面食い
「何が、したいのだろう、」
夕食を食べ終え、満腹と言う幸福に浸りながら、
二階窓辺、唯一お気に入りの場所で一服をする。
「この街は嫌いだ」
現実逃避はやめられない。
夜風に当たりながら空を見上げ、
複数の星に煙を撒き散らす。
まるでドラゴンにでも為ったかの様だ、
輝く星達の眩さに俺の吐息はあしらわれ、
まるで何も無かったかのように消される。
田舎の街から出られない俺はずっと一人だった。
外への刺激や変化を求めるも、得る事自体を拒み、
かといって現状に満足する事すらも出来ない。
これが幸せと言うものなのかもしれない。
両親が事故で亡くなって以降、絵にかいた様に
俺の心は鬱ぎ込んでいった。
小学校、中学校、高校はろくに行かず、
ただ家と呼ばれる砦の内側から鍵をかけて。
金銭は親の残したもの、もろもろがあって、
いい歳をして臑齧りをしているよ。
食料は夜に少し離れた田舎のコンビニへと買いに行く。
ちょうどさっき最後の食料を食い尽くした所だ。
「買い出し行かないとな、足りなかったし、」
何もしてなくても腹というのは空くものだ。
なんとも燃費の悪い生き物なのだろう、
季節は暑くもなく寒くもなく、ちょうど良い感じだ。
だが夜風は少し冷たい。
「俺みたいな奴にはお似合いだな、」
寒空の下、夜空を見ながら歩く。
たまに出る外は悪くない。
外には誰も居ない。
まるで一人きりで生き残ったみたいだ。
なんて、余韻に浸ってると暗闇から目が光る。
「生き残りがいたか、」
コンビニまではもう少し。
外から中の様子が見える。
客がいる。
少し待つか、
持ってきた煙草を吹かし、夜空に吐き捨てる。
「はあぁ、、」
客が出たのを確認すると俺はコンビニへと入る。
主はカップラーメンだ。
「そろそろ健康を考えた方のがいいのか、、」
そんなことを感じながらも手は慣れた作業の様に
籠へとそれを運ぶ。
「おっ、新作じゃん。」
大体はハズレが多いが5回に一回ぐらいはまあまあなのがある。
結構楽しみなのかもしれない。
そんな自らの世界に浸っていると、
入った直後から発せられる音に気が逸れる。
何かが詰まったような、擦れるような音。
「きもちわり、」
身体がそう感じた。
飲み物を見ていると、客が入ってきた。
「タイミングわりいな、、」
客は雑誌を取るとすぐにレジへと行った。
音のする方を見る。
どうやら、奥から聞こえるようだ。
「気にならないのかな、」
客を見るも客は反応せず、ポケットから小銭を出す。
俺は存在をアピールするかのようにレジへと並んだ。
音は音量を増す。
なんとも表現のしにくい雑音の類の音。
客は男だった。
中年の。
レシートと御釣りを渡されると男は外へと出る。
「聞こえないのかな、」
そう思いながら、レジへと籠を乗せる。
「気になるかい?」
不意に話し掛けられた声に驚く。
「いや、、」
音の先に視線が行っているのがバレたようだ。
だが、その音が気になって仕方ない。
俺は早く帰りたかった。
好奇心と同時に
"それを知ってはならない"
というものが身体に訴えてくる。
袋に詰まれたそれを急いで手に取り持つと
「見てみるかい?」
と言い、店員は奥へと走る。
好奇心と危険を知らせるかのような指令の中で
動けなくなっていると、のれんが動いた。
「来る!!」
俺は身体を動かすも間に合わなかった。
新聞紙で包まれているお面の様なものを、
顔に押し当てた店員が走ってくる。
「知りたいかい?知りたいかい?」
俺はすかさず走るも追ってくる。
「知りたいかい?知りたいかい?」
俺は何故か顔を覆う。
「知りたいかい?知りたいかい?」
そいつは俺の顔を覆っている手を剥がそうとしてくる。
握られた手はものすごく熱く
「あちぃーよぉ!!」
俺は手を取ってしまった。
お面は包装された新聞紙は無く、
ただ、俺の顔だけが写っていた。
「うわああぁああ!!!」