【第78話】エルグラント王国 過去編①
~ニヴルヘイム城 応接間 にて~
「シルヴィア様遅いねー。 なにしてるのかなー?」
「まあ突然本物の王女が見つかった?生きてた?っていうんだから、色々大変なんじゃないかなー、知らんけど」
「確かになんか城の中にいた人達もみんなあたふたしてたもんね、知らんけど」
レイリスに待機するよう指示されてから、かれこれ30分が経過していた。
応接間は20畳ほどの広さがあり、テーブルと椅子も一級品なので待合室としては文句無しなのだが、30分も経つとさすがにダレてくる。
部屋のあちこちに置いてある王族限定インテリアや備品を前に、最初こそ九条とナギサは盛り上がっていたが、それらも5分経たずに飽きてしまったらしい。
ゆえに彼女たちは今、暇なのである。
「うーめっちゃひまだーお腹空いたー」
椅子に座って足をバタバタさせながら、ナギサはそう言う。
「そういや、うちら結局お昼食べてないな。 ナギサっち、これ終わったらどっか食べいかない?」
「おっいくいく! なんかこの近くに美味しいレストランあるらしいからそこ行きたい!」
(こいつらが知り合ったのって確か昨日だよな.....? 仲良くなるの早すぎないか? どうなってんだ?)
光はそんな感想を抱きながら、いかにも学生っぽい会話をする二人をじっと眺めていた。
「おや......? ふっ、なるほどね」
突然、九条がニヤっと笑う。
そしてその怪しい笑顔を浮かべたまま、こう言ってきた。
「三刀屋、お前も一緒にご飯食べに来るだろ?」
「.......は?」
自分に話が飛んでくると思ってなかった光は、驚き顔でそう返す。
「だから、私とナギサっちと一緒にご飯食べに行くよな? お前もお昼食べてないだろ?」
「......いや普通に遠慮しとくわ」
「まあそう言うなって。 ほら、ナギサっちも来て欲しいってよ」
「いや言ってないだろ。 二人で行ってこいよ」
なぜ九条が自分を誘ってくるのか、全く分かってない光。
彼からしてみれば、からかわれている様にしか感じないため、誘いを断固拒否する。
「大体いまはそんなことを話している場合じゃ――――――」
しつこい九条に光がそう言おうとした時。
部屋の扉がガチャッと開く音が聞こえてきた。
そして、この度の主役である面々がぞろぞろと部屋へ入ってくる。
ご登壇されたのは、レイリス、シルヴィア、国王、そしてヘカトンケイル団長のダグラスの4人だ。
「では陛下、シルヴィア様はこちらに」
レイリスは完璧な立ち振る舞いで、国のトップ2名を席に案内する。
無駄な動作、言動、身振りは一つとない。
やはりこの男は仕事ができる男だ。
「うむ........」
10人掛けダイニングテーブルの先頭に、国王とシルヴィアが隣り合わせで座る。
これで、既に着席していた光たち三人と向かい合う形になった。
(すげえ、王様を生で見たの初めてだ、私。 んー.......でも思ったより普通だなあ)
(わかる。 なんかただのおっさんにしか見えないよね)
(お、おいお前ら! 今だけはそういうのマジでやめろ! 首飛ばされるぞ! つーかその顔やめろ!)
わざわざ言葉にせずとも、思っていることが顔に出てしまっているナギサ。
そんな彼女を黙らせるため、光はこっそりと彼女のアホ毛をエグゼキューターで引っ張った。
(痛い痛い痛い痛い!!! 抜ける!!!! 触角が抜ける!!! )
(少しは反省したか?)
(わかったから!!! 抜けるから!!! ほんとごめんって!)
目に涙を浮かべながら顔を振り、何度も謝罪をしてくるナギサ。
(分かればいいんだよ、分かれば)
謝罪を受け、光はエグゼキューターを右腕に戻す。
さすがのナギサも、これには珍しく本気で反省したようで、すっかり大人しくなっていた。
少々可哀想ではあったが、こうでもしないと冗談抜きで処刑されかねないので、判断は間違ってなかったと信じたい。
「では早速ですが、先刻ゼラの洞窟にて発生いたしました事案についての、評議を開始させて頂たく存じます。 尚、この度の評議で知り得た内容は他言無用でお願いいたします」
国王が現れても尚ふざけ倒すナギサたちを余所に、レイリスが開始の言葉を告げる。
どうやらヘカトンケイルの二人は席には座らず、立ったまま進行に徹するらしい。
(確かこいつはダグラス......だったか。 相変わらず顔が怖えな、しかもまた俺の事睨んでないか?)
初めて王城に訪れた際も、ダグラスは光のことが気に食わないといわんばかりの表情で睨んでいた。
現状彼のことは、ヘカトンケイルの団長という情報以外は何も知らない。
ただ一つ言えるのは、決して良い奴ではないということだ。
「まずはこの度、ディアヴォルスの団員がゼラの洞窟にて――――――」
「不要だ、レイリス」
レイリスが話している途中にも関わらず、突然国王はそう言った。
これはもちろん、レイリスの進行の仕方が気に食わなかったとかではない。
堅苦しいことは抜きにして、早く本題に入るぞという意味だろう。
「失礼いたしました、陛下。 では私は........」
「うむ。 あとは私の方から勇者殿とそのお仲間たちに話そう」
「はっ!!」
国王がそう言うと、レイリスとダグラスは訓練された動きで、素早く一歩後ろ引く。
(.......ゴクリ)
同時に光たちの間に緊張が走った。
国王が直々に話をするとくれば、さすがのナギサ・九条コンビも身構えざるを得ない。
光は一度会話をしているため多少は慣れているが、やはり溢れ出る緊張感は隠せない様子だった。
「まずは勇者殿、九条殿、ナギサ殿。 この度は私の"娘"が迷惑を掛けたようで、すまなかったな」
国王が最初に一言そう話すと、ナギサと九条は早速とある一つの疑問が生じる。
(ん?勇者って誰? あ、もしかして僕?)
(いや私じゃない? ま、普通に三刀屋だけは無いっしょ)
(でも三刀屋氏だけ名前呼ばれてなくない?)
(え、じゃあ三刀屋が勇者なの? 嘘でしょ?)
そんな会話をコソコソと始める二人。
(そういえばこいつらにそこまでは話してなかったな.......まあいいか、うるさいから放っておこう)
この場で説明するのはとてつもなく面倒なので、光は彼女らを放置し会話を続けることにした。
「いえ俺達は何も.........」
「勇者殿の活躍は今回の件に限らず、私は全て聞いている。 もっと自分を誇っても良いのだぞ」
「いや本当に大したことはしてないんで......」
そうは言いつつも、内心では喜んでいる様子が見てとれる光。
しかしそんな喜びも束の間、国王は本題に突入すべく、表情がガラっと変わった。
先程までは比較的にこやかだった表情が、まるでスイッチで切り替えたかのように険しいものへと切り替わる。
「ふむ、ではどこから話そうかのう.............」
顎に手を当て、唸る国王。
今宵の議題は以下の四つだ。
ガーネット、帝国、始まりの記憶、そしてシルヴィアの過去。
どれをとってみても、ものの数分では語り切れないほど重く深い話ばかりである。
正直、一つ聞くだけでもお腹いっぱいになってしまいそうだ。
しかし今後の行動方針を決めるあたって、これらの情報は必要不可欠。
そして、一つたりとも欠かしてはならない。
ジグソーパズルと同様、ピース全てを組み合わせることで、初めてそれらは意味を成すのだ。
全てはシルヴィアを救うために。
―――――――いよいよ、国王による長い長いご講演が幕を開ける。




