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【第85話】エルグラント王国 過去編⑧

~ニヴルヘイム城 王室にて~


「――――――報告は以上になります.........陛下」


私とレイリスは陛下の前で跪き、城の外で起きていた事を全て報告しました。



いま現在、団員達にかかっていた洗脳は全て解除されていること。


王都を無事守り抜くことが出来たということ。


グナン団長が騎士としての役目を終えられたこと。


そして、ドレッドノートの強さに手も足も出ず圧倒され、殿下を奪われてしまったこと。



「本当に......申し訳ございませんでした........!!!!」


悔恨の気持ちと、情けない自分への嫌悪感から、ただただ頭を下げ、謝ることしか出来ない私。



無論、謝罪をしたところで許して頂けるなんて思ってはいません。


ですが当時未熟だった私には、そうすることしか出来なかったのです。


陛下の方が私なんかよりも、ずっとお辛い気持ちであったはずなのに。



しかし陛下は、私とレイリスにこう言ってくださいました。


「.......騎士ならば、下を向くのではなく、上を向け」


「ですが私たちは殿下を.........」


「お前たちは何も悪くない、原因は私にあるのだ。 こうなることぐらい初めから分かっていたはずなのに、考えなしにシルヴィアを外に出してしまった。 娘にも、お前たちにも悪いことをしたな。 本当にすまなかった」


「くっ......陛下.......私は.......!」


「戦争はもう終わった、我々は勝ったのだ。しかし休んでいる暇はないぞ? まずは遺体の処理を始めて、それが終わったらすぐに民を街に戻せ。 それから会見の準備をしろ、良いな?」



そう、陛下はこの時点で既に"先"を見ていたのです。


実の娘を失って誰よりも悲しんでいるのは、親である陛下のはずなのに。


殿下といい陛下といい、エルグラント王族は何故こうも心を強く保てるのか。


凡人の私には、その理由が五年経った今でも分かっていません。



「しょ、承知いたしました! しかし陛下.....その.....殿下のことについては、民にどう説明するご予定なのでしょうか?」


会見をするにあたっての懸念事項が、国の代表的な存在でもあったグナン団長と殿下の消息問題。


街や民への被害は最小限に抑えることができたものの、敵国の侵入を簡単に許してしまったのは紛れもない事実です。



そのせいで民は国とヘカトンケイルに対し、今頃強い不信感を抱いていることでしょう。


そんな状況下で、団長が戦死しただけでなく、殿下を敵国の王に奪われてしまいました、などと聞かされたら民はなにを思うか。



きっと国への反発を始める勢力が現れ、それが支持派の勢力と二分し、今度はエルグラント内部での抗争が起きるに違いありません。


そうなってしまったら最後、もう二度とエルグラント王国を建て直すことは出来なくなるでしょう。



では一体どうするのが正解なのか。


『殿下は無事です。今は王室でぐっすり眠っています』などといった、その場しのぎの虚偽の会見をしたところで、そう長くは持ちません。


殿下が城外に姿をほとんど見せないお方だったとはいえ、いつまでも小手先の嘘が通用するとは思えませんから。



(クッ......ダメだ.....どう足掻いてもこの厳しい状況に変わりは――――――――)


「ダグラス..........私の考えを今ここで話そう」


この窮地に追い込まれた状況で、陛下は一つの答えを導き出されました。


その予想外の内容に私は驚愕させられましたが、同時に陛下の決断力の凄さを改めて実感することになったのです。.



「今この瞬間から、この国の王女を........いや、シルヴィア=ルー=エルグラントという人間をもう一人、新たに作り上げる」


「.........? 陛下、それは一体どの様な意味で.......はっ?! まさか.......!!!」


「察しの通りだダグラス。 これが最も現実的であり、そして将来的に見ても唯一無二の効果を期待できる方法だと私は判断した」



そう、陛下の考えは、簡単に言えば「殿下の代役を立てる」ということ。


確かにその方法が上手くいった暁には、懸念していた部分はもれなく解消されるでしょう。


もちろん「上手くいったら」の話ではありますが。



「しかし、あの殿下の代わりが務まる人材など、果たしてこの国に存在するのでしょうか? 殿下は様々な意味で特別な存在でしたし......」


「うむ、私も確信こそ無いが........その可能性を秘めている者に心当たりがある」


「.........差し支えなければ、その人物の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


この時、私は大きな緊張と疑念に包まれました。



今更言うまでもありませんが、殿下は一点の陰りもない、文字通り「完璧」なお方でした。


世界一の美しさ、世界一の気高さ、世界一の剣術、皇帝にさえ屈しないほどの強く硬い心。


それに加えて、世界に二つとない絶対浄化能力、聖なる浄化の光セイクリッド・リペレイションまでその身に宿していた。



そんな殿下の代役に相応しい人間など、この国どころか、たとえ世界中を探し回ったとしても見つかるはずがない。



そう思えてならなかったのですが、次に陛下の口から出てきた人物の名前を聞いた時、私はある意味納得をしてしまったのです。



「その名はルーナ=エアハート.......あの子ならきっと出来ると私は信じている。 あの子もシルヴィアと同じく呪術を持って生まれ、そして呪術によって一度地獄を見た経験のある子だからだ。 本人には酷かもしれんが、これ以上とない適任だろう」


「なるほど、あの娘ですか......確かに髪の色や年齢など、なにかと共通点は多いですが、それでも......」


「幸い、シルヴィアの顔はあまり民に知られてはいない。 ルーナも負けず劣らずの美しい顔を授かった子だ、その辺りは心配無用だろう」


「一応話の筋は通っておりますが、そう上手く行くでしょうか.......」


「お前が不安に思うのはよく分かる。 それでも国を存続させるために、今はこうするしかないのだ。 それに、重大な役割を突然押し付けられることになるあの子の方が、我々なんかよりもずっと不安に思うに違いないぞ」



陛下の言う通り一番の被害者は、現シルヴィア様だったのかもしれません。


城の一従業員でしかなかった子供が、突然王女の代わりをしろなどと言われたら、普通なら怖くなって逃げ出してしまうでしょう。


いわゆる「無茶振り」というものですからね。



それでも、今こうして立派に王女を務めている姿を見ると、やはり当時の陛下の目は正しかった。


...........そう思わざるを得ないでしょう。



「........陛下がそう仰るのであれば、私共はそれに付いていくまでです」


「うむ。 ではダグラス、お前は先程伝えた仕事をすぐに始めろ。 そしてレイリス、君はルーナをここまで連れてきてくれるか?」


『はっ!!!!!』



この後、私は陛下の指示に従って城外に向かい、会見の準備を開始。


レイリスも同様に、陛下の指示通り現シルヴィア様を王室までお連れした様です。



陛下に呼ばれた現シルヴィア様は、最初こそ困惑していたものの、最終的には王女になることを快く受け入れてくれたそう。


殿下が現シルヴィア様を溺愛していた様に、現シルヴィア様も殿下のことを物凄く慕っていましたから、この一件に関して色々と思うところがあったのでしょう。


でなければこの様な無茶な話、いくら陛下の命令とは言え承諾しかねますよ。


その辺りの詳しい話は、この後ご本人の方から語って頂くことになるかと思います。




"20X5/05/21"


死闘の末、戦争に勝利しながらも、同時に国の「象徴」を失ってしまった悪夢の様な日。



世界各国に目を向けてみると、戦争自体はさほど珍しいものではありません。


こうして私が話している今この瞬間も、きっと世界のどこかでは、戦争がおこなわれていることでしょう


ゆえに真実を知らない民の目線では、この度の帝国との戦争も所詮、よくある戦争のうちの一つに過ぎないのです。


ですから王都に帰ってきた民は皆、何事も無かったかのように家族や友人と談笑し、食事をし、就寝し、翌日には普段通りの生活へと戻っていきました。


無論、それが悪いこととは言いませんし、そもそもこれは我々が望んだ未来でもあります。



しかし私は、この日の出来事をひと時も忘れたことはありません。


ドレッドノートに屈伏してしまった私の体には、一生消えることのない呪縛がかかっているも同然なのです。



ただ陛下の仰る通り、騎士たる者、下を向くのではなく上を向かない限りは、わずかな罪滅ぼしをする権利すら与えてもらえません。


上を向き、いま自分達が出来ることを懸命にやっていくほかないのです。


この時私は、二度と「負けない」様にヘカトンケイルを世界最強の騎士団にすると誓いました。


宿敵の言葉を借りるのは本意ではありませんが、これがいまの私にできる最大の罪滅ぼしである。



未熟者の凡人なりに、そう思ったのです。

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