【第66話】紫電
「ゲヘヘヘッ!!! 元気のいい女たちだな!!! ゴルド、ジルド、お前らはどっちが好みだ?」
獣男は下品な笑い方をしたあと、地味な中年男二人にそう問う。
「......」
しかし、中年二人は相変わらず感情があるのかないのか分からない反応のまま、ただ黙っていた。
「フッ、まあいい。 じゃあ俺様は......」
獣男がまたしても下品に笑い、指をバキバキと鳴らした後、
「あの旨そうなチビの方を頂くとするかァ!!! 喰らいな!! アース・クエイク!!!!!」
と高らかに土属性魔法を放った。
数十メートル先にかけて地面が割れるほどの衝撃波が、ナギサに襲い掛かる。
考えなしに回避した場合、シルヴィアとレイリスに当たってしまうかもしれない軌道だ。
ならば.....
「貫け!!! ライトニング・ブラスター!!!!!」
両手を前に突き出し、その中央から紫電の光線が発射される。
それは、目の前の衝撃波を打ち消すだけでは終わらず、更に威力を増した状態で、獣男の心臓を目掛け一直線に飛び抜けていった。
「うぉい?! うっそだろ?! あいつもただのガキじゃねえってか!!!??」
口を大きく開き、ナギサの魔法の威力に驚く獣男。
このままいけば、もれなく着弾し、胸部に綺麗な穴が空いてしまうだろう。
だが、そう簡単にいくわけもなかった。
「ゴルドォ!!! 俺様を守れ!!!!」
獣男が突如、そう叫ぶ。
すると、登場時からずっと沈黙を保っていた中年コンビの一人、ゴルドと呼ばれている男がついに動いた。
「.......」
無言のまま目を瞑るゴルド。
そして次の瞬間、彼の背中あたりから人型の妙な物体が現れる。
その物体はまるで自我を持っているかのように動き出し、獣男を守る様にナギサの魔法を自らの肉体で受け止めたのだ。
「ふぅ.....よくやったゴルド。 ほんとお前らの精霊は賢くて助かるぜ」
「.......」
数秒後、魔法を直に食らい倒れ込んでいた人型の物体が、まるでゾンビかの様に立ち上がる。
更には、受けた傷跡がみるみるうちに回復を始め、スライムの様に元通りになってしまったのだ。
「あのキモい奴、エレメンタルだね。 しかも、かなり強力な再生能力を持ってるっぽい」
一部始終を見ていたナギサは、冷静に分析を始める。
「うげ、マジで?? てことは、もう一人の奴も?」
「うん、多分」
獣男の発言から推測するに、ジルドという男のクラスもエレメンタルだろう。
5つのクラスの中でも極めて特殊で、人によってその能力がまったく異なるため、戦場に一人いるだけでも相当厄介な存在だ。
「まっ、ここで待っててもしゃーないし、私もそろそろいきますかぁ」
九条は愛刀の柄をグッと強く握ると、
「いくよ......ソニック・レイド!!!!!」
得意のスピード強化魔法を使い、先で待つ敵陣営に突進を仕掛けた。
狙うは獣男ただ一人。
全身に頑丈そうなアーマーを纏ってはいるが、顔面はガラ空きだ。
司令塔的なポジションの獣男を叩けば、一気に勝利に近付くと九条はみた。
「その変な顔がもっと変になっちゃうかもしんないけど、勘弁してくれよな!!!」
まずは一発目、目で追うのが困難なレベルの速さで攻撃を打ち込む九条。
しかし案の定、邪魔が入った。
「なにこの精霊!!?! きもちわるっ!!!!」
今度はジルドの方の精霊が獣男の防御に回ってきたのだ。
ゴルドのものと同様に人型の形状をしており、九条の攻撃を芸術級の白刃取りで受け止める。
更に、格闘家が顔負けするほどの美しいフォームで回し蹴りを放ち、九条を後方に押し返した。
「うわっ.....いったぁ....こんにゃろ!!!」
負けじと、再び突進を仕掛ける九条。
「伏せて!!! 鈴音!!!!」
「.....ほえ?」
突然背後から聞こえてきたナギサの声に、九条は反射的に従う。
その刹那、自らの頭頂部すれすれのところを、すさまじい勢いで横長の稲妻が駆け抜けていくのが見えた。
そして、その稲妻は二体の精霊を身体を真っ二つに両断する。
精霊の腰から上の部位が、ボトボトと音を立てて地面に落下した。
「.......!!!」
これにはさすがに、今まで無を貫いていたゴルドとジルドの表情も、わずかに変化を見せていた。
「ナギサッち.....もしかして私のこと、嫌い?」
後ろを振り向き、汗をかきながらそんなことを口にする九条。
「んなわけないじゃん、ちゃんと事前に伏せてって言ったでしょ」
「あ、あれが事前なのか......ッ?!!」
間一髪のところで、九条は背後からの攻撃をかわす。
「.....かよわい女の子を後ろから襲うとか、正気?」
「ちょこまかと鬱陶しい奴だぜ、女ァ.....」
「あっそーですか!!!!」
再び、獣男と九条が交戦する。
獣男はソーサラーなので、本来なら中~遠距離を得意としているはずだが、頭に血が上っているのか、近距離戦を九条に挑んできたのだ。
同時刻、ゴルドとジルドの精霊がナギサに攻撃を仕掛けていた。
「うわ、きもっ!!! こっちくんなバーカ!!!!!」
ナギサは迎撃しようとするが、精霊とは思えない身のこなしとコンビネーションで、なかなか的が定まらない。
広範囲を攻撃するサンダー・ボルトすらも回避し、精霊たちはナギサとの距離を詰めることに成功する。
「どうなってんのこいつら.....ちょっと待って、やっば.....」
ジルドの精霊が、ナギサの腹部に強烈なパンチを叩き込む。
しかしナギサは、それを超反応でガッチリと手の平で受け止めると、精霊の身体を固定し、
「くんなって.....言ってるじゃん!!!!!」
逆に今度は、お返しと言わんばかりに、雷を纏った右足で精霊を蹴り飛ばした。
『ギアアアァ.....アアアア.....』
見事なハイキックによって首から上が切断された精霊は、先程の様な回復が始まらず、ダウンしたまま動かない。
もしかしなくても、頭が弱点なのだろう。
それを瞬時に見抜くだけでは終わらず、次の攻撃で実行してしまうあたり、やはりこの子は天才だ。
「へへーん!!! 名付けて天才の蹴り.....なーんてね!!!!!」
ナギサはくだらない小言を挟むほどの余裕を見せながら、続け様にもう一体の精霊へ特大の電撃を打ち込む。
『グガ.......ガ....』
脳を痛々しく貫かれ、機能を停止するゴルドの精霊。
エレメンタルは精霊を使った攻撃以外に戦闘手段がないため、しばらくの間ゴルドとジルドはただの案山子に成り下がる。
ナギサは圧倒的な戦闘センスと魔力を存分に発揮し、二対一という状況をいとも容易く打開してしまったのだ。




