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【第98話】呪われた娘⑥

「.......おとう......さん...........?」


一瞬、なにが起きたのか分かりませんでした。


さきほどまで一緒に笑って、一緒に話していた父が。


気付けば、身体全体にいくつもの風穴が空いていて。


その穴からは、足元に赤い海が出来上がるほどの、大量の血が流れ出ていたのです。



『フハハハハッ!!!!!! ルーゼルを仕留めたぞ!!! 残るは女と子供だけだ、やってしまえ!!!』


ふたたび家の外から、壮年男性の愉悦に浸った声が聞こえてくる。


声の正体は、今更考えるまでもなかった。



――――――私たち家族が住むマーリス村の長、オーゲン=フランツ。



この男こそが、私の父を殺した張本人でした。



『僕達をずっと騙していた呪われた子とその母親め、覚悟しろ!!!』


『俺達は親切だからな、ついさっきルーゼルが旅立った場所にお前たちも送ってやるよ......ククク、地獄の果てへのご招待だぜ!!!!』



知った顔の大人たちが、揃いも揃って目を血走らせ、私の家に土足で入り込んでくる。


分かっている範囲だけでも、十数人は居たでしょう。


優しかった村の人たちが、たった一つの出来事によって、こんなにも豹変するなんて。



なにがどうなっているのか全く分からない。


とにかく、怖くて仕方が無かった。



それでも母は......



「ルーナッ!!! こっちよ!!!!!」


「......えっ?」


唐突にそう言って私の手を力強く握り、もしもの時のための避難用として父が作った勝手口へと向かい始めたのです。



母だって、父の変わり果てた姿を目の当たりにしたはずなのに。


最愛の人を最悪の形で失い、今にも自害してもおかしくないような状態だったはずなのに。



一切挫ける様子を見せずに、私を守ろうと全力で走ってくれたのです。



『くっ、しまった! この家には裏口があったのか!?』


『お前ら、逃がすな!!! さっさと裏へ回れ!!!』



「大丈夫よルーナ......私があなたを、絶対に守ってあげるから......!!!」


勝手口へ向かう道中にそう言った母の顔は、暗くてよく見えなかった。


けど、泣いていた気がします。



きっと、この後に私達を待ち受けている出来事が、母には既に分かっていたのだと思います。



「お願い......間に合って......!!!」


勝手口に辿り着くと、母が片目を瞑りながらドアを開けようとする。


この勝手口の存在を知っている人は、そう居ない。



知っているしたら、それは父と特に関係の深かった人物しか、有り得ない。



私はそんな人物に、心当たりがありました。


あの人ならおそらく、いや必ずここで待ち構えているに違いないと。



だから母がドアを開ける直前。


私は魔力感知の力を使い、外の様子を探った。



すると、案の定......


「お母さん!!! ドアの前に誰か立ってる!!!」


「......え?」



―――――私がそう伝えた頃には、母はもうドアを開けてしまっていた。



『うわあああああああ!!!!!!!』


甲高い掛け声と共に、母に向かって振り下ろされる斧。


「はッ!? あ、あなたは―――――」


幸いなことに、母は瞬時に防御魔法を発動し、その一撃を間一髪のところで受け止めました。



鉄のように固くなった母の右腕と、なぜか異様にぶるぶると震えを見せている斧が、激しく衝突をする。



『はぁ、はぁ、はぁ......レイナさん......あんたが悪いんだ......俺は間違ってないんだ......』


斧を構える人物は、息を荒げながら小声でそう呟きました。



母を攻撃した相手は、私が予想していた通りの人。


父が生前最も親しくしていた人、仕事仲間のラースさんでした。



「俺は悪くはない......あんたが悪い......そうだ、きっとそうだ.......俺は正しい.......」


「クッ......あなた、自分でもどうしたらいいか分からなくなってるんじゃない?」


「だって俺は、いつも楽しそうなあんたの家族が好きだった......もちろんルーゼルは俺の親友だった......でも......」


「どうすればいいのか迷うぐらいなら、早くここを......通してよ!!!!!」


動きにどこか迷いがあるラースさんの隙を突き、母は局部を思い切り蹴り上げる。



「アガッ......?! あ......ま、まってくれ......レイナさん......!」


「ルーナ、今のうちにここを抜けるよ! 走って!」


地面に膝をつき苦しむラースを捨て置き、私達はもう一度走り始めました。



「あの森に入ってしまえば、簡単には見つからないはずよ! そのまま隣町に逃げ込めれば、二人共助かる! だからそれまでは頑張ってついてきて!」


「う、うん、わかった......」


「それにしても......早速あなたのその力に助けられたわね。 やっぱりあなたは私達の誇りよ、ルーナ......!」



村の人達から襲われる少し前に母が言った通りでした。


魔力感知の力がなかったら、父だけでなく、きっと母までラースさんに殺されていました。



不幸中の幸い。


本当に良かった。



――――――これで終わってくれたら、本当に良かったのに。

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