子爵令嬢が俯きながらも理由を問うとテオドールはさも自分が正しいかのように語気を強めた。


「身に覚えがありませんわ」

「とぼける気か?ソフィアはお前に階段から落とされて怪我をしたんだぞ!」

「証拠はあるのですか?」


怯えを見せずに毅然とした態度で証拠を要求してくるマイヨール子爵令嬢にテオドールは苛立ちを募らせる。


「ソフィアがお前に突き落とされたと言ったんだ!被害者が言ったのだから確かだろう!」

「被害者のみの証言だと、いくらでも捏造ができますしそれは証拠と言わないのでは?」


マイヨール子爵令嬢は呆れた顔をテオドールに向け、小さく溜息を吐く


テオドールはその仕草に益々苛立ちを大きくしたようで顔を真っ赤にする。


「とにかく、お前は俺の婚約者に相応しくない!」


この俺に婚約を破棄されて悔しだろう?悲しいだろう?と的外れも良いところの表情を浮かべたテオドールは決定的な一撃を加えるべく口を開いた。


「俺の婚約者はここに居るソフィアこそが相応しい」


テオドールは周囲にそう宣言するとソフィアを抱き寄せる。


「ソフィア、僕の申し出を受けてくれるかい?」

「はい、もちろんですわテオドール様」


マイヨール子爵令嬢が俯いて両手の拳を固く握るのを確認したテオドールは勝ち誇ったのような笑みを浮かべたその時だった。


「その婚約破棄少しお待ちいただいてもよろしくて?」


急に部外者から声がかかり、3人の様子を遠巻きに見守っていた観衆の中から美しい金髪を靡かせた目鼻立ちの美しい少女が歩み出てきて、周囲の人々はその美しさと社交会の華と呼ばれるアデリーナ公爵令嬢が出てきた事の驚きで息を呑んだ。


◆◆


「アデリーナ公爵令嬢?」


私は訝しむ顔をするテオドールの顔を見ながらさてどう調理してやろうかしら、と心の中で舌なめずりをする。


「マイヨール子爵令嬢が貴方の婚約者に相応しくないのでは無く、貴方が相応しく無いと言いにきたのですわ」

「何を馬鹿な事を、マイヨール子爵令嬢はソフィアをいじめていたのですよ!」

どちらが相応しく無いかは明白でしょうとこの婚約破棄騒動が私に仕組まれている事も気付かずにわんわん吠えるテオドールに思わず嘲笑を溢す。


今から3ヶ月くらい前にテオドールと結婚したくないと嘆いていたマイヨール子爵令嬢を唆し、ソフィアというおつむの弱そうな令嬢を焚き付たりと本当にここまで大変だったわ。


「こちらにいらっしゃるソフィアさんには情報漏洩の疑いがかかっていますわ」

「なっ、とんでもない言いがかりだ!証拠はあるのですか!?」


さっきまで碌な証拠もないくせに散々いびり散らしてた人が良く言うわ。

そう思いながらも私はソフィアを焚き付ける前から抑えていた証拠をこれ見よがしにばら撒いた。


「ソフィアはテオドールからもたらされた我が国の情報を隣国に流していたのです」


私がばら撒いたのはソフィアが伯爵家に入り込んで一生懸命に模写したであろう機密文書で筆跡を見ればソフィアのものである事が確定するであろう代物だ。


「そこに散らばっているのはテオドール伯爵家で管理している機密文書ですわ」


まぁ、伯爵家で管理されている程度の機密文書など痛くも痒くもない訳だが。


床に散らばる機密文書達と字の癖に見覚えがあるのかテオドールがすっかり顔色を失ってしまったのを横目に見つつ私は連れてきた公爵家の護衛達にソフィアを拘束する様に命じる。


「違うわ、私は隣国に情報を流したりしてない!」

「それは、取調室でゆっくりと聞かせてもらいますわ」


ソフィアが連行されるのと入れ替わるように自分の家の機密文書が床に散らばっている状況に慌ててテオドールの父である伯爵が出てきたのでお宅の息子が誑かされて伯爵家の機密文書を隣国に流されていたのよと教えてあげると伯爵は面白いぐらいに血の気を失くした。


「これでソフィアは無事捕まりましたが伯爵家の令息が間誅に熱をあげていたなんて結構な醜聞ですわね」


私がわざとらしく呆れて肩をすくめると伯爵親子は自分達が今後、この国で恥辱にまみれながら生きる事を悟ったのか立っているのもやっとと言った感じだ。


「もしよろしければ今回の件、我が公爵家の力で揉み消してあげてもよろしくてよ?」

「本当ですか!?」

「もちろん、無償でとは言いませんが」

「私に出来る事なら何でも致しますから、どうか!」


いくら公爵家の力でもこれだけの人に見られれば揉み消しなど無理なのに突如として垂らされた蜘蛛の糸に藁にもすがる思いで縋り付く伯爵は冷静さを失っているようだ。


交渉を有利にするには相手から冷静な思考を奪うべしとはよく言ったものだと思いながら本来の目的を告げる。


「ならば、伯爵家で管理しているラッカス鉱山の権利をよこしなさい」


ラッカス鉱山は最近伯爵領で開坑した鉱山で膨大な富を伯爵領にもたらしているのだ。

公爵家としては喉から手が出るほど欲しい代物だったのでテオドールが間抜けで本当に助かった。


「いや……それは……」


伯爵はどうやら迷っているようなので、私は間誅に熱をあげた事の方が不味いだろう?っと迫ろうとした時だった。


これは何の騒ぎだい?と言いながら人垣を割ってアルフォード王太子が歩いてきたのだ。


「婚約者を置いてどこに行ったのかと思えばこんな所で油を売っていたのかい?リーナ」


折角うまくいってると思ったのに厄介な人が出てきたと小さく息を吐く。


流石に王太子の眼前で事態の揉み消しと引き換えに鉱山の権利を貰うのは不味い。

この人は何で毎度毎度、私の謀略がうまく行きそうな時に現れるのかと私はアルフォードを睨みつけた。


「それで?これは何があったのかな?」

「伯爵家のテオドールが隣国の間誅に唆されていたのですわ」


アルフォードはへぇ、と床に散らばっている機密文書を拾い上げ目を通す。


「これはまた随分と分かり易い手に引っかかったものだね伯爵」

「はい、申し開きのしようもありません」

「君には鉱山の帳簿の事で聞きたいこともあるし事情を聞きたいのでついてきて貰うよ」


リーナには今度お礼をしなくちゃね。と言って王太子と伯爵親子が会場から出て行ってしまい、またしても王太子に謀略の邪魔をされたばかりか私の謀略で人々を恐れ慄かせる予定をまた狂わされたのだと私は王太子と伯爵御一行が出て行った扉を睨む事しか出来なかった。


◆◆


「許せません、許せませんわ」

「あの王太子に何度私の謀略が邪魔された事か」


いつもいつもあと一歩というところで呼んでもないのに颯爽と登場して美味しい所を掻っ攫って行くのだ。


私は何度目になるか分からない王太子の妨害に腹を立て自室の枕をポフポフと叩く


メイドのララがまた始まったよと呆れた視線を送ってくるが気にする気にもならない。


お父様に何度も婚約を解消したいと訴えても王家から申し込まれた婚約だからこちらからは解消を願い出る事はできないし、僕が王家を裏から牛耳る事が出来なくなるだろう?と、とりつく島もなかった。


「もう我慢の限界だわ!」


将来王太子妃になって私の謀略のために積み上げてきた派閥や人脈をあの王太子に良いように使われたくない。


こちらから解消ができないのなら王太子の方から破棄させるしかないわね。


「ララ」

「何でしょう?」

「貴女には新学期から学園に通って貰うわ」

「は?」


王太子を姦計で誑かしあちら側の瑕疵で婚約を破棄させる。

ララは可愛いしいけるはずだ。


「良い?ララ、学園に入ったら王太子を全力で誑かしなさい、そして王太子は貴女を好きになって私との婚約を破棄するの」

「嫌ですよそんな事、命が幾つあっても足りなさそうじゃないですか」

「給料7ヶ月分の特別手当を出してあげるわ」

「やります」


フッ、ちょろいな。


お金で動く人間は扱いやすくて良い。


差し当たってはララを学園に通える身分にしてあげなければならないが、金欠で困っているロード男爵家に支援をした貸しがあるので男爵家の養女にして貰えば問題もないわね。


あとは王太子とララをくっ付けて私が退場し、ララの気持ちが無いようなら身分差を理由に派閥を使って抗議しとけば良いだろう。


あのいけ好かない王太子を私の謀略によっててんてこ舞いにさせてやるわ!

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