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【第92話】明かされる過去

「......私が偽の王女であることを知られてしまったあの時、心から申し訳なく思いました。 今までずっと嘘をついていてごめんなさいと、すぐにでも皆さんに謝らないとって思いました......でもそれと同じくらい、肩の荷が下りたというか、急に気が楽になったんです」


「気が楽になった?」


話の内容は予想通りだったものの、冒頭からいきなり意外なことを口にするシルヴィア。


ガーネットとの交戦以降の彼女の様子を見る限り、とてもそうは思えなかったが.....。



「.....はい。 私って本当に性格悪いなって、無責任だなって、今自分でも凄く感じてます。 仮にも王女を務めさせて頂いている身だというのに、何を言ってるんでしょうね。 こんなことお父様に知られたら、しばらく部屋から出して貰えなくなっちゃいます」


「いや....そう言う意味では、今ここに来てる時点で結構ヤバくない?」


「た、確かに.......」


「まあそれはあとで何とか誤魔化すとして、シルヴィアが性格悪いとか、無責任とか、言ってる意味がよく分かんねえんだけど」


光は腕を組み、首を傾げながらそう言う。


それに対しシルヴィアは、正直に胸の内を語り始めた。



「......嘘がバレたということは、逆に考えればもうこれ以上、嘘を続ける必要が無くなったとも言えます。 今後は、少なくとも光さん達の前では"シルヴィア=ルー=エルグラント"を演じなくても良い、本当の自分でいられるんだって、情けない話ですがそんなことを思ってしまったのです」


「そういうことか.......」


「勿論、私がやったことは到底許されるべき行為ではないことは分かっています。 私は光さんや国の人々を騙していたのですから」


「騙してたって言うけど、あくまでそれは王の命令で仕方なくやってたわけであって、別にシルヴィアは悪くないだろ」



光の言うことはごもっともだ。


シルヴィアは必要以上に自分を責めている様な気がしてならない。


国民を騙していたのは紛れもない事実であり、彼女も国王やその関係者らと同罪なのは確かだが、なにも自分の意思でやっていたわけでもない。


もっと言えば、全ての元凶は本物の王女をさらったドレットノートなのだ。



しかし、シルヴィアのこういった自虐的な面は今に始まったことではない為、ここで光が何を言おうと彼女は自分を責め続けるだろう。


光もそれが分かっていたのか、慰めの言葉をかけるのは一旦やめ、本題の話を進めることにした。



「ナギサも九条も、シルヴィアを責めたりはしなかっただろ? 騙してたとか、偽物だったとか、そーゆー系の話は本当に誰も気にしてないんだって。 分かった?」


「はい......」


「よし、ならこの話は終わりな。 そんで、えっと、あのとき急に気が楽になって、それから....?」


「それからは.....今までずっと隠していた私自身の話についても、皆さんには伝えておきたいなって思いまして......でも―――――」



この辺りから、シルヴィアの表情がみるみるうちに変わっていった。


それも、どちらかと言えば悪い方向にだ。



「お、おい!?.....大丈夫か?」


光が焦った様子で、そう声をあげた理由。


それは、突然シルヴィアが両腕を抱え、ガタガタと身体を震わせ始めたからだ。


やはり彼女は自らの過去に対し、何かしらの強いトラウマがあると見て間違いない。



「そんなにつらいなら無理すんなって.....これじゃ俺がさっき城で止めた意味が.......」


「.....ほんの少し過去を思い出すだけでも、身体の震えが止まらなくなります。 自分でも驚くくらい、怖くなっちゃうんです......数年経った今でも、当時の景色が鮮明に......」


「それは見てれば誰でも分かるから......だから今日は帰ろう? エグゼキューターを使えばすぐに城まで送ってやれ―――――」


酷く怯えるシルヴィアに今すぐ城へ帰るよう、光が心配の声を掛ける。



しかし、彼女はこの場から離れようとはしなかった。



「......悔しいけど、まだ私には、自分の過去を皆さんの前で話せるほどの勇気がありません。 臆病で、弱虫だから。 でも今なら......光さんがすぐ傍に居てくれてる今なら、きっと大丈夫だよって、自分の体がそう言ってる気がするんです」


「い、いや、それはまあ普通に嬉しい限りだけど.....無理して体壊してたら元も子もないぞ」


「平気です。 その為にわざわざお部屋に入れて頂いたのですから、もう逃げたりなんかしません」


シルヴィアはそう言って、涙目になっていた両目を指で拭うと、続けて胸を二回、ポンポンと叩く。



おそらく心を決めたのだろう。


先程よりも顔つきが幾分か良好な状態になっており、いつものシルヴィアらしい芯の強さが伺えた。



「...........」



二人の間に、しばしの沈黙が流れる。


その間、光は自分の部屋の空気が普段と違うことに気が付いた。



ずっと気になっていたシルヴィアの過去。


ついにそれが、本人の口から語られる時がきたのだ。



「ずっと話せずにいてごめんなさい.......随分と遅くなってしまいましたが、聞いていただけますか? 私が王都に来る前、どんなことがあったのかを」



シルヴィアにそう聞かれた光は、一切の迷いを見せずに頷くのだった―――――。




今から15年前。


私はマーリス村という、王都から遠く離れた小さな村で生を享けました。


父親は村の商人、母親は牧場の飼育員と、ごく普通の一般的な家庭。


決して裕福ではなかったですが、特別貧困というわけでもなく、本当に"普通"の家族って感じでしたね。


私はそんな家族が大好きでしたし、毎日が楽しくて、幸せでした。



「お母さん! みてみて! 昨日教えてくれた魔法、わたしもできるようになったよ!」


「あら凄いわね、ルーナ。 でもお母さん、お仕事しててよく見えなかったなあ。 もう一回見せてくれる?」


「もーっ!!! ちゃんとみててよ!!!」


「ふふふ、ごめんね。 あ、ほら、お父さん帰ってきたわよ」


「え?! ほんと?! ねぇお父さん聞いてー!!! わたし昨日の魔法―――――」



マーリス村には、子供が遊ぶような場所や施設はほとんどありません。


なので、当時の私がすることと言えば基本、魔法の勉強か両親のお手伝い。


あとは近所に住む同年代の子供たちと、魔法をテーマにしたごっこ遊びをしたり、安全な森へ探検に行ったりするくらいでしたね。



当時はそれが普通だと思っていましたし、特に疑問も感じませんでした。


王都を始めとする外の世界の暮らしを知る機会が無かったので、村で起こる出来事が私の全てだったのです。



「お父さん、今日はお仕事どーだった? お客さんいっぱい来てくれた?」


「ま、まあぼちぼちってところだな........ただ、来月は少しだけ質素な食卓になるかもしれん......」


「え、なんでー? お昼休みに遊びに行ったときは、だいはんじょう?って言ってなかっけ?」


「う、うむ......実はな.......そ、そう! 客の中にしつこく値切ってこようとするタチの悪い野郎がいてだな、そいつ俺がどんだけ言ってもきかねえんだ! んでそいつのせいで商品は大量に安く持ってかれちまうわ、他の客はビビって寄り付かなくなるわで、その......」


「あなた......その言い訳昨日も聞いたわよ」


「えっ、うそ?! は、ハハハハッ!!......いいかルーナ、お前は将来嘘をつく大人には絶対なるんじゃないぞ? お父さんとの約束だからな?」


「よくわかんないけどわかった! あ、お母さん、スープおかわり! ちゃんとデビルスライムのお肉いっぱいいれてね!」



夕食の時間はいつもこんな感じで、小さな家に住む三人家族とは思えないくらい毎日騒がしかったです。


なので、ときには近所の方から苦情が来る日もありました。


私は当時子供だったので、どうして近所の人が怒っているのか分かりませんでしたが、今思うとお隣に住んでいた方は、本当に迷惑していただろうなーって思います。



「いつも悪いな、ルーナ......お父さんがもう少しお仕事上手く行ってたら、もっとうまいもん食わせてやれるのに......」


とびきり騒いだあとに、父親がこういった類の話をするのもお決まりです。


安いお酒を何杯も飲んで酔い始めた日には、もう喋りが止まらなくなります。



「俺はな、本当はスライムの肉なんかじゃなくて、牛とか豚をお前に食わせてやりてえんだ......豚の肉って本当うめえんだぞぉ? 味もそうだが、とにかく癖がなくて柔らかくて......」


「あなたまたその話? 私もルーナも、もう聞き飽きたわよ」


「豚さんかー。 まだ一度も食べたことないけど、私はデビルスライム大好きだから別にいらないかな! だから今のままで大丈夫だよ!!」


「あらあら、この子は天使かなにかかしら? お母さん、涙が出てきちゃいそう」


「ル、ルーナ......こんなにいい子に育って......愛してるぜ娘よ......!」


人間は酔った時に本音が漏れやすくなるそうです。


つまり、酔うといつも決まって生活面の話に持っていく父親は、それぐらい私や母親のことを大切に思ってくれていた、ということになるんですかね。



正直子供の私には何のことやらさっぱりって感じでしたし、当時の生活に不満なんて本当になくて。


きっとこの先も、大人になってからもずっとマーリス村に住んで、両親の仕事を継いだりなんかして、のんびり暮らしていくのだろうなと、子供ながらにそう思っていました。


思っていただけじゃなくて、私はそんな生活を望んでいましたし、そうなって欲しかった。



―――――――でも、神様はそれを許してはくれなかったのです。

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