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【第91話】新鮮で心地よい一時

普段の10倍増しで活発になる心臓の鼓動。


やはり彼には、こういったイベントはまだ早かったのかもしれない。



勿論、そんなあからさまな変化をシルヴィアに悟られないわけもなく、


「あの....違ってたらごめんなさい......もしかして、緊張されてますか?」


少しだけ苦笑いを見せながら、シルヴィアはそう言ってくる。


普段の光ならここは、「いや別に」と即座に返す場面だろう。



だが今回ばかりは、強がりを遠く通り越して、もはや素直に認める他なかった。



「そりゃこんな状況、どう足掻いたって緊張するだろ.......」


なぜだか急激に恥ずかしくなってきて、シルヴィアの顔が真っ直ぐ見れなくなる光。


おもむろに下を向くことで、なんとか言葉を返すことは出来ているが、彼の対応はハッキリ言って思春期の中学生以下である。



そんな光の初々しい様子を見たシルヴィアは、何やらニヤニヤと微笑み始め、


「ふふふ......"あの"悪魔の人のこんなに可愛らしい一面が見れるなんて、私ってば意外と運が良いのかもしれませんねー」


光をおちょくる様な言い草で、そう言った。



さすがの光も、これには黙っていられない。


無理矢理に顔を上げると、シルヴィアを冗談交じりで睨みつけながら、最大限の反抗をする。


「.......シルヴィアって、実は結構性格悪い?」


「えへへ。 さぁ、どうでしょう?」


舌をチロっと出しながら、悪戯っ娘ぽく喋るシルヴィア。



会話の内容はともかく、やはりシルヴィアの笑顔は太陽の様に眩しくて美しい。


ここ最近の彼女は暗い顔をすることが多かった為、この笑顔に懐かしさまで感じてしまう。


こんな笑顔が自然に出てくる子の性格が悪いわけがないのだ。



「それにしても光さんのお部屋、本当になんにもないですね。 良く言えば綺麗に掃除してあるお部屋という感じですけど」


シルヴィアはそんなことを言いながら立ち上がり、光の部屋をぐるっと一周する。



対して光は、少しだけムッとした様な表情をしながらこう返した。


「悪かったな.....ルビの浪費を極力減らそうと生きていたら自然にこうなったんだよ」


「なるほどですね。 休日とか授業が終わった後とか、普段お部屋に居る時はなにをされてるんですか?」


「魔法の勉強とか.....イメトレとか......」


「頑張り屋さんですね。 そこが光さんの良いところだと思います」


「......それ褒めてる? 内心ちょっと馬鹿にしてない? 言っとくけど、さっきから全部顔に出てるからな?」


「気のせいじゃないですか? そういうところ、私は本当に尊敬してますよ。 ふふふっ、偉い偉い」


「やっぱり馬鹿にしてるじゃねえか......」



緩い雑談をしながら、楽し気に笑い合う二人。


普段のイメージとはかけ離れたシルヴィアのヤンチャな笑顔を見て、光は思う。



(シルヴィアって、こんな笑い方もするんだな。 出会ってからかれこれ一ヶ月以上は経ってるのに、初めて見る顔だ.......)


シルヴィアは、この世界の中では最も付き合いの長い人物であり、共に過ごした時間もおそらく一番長い。


友人としての付き合いは勿論のこと、幾度か共に死線をくぐり抜けてきた戦友でもある。



ただ、なんだかんだで2人きりでゆっくりと会話をするタイミングは、そう多くはなかった。


誇張抜きに、話す内容の9割を勇者としての仕事や魔法に関する話が占めていた為、実際のところは日常会話なんて数えるほどしかしてなかったかもしれない。



だから今こうして、自分の部屋でシルヴィアと話しているこのわずかな時間が、光にとってはとても新鮮で、心地よくて、とても楽しく感じていた。



しかし楽しい時間というものは、そう長くは続かない。


シルヴィアがこんな時間に、わざわざ光の部屋に訪れてきた理由。



それは今更考えずともハッキリ分かっていた。



「.......シルヴィア」


光の顔から笑顔が消え、一転して今度は真剣な眼差しをシルヴィアに向ける。


すると同じように、シルヴィアの表情にも暗く険しい曇りが見られた。


「.......はい、申し訳ございません。 光さんと話していたら、つい楽しくなってしまって......」


「いやいやいや、謝る必要はないって。 てことで、そろそろ話して貰っていいか? その、俺に話したいことってやつ」


そう言って、光は軽い深呼吸をした後、すっかり冷えてしまっていた硬い床に座る。


シルヴィアもそれに合わせ、正座で床に座った。



「.............」


二人の間に少しの沈黙が流れた後、次にシルヴィアの口から出てきた言葉。



それは、光が事前に予想していた通りの内容だった。

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