【第82話】エルグラント王国 過去編⑤
それからと言うものの、殿下の神の如きお力によって、団員達は次々と正気を取り戻していきました。
殿下も特に体調不良などを訴えることもなく、事は順調に運んでいき、
「........これで約50人か。 ダグラス、あとどのくらい残っているのか、お前なら見当ぐらいは付くか?」
「おそらくですが、まだ半分程度かと.......」
この時点で私達は、ある法則性に気が付き始めました。
その法則とは、様子がおかしくなった団員達が皆、共通して深手を負った状態だったこと。
となると、疑わざるを得なくなってくるのが、サイキックが使う洗脳魔法です。
洗脳魔法は、対象が弱体している時にその効果を強く発揮します。
そのため、深手を負った団員だけが豹変しているという見解は、あながち間違いではないと言えるでしょう。
「だがダグラス、お前は人間を洗脳する魔法なんて聞いたことあるか?」
「いえ、ありませんね.......そんなものが存在したら、今頃世界は崩壊しているかと」
そう、サイキックの洗脳魔法はあくまで魔物を対象としたものであり、人間には全くもって効果がありません。
ですが、今こうして団員達が洗脳を受けているというのは紛れもない事実です。
ヘカトンケイルは戦争中に仲間割れを起こすほど、統率の取れていない集団ではありませんからね。
では一体なにが団員達の身体と脳を支配し、この様な不可解極まりない行動を取らせているのか。
答えはもう、一つしかありませんでした。
「..........この恐ろしい状況を作り上げたのは、やはり呪術か」
団長は苦い顔をして、そう言ったのです。
おそらく帝国軍の中に、殿下と同じく呪術の使い手が存在する。
ここまでの仮説を整理した結果、我々はそう考えざるを得なかったのです。
ただ、殿下のおかげで状況が改善しつつあるのも事実。
この調子で救済を続けていけば、我々は今度こそ帝国軍に勝利したと言えるでしょう。
「未知の力が相手だろうと怯むわけには行かない、我々は王国騎士団ヘカトンケイルだ!! 殿下、どうかもう少しだけ、そのお力を我々に.....!!!」
「だから分かってるって。 さっさと行くわよ――――――」
殿下が振り返り、次の現場に向かおうとした、その時。
事態は急変しました。
――――――――たった一人の男の出現によって。
「なんか様子がおかしいと思って来てみたら........へぇ、始まりの記憶を持ってる奴がいたのか。 これはさすがに計算外だった......ククク......フハハハハハッ!!!!!!」
突如生成された転移ゲートから姿を現した男は、高笑いを見せながらそう言いました。
長身でスラっとした体系に、派手な銀飾りが多々ついている黒のロングコートを羽織り、
逆立たせた癖毛混じりの金髪に、額に刻み込まれた妙な紋章。
そして、人を小馬鹿にする様な笑みと姿勢が特徴で、もはや存在自体が挑発そのもの。
何より驚いたのは、その男から溢れんばかりに滲み出ていた王たる者の風格。
その姿を一目見ただけで、有象無象の兵や幹部とは"格"が違うということが分かりました。
「ヒヒヒ.......エルグラント人の皆さん、どうもはじめまして.......でも悪いねェ、早速だけどその女.......貰ってくぜ」
そう、その男こそが忌まわしきリザレア帝国の王であり、我が国から殿下を奪い去った張本人、皇帝ドレッドノートだったのです。
「誰だ貴様はッ!! 今の発言、聞き捨てならんぞ!!!!!」
団長は叫び、目の前の重罪人を処刑すべく剣を抜きました。
ドレッドノートの発言は、たとえ冗談だったとしても許されはしません。
口にするにしても、もう少し場所を選ぶべきだったでしょう。
何故ならこの王都で、この時、この場所には、ヘカトンケイル歴代最強の戦士グナン=ゼナードがいたのですから。
「来たれ、真なる剣よ!!! 我が前にその力を示すがいい!!! ゆくぞ!!!! ゾディアーク!!!!!」
ドラグーンの使う上位魔法、ゾディアーク。
自身が持つ武器の刀身を約20倍に延長させる効果を持つ魔法です。
実際に武器本体が伸びているわけではなく、魔力を武器の形に変換して疑似的にそう見えているだけではありますが、
その分重量は一切変わらないまま、リーチ・威力だけを大幅に強化することができるのです。
ゾディアーク発動中の団長は、まさに無敵の戦艦。
何百という兵が相手だろうと、容易く蹴散らしてしまうほどの圧倒的な強さを誇っていました。
そしてこの時も、私はいつも通り勝ちを確認し、心の中で勝利の宴を上げる準備をしていたのですが.........
――――――――現実は無情にも、私が思い描いていたものとは大きくかけ離れた結果になってしまったのです。
「この悪党めが......成敗してくれる!!!!」
「ちょっとなに? もしかして君、俺と殺るつもりなの? 悪いことは言わないから、やめといた方がいいと思うぜ?」
「フンッ、怖じ気づいたか! いまさら詫びたところで許しはせんぞ!!!」
団長が20メートル越えの長剣を振りかぶり、ドレッドノートの身体を真っ二つに切り裂こうとしましたが............
「おいおい.......街のド真ん中でそんなもの振り回したら危ないだろう?」
ドレッドノートは両手をコートのポケットに入れた状態のまま、上半身を逸らすだけで団長の剣を避け、
「なっ?! かわしただと――――――――」
「........馬鹿が............ウラアァッッ!!!!!!!!!!」
そして、その長い脚から繰り出される鋭い蹴りで、なんと団長の右腕を残酷にも吹き飛ばしてしまったのです。




