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【第68話】再び動き出す剣豪

大部屋の入口付近から突然聞こえてきた、二種類の詠唱。


直後、大量の溶岩と九条の中間あたりの位置に、土色で彩られた巨大な盾が出現した。



その盾は、ナギサの魔法をも打ち負かす強度を秘めた溶岩の軍勢を、たった独りで受け止める。


更には、一歩も引かずに貫禄ある防御力をまじまじと見せつけ、瞬く前に全滅させてみせたのだ。



「ぬぁんだとぉ??!! 一体どこの誰がこんな防御魔法を――――――――アヂイイイィィィッッ????!!!」


不意の出来事に激しく動揺する獣男だが、追い打ちをかける様に超高火力の火柱が二本、彼の巨体を包み込み大爆発を引き起こす。



「この魔法は.....もしかして.......」


ナギサは唇を震わせながらも、どこか希望の光を見つけたような、そんな表情で後ろを振り向く。



そこに立っていたのは、まさに暗闇の中でかすかに輝く、二つの希望。


ナギサが予想をしていた通りの人物だった。



「どうして.....こんなことになってしまったんだ......」


九条を抱えながら、そう呟くレイリスがそこにはいた。


その表情は、後悔の一色で埋め尽くされており、噛み締めた唇は出血までしている。



一方で、お姫様抱っこの形で身体を持たれている九条は顔を赤らめ、


「い、いいからさ......とりあえず下ろしてくんない.....? その、恥ずかしいん.....だけど......」


そうレイリスに話した。



「ああ.....すまない」


レイリスは言われた通り、割れ物を扱うかの様な丁寧な手つきで九条を床に下ろす。


数秒ぶりに地面に足をつけた九条は、スカートの汚れを手で払ってから、


「.....サンキュー。 間一髪で助かったよ、イケメンくん」


とお礼の言葉を告げるが、レイリスの表情に変化はなく、ただ俯いているままであった。



「まあまあ、そんな気にすんなって。 それより三刀屋は.....?」


さきほど光が吹き飛ばされた位置に目を向けると、既にシルヴィアが駆け付け、回復魔法をかけているところであった。




「光さん.....ごめんなさい.....私の.....私のせいで......」


シルヴィアは今にも泣き出しそうな顔で、何度も何度も、魔力が(から)になってもおかしくないくらいに、回復魔法をかけ続ける。


その姿は、自身の心に蓄積した怒り、苦しみ、悲しみ、悩み、嫌悪、罪悪感といった沢山の感情たちを、吐き出しているかのようにも見えた。



「お願いです.....どうか目を覚ましてください......」


回復魔法を掛け続けている当の本人は、半パニック状態のため、容態をきちんと把握できていないようだが、幸い光の心臓は活動を続けていた。


重傷であることに変わりはないが、命に別状はないと見られる。



それにしても、あの絶望的な状況の中、シルヴィアとレイリスはよく戻ってきてくれた。


ひとまず最大のピンチからは逃れたと思っていいだろう。



だが、まだ何一つ解決はしていない。


「グゾオォォォ.....あの長髪男、今までブルってた癖に、不意打ちでツヴァイ・エクスプロードなんて物騒なもん使って来やがってェ......」


レイリスの魔法をまともに喰らっても尚、立ち上がる獣男。


身に付けているアーマーのおかげなのかどうか分からないが、あまりにもタフだ。



「あいつまだ動けるのかよ......あ、そうだナギサッち、助けてくれてありがと。 いやーあの時は、マジで死ぬかと思ったわ」


九条は獣男の生命力にドン引きしつつ、膝から崩れ落ちていたナギサの元に駆け寄った。



ナギサは九条から差し伸べられた手を握り、ピョンっと軽く跳ねて体勢を立て直す。


「うん.....まあ結局、僕の力だけじゃどうにもならなかったけどね」


「そんなことないって。 変な岩みたいなのをあの雷が半分くらい壊してくれてなかったら、シルヴィア様の盾だって危うかったんじゃないかな」


「そうかな.....そうだといいな。 とにかく、三刀屋氏も大丈夫そうだし.....何とかなりそうだね」


ナギサは、ほんの少しだけ、いつもの元気を取り戻した様に微笑んだ。



ひとまず、本調子ではなさそうだが、レイリスが動ける状態になったのはあまりにも大きい。


これによって、戦況もこちら側に傾くことだろう。



ただ、敵陣営はまだ戦意を失ってはおらず、むしろ逆撫でしてしまったようだ。


「ゴルド、ジルド、お前らもそろそろ復活した頃だろ? もう遊ぶのはやめだ.....本気で潰しに行くぞ」


「......!!!!」


ある程度の時間が経過したことによって回復したのか、再びゴルドとジルドの背中から人型の精霊が現れる。


獣男は雄叫びをあげ、まさにフルパワーといった様子で土色のオーラが全身から湧き上がっていた。



遠目でそれを見ていたナギサは、全身に紫色の雷をビリビリと流しながら、九条に問う。


「鈴音、まだやれる?」


「モチのロンだよ。 私、二度とあんなヘマはしないから。 あの筋肉ゴリラ、今度こそとっちめてやる」


シルヴィアは光に付きっきり状態なので、いまだ戦力としての計算には入れられないが、


レイリスが参戦したため、これで3対3の構図が出来上がった。



「いくぜェ!!!!! クソガキ共ォォォォ!!!!!!」


「来るよ! 鈴音!ヘカトンケイルの人! 気をつけて!!」


両軍共に万全を期して、決着をつける戦いに挑もうとした、その時。



光との戦闘以降、傍観者の位置に徹していたガーネットが、ここにきて再び動きを見せた。



彼女は相も変わらず冷酷非情な顔つきで、一歩前に出る。


そして、閻魔大王よりも恐ろしい二本の刀を手に取ってから、ガーネットは言った。



「......下がれ、役立たずのゴミが」


「ッ?!!!」


ガーネットの声が聞こえた獣男は、魔法を発動する寸前で、怯えた様にビタっと停止する。


同時にナギサたちの間にも、背中に重く圧し掛かるような緊張感が走り、こちらも同じく動きが止まってしまった。



「い、今更なんだよ? あんたは休んでるんじゃなかったのか? 最後までやらせてくれよ?」


獣男は額に汗を溜めながら、ガーネットに行動の意図を聞く。



対して、ガーネットはシルヴィアがいる方をじっと見ながら、こう言った。


「チンタラやっている貴様らを見ていると腹が立つんだ、そんなことも分からないのか?.......まあいい、さっさと終わらせるぞ――――」


「お、おい、どこいくんだ.....?」


「......だから"終わらせる"と言っただろう」



小声でそう呟いて、明後日の方向に歩き始めるガーネット。


刀を抜いたということは、今度は自分がナギサたちの相手をするつもりなのだろう、そう思っていたのが、実際は違った。



なんとガーネットは、ナギサたちがいる方ではなく、シルヴィアと光の所へと向かい始めたのだ。


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