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【第83話】エルグラント王国 過去編⑥

「ぐあああああああッ?!!! う、腕がァ........!!!!!」


「うっわぁ......痛そー。 だから言ったじゃないか、やめとけって。 まっ、これで少しは大人しくなってくれるだろう」


ドレッドノートは、腕を抑え悲痛の声をあげる団長には目もくれずに、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら殿下の元へと歩き始めます。



『うっ........』


『ひ、ひいぃッ!!!』


『こ、こいつ......よくも団長を......』


状況的だけ見れば敵地に単独で乗り込んだも同然だというのに、この男は警戒をする素振りすら見せず、まるで自宅の廊下を歩いているかのようにリラックスをしながら我々の前を通り過ぎていきました。



「ククク...........」


殿下の前でその足をピタリと止めたドレットノート。


そして次の瞬間に奴の口から出てきた言葉に、我々は衝撃を受けることとなります。



「君みたいな子供にこの皇帝(インペリアル・)の秩序(オーダー)が破られるとはねぇ.......恐れ入ったよ。 君、名前はなんて言うのかな?」


「ッな?!.......クソッ、やはりそうだったのか!!!」


まさかのと言うべきか、やはりと言うべきか。


何百人もの団員を洗脳し、我々に同士討ちをさせる様に仕向けていたのはこの男だったのです。


それも団長の推測通り、呪術を介してです。



ただ、今はそこに気を取られている場合ではありません。


一刻も早く奴を殿下から遠ざけないと、取り返しのつかないことになってしまいます。



「殿下、早く逃げてください!!! お前たち何をボーっとしている!!! 我らも戦うぞ!!!!」


『は、はいっ!!!』


最悪の展開を阻止すべく、レイリスを含む私の班がドレッドノートに立ち向かおうとしましたが......



『で、殿下から離れろォォォ!!!!』


「はぁ..........君たちは本当に頭が悪いねえ」


奴の強さは、それこそ次元が違うものでありました。


団長を退けた時と同じ様に魔法を使うことなく、片足一本で我々を一網打尽にしてしまったのです。



『ぎゃあああああッ???!!』


『ひいいいいい!!! つ、強すぎるッ!!!!』


手も足も出ず、一方的な暴力によって次々に倒されていく団員たち。



「......このままではまずいッ!! レイリス、両サイドから攻めるぞ!!!! ウィンド・スラッ―――――」


「あのさぁ..........君、邪魔しないでくれる?」


かく言う私も、奴を仕留めるどころか魔法を放つ隙すら与えて貰えず、


いつの間にか私の後ろへ回っていたドレッドノートに、呆気なく背部の骨を粉砕されてしまいます。



「フフ、良い音がしたな........これは骨がイッちまったか?」


「ガハッ!!?? 馬鹿な......な、なんなんだこの強さは........どうなっている........?」


意識が朦朧とするなか、私はどうにかして殿下を逃がそうと試みますが、思う様に脳内でコードを組むことができません。



「まずい......レイリス......頼む......殿下を.......シルヴィア様を連れて逃げてくれ........」


団長と私が重傷を負い動けなくなった今、頼みの綱はレイリスのみ。


天才と言われていた彼も、当時はまだ10歳になったばかりの子供です。


そんな子供にこの様な役割を任せるとは、我々はなんて情けない大人なのでしょうか。



「分かりました! お前.....シルヴィア様から離れろ!!! 喰らえ、エクスプロード!!!!!」


「へぇ、エルグラント人の子供は優秀だねえ......でもさぁ........それじゃまだ甘いよ」


健闘虚しく、レイリスの詠唱スピードを以ってしても、奴を捕らえることは出来ませんでした。



「あ、あれ......あいつはどこに.......ウワアアアアッ?!!!!」


ドレッドノートに強烈な蹴りを脇腹に打ち込まれたレイリス。


なんと彼は、この場から50メートル以上も離れた位置にある宿屋のガラスを、粉々に突き破るほどの勢いで吹き飛ばされてしまったのです。



「.......はいさようなら、少年」


ボロボロになったレイリスの姿を遠くから見て嘲笑い、そう呟くドレッドノート。



「なんてことだ.........このままでは殿下が...........」


これにより、現場にいたヘカトンケイルは全滅。


とうとう、殿下を守る者が一人も居なくなってしまったのです。



「さてと.......おい女、もう分かってると思うが、お前の力は俺にとって最大の脅威になる。 お前がこの国にいる限り、俺は迂闊に手を出せない。 つまり.......お前は生かしてはおけない存在だ」


「...........?」


ひと回りもふた回りも離れた大の男に見下され、目の前でこんな台詞を言われたら、普通の子供ならわけも分からず泣き出してしまうでしょう。



しかし、我が国の王女は違いました。


「だからなに? 私のことが怖いから、だから私を殺すって? 馬鹿じゃないの?」


「クク......これはまた気の強い女だな.......そういうタイプ、俺は結構好きだぜ?」


「あっそ。 じゃあ...........死んでくれる?」


なんと殿下はドレッドノートを恐れるどころか、背中につけていた二本の刀を抜き、一対一の戦いを挑んだのです。



実は殿下は、特別な用事でもない限りは城の外に出ることが一切無く、庭で刀の鍛錬を四六時中されている様なお方でした。


当時メイドの仕事をしていた、現シルヴィア様との娯しみの時間以外は、誇張抜きに刀と常に一心同体。



そのため王女という立場でありながら、その実力は折り紙つきで、あの団長と互角以上に渡り合える唯一の人物でもあったのです。



(素晴らしい........これが王女たる者の芯の強さなのか.......実に素晴らしい........)


私はこの様な状況にも関わらず、殿下の勇士に思わず感服してしまいました。


こんな素敵なお方、他のどの国を探しても絶対に見つからないでしょう。



そしてあわよくば、いえもしかしたら殿下なら、ドレッドノートを倒すことができるかもしれない。


そんな情けなくも淡い期待を抱いてしまった自分が、そこにはいたのです。



「緋皇剣......銀竜芭蕉(ぎんりゅうばしょう)!!!!!」


竜の様に天へ舞い、竜の様に疾く、竜の様に激烈な、空中からの急降下攻撃がドレッドノートを襲います。



「速いねえ......君ってもしかして、この中で一番強いんじゃないの?」


「汚らわしい口を開くな塵が!!!!! ここで死ね!!!!!!」


「口が悪いなァ.........本当に..........」


殿下の攻撃を恐れたのか、ドレッドノートは今まで温存していた両手をここにきてついに見せました。



そして.............



「悪い子にはさァ.........."しつけ"ってもんが必要なんだよなァァッ!!!!!!!」


「この距離で私の技を避けた?! ウッ―――――――?」


ドレッドノートは攻撃を直前でかわした後、すぐさま殿下の側頭部(こめかみ)を掴むと、


そのまま片手で殿下の身体を軽々と持ち上げ、勢いよく地面へ叩きつけたのです。



「グァ.........ガハッッッ!!!!!!」


大きな地震でも起きたのではないかと勘違いするほどの亀裂が、殿下の背中を敷く地面一帯に広がりました。


殿下は刀の達人とは言え、身体そのものはただの子供です。



これほどの強烈な一撃を喰らってしまったら最後、立ち上がれるわけもありませんでした。



「おっと、気絶させちまったか。まあいい......じゃ、宣言通りこの女は貰ってくぜ。 なぁに.....すぐに殺したりはしないさ、お楽しみは最後までとっておくのが常識だろう? あとそうだ、君達の仲間にかけていた洗脳は既に解いてあるから安心してくれ」



ドレッドノートはそう言った後、地に倒れたままの殿下を肩に担ぐように抱きかかえ、転移ゲートを生成しました――――――――

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