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【第7話】ついに新たな転生者、現る?!

『キヒヒヒ...アアア...!!』


三刀屋 光の前にそびえ立つのは、15体にも及ぶSS級モンスターの壁。


彼らは視線の先にある「人間」という名の餌をどのようにして捕食するか、もはやそれしか頭にない。


口から流れ落ちる粘着力の強い唾液と舌舐めずりを見ているだけでも、背中が凍るほどの恐怖を覚える。


そして、今まで盾となってくれていたシルヴィアは気を失っており、指先一つ動かない状態。



"絶望"という言葉がここまで似合う場面は他に無いだろう。



だが、これらは光がまだ"普通の人間だった頃"の話に過ぎない。


今の彼は、人間ではない別の何かに移り変わっていた。



『グギャオアアア!!!!』


再びカノープスの群れが動き始める。


光を四方八方から取り囲むような陣形を取り、一斉攻撃を開始。


鼓膜が破れそうになるほどの激しい轟音と共に、森林を微塵切りにするかの如く解き放たれた風の刃が襲い掛かる。



「......遅すぎる。」


その刹那、光の周囲に漆黒の防護壁が突如現れた。


これはおそらく......いや、間違いなくシルヴィアの魔法ではないだろう。


防護壁はカノープスらの攻撃を余すことなく全て吸収。


驚くことに、あれほどの破壊力を秘めた攻撃をあっさり防いでしまったのだ。



そして、黒煙が渦巻くその中心には、自らの右手をじっと見つめ、不気味に笑う光が立っていた。




同時刻、カノープスの群れから少し離れた位置で眠っていたシルヴィアの身体が、僅かに動きを見せた。


「いたっ...うぅ..この魔力は一体...?」


幸い、シルヴィアは無事だった。


完全な状態ではなかったが、防御魔法の発動はギリギリ間に合っており、致命傷には至らなかったようだ。



そしてシルヴィアは、いま自分が置かれている状況に目を疑った。


自身を瀕死に追いやったカノープスが15体に増えている。


更には、悪魔のような見た目をした生き物まで加わっている。


目が覚めた瞬間にこんな光景を見せられたら、普通はパニックになるだろう。


しかし、それでもシルヴィアは何とか冷静さを保ち、改めて周りの状況を確認する。



「あれは光さん...なの?」


目の前にいる、おそらく元は三刀屋 光「だった」ものを見て絶句するシルヴィア。


それもそのはず、今の光は傍から見たらただの化け物だ。


全身に纏った禍々しい漆黒のオーラ、真っ赤な充血、青と白の瞳孔、そして背中に生えた黒い翼のようなもの。



圧倒的な強者感を醸し出していたカノープスも、先程までと比べて明らかに弱気になっていた。


15体で一斉攻撃したというのにたった一枚のバリアで防がれてしまったのだ、無理もないだろう。



「どうした.....怖気づいたのか?」


一方、光は人が変わったように落ち着いており、今度は挑発までし始めた。


落ち着いているというより、冷酷非情という言葉で表すのが正解かも知れない。


表情は氷の様に冷たく、声のトーンも普段より低い。


姿形だけでなく、もしや中身まで変わってしまったのだろうか。



『グギ....ガアア!!!』


挑発に乗ったカノープスのうちの一匹が、再び光に向けて攻撃を放つ。


それは先程と同じく、小さな村一つを破壊できるほどの威力だった。


まともに食らえば即死級のダメージを受けるだろう。



「危ない! 光さん、避けてください!!!」


攻撃を向けられているというのに動く気配すらない光を見て、咄嗟に声を上げるシルヴィア。


その直後、彼女はたった一度だけ瞬きをする。


そして、次に目を開ける頃、既にそこには光の姿は無かった。




『.....グギィィィヤアア!!!』


突然森の中で鳴り響いた、持ち主不明の悲痛な叫び声。


一体何が起きたというのか。


この場にいる誰もがそう思っただろう。



「そ、そんな...うそ......」


この一瞬の出来事を目で追うことさえ出来なかったシルヴィアは、視線を移し驚愕する。


そこには、にわかには信じがたい衝撃の光景が広がっていた。


なんとカノープスが一体、見るに堪えないほどに痛々しい姿へと生まれ変わり、その場に倒れ込んでいるのだ。



「.....今のは"カオス・ディスラプター"とでも名付けておくか。」


SS級のモンスターを無残な形に追いやったのは他の誰でもない、光だった。


どうやら、あの一瞬の間にカノープスの背後へと回り込み、そのまま両足・両翼・尻尾を切断したらしい。


その時間、およそコンマ1秒。


超高速移動と超火力攻撃を兼ねた、最強の技。


それは人間どころか、魔法使いの限界を遥かに超えた魔法であった。



攻撃を受けたカノープスは苦痛の声を上げ続け、立ち上がることができない。


だが、今の光には情けなんてかけるほどの甘さは残っていなかった。


「じゃあ.....死ね。」


冷酷極まりない目で相手を見下し、先程と似たような斬撃系の攻撃でとどめを刺す。


もはや死体に原型は残っておらず、あるのは醜い数多の肉片と至る所に飛び散った血液だけであった。




『グ、ググググ....』


残された14体のカノープスは、仲間が瞬殺されてしまったことを未だに信じることが出来ていない。


あれほど巨大な壁に見えていた魔物たちが、今はなぜか異様に小さく感じる。


それほどまでに彼らは今、目の前の人間1人に対して"恐怖"しているのだ。



「お前らもさっさとかかってこい.....全部まとめて相手をしてやる。」


そう言うと、光は黒い翼を使い、カノープスたちを誘い出すように遥か上空へと飛び上がった。


これにはおそらく理由があり、地上で戦えばシルヴィアを巻き込んでしまうからだろう。


見た目の変貌ぶりに反して、精神面は案外落ち着いている可能性が高い。



続けて、カノープスの群れも光を追い空へ舞う。


これにより、宙に浮く悪魔とそれを囲む14体のドラゴンという異様な構図が出来上がった。



「まずはお前からだ....刻め...カオス・レイザー!!!」


光の力は地上だろうが空中だろうが一切関係ない。


両手を前に突き出す体制を取り、続けて新たな魔法を放った。


対象を無に帰す漆黒槍がおよそ30本、左右の手の平から目にも止まらぬ速さで次々に射出されていく。



『アグ...ァァァ....ァ...』


図体が大きく小回りの利かない魔物には、それをかわす手段はない。


一本一本の威力が凄まじく、三匹のカノープスが為す術もなく切り刻まれていった。



『グオオオオオオ!!!!』


光が攻撃した隙を狙い、すかさず別の二匹のカノープスが前後を挟み込むように魔法を放つ。


魔物の知性から来る連携とは思えないコンビネーションだ。



「その程度の攻撃でやれると思ったか?」


しかし、光はそれを余裕の表情をしながら、見事な身のこなしと反応速度で回避。


今度はその崩れた体制のまま右手のオーラを黒煙のような形に変化させると、二匹のカノープスをまるでリンゴを握り潰すかのように瞬殺してしまった。



わずか10秒の間に、SS級モンスターのカノープスが5匹も消滅。


こんな事件、この世界の歴史の中で一度もなかったはずだ。


勿論、決してカノープスが弱いわけではない。


むしろ以前も説明した通り、中級クラスのギルドパーティーならたった一体で軽々殲滅できるほどの力を持っているのだ。


そんな化け物を相手にこんな戦い方が出来る人間など、おそらく光の他にいないだろう。



『グア...アアア...』


気付けば、残された9匹は完全に戦意を消失してしまっていた。


そして、特徴でもある知性の高さから、自分たちにはもう勝機がないと判断し撤退を試みる。


しかし、この悪魔の様な男がそう簡単に見逃してくれるわけもなかった。



「逃がすかよ...せっかくだ、俺が今使える最強の魔法で消してやろう。」


既に後退し始めたカノープスの群れを追うことはせず、その場で魔力を集中させる光。



「ハアァァァ......」


これまでに無いほどの圧倒的な波動。


溢れんばかりの禍々しい漆黒のオーラが、絶えることなく身体から湧いてくる。


大地、樹林、空、太陽、湖...ありとあらゆる領域がその魔力を感じとり、まるで怯えているかのように震えていた。


あれほどの残虐ショーの後に、今度は一体何を魅せてくれるというのか。



カノープスたちは、もう100メートル以上離れた位置に逃げている。


だがその程度の距離、もはや関係ない。


そして、溜めた魔力を全て吐き出すかのように叫んだ。



「消し飛ばせ......カオス・デストラクション!!!!」



魔法を唱えた瞬間、全身に漲る魔力が無数の黒く細い光線へと変化し、上空へ舞う。


一本、十本、百本、千本と尽きることなく放出されていく。


雲一つない青空に小さな星が次々と現れては、煌めきを魅せるその光景。


それは、まるでスターマインでも打ち上げられたのでないかと思うほどに綺麗だった。



だが、ものの数秒のうちに空は鮮やかな青色から漆黒へと染まる。


一変し、今度は悪魔の大群に襲われる夢でも見ているかのような、悍ましい雰囲気を漂わせていた。



黒い光の集合体は前方にいるカノープスらに一斉に襲い掛かる。


それら一本一本の正体は、最強最悪の殺人兵器。


触れるもの全てを溶かす威力を秘めた必殺の魔法。



まさに災害を見ているようだった。



カノープスが飛行しているよりも更に上から、無数の光線が降り注ぐ。


攻撃力・スピードが今までの魔法とは桁違いだった。


固い装甲を持つカノープスの群れを一瞬してハチの巣状態へと追いやっていく。


死体の残骸を1つたりとも残さない様に細かく、細かく、同情したくなるほど、残酷なまでに切り刻んでいったのだ。



そして、瞬く間に全滅。


一時は15体まで及んだSS級モンスターたちが、たった一人の男によって無残に消されてしまった。



「...終わったか。」


カノープスが一匹残らず全滅したことを確認し、少しばかりの安堵の表情を浮かべる光。


「そうだ...シルヴィアは?!」


敵を倒して満足している場合ではない。


自分の身を犠牲にしてまで守ってくれた彼女を一刻も早く助けるのが、光に課せられた任務だ。



黒い翼を折りたたみ、急いでシルヴィアの元に駆け付ける。


「シルヴィア!! 無事か?!」


「な、なんとか大丈夫みたいです。 それよりも...その姿と先程の攻撃、あれは一体?」


「俺もよく分からないけど、シルヴィアが目の前でやられたのを見て...気付いたらこうなってた。」


シルヴィアの無事を確認し、落ち着きを取り戻した光。


すると、思いのほかあっさりと悪魔状態を解除し普段の姿に戻った。


(この力、いかにも暴走系って感じだったけど、制御できる...のか?)



「そうだったんですね、ありがとうございます。」


「お礼を言われる筋合いなんてないよ。 せっかく守ってくれてたのに逃げることさえ出来なかった、ごめん。」


結果的に二人とも無事だったから良かったものの、光の行動は褒められたものではない。


男ならすぐにでも自殺したいくらい、情けない姿を晒してしまったのは事実だ。



「そもそも、私だって光さんがいなければあのままやられてたでしょうから、おあいこってことで。」


シルヴィアは笑顔で光にそう答える。


(...優しすぎるだろ、この王女様。)


その笑顔はあまりにも眩しく、あまりにも美しい、まるで太陽のようであった。



「今後こそギルドに帰ろう。 シルヴィア、立てるか?」


「自分に回復魔法を掛けたので大丈夫です。 あと、今はルーナですよ? 」


光は苦笑いで「ごめん」と謝り、シルヴィアの手を取る。



???「はぁー、SS級って言ったから期待したのに、全くに役に立たないじゃん。」


「誰だ?!」


声がした方を振り返ると、光が最初に倒したカノープスの死体付近に、一人の男がいつの間にか立っていた。



「あれー? もしかして君、三刀屋 光くんじゃない? へえ、君も転生してたんだあ。」


「お前は...末元(すえもと) 充良(みつよし)か...?」


光がこの世界で目を覚ました時に、鎌瀬に出会った時点で察しはついていた。


同じように飛行機の墜落事故で死んだクラスメイトが、他にも転生しているのではないかと。



間違えることなどない、この男は光と同じ転生者だ。


「光さん、あちらの方は?」


「こいつは...顔見知りだ。」


シルヴィアにこの場で転生の話をするのは面倒なので、曖昧な返答で濁す光。


「ちょっとぉ、顔見知りとか酷くない? 僕たちクラスメイトだろ? まあ会話した記憶はあまりないけど。 三刀屋くん影薄かったしねぇ。」


光を煽るような口調で挑発をしてくる。



末元は、鎌瀬と同じくクラスのトップグループにいた人間だ。


頭脳明晰で要所の判断に優れており、クラスのブレインとも呼べる存在。


一年時の球技大会では、末元の采配により全競技で優勝を果たしているほど。



光は挑発にイラっとしつつも、冷静さを保って末元に話を振る。


「...お前はここで何をしている? その化け物が全く役に立たないって、何の話だ?」


「それを君に話す必要は無いねえ。 この死体を片付けたら、僕はもう帰るよ、」


末元は光の質問に答える気はなく、カノープスの死体があるところへ歩き始める。



「デポート」


末元がそう唱えると、カノープスの死体は消滅した。



「あれは...サイキックの中位魔法ですね。」


「あなたがシルヴィア王女殿下ですか。 お気の毒に、大変ですねあなたは。」


フードの下からでも、末元はシルヴィアの正体を見抜いていた様子。


「じゃあね、三刀屋くん」


「ま、待て末元!!」


末元は「カタスティ・ポート」と唱えると、空間転移でもしたかのようにその場から消えた。



「...あいつ一体この世界でなにやってんだ、怪しすぎるだろ。」


「顔をよく見られていないはずなのに、私のことも知っていましたしね。とにかく今度こそ、帰りましょうか。」


ただの収集クエストのつもりで向かったのに、蓋を開けてみれば怒涛の展開だった。



心身共に疲れ果ててしまった光とシルヴィアは、重い腰を上げてギルドへと歩いていく―――

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