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【第73話】シルヴィア=ルー=エルグラント

("これ"はもう........必要なさそうだな)


光は、もがき苦しむガーネットの様子を見て、悪魔の力はもう不要だと判断し変身を解除する。


自らの意思で解除は出来るのに、発動は出来ないという、不思議なこの力。


今後また、光がこの姿を見せる日は来るのだろうか。


来ない方が、光自身もシルヴィアも、きっと幸せに違いない。



「おい、生きてるか?」


ガーネットが倒れている位置まで向かい、そう声を掛ける光。


最後の一撃で彼女の命を絶つこと自体は容易だったが、光は敢えてそうはしなかった。


なぜならまだ彼女には、聞かなければならないことがあるからだ。



「...........貴様のせいでお気に入りの服がボロボロだ.......どうしてくれ―――――グハッ!!!......ハァ.....ハァ......」


血反吐を吐きながら、他愛もないことを口に出すガーネット。


そんな姿を見て、不覚にも心が痛んでしまう光だが、すぐに本題へ入る。



「お前は末元を知っていると言ったな、あいつは今どこにいる? お前らの本拠地の場所はどこだ?........答えろ」


「.................」


末元の居場所、そして帝国とやらは一体どこに拠点を置いているのか。


残念ながら、ガーネットはそれを話すつもりはさらさらないようだ。



とはいえ、今は末元に関する情報を聞き出す、これ以上と無いチャンス。


無理矢理にでも、吐かせるほかない。




「ナイトメア・ペイン........やれ」


エグゼキューターが螺旋状の鎖に変形する。


そして、瀕死状態のガーネットに容赦なく飛び交った。



だが、その直後。


鎖が何者かの手によって、大きな爆発音と共に破壊されてしまったのだ。



「.......は?」


光は攻撃が飛んできた方向へすぐに目を向け、そして言う。



「お前.........自分が今なにをやったか、分かってんのか?」


光が怒りをあらわにし、そう問うた人物とは。



「聞いてんのか.........レイリス!!!」


ヘカトンケイルの団員にして、同じ魔法学院に通う生徒、レイリス=ヴィルターナだった。



「............」


レイリスは魔法を放った手を、まるで痙攣が起きているかのようにプルプルと震わせ、顔を真っ青にし、黙ってこちらを見ていた。



おそらく彼のメンタルは今、崩壊しかけている。



ガーネットが現れた直後からずっと、レイリスは様子がおかしかった。


まともに口を開かず、震えているばかりで戦闘にも参加しない。


ヘカトンケイルNo.3の名が廃る、ただの置物と化していた。



そして、それはシルヴィアも同じだった。


彼女も、まるで自分の意思そのものが無くなってしまったかのように、ただじっと戦況を眺めているだけであったのだ。



「おいレイリス、いい加減に――――――」


「そのお方に.........触れるなァァァ!!!!!!!」


「は、はあっ!? いきなり何言ってんだお前――――――」



突如、レイリスが発狂する。


更には、腰につけていた剣を抜き、すさまじい形相で光に襲い掛かってきたのだ。



「えええええ何してんの、イケメンくん!?」


「あわわわわわ、三刀屋氏逃げてー!!!」


その様子を見ていたナギサと九条も、思わず驚きの声が漏れてしまう。



「ウワアァァァッ!!!!!」


「クッ.........落ち着けこの馬鹿ッ!!!!」


正気でないレイリスなど、光の相手ではない。


剣をひょいとかわし、動きを止めるべく、腹部に膝蹴りを打ち込んだ。



「.......ったく、一体なんだってんだよ。 真面目過ぎて、ついに頭がイカれたか?」


「うぅ........僕は.......シルヴィア様に仕える騎士、レイリス=ヴィルターナだ........僕の使命は、シルヴィア様をお守りすること.......」


「いや、知ってるけど........」



両手と膝をつきながら、突拍子も無いことをボソボソと呟くレイリス。


原因は不明だが、やはりメンタルが崩壊していると見ていいだろう。



ただ、今はレイリスにかまっている場合ではない。


光は一旦彼を放置し、サーベル状に変型したエグゼキューターをガーネットの首元に向ける。



「思わぬ邪魔が入ってしまったが........さぁ、知っていることを全て話して貰うぞ」


「フフフ........馬鹿か貴様は.......主の居所をやすやすと吐く(しもべ)がどこにいる.......」


「その気は無いってか..........なら、仕方ない」



そう言って、光はサーベルを振りかぶる。



末元や帝国とやらの情報を聞き出すためなら、彼はもう手段を選ばない。


たとえその手段が、人間としての倫理に反するものであったとしても。


そうでもしない限り、シルヴィアを魔の手から救ってあげることは出来ないのだから。



「........悪く思うなよ!」


ガーネットの右肩付近を狙い、腕を振り下ろそうとした、その時だった。



「待ってください!!!!! 光さん!!!!!!!」



シルヴィアが突然、そう叫んだのだ。



「.......ッ!?」


光のサーベルは、ガーネットの体に触れる直前でピタッと止まる。



「シ、シルヴィア? あの馬鹿に続いて、君までどうしたんだ.......?」


困惑と驚きが混合し、どう反応したらいいのか分からないといった表情で、光はそう声を上げる。



自らの命を狙い、殺意の刃を向けてきた敵を、なぜシルヴィアは庇ったのか。


光はシルヴィアを守るためだけに、一度死に掛けながらも、その敵と戦い続けたのに。


そして、今だって彼女だけを想い、気が進まない残虐行為にも、迷わず手を染めようとしていたのに。



とにかく、シルヴィア本人に理由を聞かない事には、何も始まらない。



「..............」


立ったまま俯き、髪と陰で顔が隠れ、表情が確認できないシルヴィア。


彼女は今、どんな顔をしていて、どんな想いであんな行動を起こしたのか。



光は深刻な表情で、問う。


「シルヴィア......それにレイリス、一体なんのつもりだ?」



途端に空気が重くなるのを感じた。


誰一人言葉を発しない時間がしばらく流れる。



もしかしたら、知らない方がよかったのかもしれない。


このままうやむやにして、ガーネットたちをヘカトンケイルに引き渡してしまえばよかったのかもしれない。



それでも、聞かずにはいられなかった。


きっとこの問題は、シルヴィアの過去に大きく関係する部分だと思ったから。



「二人共、黙ってないで答えてくれ。 なにか事情が――――――――」


光がため息をつき、そう続けようとした、その時。



レイリスがおぼつかない様子でフラフラと立ち上がる。



そして彼はとうとう、その重い口を開いたのだ。



「............彼女は............いや、そのお方は――――――――――」



レイリスが次に発する言葉。


光はそれを、にわかには信じられなかった。





「そのお方は........ジブニール=ザ=エルグラント王の娘......つまり、このエルグラント王国の第一王女、シルヴィア=ルー=エルグラント様.....ご本人だ」

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