【第79話】エルグラント王国 過去編②
「君達はもう知っていると思うが......実のところこの子は、我が国の王女ではないのだ」
国王はそう言って、シルヴィアの肩に優しく手を乗せる。
一方でシルヴィアは、やはり気まずそうにうつむき、複雑な表情を浮かべていた。
そんな彼女の様子を見て、光の心はズキッと痛む。
(王女ではない.....か。 いまのシルヴィアの反応を見るかぎり、多分良い話ってわけではねえんだろうなあ)
ずっと気になっていた、彼女の過去。
それを知る機会を貰えたのは、光にとって素直に嬉しいこと。
今まで何度かシルヴィア本人に聞いたことはあったものの、国家機密という理由で何一つ教えて貰えなかったからだ。
しかし、彼女はいま苦しんでいる。
放っておいたら壊れてしまうのではないかと、そう感じるくらい、つらく儚い表情をしながら震えている。
出来ることならこの場から一秒でも早く逃げ出したいとまで、思っているはずだ。
そんな姿を見てしまったら、過去の話を聞くことが出来て嬉しいだなんて口が裂けても言えなかった。
(にしてもなんか妙に緊張してきたな......この状態で刺激の強い話を聞いたらヤバい気がする。 王様、最初はとりあえず緩い話で頼むぞ)
光がそう思ったのも束の間。
まだ話は始まったばかりというのに、早速国王から衝撃の発言が飛び出してくることになった。
「そして、私や私の妻とこの子の間には.......血の繋がりが一切無い」
「なっ!!!???」
「ええええーーー????」
国王の言葉を聞くやいなや、ひっくり返るほどの勢いで驚愕する光たち。
血が繋がっていない、つまり赤の他人というわけだが、ではこのシルヴィアは一体何者なのか。
その答えは、光たちに更なる衝撃を与えることになる。
「血が繋がってないって........じゃあシルヴィアは一体.......?」
無意識に席から立ちあがり、そう問う光。
対して国王は、シルヴィアに本当の父親としか思えない暖かい眼差しを向けながら、答えた。
「この子は.......ルーナは、マーリス村という小さな村で生まれ育ったごく普通の少女なのだ」
「.......って、てことはシルヴィアはガーネットの妹とか親戚とかじゃなくて、赤の他人ってことっすか?」
「その通りだ」
「まじっすか......」
いきなり告げられた仰天話に、唖然とする光
そんな彼に対し、国王は先程の発言に補足をする様にこう言った。
「たとえ血が繋がっていようがなかろうが、ルーナが私の娘であることに変わりはない。 親子というものはな、血縁の有無だけで決めつけていいような単純な代物ではないのだよ」
「確かにそうっすね......すいません」
一度落ち着き、光は席に座り直す。
(なるほどな......とりあえず最悪のパターンではないみたいで安心したぜ)
光が思っていた最悪のパターンとは。
それは、シルヴィアが本当の娘ではないという理由で、国王を始めとする王族に実は裏で粗雑に扱われていました、みたいなよくありがちの展開だ。
国王が嘘をついているとは思えないし、ひとまずこのパターンは無いとみていいだろう。
もし仮にそうだった場合、この場で光が国王を殺していたかもしれないので一安心である。
「ではなぜそんな村娘のルーナが今、こうして王女に成り代わり、日々を生きているのか。 それは........それは我が娘、シルヴィアが帝国の奴らに奪われてしまったからだッ!!!!!!」
王は突然声を荒げると、テーブルが壊れるかと思うくらいの勢いで叩きつけた。
「ハァ.......ハァ........ハァ......」
怒りと悲しみで激しく興奮し、呼吸が荒くなる国王。
不意の出来事に、応接間は再びずっしりとした重い緊張感に包まれる。
だが...........
「陛下、よろしければこちらの紅茶をお飲みください。 感情の流れが緩やかになるレースの葉の成分が含まれております」
そんな中、ダグラスだけは特に驚くような素振りは見せず、冷静に国王を宥めていたのだ。
気に食わない男だが、さすがに団長を務めているだけあって仕事は出来るらしい。
目の前に出された暖かい紅茶を一口すすり、深呼吸をする国王。
「コホン......王たる者がなんとも情けない姿を見せてしまったな、すまなかった。 では話の続きをしよう」
――――――ここからは光たちにとっては完全に未知の世界である、エルグラント王国の過去についての話が始まった。
時は遡り、今から5年前。
ある日突然、長きに渡り続いていた我が国の平和を脅かす、史上最悪の事件が起きた。
この王都ニヴルヘイムが、リザレア帝国軍による大規模な襲撃を受けたのだ。
事前に何らかの予兆があったわけでもなければ、国同士での確執があったわけでもない。
言葉通り唐突に、この忌まわしき戦争は起こったのだ。
我々は奴らの目的すらも分からぬまま、国と民を守るため死を賭して戦った。
「ダグラス班!!! お前たちは城へ行け!!! ここは俺達が抑える!! 何が何でも陛下と殿下をお守りするのだ!!!」
当時ヘカトンケイルの元帥を務めていた男、グナン=ゼナード。
彼は総指揮だけに留まらず、自らも団長として前線に立つほどの、名実共にトップの男だった。
そして、グナンを中心としたヘカトンケイルはその名の通り、まるで50の頭と100本の腕を持つ巨人の様な鉄壁の守りを発揮する。
我が軍は、迎撃体勢が整っていない状態で攻め込まれたにも関わらず、瞬く間に帝国軍を殲滅していったのだ。
国民への被害も最小限に留まり、怪我人こそ多く出てしまったが、死者はゼロ。
数で言えば、1000対700と我が軍が上回っていたとはいえ、出来過ぎた結果であった今でも思う。
「貴様で最後だ! 恥知らずの悪党共め、二度とその面を見せるなァッ!!!!」
帝国軍最後の生き残りであった幹部を、グナンはその手で討った。
これによって我が軍の勝利が確定する。
数多くの団員が命を失ってしまったが、我々は帝国を退けることに成功したのだ。
――――――――そう思ったのも束の間。
本当の悲劇の始まりは、ここからだった。




