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【第64話】ガーネット

自分の目の前に立つ女性は、今確かにこう言った。


"ルーナ"と。


それも、シルヴィア達がいる方向を真っ直ぐに見つめながら。



光が知る限りでは、ディアヴォルスの面々の中にそんな名前の人物はいない。


つまり九条、ナギサ、シルヴィアのいずれかを別の誰かと勘違いしたのだろう。


そう推測するのが自然の流れなのだが、光はなんとなく違和感のようなものを感じていた。



(ルーナって名前、俺どこかで聞いた様な気がする.....あれ、なんだっけ.....)


自分の記憶を懸命に辿る光。


数少ない知り合いの名前を片っ端から思い浮かべてみるが、やはりルーナという人物のデータは存在しない。


.....やはり気のせいなのだろうか。



そうこうしているうちに、女性の隣に立っていた一人の男が、ここにきて第一声をあげることになる。


赤のハットとスーツを身に纏った全身赤色男は、眼鏡をクイッと上げると、唐突に両手を天に掲げ、


『なぁるほど?!! あの娘が例の"ターゲット"ですかぁ!? ご丁寧にあちらから出向いてくださるとは、なんてお人好しなんでしょう!!!! ワタクシ、感激しちゃいましたよぉ!!!』


と、ハイテンションかつ大声で叫び出したのだ。


静まり返っていた空間に鳴り響く、とても不快で、癇に障る声だった。



続いて、隣で腕を組みながら立っていた、図体が異常なまでに大きい、まるで獣の様な男が舌なめずりをした後、こんな台詞を放つ。


『一応確認しておくが、目の前に本命の獲物がいるってのに見逃すなんて真似はしねえよな?.....ククッ、俺様はもう我慢の限界だぜェ』



そして、獣男にそう問われたピンク髪の女性は、ほんのわずかに何かを考える様な素振りを見せたあと、答える。


『.....ターゲットは私がやる。 貴様らはそこの魔物(ゴミ)をさっさと奴の元に連れていけ』


『おいおいそりゃあねえぜ? あんたまさか、"楽しい時間"と手柄を全部独り占めするつもりか?』


『黙って言うことを聞け、野獣風情が。 その醜悪な顔面を引き裂かれたいのか?』


『あぁ??!!』



会話の内容を聞く限り、彼らは決して仲の良いパーティーというわけではない様だ。


それにしても、あのピンク髪の女性、顔の麗しさと言動の温度差があまりにも激しい。


一部の人には受けるのかもしれないが、冷たい声色と笑み一つない無表情が相まって、本気で恐怖を感じてしまった。



二人が口論を始めたあたりで、全身赤色の男が仲裁に入った。


『まぁまぁ、お喋りはその辺にしておきましょうよ。 偶然とはいえ、せっかく予定より何日も早くターゲットに出会えたんです。 魔物はワタクシが運びますから、皆さんはごゆっくり楽しんでくださいませ』


と言ったあと、お手本のようなお辞儀をしたかと思えば、


今度は、あぐらをかいたまま硬直していた魔物を覆う様に、登場時と同じ空間転移用のゲートを出現させ、魔物共々この場から去っていったのだ。



それを見た獣男は、歓喜した様子で大きな声をあげる。


『ノイズの奴、気が利くじゃねえか!!! あいつもたまには役に立つなあ!!! おい女!! 俺様もやっていいだろ? なあ?!』


『......』



(こいつら.....やっぱり.....)


突如現れた五人組のこれまでのやり取りを見て、光は確信する。


最初こそ気が付かなかったが、彼らの風貌は一般的な市民の"それ"とは、明らかに異なるものであった。



全身赤色で、凄腕の詐欺師風な怪しい雰囲気が漂う眼鏡の男。


獣の様に強靭な肉体と、金色のアーマーを纏った身長2メートル越えの大男。


極端に感情が薄いのかロボットなのか判別できないほどに、ただ呆然と立ち尽くしているだけの中年男が二人。



そして、王女並みの美貌を兼ね備えているにも関わらず、とてつもない殺気を溢れんばかりに醸し出している、黒い軍服を着た女性。



彼らは魔物を狩りにゼラの洞窟まで来たのではない。


いや、当初の目的はそうだったのかもしれないが、今は違う。



―――間違いない、彼らの狙いはシルヴィアだ。



そうと分かれば、こちらも黙っているわけにはいかない。


彼らと末元に繋がりがあるかどうかは、この際関係ない。


シルヴィアが危険にさらされている、そう思ったら、全身の血管がはち切れそうになるくらいの激しい怒りがこみ上げてきた。


こんな得体の知れない集団にシルヴィアを奪われてたまるものか。



気付くと、光は叫んでいた。



「来い!!! エグゼキューター!!!!!!」



戦闘という戦闘は、レイリスとの決闘以来だろうか。


右腕に、もはや見慣れてしまった禍々しい漆黒のオーラが、どこからともなく現れる。



『お、おい.....なんだぁ?....あれは? ガーネット、あんたは見たことあるか?』


エグゼキューターを見た獣男は、驚き顔でそう呟いた。


「知らん。 それよりこの雑草みたいな顔をしている小僧は誰なんだ? フッ....今にも枯れてしまいそうで、見るに堪えないな」


ピンク髪の女性は光を顔を見て、哀れむ様にそんなことを言う。


今更だが、この女性はガーネットという名らしい。



対して、光は右腕を突き出し、最初で最後の警告をする。


「お前ら、シルヴィアに何か用でもあるのか? もしあるなら俺が聞いてやる、さっさと話せ」


光の問いに、獣男は大声で笑いながらこう答える。


『ガハハハッ!!!! 中々面白いことを言うガキだな!!! おかしいのは魔法だけじゃなくて、脳みそもだったか!!! 悪い悪い!!』


「そうか.....話す気がないなら仕方ないな.....」


『おいガキ、悪いことは言わねえからさっさとお家に帰んな? 俺様は優しいから見逃してやるけどよ、この鬼女はこええぞぉ? なんたってこいつは―――』



(敵は4人....ゴリラと気味の悪いおっさん二人に、ヤバそうな女か.....)


光は獣男と会話中、これからの作戦について考えていた。



少し離れた場所で待機しているシルヴィアたちの様子はというと、


シルヴィアとレイリスは原因不明の放心状態といったところで、おそらく戦力にはならない。



つまり、動けるのは実質ナギサと九条の二人のみ。


数でいえば、3対4でこちら側が不利な状況だ。



しかし、彼女たちなら心配はいらないだろう。


敵の実力が未知数なのは不安要素だが、そもそも、いざという時に足手まといになる様ならこの場に呼ばれてはいない。



勿論、万が一の時には自分の身を投げ出してでも、メンバー全員を守る覚悟は出来ている。


そうならないように、最速でカタをつけるのが光の役目だ。



(二人はシルヴィアとレイリスを頼む。 俺は.....)


光はアイコンタクトをしつつ首を縦に振り、ナギサと九条に考えを伝える。



少々無茶な伝達方法だが、彼女たちもただぼーっと立ちつくしていたわけではない。


遠めからではあるが、敵陣営の空気感ぐらいは掴めていたはず。


それに加えて、光が突然エグゼキューターを召喚したのだ。


ゆえに、これから起こる展開は予想出来ていただろう。



(こっちのことは私達に任せといていいから、お前は思いっきりぶちかましてこい!!)


(そいつら気持ち悪いしなんかムカつくから、さっさとやっちゃって!! 三刀屋氏!!!)



やはり意図は二人にしっかりと伝わっていたようだ。


出来のいい部下には、この仕事が終わったら臨時報酬を支給しなければならないだろう。



(さて.....やるか)


光は緊張をほぐす様に「ふぅ」っと軽く息を吐き、



――――そして、動いた。



「お前らに直接恨みはないが、悪く思うなよ.....カオス・タービュラント!!!」

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