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【第97話】呪われた娘⑤

村長が我が家を出ていった後、ラースさんとフェザーさんも用事があると言い、すぐに帰られたのですが......


「二人共せっかくうちに来てくれたのに、なんか変な感じになってしまって悪かったな。 今度一杯奢らせてくれ」


「............」


父の謝罪を込めた言葉に、ラースさんは相槌もせず無言で早々に去っていきました。


「無視かよ......ったくわけがわからん......」


頭を掻き、苛々した様子で一回地団駄を踏む父。



一方でフェザーさんは、家を出た後すぐに立ち止まってこちらを振り返り、ばつが悪そうにしながら小声で父にこう言いました。


「......君たちは今晩にでも荷物をまとめて、この村を出た方がいい」


「はあ? それはどういう意味だ?」


「......分からないのか?」


「ああ、全く分からないな。 それより、さっきお前が言っていたマギアなんとかってやつは、一体......」


父がそう言うと、フェザーさんはもう一度振り返り、今度は背中を私達に向けます。



「お、おいフェザー......」


今思えばきっと、フェザーさんもあんなことを自分の口からは言いたくなかったのでしょう。



当時子供だった私でも感じ取れたぐらいの、ひどく殺伐とした雰囲気の中で、フェザーさんは最後にこう言い残し、私たちの前から姿を消したのです。



『―――――村長は、君たちをこの村から"消す"つもりだ』




~同日 夜~


「......これは確かにとんでもない大嵐だな......まるで風神様がお怒りになられているようだ.....」


その日の夜は村長が言っていた通り、数十年に一回という域の悪天候となりました。


手や腕に当たったら軽い痛みを感じてしまうほど、猛烈な勢いで降り注ぐ大粒の雨。


植木鉢や、家の周りを囲む柵ぐらいなら、簡単に吹き飛ばすほどの激しい突風。



「ったく冗談じゃないぜ......俺、もう一度外の様子を見てくるよ。 事前に出来る限りの補強はしておいたけど、この感じだともしかしたら既に突破されてるかもしれない」


「ちょっとあなた、いくらなんでも危険よ。 自分から死ににいくつもり?」


「大丈夫だって。 ドラグーンはそんな簡単に死なないし、大体、魔法使っとけばこんな雨風ぐらいどうってことねえよ」


「お父さん、きをつけてね!」


「おう!!」


「おう、じゃないわよ。 ほんとあなたは、昔からいつもそうやって無茶ばかりして......」


「あのな、男には無茶しなきゃなんねーって時があるんだよ。 この家は俺たち家族の大切な場所だ。 壊れてしまってからでは遅いってことよ」



お世辞にも頑丈とは言えない我が家が、はたしてこの嵐を耐え凌ぐことはできるのか、大きな不安に駆られる私たち。


ただ、今までも何度か悪天候に見舞われたことはあったのですが、その度に何だかんだで無事にやり過ごせていたので、きっと今回も大丈夫だろうと、おそらく三人ともそう思っていました。



「とにかく油断はしないで。 ぼーっと突っ立ってたらきっと吹き飛ばされるわよ、あなた」


「大の大人が風一つで飛ぶわけないだろ。 ていうか家の周りを見てくるだけだってのに、心配しすぎじゃないか?」


「あなたねえ......」


「はいはい分かった分かった。 心配してくれてありがとうな」


母と軽めの痴話をかわした父は、少し照れ臭そうに玄関まで向かいます。



そのままドアノブに手を乗せ、いざに外に出ようとした、その時。


「......レイナ、今朝フェザーや村長が言ってたこと、お前はどう思う?」


入口手前で止まったまま、父はそう言いました。



......そうこの日、私たち家族が本当の意味で気に掛けていたのは、天候や家のことではありません。


もちろんそれらも大事なことではありますが、それとは比較にならないほどの問題を私たちは抱えていたのです。



「どう思うって言われてもね。 どうしようもないし、受け入れるしかないんじゃない?」


「そういうわけにもいかないだろ。 やっぱりフェザーの言った通り、村から出た方が良かったんだろうか......」



父は別れ際にフェザーさんが言った言葉が、ひと時も頭から離れていなかった。


あの時言っていたことが本当なら、私たちは近いうちに村から追放、もしくはそれ以上の罰を受けることになる。


先のことを考えれば考えるほど不安が募っていく。


きっと父はこの日、生きた心地がしなかったはずです。



一方で母は意外なことに、それほど気にはしていない様子でした。


「んー、この天気じゃどのみち夜逃げなんて無理だったでしょ。 それに呪術とかなんとか言ってるけど、私はむしろこの子が誇らしいわ」


「誇らしい?」


「ええ、そうよ。 だってこの子は、他の誰にも真似できない唯一無二の魔法?能力?が使えるようになったのよ? それって凄いことじゃない?」


母は気にするどころか、呪術に目覚めた私を誇り、暖かい眼差しを向け頭を撫でてくれたのです。



「おかあさん、私、凄いの?」


「もちろんよ。 この国の、いやこの世界の誰よりもあなたは凄いわ」


「ほんとに?! やったー!!!」


母は普段あまり私を褒めない人でしたので、そう言われて凄く嬉しかった。



ただ、そういう母も、呪術の危険性は十分に理解していて。


「......賢いルーナに、お母さんから一つお願いがあります」


「ん、なにー?」



母は私の頭を撫でる手を止めると、真剣な口調でこう言いました。


「実はね、この国では、あなたのその力は使ってはいけない決まりになってるの。 理由は色々あるけど、多分今のあなたに言っても分からないと思うから、もう少し大きくなったら話してあげる」


「......そうなんだ」


「でもね......きっといつの日か、あなたの力を皆が認めてくれる日がやってくるわ。 きっとその力が、誰かの助けになる時がやってくる。 他人だけじゃないわ、きっとあなた自身のことだって守ってくれるはずよ。 だからその時まで、元気をいっぱい溜めておきなさい」


「ほんと......?」


「ほんと。 だから今後は、私が良いって言うまでは絶対に使っちゃダメよ? 分かった?」


「......うん! 分かった!!」


「ふふ......本当にいい子ね......ルーナ」



話が終わったあと、母は私をぎゅっと抱きしめてくれました。


母の腕の中はいつも暖かくて、そのうえ優しくて、すぐにでも眠ってしまいそうなほど心地良い。


あまり褒めてはくれないけど、何かあるとこうやって抱いて慰めてくれる母が好きだった。



「ゴ、ゴホンゴホンッ! お、お母さんだけじゃなくて、お父さんだってルーナを誇りに思ってるぞ!!」


「さっきまで露骨に落ち込んでた癖に、急になに? あ、私が良い事に言ったから悔しいの?」


「ば、馬鹿言うな!! 俺だって最初から、マギアなんとかのこと凄い力だって思ってたっての!」


「あらそう? まあいいけど、行くなら早く行ったら? もたもたしていると余計天気が荒れるわよ」


一人でわめいている父に、母が呆れた様子でそう告げます。


母の言う通り、雨風の勢いは数分単位で強まっていました。



「じゃあ行ってくる。 レイナ、なにかあったらルーナを頼んだぞ」


「なにかあったらって、あなたすぐに帰ってくるじゃない」


「冷静なツッコミはやめてくれ......こういう台詞を一度言ってみたかったんだよ.....」


母の反応が思っていたのと違ったのか、父は溜め息をつき、肩を落としながら再びドアノブに手をかけます。



―――――同時に、建物一つが消し飛んだかと思うぐらいの、激しい落雷音が家中に響き渡りました。



「ひっ!? いやあああっ!!!」


今まで聞いたことのないような轟音に私は怯え、母の胸に隠れるようにして飛び込みます。


「大丈夫、ただの雷よ......大丈夫だから......」


「おいおい、思った以上に荒れてきたな......これはシャレにならないぞ」




外は大荒れですが、父は肉体強化の魔法を使っている状態のため、よほどのことが無い限り大事には至らないはずです。


あと、外に出るとはいえ簡単な補強作業をするだけですから、それほど長くは掛からないでしょう。



だからきっと、なにも起こらない。


父が戻ってきたら家族三人で暖かい紅茶でも飲み、いつも通り父が自虐的な内容の話題を振って、母がそれを適当にあやし、私は内容こそよく分からないけど、とりあえず大きな声で笑う。



――――――そんな時間がやってくるのだろうと、そう思っていた。




「よし、じゃあ行ってくる!......うひょーっ、雨の勢いがやば―――――――」



父がドアを開け、一歩外に出た瞬間でした。



『いまだ!!! 奴を殺せええええええッッ!!!!!!』



どこかで聞き覚えのある、壮年男性の怒り狂ったような大きな声が響き渡る。



そして、その声が聞こえた直後。



―――――私と母の前に、目を疑う様な信じがたい光景が広がったのです。



父が立つ位置の左右の陰から、鋼鉄の槍がそれぞれ1本ずつ。


正面からは、球状の炎の塊が一つと、氷、雷の光線がそれぞれ1つずつ。


更にその後ろからは、薔薇の棘のような形をした岩石が約20本。



それら全てが何のためらいもなく、たった一つの標的へと一斉に襲い掛かる。



そして............



―――――私の父、ルーゼル=エアハートの身体を串刺しにしたのです。

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