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【第86話】閉会

(なるほどな.......レイリスが俺と戦った時に捨て身の魔法を使ってまで勝ちに来たのは、これが理由か)


ダグラスの話を聞いた光は、心の中でそんなことを思う。


あの日の決闘は、光にとっては学生同士の単なる小競り合いでしかなかったが、レイリスにとっては違った。



どんな草試合だろうとヘカトンケイルに「負け」は許されないのだ。


負けるくらいなら、いっそのこと死んだ方がマシだと、彼はあの時本気でそう思っていたのだろう。


だから「ソウル・ジ・フェニックス」という自殺行為とも取れる魔法を使い、実際にその身が滅びるまで戦い続けたのだ。



(まあ言いたいことは分かるけどさ、あんなくだらない喧嘩の中で死んじまったら、それってもうただの馬鹿では.....?)


レイリスの決意の固さに感心しつつも、それと同じくらい呆れ返ってしまう光。


そんな気持ちがうっかり顔に出てしまっていたのか、気付くと光は、レイリスに物凄い形相で睨まれていた。



「とまあ、我が娘がこの国から姿を消した理由については以上だ。 ここまででなにか質問はあるかね?」


話を終えたダグラスが再び一歩下がり、国王が区切りの良いところでまとめに入ったのだが。



(んー質問って言ってもなあ.......特にねえかなあ.......10歳の王女様が他人に死ねとか言いながら刀振り回してるのはどうなの?くらいしかパッと感想が出てこねえや)


せっかく質疑応答の時間を設けて貰ったというのに、全くもってやる気が無さそうな光。


普段から常に気の抜けたような顔をしている男だが、いまは特にその気が強い。



なぜ彼がそうなってしまっているのか、理由は明確だ。


もうそれなりに長いこと演説を聞かされている気がするが、肝心のシルヴィアの過去に関する話が未だほとんど出てきていないのだ。


いま分かっているのは、当時城でメイドとして働いていたシルヴィアがガーネットの代役に選ばれた、ということだけである。



正直なところ光にとっては、ガーネットやらドレットノートやら、レイリスやらの話にあまり興味は無かった。


勿論、良い意味で年齢不相応のレイリス少年のエピソードには、素直に感心した。


誰にでも出来ることではないし、今もこうして例の誓いを胸に精進し続ける姿勢は、尊敬に値する。



ガーネットは予想外に複雑な過去を持っていて、ただの戦闘狂ではなく、本物の王女だったということが分かった。


ドレットノートについては、仮にも勇者である光の立場を考えると、このまま野に放ってはおけない危険な存在であることは確かだ。


しかし、光が知りたかったのはそこではない。


光は、いま自分の目の前に座っている彼女の話が知りたいのだ。



だが...........



(そんな顔見せられたら、君の過去を話してくれなんてやっぱり言えねえよ、俺は)


シルヴィアはこの場に来てから、終始浮かない顔で俯いている。


おそらく順番的に、この後はシルヴィアの過去に関する話が始まるのだろう。


「ルーナ=エアハート」時代の話と、「シルヴィア=ルー=エルグラント」に生まれ変わってからの話の両方が語られるはずだ。


きっと良い意味でも悪い意味でも、光にとってプラスになる情報が沢山得られるに違いない。



しかし、本当にそれでいいのだろうか。


7人という、決して少なくはない人間が居合わせているこの場で、彼女から話を聞き出すのが果たして正しいことなのか。


強制なんてせずに、まずは彼女が話しやすくなる様な環境作りから始めるべきではないのか。



「質問が無い様なら、次の話へ移ろう。 ではルーナ、今度はお前の話をしてあげなさい」


国王は淡々と会の進行を続け、シルヴィアにそう声を掛ける。


「.........はい」


そしてシルヴィアは、かすれ気味の小さな声で返事をした。



このまま何も言わずに黙っていれば、シルヴィアは話を始めるだろう。


苦しみながらも最後まで語り続けるだろう。



だが、そんなのは御免だ。


他人に話したくない過去なんて誰にだってある。


光なんて特にそうだろう。


つらい過去話を好き好んで話す人間なんているわけがない。



だから光は思い切って、彼女を止めることにした。



「........あの、俺達そろそろ帰ります」


「........え?」


突然席から立ち上がったと思えば、予想の斜め上の発言をする光。


そんな彼の顔を、シルヴィアは驚いた様子でフッと見上げた。



「........聞かなくて良いのか?.......勇者殿」


国王は特に取り乱したりはせず、冷静な顔で光にそう問う。


対して光は、わざとらしく頭を掻きながらこう答えた。


「俺頭悪いんで、一度に色んな話を聞いても頭に入ってこないんですよね。 ぶっちゃけ、ここまで聞いた話だけでも頭パンクしそうなんですよ。 もう時間も結構遅いし、続きはまた後日ってことでお願いできればなと」



気付くと時刻は19時を過ぎており、外はすっかり暗くなっていた。


夜の王都はお世辞にも治安が良いとは言えない為、学生は早めに自宅か寮に帰ることを推奨されている。


光にしては珍しく、咄嗟に考えたわりには随分と上手い理由付けであった。



「うむ、それもそうか。 皆、長いこと拘束してしまってすまない、歳を取ると昔話がやめられなくなってしまってな」


「いやいや、そんな謝らないでくださいよ。 こちらこそ貴重な話が聞けて有意義な時間を過ごせたというか、これからもっと頑張ろうって思えたんで良かったです」


半ば強引に閉会の流れへ持って行こうとする光。



それがどうやら上手くハマったのか、国王は席から立ち上がり、


「.........シルヴィア、夕食を終えたら書類を書くのを手伝ってくれ。 お前が合宿に行っている間、どうも仕事が進まなくてなあ」


「え......あ、はい......分かりました」


とだけシルヴィアに伝えて、意外にもあっさり部屋から出ていったのだ。



国王に続いて、今度はダグラスが大きめの咳払いを挟み、こう言う。


「さてレイリス、我々はこれから会議の準備だ。 殿下の生存報告および帝国軍幹部のクラスと戦闘スタイルについて、お前が知っていることは全て皆に話して貰うぞ」


「はっ! しかし団長、その前に彼らを出口まで案内しなくてはなりませんが、よろしいでしょうか?」


「.........許可しよう」


「ありがとうございます、団長」


「では私は先に本部へ帰還する...........勇者殿一向も、どうかお気をつけて」


ダグラスはビジネススマイルを作りながらお辞儀をした後、光に聞こえるか聞こえないか微妙なラインの声量でそう言い、去っていった。



(ふーっ、なんかやけに疲れたなあ、気疲れってやつか?......ま、これであとは寮に帰るだけだし余裕余裕――――――)


大人2名が退出し、部屋に残ったのはディアヴォルスの5人のみ。


これで普段と同じように、気を楽にすることが出来る。


そのはずだったのだが..........



(........なんか気まずいぞ。 この変な時間はなに? てかレイリス、お前が仕切ってくれよここは)


5人の間に生まれた謎の気まずい時間が、光の喉元を抑える様な息苦しさを演出していた。


シルヴィアは浮かない顔をしたまま椅子に座り続けているし、出口まで案内するとかなんとか言っていたレイリスは、なぜか何も言わずに突っ立っている。


そして、いつもはやかましいくらいに喋りまくっているナギサと九条は、眠たくなっているのか呑気にあくびをしていた。


肝心な時に役に立たない女たちである。



(まあ一応リーダーだし、ここは俺が締めるべきか.......)

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