【第8話】光とシルヴィア、それぞれの決断
「えーと、全部でラムの葉150枚ですので、報酬は15000ルビになります。」
ギルドに着いた光とシルヴィアは、採集したラムの葉をクエスト成果の報告窓口に提出した。
「凄え...時給2000円以上だぞこのバイト。 コミュ力もいらないし天職じゃねえか...」
「バイト?コミュ力? でも、これで5日くらいは安心ですね!」
この街の宿は一泊1500ルビで、食事は一食300ルビ程度。
その為、無駄遣いをしない限りは、5日程度は凌げるだろう。
「もうかなり暗くなってるけど、ルーナはこれから帰るのか?」
「うーん、さすがに疲れちゃいましたし、今晩はこの街の宿を借りようかなと思います。」
普段は魔物がほとんどいないハープの森に、SS級のカノープスが出現。
更には、鎌瀬に続いて元クラスメイトの末元まで現れた。
そんな物騒なことが続いた日に、シルヴィア1人で帰らせるのは危険だと思っていた光は、そう聞いて安心する。
「それなら良かった。 あ、腹減ったし何か食べにいかない? 色々助けてもらったんだから奢らせてくれ。」
「確かにお腹は空きましたね。 せっかくなのでお言葉に甘えさせて頂きます。」
そう言って、二人は近くのレストランへ向かう。
(...あれ、今気付いたけど、俺普通に女の子と会話しちゃってるぞ。 しかも相手は王女で、顔は良く見えないけど多分超美少女。 冷静に考えたらヤバくね??)
「どうしたんですか光さん、何か変ですよ。 ソワソワしてるっていうか。」
光は急に冷静になったことで、持ち前のぼっち属性を発揮してしまい、冷や汗とキョドりが収まらない。
「ア、イヤ、ナンデモナイ...デス。 そ、それよりお店はこ、ここでいいかな?」
「本当に大丈夫ですか? なんか顔が赤いですし...」
光の挙動不審な態度に、シルヴィアは心配して顔を覗き込もうとする。
「いや!!!マジで何でもないから、早く店に入ろう!! おっさん!おすすめのメニュー二つ下さい!!」
「あいよぉ!!! 兄ちゃん、暗そうな顔に反して元気いいねえ!!!」
焦りに焦った光は、シルヴィアのオーダーを聞かずに二人分注文してしまった。
「あの...本当に大丈夫ですか?」
「ああ...もう平気だ(平気じゃないけど)。 それより勝手に注文しちゃってごめん、これ食べれる?」
席に座り、深呼吸をした光は、少し落ち着きを取り戻していた。
「私、基本的に何でも食べれるので大丈夫ですよ。 むしろありがとうございます。」
シルヴィアは笑顔でそう答える。
無理をしている様子はないので、何でも食べれるというのは本当なのだろう。
(...この子、もしかして天使かな?)
「スペシャルディナーセット、二人前おまちで!」
「おお...これは凄い。」
異世界の料理といっても、元の世界で食べていたものと大差はなく、とても美味しそうだ。
『じゃあ、いただきます!』
空腹の二人は、揃って食事に手を付け始めた。
「これめちゃくちゃおいしーです! お肉のジューシーさがたまりません!!」
「確かにこれはめちゃくちゃうまい...当たりの店だったな。」
それからも二人は黙々と食べていき、あっという間に平らげてしまった。
(...そういえば、誰かと一緒に食事するなんていつ以来だろう)
高校の昼休みは常に一人で過ごしていた光。
2分程度で菓子パンを食べ終え、残りの時間はスマホと睨めっこか寝たふりの二択。
そんな毎日に本人も慣れてしまっていたので、別に不満はなかった。
(...まあ、こういうのも悪くないな)
食事を終えて店から出ると、先にシルヴィアが口を開く。
「今日は色々ありましたけど、凄く楽しかったです。」
「あ、ああ...。」
食事中、光はこれからのことについて考えていた。
クエストをこなしてお金を稼ぎ、地道に暮らしていくのか。
それとも、シルヴィアに言われた通り学院に通い、魔法について探求するのか。
そして、シルヴィアが探している勇者のことも、このまま放っておいていいのか。
どの選択肢が正解なのか、いまの光には分かるはずもない。
まだこの世界に来てから、一日も経っていないのだから。
しかし、光の中で答えはもう決まっていた。
「...シルヴィア。 俺、魔法学院に行くことにした。 森で使った力、自惚れてるわけではないけど、あれは間違いなく強力な力だ。」
あれほどの力を発揮すれば、いくら無知な光と言えど、「ヤバい力」なのかそうでない力なのかは嫌でも分かる。
「...強すぎる力は危険を生むことだってある。 だから、俺はもっと魔法について知るべきなんだと思った。」
シルヴィアは光の話を黙って聞いている。
「でも、本当はもう一つ理由がある。 むしろこっちが本命だ。」
光はまっすぐシルヴィアの方を見ると、ふっーと深呼吸をしてから話す。
「俺はもう二度と今回のような醜態は晒さない。 シルヴィアに守ってもらって、シルヴィアが目の前で魔物にやられるのを黙ってみてるような奴になりたくねえ。」
光はあの時のことをずっと気にしており、自分が情けなくて仕方がなかった。
魔物に怯えて一歩も動けず、女の子に守ってもらった挙句、傷付けてしまった。
男として、ここまま終われるわけもないだろう。
「この後シルヴィアがどうするのかは分からないけど、もしまた同じような状況になった時、守ってあげられる力をつけたい。」
「......ほうほう。」
恥ずかしいセリフを立て続けに吐く自分と、終始冷静なシルヴィアのギャップに急に恥ずかしくなる光。
それでも言いかけたことは最後まで伝える。
「そ、その為には、力だけじゃなく魔法の知識も必要だと思ったから、俺は魔法学院にいく...って感じです。」
元の世界では死んでも言わないような台詞を言い終えると、シルヴィアが真面目な顔で話し出す。
「私も光さんが魔法学院に行くのは賛成です。 黒い魔法を使うなんて言ったら、きっと浮いちゃうかもしれないですけど、今後を考えたら魔法の知識は必ず得ておくべきでしょう。」
「ウッ...」
シルヴィアの「浮いちゃう」という言葉に瀕死のダメージを心に受けるも、何とか持ちこたえる光。
「ですが、一つだけ提案があります。」
「ん?提案?」
シルヴィアは真剣な眼差しで光を見つめ、誰も予想していなかった言葉を発した。
「私も光さんと共に魔法学院に行きます。」
「ああ、そういう感じか。 なるほど...え?今なんて?」
光はシルヴィアの言ったことに驚きを隠せない様子。
「ですから、私も魔法学院に通うって言ったんです。 何か問題が?」
「問題とかじゃなくて、王女だよね? いや、別に王族も普通に学校くらいは通うか...。」
王族が学校に通うことは特に珍しいことではなく、むしろ普通だ。
しかし、シルヴィアは国家機密級の任務に携わってる様子だった為、学校に通ってる暇なんて無いと光は思っていた。
あまりにも予想外だったので、続けてその理由を聞く光。
「一応、理由とかって聞いてもいい?」
「やはり、あなたが予言の勇者だと思ったからです。 あの力はハッキリ言って次元が違います。」
シルヴィアは一切の迷いも無く、話を続ける。
「私には魔力感知の能力があるので、あの時の光さんの魔力を直接感じていますからね。 だから私は王女として、勇者であるあなたの近くで、あなたの成長を見守る義務があります。」
要は光を勇者だと改めて思ったシルヴィアは、光と同じ魔法学院に通い、光が勇者としての力をつけるのを見届ける、監視役的な立場になるつもりだろう。
「事情は分かったけど、それ王様の許可は出るのか? そもそも、俺みたいな奴を勇者認定してくれるとは思えないんだけど...」
「そこは心配ありません、私に任せてください。そういうことなので、明日一緒に王城に来てくださいね!」
「(展開早いな...)まあ、失うものなんて俺には無いし、ダメ元で行ってみるか。」
光の返事を聞いて、「よしっ!」とガッツポーズをするシルヴィア。
「じゃあ今日のところは解散で、また明日ここで落ち合おう。」
「はい! ちゃんと早起きしてくださいね!! 遅刻厳禁ですよ!」
「...了解です。」
母親みたいなことを言う彼女に苦笑いを浮かべつつ、光は宿屋へと向かっていった。
光を見送ったシルヴィアは、最初に街に来てからずっと被っていたフードを外し、夜空を眺めながら呟く。
あなたは必ず勇者になれますよ。
だって、
「誰かを守るために強くなりたい」と思えることが、勇者にとって最も大切な要素なんですから―――




