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【第75話】嘘つき

時刻は16時30分。


合宿所のラウンジにて、最後の授業「ドキドキ☆ワクワク☆真夏のLet's Hunting!!」の表彰式がおこなわれていた。



「えー優勝は見事37グレードを積み上げた、このパーティーだ!!!」


セシルが高らかにそう声を上げると、光にとってよく見慣れた面々がステージに上がってくる。


元クラスメイトであり同じ転生者でもある、片桐・不動・真田の男三人組だ。


彼らの後ろに見たことも聞いたこともない地味な男が二人いるが、正直どうでもいい。


というか、誰が優勝しようが何しようが全部どうでもよかった。



光は今、それどころではないのだ。



始まりの記憶(ジェネシス・コード)のこと、シルヴィアのこと、そしてガーネットのこと。


光は一応ただの学生という身分ではあるが、国家機密レベルの事案をいくつも抱えている。


そんな状態では、学院の授業などに身が入るわけもないだろう。



(あーーーとりあえず早く寝たい.........いやでもさすがに腹減ったな......今日はまだここに泊まるんだっけ.......久しぶりにカップラーメン食いてえなあ)


セシルや他の教師たちの話に一切耳を傾けず、天井を見ながらそんなことを思う光。


きっと肉体的にも精神的にも、どうしようもないくらいに疲れているのだろう。



つい先程まで、世界最強としか思えない強さを持った戦士と一対一で戦っていたのだ、無理もない。


彼を含むディアヴォルスのメンバー全員には、いますぐにでも休んで欲しいと心の底から思う。


そう思うくらい、本当に激しくて、厳しくて、苦しい戦いだったのだ。



そんな彼を余所に、表彰式は止まることなく進んでいく。


成績上位者の表彰を終えると、学院長らしき人物から、最後の挨拶がおこなわれた。


「これをもって、フォルティス魔法学院第.....308回?......だったかの特別合宿を終了とする。 王都に戻るのは明日の早朝だ。 では解散!!!!!」


話の内容が色々と適当なのは、触れない方がいいのだろう。


この学院の教師は基本適当なため、気にしたら負けなのだ。



学院長の挨拶が終わると、適当教師筆頭のセシルがクラスの生徒達に次なる指示を出す。


「あ、学院長は解散って言ってたけど、この後は外で飯作って貰うからどっか行くなよー」


『えーマジかよーー......』


『最終日なのに自分たちで作るんですかーーー?』


『シルヴィア様の......て、手料理...!!!.....フフ.......フフフ!!!』



どうやら、生徒達は夕食を自炊しなければならないらしい。


学校行事でありがちな、俗に言う野外炊飯というやつである。


遊びではなく、一応これも授業の一環だとかなんとか。



ゼラの洞窟に入って以降の出来事が、殺伐とし過ぎていて忘れかけていたが、光は今楽しい楽しい合宿に来ている最中なのだ。


今くらいは羽を伸ばして、クラスメイト達と思い出に残るひと時をぜひ過ごして欲しい。



と思ったのだが。



「俺は寝る........死んでも野外炊飯なんてやんねーぞ...........」


嫌と言いながらも何だかんだで楽しそうにしているクラスメイト達を余所に、


こっそりと立ち上がり、幽霊の様に静かに去っていこうとする三刀屋 光の姿がそこにはあった。



先程も言ったように、彼は心身共に酷く疲れているのだ。



決して、「隅っこで一生雑用をさせられる」「班に溶け込めず、完成した料理を一人で黙々と食べざるを得なくなる」「何も指示を貰えずに終了時間までひたすらボーっとつっ立っている」みたいな展開になるのが怖いから、逃げているわけではない。


決して、元の世界に居た頃、実際にそういうことがあったから野外炊飯がトラウマになっているとか、そういうわけではない。



そう、決してだ。



(ま、俺が居なくなっても誰も気付かねえだろうし、さっさとベッドで...........ん?)



『シルヴィア様って、料理は大得意!みたいな感じだったりするんですかー?』


「え、えっと、まあ、ある程度は......そうですね.......」


『お、おい、お前失礼なこと聞くんじゃねえよ! シルヴィア様に苦手なことなんてあるわけないだろ!!』


『は? いやただ聞いただけだし。 なにもしかしてあんた、シルヴィア様と同じ班になって、間接的に手料理食べるの狙ってるわけ?』



ふと光の耳に入ってきた、そんなやり取り。


いつもとなんら変わりのない、1-A定番のシルヴィア持ち上げ合戦だった。



(相変わらず人気者だな.........)


この場にいる人間の中で彼女の秘密を知っているのは、ディアヴォルスのメンバーだけ。


ゆえにクラスメイト達にとっては当然、いまもシルヴィアはシルヴィアであり、国の王女なのだ。


だから皆、彼女を慕い、憧れ、惹かれいく。



(にしても、まさかシルヴィアが本物の王女じゃなかったなんてなあ........)


だが言い方を変えると彼女は、クラスメイトや国民全員、そして光に対して重大な嘘をついていた、ということになる。


今後もし国民が真実を知るようなことがあれば、その瞬間手の平を返し、狂ったようにシルヴィアを叩く層が現れても不思議ではない。


いや、その辺の事情に敏感な人間は国に必ず一定数居るため、もはや避けては通れない道だろう。



結局、ゼラの洞窟から学院に帰還するまで、光とシルヴィア、そしてレイリスの間に会話は無かったため、詳しいことはまだ何も聞けていない。



しかし、いま彼女が何を思い、何を感じ、どんな気持ちでこの場に立っているのか。



それを光が分からないはずもなかった。



(つらかったよな..........話したくても話せなくて、誰にも相談できなくて。 王女を演じ、王女の責務を果たし、周りに嘘をつきながら生きていくしかない。 しかも、バレたらバレたで今度は裏切り者だの、嘘つきだのと言われ、蔑まれる未来が待ってる。 そんなの、俺だったらとてもじゃねえけど耐えらんねえよ)



いまだって一見、クラスメイトと普通に会話している様に見えるが、それは表面だけだ。


彼女の心は今、枯れた花のように色あせ、ボロボロになっている。


私は嘘をついた、皆をずっと騙していた、もう皆に会わせる顔が無い、なんてことを思っているのではないだろうか。



きっと彼女は一つ、大きな勘違いをしている。


光はなにも、シルヴィアが「シルヴィア=ルー=エルグラント」だから、という理由で今まで彼女に尽くしてきたわけではない。



ずっと一人だった自分に笑顔で手を差し伸べてくれた、かけがえのない友達だから。


だから彼女の為に戦い、血を流し、似合わない努力までしてきたのだ。



ゆえに本物の王女じゃないと知ったところで、シルヴィアに対する目や扱いは今までと何一つ変わらない。


彼女の存在価値が下がったり、失望したり、ぞんざいに扱ったりなんてのは、もってのほかだ。



(まったく........どうでもいいことをいちいち気にし過ぎだっての)


ブラック・エヴァ―セントを使い、こっそりラウンジの出口まで来ていた光だが、直前で足を止め、振り返る。



そして、強い自責の念に駆られている彼女の元へと向かった。

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