【第63話】真実
「.....なんつーか、思ってたのと違うな」
洞窟へ一歩足を踏み入れた先に見えてきた光景に、面を食らってしまった光。
洞窟というからには、鍾乳洞みたいな自然に生まれた神秘的なものをイメージしていたのだが、実際は大きく異なっていた。
まるで古代の人類が建設したエジプト系の神殿の内部の様な、紛いなりにも整った構造をしていたのだ。
石材で綺麗に固められた平らな地面に、少し不気味な絵が書かれた柱の数々と、申し訳程度の明るさを放つランタンが壁に貼り付けられている。
天井までの高さは3メートルほどで、さきほどから小石みたいなものがボロボロと落ちてくるのが見えていた。
それにしても、メラメラと絶え間なく燃え続けているランタンの火は、一体どこから燃料を調達しているのだろうか。
一つだけ火がついていない個体があるが、あそこに火を付けたら隠し扉でも現れるのだろうか。
とりあえず、このランタンの灯りが消えてしまったら真っ暗で何も見えなくなってしまう為、ぜひとも最後までその輝きを保ち続けて頂きたいところだ。
「じゃあ、とりあえず適当に見て回るか」
気を取り直して、光たちは洞窟内の探索を開始する。
事前に説明した通りの陣形をなるべく保ったまま、道なりに進んでいく一行。
すると早速、光が何やら気になる扉を発見した。
「ん? これは.....」
その扉には、これまた不気味なグレムリンの様な絵が描かれており、大抵の人が開けるのを躊躇してしまうであろう、見るからに怪しい外観をしていた。
(いやー胡散臭えー.....これ絶対なんかいるやつじゃねえか、ミミック的なやつ)
光が扉の前で苦笑いを浮かべていると、ナギサが隣にひょこっと現れ、光の顔を覗きながらこう言ってくる。
「ねえ何してんの? さっさと壊しちゃえばいいじゃん? あ、もしかしてビビってる? ナギサちゃんが代わりにやってあげようか?」
この子は警戒とか慎重といった言葉を知らないのだろうか。
言葉を発する前の一連の動作が可愛かったからいいものの、そうでなければゲンコツをくれていたかもしれない。
とにかく、こんな見え見えのトラップにわざわざ引っ掛かってあげるほど、光はお人好しではない。
「.....念には念をだ。 シルヴィア、魔力感知の力で――――」
光がそう言いかけた瞬間だった。
「フレイム・スピア!!!!!」
突然レイリスが普段より大きめの声で魔法を唱え、扉を粉々に破壊してしまったのだ。
予想外の出来事に、光は口をだらしなく開け、唖然とする。
そしてもれなく、その行動の意味をレイリスに問うた。
「お、おい.....いきなり何やってんだお前? まさかナギサに感化されて.....」
「.....序盤に仕掛けられている小細工だ。 大したものは入っていないだろう。 さっさと中を調べるぞ」
そう言って、レイリスは一人でスタスタと扉の瓦礫を跨ぎ、中へと入っていく。
(なんだあいつ.....)
レイリスらしくない行動だった。
普段の彼ならきっと、「落ち着け脳筋男。こういう時はまずシルヴィアの魔力感知を使い、中の様子を探ってから扉を開けるかどうか判断すべきだ。 そんなことも分からないのか? だから貴様は―――」みたいなことを言うはず。
それが何を思ったのか、光に断りを入れることもなく突然魔法を使い、突然扉を壊した。
まるで、何か都合の悪いことを誤魔化すかのように。
とにかく、今それを気にしていても仕方がない。
光たちはレイリスに続いて、扉の先へと入っていく。
「.....これはまたベタな奴がきたな」
扉の先にあったのは8畳ほどの空間と、その中央に不自然に設置されている大きな宝箱。
RPGでありがちな、嬉々として宝箱を開けたらアイテムじゃなくて魔物が入っているとか、そういうパターンの仕掛けだろう。
光は呆れ気味に溜め息をついた後、右手にエグゼキューターを顕現させる。
「ここは俺に任せてくれ。 わざわざ開けずとも、箱ごと握り潰してやる。 一応、皆は後ろの方に下がっ――――」
光はそう言いながら後ろを振り向くが、約二名の姿が見当たらない。
「あれ.....九条とナギサはどこに――――」
「ねね、鈴音!! いっせーのーで!で開けよ!!!」
「おっけー、じゃあいくよ! 3、2、1.....」
宝箱の前にしゃがみ込んで、キャッキャと騒いでいる二人がそこにはいた。
(........)
光は無意識のうちに握り拳をつくり、気付けばナギサの頭に軽めのゲンコツをくれていた。
やはり、この馬鹿娘は連れてくるべきではなかったのかもしれない。
「うう.....殴られた.....お父さんにも殴られたこと.....あったわ。 むしろめっちゃ殴られてたわ」
「おーよしよし。 ったく三刀屋お前、案外短気なんだな、こんなに可愛い子を殴るとか有り得ねえぜ」
九条がナギサを抱きしめ頭を撫でているのを余所に、光は宝箱の対処を開始する。
エグゼキューター伸縮させて宝箱を持ち上げると、恐ろしいほどの握力を使って箱の上から中身共々握り潰した。
『キュワアアアアアアア!!!!!!』
狭い空間に鳴り響いた、超音波の様な甲高い悲鳴。
宝箱の破片と共に、緑色の血がグシャっと弾け飛ぶ。
やはり宝箱の中には魔物が潜んでいたようだ。
壁と地面にこびりついた大量の血が、ダイニングメッセージの様にダラダラと垂れていった。
「.....ナギサ、次やったらお前の頭がこうなるってことをよーーーく覚えておけ」
「.....(コクコク!!!)」
光の洒落にならないレベルの忠告に、ナギサはガタガタと歯を震わせながら頷く。
少々可哀想だが、悪い子にはこれくらいのお仕置きが必要だろう。
「よし、もうここに用はない。 次に進むぞ」
光がそう言って背を向けた直後、突然シルヴィアがひっそりと小声で、こんな耳打ちをしてきた。
「.....光さん、魔力感知の能力については、皆さんの前ではどうか話さない様にお願いします」
「え?」
光が後ろを振り向くと、シルヴィアは視線を逸らし片腕をギュッと掴みながら、なにか強い後ろめたさを感じている様な、そんな表情をしていた。
この顔には何度か見覚えがある。
シルヴィアがこの顔をする時は決まって、彼女の過去に関することを聞かれた時だ。
そして今回も間違いなく、そういった類の事情が絡んでいるのだろう。
詳しくは分からないが、この場においては魔力感知という言葉はタブーらしい。
普段はシルヴィア本人も口にしている言葉のはずだが、何故今になってそんなことを言ってきたのだろうか。
気になることはいくつかあるものの、光は無理に追及はしない。
軽く微笑み、俯くシルヴィアを励ます様なトーンでこう言った。
「ごめん、気を付けるよ」
「そ、そんな...謝るのは私の方です。 突然変なことを言っちゃって、申し訳ございませんでした.....」
小声でそんなやり取りを交わす二人。
その様子を見たレイリスは、光の肩にポンと手を乗せ、
「さっ、早く先へ進むぞ。 ダラダラやっていると制限時間内に回り切れなくなる」
と言ってから、扉の外へ出ていく。
(レイリスの言う通りだな、時間は有効に使おう)
洞窟の探索を始めてから約1時間が経過したが、終点にはまだ程遠い。
良いとこ、中間地点に辿り着いたかどうかという進捗度だろう。
光は今一度気を引き締め、レイリスの後を追うのであった。
それからは五人とも真面目に探索に取り込み、着々と洞窟の最深部へと近付いていった。
途中で何回か魔物に襲われたが、光の手によって全てを瞬殺。
まだ他の四人は、一度たりとも手を下してはいない。
当エリアのボスであるSSS級の魔物がまだ姿を現していないが、仮に現れたとしても、このメンバーなら大した脅威にはならないだろう。
この調子でいけば、誰一人怪我をすることなく帰還できる。
――――最後まで末元に遭遇しなければ、の話だが。
今回の目的は「末元を見つけ、捕らえること」だったはずだが、光はメンバー全員の無事を祈るあまり、「今回は初陣なんだし、このまま終わってくれても全然構わない。 むしろその方がいい」とまで思い始めていた。
勿論、一日でも早く末元を捕えるに越したことはないが、皆の無事が最優先だ。
光はそれだけを念頭に置き、警戒の姿勢を一時も崩さず、黙々と道を進んでいった。
「.....どうやらここが最深部らしい」
地下へと続いている長い螺旋状の階段を降りた先にあったのは、今までとは明らかに雰囲気が違う巨大な扉。
高さは5メートル近くあり、直接触れなくとも、重量感がひしひしと伝わってくる。
どこかの言語なのか何なのか分からない不思議な文字が扉全体に描かれており、見る側に"未知"の存在を匂わせ、より不安な気持ちにさせる。
まさに「ダンジョンのボスが待っている部屋」といった感じだ。
おそらくこの奥に、SSS級の魔物とやらが待っているのだろう。
光たちはお互いに目を合わせ、覚悟を決めたように頷く。
「じゃあ開けるぞ」
一言そう告げてから、光は右手で扉を押す。
扉は見た目の派手さに反して、とても軽かった。
舞台の幕が開けるかの様に、ゆっくりと扉が開いていく。
中には一体何が待っているのか、ワクワクするけど少し怖くもなってしまう、そんな緊張が走る。
時をおかずやがて、全員が唾をゴクッと飲み込んだタイミングと同時に、ついに扉の奥の景色が露わになった。
「ここは.....」
壁際にいくつか設置されているランタン以外は何一つ物が置かれていない、丁度体育館ほどの広さをもった暗い空間。
そんな空間の中央付近で、まるで死んでいるかの様にあぐらをかきながら静止している、一体の生物が光の目に入ってきた。
全体的なサイズは、人間よりもほんの少し大きい程度だろうか。
謎の生物はそこで休んでいるわけでもなければ、遊んでいるわけでもない。
指一本動かすことなく、ただじっと、孤独のまま、その位置に居座っていた。
「.....あいつがここのボスか。 確かに、ただの雑魚ってわけではなさそうだな」
「うわーすげー...SSS級の魔物とか初めて見たよ私。 柄にもなく感動しちゃった。 で、そもそもあれ何なの? 骸骨?」
「てかさあの変な生き物、こんな暗い所で一人で生活してるのかな? だとしたら寂しい奴だなー。 あ、なんかちょっと三刀屋氏に似てない? 雰囲気とかソックリじゃん」
「お、ナギサっちの例え良いね。 そう言われたら、私もアレが三刀屋にしか見えなくなってきたわ」
「........」
予想外の方向から煽られた光は、破裂寸前の怒りをギリギリで抑え込んだ後、団員達に指示を出す。
「たったの一匹とはいえ、油断は禁物だ。 まずは俺が様子見を兼ねて適当に攻撃してみるから、皆はいつでも魔法が打てる状態のまま、俺から離れた位置で待機しててくれ」
そう言うと、4人は特に意見すること無く、素直に「了解」と答えた。
(こういう系のモンスターって、自分の領域に一歩足を踏み入れた瞬間襲ってくるとか結構あるんだよな.....あれ、ビックリするから嫌いなんだよ、俺)
元の世界に居た頃の知識を活用し、まず光は右足だけをゆっくり扉の先の部屋へ入れてみる。
(さて.....どう来るか.....)
足を踏み入れてから数秒待ってみたが、魔物の反応はない。
(ふぅー.....セーフだ。 んじゃ今度は......)
続けて左足も入れてみる。
今度こそ襲ってくるだろう、そう思っていたが、またしても無反応。
と来たら、答えは一つしかない。
光は後ろを振り向き、「入ってきても大丈夫だ」というサインを出して4人を呼び込む。
「おそらく、いや間違いなくあの魔物は、攻撃を受けた瞬間に起動するタイプだろう。 だからさっき言った通り、皆はここで待機だ。 俺は.....そうだな、あそこから攻撃してみることにしよう」
そう言って光が指を差した所は、4人の待機場所から50メートルほど離れた位置だった。
魔物の習性が「自分を攻撃してきた相手を襲う」系であることを予測し、万が一にもシルヴィア達に危害が出ない方法を取る、という考えだろう。
「じゃ、行ってくる」
光は躊躇することなく、そこに向かって早速歩き出した。
そんな光に、心配そうな表情でシルヴィアが一言かける。
「光さんなら大丈夫だとは思いますが、どうかお気を付けて.....」
「ああ。 一応だけど、そっちでもし何かあった時は得意の防御魔法で皆を守ってやってくれ」
光はそう答えた後、再び歩き出す。
ある程度距離を詰めても、変わらず魔物に反応はない。
やはり攻撃を受けることがトリガーになっているのだろうか。
それなら余計な小細工は使わず、起動する前の一発目で仕留めてしまうのが安定の選択肢だ。
仲間が同じ空間にいる以上、ミスは絶対に許されない。
ケチらずに、少々大袈裟なくらいの魔法を使うべきだろう。
指定の位置に付いた光は、エグゼキューターを召喚し、右手に魔力を集中させた。
そして溜めた魔力を爆発させる様に右手を前に突き出し、続けてその手首を左手で抑える様に力強く握る。
「闇へと沈め.....ダーク・ヴォル――――」
光が魔法を唱えようとした、その時だった。
突如、光と魔物がいる位置の丁度中間あたりに、空間転移用のゲートが5つ現れたのだ。
「あれは....空間転移魔法か!!! なぜこんなところに?!」
「えっマジで?! うわ、もしかしてあれって結構ヤバいやつじゃない?」
レイリスとナギサが声をあげた後、光たちは一斉にそのゲートに視線を向ける。
「あれは.....ハープの森や学院のスタジアムで見たものと同じだ.....フッ、そうか.....やはり来た甲斐があったな」
ここの入口の扉を開ける前とは比べ物にならないほどの、重く激しい緊張が光に圧し掛かる。
自分の耳で聞き取れるくらいに、心臓の鼓動が大きくなっているのが分かった。
光がゼラの洞窟に来た目的。
それを考えたら、目の前のゲートから現れるであろう人物を予測するのは容易だった。
(末元 光良.....出会ってからかれこれ2年近く経つが、お前に会えることをこんなに喜ぶ日が来るなんて思いもしなかったよ)
光はあの時、自分の不注意で逃走を許してしまったことをずっと後悔していた。
あの時点で、間髪を入れずに末元を捕えていれば、シルヴィアが日々不安に襲われることもなかった。
それだけの力が自分にはあったはずなのに、出来なかった。
自分の力に慢心していたのだ。
"こんな奴、今の俺なら指一本捻るだけで殺すことが出来る"
心のどこかで、そう思ってしまっていた。
その愚かな自惚れによる一瞬の判断ミスのせいで、彼女が味わうことになった苦痛の数々。
想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
だからこそ光は、決めていた。
相手が元クラスメイトだとか、顔見知りだとか、九条の友人だとか、もはやそんなことは関係ない。
――――視界に入った瞬間、確実に仕留める。
光はそれだけを考えながら、ゲートから末元が現れるのをジッと待っていた。
現れたゲートは全部で5つ。
5つのうち、どこから末元が出てくるかは分からないが、どんな状況になっても対応出来る様、広範囲の爆撃魔法ダーク・ヴォルテックスを放つ準備は完了済みだ。
「お、おい、誰か来るぞ!!! 三刀屋、一旦こっちに戻ってきた方が―――」
「光さん!!! そのゲートからはとても強い魔力を感じます!!! お一人でそこに居るのは危険―――」
入口付近で待機していた九条とシルヴィアが動揺気味に声をあげるが、今の光の耳には届くことはない。
―――そして、ついにその時がやってきた。
ゲートを形成する渦の回転速度が急激に加速したのを見た光は魔法を放つべく、右手にグッと力を込める。
同時に、5つ全てのゲートからそれぞれ一つずつ人影がゆらりと現れた。
すぐさま、現れた人物5人の顔を光は確認する。
この中に元クラスメイトのあの男が必ずいるはずだ。
そう期待して、信じてやまなかった。
しかしそんな光の期待は、いとも簡単に打ち砕かれることになる。
5人全員の顔の確認を終える頃。
光は突然すっぽりと気が抜けたかのように、ボソッとこう呟くしかなかった。
「.....あんたら、誰?」
なんと現れた5人の中に、末元の姿は無かったのだ。
末元どころか、光にとって全く面識のない、何処の誰かも分からない男4人と女1人の5人組。
あの時犯した重大なミスを挽回するチャンスがようやく来たかと思ったのに。
シルヴィアを苦しめる害をようやく取り除くことができると思ったのに。
そう意気込んでいた光は、非情な現実を前に大袈裟なぐらいに肩をガクっと落とす。
おおかた、魔物を狩るためにやってきたその辺のギルドの連中だろう。
一応目の前にいる魔物はSSS級なので、ただの素人集団ではなく、凄腕のメンバーであることは間違いない。
だが、光やシルヴィアたちにとってはそんなことはどうでもいい話だ。
(まあ...初っ端から当たりを引けるわけねえか。 この馬鹿みたいに広い世界であいつに偶然会う確率とか、宝くじで一等を当てるより難しいってレベルだろうしな)
この空間はゼラの洞窟の最深部だ。
ここまで来て末元が現れなかったとなれば、もうこのエリアにいる意味は無い。
提出用の適当な雑魚モンスターの素材を拾って合宿所に帰ろう。
そんなことを考えながら、光は謎の5人組集団に対して「その魔物はどうぞご自由にしてください」といった感じで会釈をし、シルヴィアたちが待つ場所へ戻るべく歩き始める。
ディアヴォルスの初仕事は成果ゼロで終了、次回の活躍に乞うご期待。
となるはずだったのが、光はここである異変に気付く。
(シルヴィア.....それにレイリス、一体どうしたんだ?)
二人の様子がおかしかった。
それは遠く見ても分かるくらい、明らかに普段とは違う。
二人はまるで死人を見たかのように驚愕し、青ざめた顔でこちらを見ていたのだ。
いや、正確にはこちらではなく、光の前に現れた5人組の方だろう。
なぜシルヴィアとレイリスがこんな反応を見せているのか分からない光は、一旦足を止め振り返る。
(もしかしてあいつらの中に知り合いでもいたのか? 末元がいるかどうかしか考えてなかったから、顔はそこまでよく見てなかったな.....)
光が今一度5人組の顔を一人ずつ確認しようとした、その時だった。
『ほう、そこにいるのは.....もしやレイリスか? なんだ、あの頃とまるで変わってないじゃないか』
5人組の中でも特に異彩を放っていた一人の女性が、鼻で笑いながらそう呟いたのだ。
(あーやっぱりレイリスの知り合いだったのか。 だが、それより......)
言葉の内容はともかくとして、目の前の女性の"声色"を聞いた瞬間、身体が勝手に警戒態勢を取るのを光は感じ取っていた。
彼女の声に含まれていたのは、冷酷、無情、悪辣、暴虐.....そういった類の戦慄とした念。
一声を耳にしただけで分かる。
(この女......マジでやべえぞ.....この世界で出会った中でぶっちぎりだ)
あくまで推測だがこの女性、何人か"やっている"だろう。
光は冷や汗を額にかきながら、女性が次のアクションを取るのを待つ。
しかし改めて顔を見てみると、その造形は素晴らしく美しいものであった。
目は少しつり目気味で薔薇の棘の様に鋭く、彼女の鉄の様に重い声色にピッタリといったところだが、意外にもそこまでキツい印象は受けない。
むしろ広い包容力というか、まるで一国の王女かのような母性的なものまで感じさせてくる。
髪型はシンプルなロングのストレートヘアだが、前髪の手入れが甘いのか顎下まで伸びており、角度によっては顔が全く見えなくなるほどだ。
髪色はシルヴィアよりも気持ち濃いめのピンク色で、この暗い空間の中でもひと際輝きを放っている。
年齢もおそらくシルヴィアや光と同じくらいだろう。
(なるほど.....さすがは異世界だ、レベルが高い。 でもその暗殺者みたいな服装はやめておいた方が良いと思....ん?)
光が脳内でそんなことを考えていると、再び女性に動きが見られた。
女性は、先程レイリスの名前を呼んだ時の冷めた表情とは打って変わって、
今度は目をこれでもかと丸くし、まるで戦争で離ればなれになった兄弟に偶然出会ったかのような、そんな優しくも儚い表情をしていたのだ。
そんな表情をしたまま、更に女性は、震えた声でこう呟くのであった。
『そっか....大きくなったのね.....ルーナ』




