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【第74話】それぞれの葛藤

「......おいレイリス、それは何の冗談だ? 暴走するのは勝手だが、せめて空気くらいは読めよ」


光は苦笑いと大量の汗を顔に浮かべ、そう言う。



鬼よりも悪魔よりも恐ろしい、あのガーネットの正体がこの国の王女だなんて話、誰か信じるのだろうか。


しかも、名はシルヴィア=ルー=エルグラントというらしい。



なんとあの超絶美少女で、笑顔がキュートで、スタイルが良くて、性格も良くて、皆の人気者で、光の友人である、あのシルヴィアと同姓同名ときた。



似ても似つかないくらいの対局的な二人なので、お互いのイメージを傷付けないよう、どちらかが改名した方がいいのではないだろうか。



と、余談はさておき、あまりにも馬鹿げた話であった。


嘘をつくにしても、もっとまともな嘘が他にいくらでもあったろうに。




そもそも仮に事実だった場合、今度は「今まで共に過ごしてきたこのシルヴィアは一体誰なのか議論」をする必要が出てくる。


そんな議論はしたくないし、やる必要もない。



やはり、レイリスのハッタリなのだろうか。


実は裏でガーネットと繋がっていて、適当な理由をつけて彼女を守ろうとしているのだろうか。



(うん、ダメだ、やっぱり意味分かんねえ。 マジで何言っちゃってんの、あいつ。 馬鹿なの?)


光は考えれば考えるほどに、新たな疑問が浮かんでくる。



始まりの記憶(ジェネシス・コード)とか、魔力(マギア・)感知(パーセプション)とか、ルーナとか、ガーネットの正体とか、もう何がどうなっているのか、全く分からない。



ひとまずその真偽を確かめるべく、光はシルヴィアに聞く。


「えっと、シルヴィア? あいつの言ってることって、その.........マジなのか?」



お願いだから「NO」と言ってくれ、と心の中で光は叫ぶ。



「.....っ!」


だが無情にもシルヴィアは、声に出して返事はしなかったものの、コクリと頷いたのだ。




「...........んな馬鹿な」


口と目を大きく開き、唖然とする光。


衝撃すぎて、何とコメントしたらいいのかも分からない、そんな様子が見て取れる。



それはナギサと九条も同じだった。


「これはまた........凄いこと聞いちゃったねえ。 まさかこの機械女が王女様だなんて.......」


「え、でもさ、じゃあさ、こっちのシルヴィア様は何者なの? 妹?それともお姉ちゃん?それとも全然関係ない人?」



(いやお前、今そこに触れるなよ、更に面倒臭くなっちまうだろ。 俺があえて触れてなかったことに気付けよ。 いや頼むからほんとにやめて......)


ナギサの禁忌に触れる様な発言に、光はギョッとした顔をしながらそう思う。



「..........よくもまあ、そんなくだらない話で盛り上がれるな、貴様らは」


「「ッッ!!!???」」


ディアボルスの面々がそれぞれの思いの丈を語る中、倒れたままのガーネットが久しぶりに言葉を発した。



彼女は苦しそうに咳をしながらも、話を続ける。



「良く聞け、ルーナ........私はお前を必ず捕らえ、連れていく.........それが私の役目であり、主様からの命令なんだ」



「シルヴィア様、なぜあなたがそんなこと........だってあなたは..........」



シルヴィアとガーネット、この二人のまともな会話を聞くのは初めてかもしれない。


光たちにとっては違和感しかないが、彼女達は当たり前のようにお互いの本名と思われる名で呼び合っていた。


やはり例の話は本当だということだろう。



「ふふ.........始まりの記憶(ジェネシス・コード)を持つ者は本当に大変だな..........」


「ジェネシス・コード...........はっ?!! まさか!!!!! シルヴィア様は――――――」


会話の途中で、現シルヴィアが急に取り乱す。


そんな彼女が、いつになく動揺した様子でガーネットに何かを聞こうとした、その時だった。



「.........カタスティ・ポートッ!!」


ガーネットはそう言って、得体のしれない宝石のような物を握り潰す。



すると、彼女とその部下たちの周りに空間転移用のゲートが突然出現したのだ。




「シルヴィア様!!!!!! 待っ――――――」


「また会いに来るからね.............ルーナ」


ガーネットに向けて必死に手を伸ばし、追いかけようとするシルヴィア。



「こ、こいつやりやがった........!!!! クソッ、逃がすかッ!!!!!!!」


気付いた光が魔法を放とうとするが、時すでに遅し。



―――――――まもなくして、ガーネットたちは次元の渦の中に吸い込まれていったのだ。



まさかドラグーンである彼女がサイキックの魔法を使う手段を持っているなんて、思いもしなかった。



あと少しで末元の尻尾を掴むことが出来たはずなのに。


もちろん、途中で思わぬ展開になったため仕方ないと言えば仕方ないし、誰も光を責めたりはしないだろう。



それでも本人からしてみれば悔やんでも悔やみきれない、今世紀最大級の大失態だった。



「嘘だろ...........なんだよこれ........失態とかそういうレベルじゃねえぞ...........」


怒りと困惑と焦りが混ざった様な表情で、一人そう呟く光。



「んと、どうする? お腹空いたし、とりあえず帰る?」


「でもうちら、魔物の素材一個しか取ってなくない? このまま帰っても絶対ビリだよ?」


「グエェ?!! マジで?! 僕、ビリだけは嫌だ!!! (ビリ)だけに!!!!」


ひと仕事終えたと言わんばかりの雰囲気で、他愛もない会話を交わす九条とナギサ。



「シルヴィア様は........やっぱり.............」


「ルー...シルヴィア、君はもう休んだ方がいい。 学院には僕が言っておくから」


何か重要なことに気が付いた様子で、震えながら呟くシルヴィア。


そんな彼女の肩に手をやり慰めるレイリスだが、彼自身も酷く疲弊している。


そして、まるで生きる指標を見失ってしまったかのように、ただ茫然と立ち尽くしていたのだ。




こうして、ゼラの洞窟の探索および、ディアボルスの初任務は終了を迎えた。


結果は成功とはお世辞には言えないものの、強敵ガーネットを退け、全員無事生還することが出来たのは胸を張って良いはずだ。



だが、始まりの記憶(ジェネシス・コード)やガーネット、そしてシルヴィアに関する問題の数々。


かつてない情報量の多さと、その濃すぎる密度に、これから光はどう動いていくのか。



勇者としての力量を真に試される時が来てしまったのかもしれない。

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