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【第62話】ただならぬ気配

「.....俺達はこのメンバーでアーミの湖に行くことになりました」


光たち一行は、合宿所の外で受付係をしているセシルの元を訪れていた。


ドキドキ☆ワクワク☆真夏のLet's Hunting!!に参加するパーティーの構成と、その行き先を報告している所である。


勿論、行き先については真っ赤な嘘で、本当は危険領域に指定されているゼラの洞窟に行くわけなのだが。



案の定、報告を聞いたセシルは早速「ん?」と懐疑的な表情を浮かべ、こう言ってきた。


「随分と気合の入ったパーティーだな。 シルヴィアやレイリスはともかく、お隣さんの雷娘まで連れてくるとは一体何事だ?」


「.....い、いや、せっかくだから森での対人訓練に続いて二連覇でも狙っちゃおうかなー.....なんて」



この男、嘘をつくのが下手すぎる。


話し方や言い訳の内容は論外として、目はキョロキョロと落ち着きがなく、頬にはダラダラと汗まで伝っている。


こんな様子を見せられたら、誰だって疑うだろう。



更にセシルは光を追い詰める様に、ギラっとした視線を向ける。


「.....お前、なにか妙なことを企んでいるんじゃなかろうな?」


「そ、そんなわけないじゃないすか、やだなあ(まずいな.....)」



担任教師の"圧"に押され、光の焦りメーターが物凄い勢いで上昇していく。


このまま問い詰められてしまったら、いずれ真実を吐いてしまうだろう。


動揺と恐怖で嫌な汗が止まらない。



誰でもいいから助けてくれ.....光が心の中でそう叫んだ時。


パーティーメンバーの一人、シルヴィア王女殿下が堂々たる態度でピンク色の髪をサッと振り払い、助け舟を出してくださったのだ。



「えっと、実はアーミの湖に行きたいって言い始めたのは私でして、その...あそこに生息しているアーミラ・フィッシュが凄く可愛いって噂を聞いて...その、えっと...だから皆で行きたいなー...みたいな.....?」


.......ダメだ。


光と大差無い、この子も嘘が下手なタイプだ。


あんなに自信満々で頼りがいがありそうな感じで割り込んできたのに、気付けば勝手に涙目になっているシルヴィア。


異世界転生当初、勇者の件や学院に入学する諸々の話を国王に報告しにいった時のことを思い出す。


あの時も初めこそ、まさに王女という感じの泰然とした振る舞いをしていたが、話の中盤に差し掛かる頃には不安で顔が悲惨なことになっていた。



(シルヴィア.....もういい、下がれ.....!)


光はグスッと鼻を啜り、苦手なリにも頑張ってくれたシルヴィアの努力を称える。


見てるこっちが辛くなってくるので、彼女には本当、無理だけはしないで欲しい。


しかも、心なしかセシルの目が先程より怖くなっている様な気がした。



だが、ここで新たな助っ人が参戦する。


両手を腰に当て、「ふふーん」とドヤ顔をしながら一歩前に出てきたのは、雷の神子様だった。


正直不安しかないが、光はひとまず泳がせてみることにする。



「んと、セシル先生だっけ? あの、歳いくとシワが出来やすいってよく聞くから、あんまり苛々しない方が―――グエェェェ!?!!」


光は咄嗟にエグゼキューターを伸ばし、愚かな馬鹿娘の首根っこを掴むと、後方へ無理矢理引きずり戻した。


危なかった、作戦どころか命を奪われてしまうところだった。



(本格的にまずくなってきた....かくなる上は.....)


もはや頼れるのは九条とレイリスしかいない。


この二人は特に口が上手そうだから、何とかしてくれるはずだ。


光が「頼む!!」と目で合図を送ると、二人は同時に呆れたように溜め息をつき、しぶしぶ説得を始めてくれた。



「.....セシル教官。 アーミの湖には、たった一体で1000グレードにも及ぶゴールデン・クラブがごく稀に現れるという噂をご存知でしょうか?」


「んんん?? 28年生きてて、そんな話は今まで一度も聞いたことないが? あと教官ではなく先生だ」


先程まで鬼のような形相をしていたセシルが突然顔色を変え、食い気味にそう言う。



「そうでしょうね。 これはヘカトンケイルの団員だけが知っている裏情報ですから。 ほら、この写真を見てください―――」


そう言って、レイリスはヘカトンケイル専用のデバイサーの様な機器を取り出し、一枚の画像ファイルをセシルに見せた。


そこには確かに、綺麗な湖の浅瀬に立つ、金色に輝く蟹の様な魔物の姿が映っていたのだ。



セシルはそれを見て、珍しく本気で驚いた表情をしていた。


そんなにゴールデン・クラブとやらは凄い魔物なのだろうか。


「こ、これは確かにゴールデン・クラブだ.....だがこの魔物は異常なまでにすばしっこいから、君たちのパーティーでは捕まえられないのでは―――」


セシルがそう言うと、九条が待ってましたと言わんばかりの表情でこう言った。


「先生、だから私がパーティーに入ってるんだって。 先生も知ってるっしょ? スピードだけが私の取り柄だってこと」


「な、なるほど、そういうことか.....よし分かった!! 行ってこい!!! 今すぐにでも!!!」



(いやいやいや、案外チョロいなこの人?! どう考えてもさっきの画像はフェイクか他のエリアで撮ったやつだろ.....)


光が思った通り、レイリスが見せた画像はアーミの湖とは全く別のエリアで撮影されたものである。


この世界の情勢に疎い光ですら見抜けるレベルの嘘をセシルが見逃すとは思えないのだが、どうやら上手くいったらしい。


運が良かっただけなのか他に理由があるのかは分からないが、無事許可を得ることに成功したようだ。



「えっと、それじゃあ俺達もう行っていいすか?」


「ああ、あそこにいるスタッフ達に行き先を報告すれば転移魔法で送ってくれるから、準備が終わってるならいつ行っても構わんぞ」

「了解っす。 じゃあ行くか」


光はそう言って、メンバー全員を連れてスタッフの所へ向かおうとする。



しかし直後、何やらセシルがコッソリと小声でレイリスを呼び止める様子が、光の視界に入った。


(怪しいな.......)


会話の内容が気になる光は、聞き耳を立てつつゆっくりと歩く。


すると、こんな会話が聞こえてきた。



「レイリス、もしゴールデン・クラブを仕留めたら私にも素材を分けてくれ。 そうだ、甲羅がいいな。 確か一つ50万ルビで取引されているんだろう? 今度飯を奢ってやるからさ、な? いいだろ?」


鼻息を荒くしてそう話すセシルの目は、完全に「¥」の形になっていた。


あんなに簡単な嘘を彼女が見抜けなかった理由が分かった。


ゴールデン・クラブという高級モンスターの名前に釣られ、目が眩んでしまっていたのだ。


気持ちが分かるが、それでいいのか教師よ。



(.....大人って色々と大変なんだな。 とにかく今回はその意地汚さのおかげで助かったぜ)


光はセシルの欲深さに呆れつつも、それと同じぐらい、彼女に対して同情を寄せるのであった。




~アーミの湖 入口にて~


「ここがアーミの湖か.....」


光たちは転移魔法を介して、アーミの湖の入口へ到着。


早速目に入ってきたのは、色とりどりの植物や樹林、透き通るような真っ青の湖、古びた小屋、コンクリート素材で出来たような小さな橋の数々。


その見晴らしの良さに、一同は揃って「おぉ...」という声を漏らしてしまう。


仮にも魔物が出るダンジョンとは思えない、日本でいえばカップルや家族連れで訪れる様な美しい風景がそこには広がっていた。



「あ、シルヴィア様!!! さっき言ってたアーミラ・フィッシュってこれじゃないですか?! 普通にキモいけど、確かにちょっとだけ可愛いかも」


「いえ、それはドルイド・フィッシュですね.....あっ!! あそこになにかいます!!!」


「え、マジで?! 僕も見たい!!!」


「フッ.....元気がいいな、あの二人は。 まさしく学生といった感じだ」


「イケメンくんも混ざってくればいいじゃん? 毎日おっさん達と堅苦しい会議してるんだろ? たまには遊んでも罰当たんないって」


到着早々、遊び始めるナギサとシルヴィア。


そんな様子を見ながら、他愛もない会話をするレイリスと九条。



本来の目的を忘れてもらっては困る、彼らが行くべきところはここではない。


今いる場所から10分ほど歩いた所に位置する、ゼラの洞窟にいかなければならないのだ。



(あいつら何やってんだ、全く.....)


メンバー達がキャッキャと盛り上がっている中、光は一人、背を向けて早々に歩き始める。


真面目の極み、悪く言えばノリが悪い。


もっとも、これから宿敵である末元に遭遇する可能性が少しでもあると考えたら、間違っても遊び呆けるような気分にはなれないだろう。



そんな光の姿が目に入ったレイリスは、手を3回叩き女性陣に指導を入れる。


「皆、いまは遊んでいる場合ではない。 ほら、団長がへそを曲げて先に行ってしまったよ」


それを聞いたシルヴィアとナギサはギョッとした表情をし、


「ま、待ってください光さーん!!!」


「三刀屋氏ごめんって! そんな怒んなって! ほら、この変なエビみたいな奴あげるから!!!」


などと叫びながら、せかせかと戻ってくるのであった。




~ゼラの洞窟 入口にて~


アーミの湖からしばらく足を進め、一行はついにゼラの洞窟へ到着。


そして光たちは、入口の時点で既に漂っている異様な雰囲気と、脳を締め付ける様な重圧感に思わず息を呑むことになった。


他のエリアとは明らかに何かが違う、そんな気がしてならなかったのだ。


単にSS級の魔物が潜んでいるからとか、危険領域に指定されているエリアだからとか、そういった次元の話ではない。


もっとこう別の何かが、必死に自分たちの身体の節々へ訴えかけて来るような、不思議な感覚であった。



メンバー達の間に重苦しい空気が流れている中、光が今回の戦術についての説明を始める。


「洞窟内での陣形だが、基本は三列で行動する。 先頭は、どんな敵が来ても柔軟に対応できる俺が担当だ。 二列目は、シルヴィアとナギサと九条の三人に担当して貰う。 三人は横並びの位置関係を常にキープし、左右の警戒と全体的なカバーに徹して欲しい」


「んーと、あたしドラグーンだけど先頭じゃなくて良いのか? 役割的にはそっちな気がするけど」


九条が早速手を上げ、質問をする。



対して光は、オタク特有の早口とまではいかないものの、いつもより饒舌気味に回答をする。


「いや九条はタンク役よりも、スピードを活かした咄嗟の迎撃役に徹した方が真価を発揮できるはずだ。 俺とシルヴィアだけでは防ぎきれない攻撃があるかもしれないからな。 だから九条は、ナギサとシルヴィアに何かがあった場合にすぐ動ける様、隣で構えていてくれれば良い。 勿論そうならない様に俺が目を光らせておくが、念のためだ」


「よく分かんないけど、要はあたしは防御に徹しろってこと? せっかく実戦用のサザン・クロス持ってきたのに?」


九条はしゅんっと残念そうにしながら、愛刀サザン・クロスを撫でる。



そんなことはお構いなしに、光は説明を続けた。


「九条がリスクを負ってまで攻撃に回る必要性がないということだ。 このパーティーにはとんでもない火力持ちが三人もいるからな、攻撃役は俺達に任せればいい。 だからさっきも言ったように九条は、ナギサとシルヴィア専用の迎撃ミサイル的な役割を担ってくれ」


「た、確かにそうだな.....お前とちびっ子とイケメンくんがいるんだもんな.....分かった、責任を持って二人を全力で守ることにするよ」


九条は物分かりが良くて助かる。


それにしても、どちらかといえば攻撃タイプの九条を防御に起用するとは意外であった。


勿論、ただ適当に役割を決めたわけではなく、そこにはちゃんとした理由がある。



というのも光は今回、対人間との戦闘を第一に想定しているのだ。


何故そんなことをしているかと言うと、仮に末元がゼラの洞窟に居たとしても、彼が一人である保証はどこにもないからである。


むしろ間違いなく、他に誰か人間なり何なりを連れているはず。



末元の魔力は疑う余地もないほど膨大であるが、今まで一度も戦闘に参加していない様子を見る限り、戦闘能力自体は低いと考えるのが自然だ。


そしてサイキックの洗脳魔法は基本的に、対象が弱っていないと効果が無いと言われている。



(つまり末元が魔物を洗脳する際は、別の誰かに魔物を弱らせて貰っているんじゃねえか、っていう仮説が立つわけだ)



この仮説が正しければ、今回末元に遭遇した場合は人間と戦うことになる。


動きの鈍い魔物が相手なら、防御は光とシルヴィアだけで十分だが、相手が人間と来たらそうもいかない。


要所で、どうしても小回りが利かない部分が出てくるはずだ。



それこそ九条と同等以上のスピードを兼ね添えた敵が襲ってきたら、光はともかく、ガーディアンであるシルヴィアにそれを防げる保証はない。


そこで活躍を期待したのが、パーティー唯一のドラグーン、九条 鈴音だったのだ。


スピードに全振りの彼女なら、どんなに素早い敵が相手でもそれなりに抗うことが出来るはずだと光は考えた。



これが九条を防御役に起用した理由である。


「ナギサは敵を見つけ次第ぶちかまして貰って構わない。 シルヴィアは少しでも妙な魔力を感じたらすぐ皆に伝えてくれ。 そうしたら防御体勢を取りつつ、場合によってはホーリネス・スクエアとかを発動させながら移動するとかして、柔軟に対応していこう」


「ほーい!!!」


「分かりました!!」


「最後列はレイリスに任せる。 背後の警戒は勿論のこと、洞窟の探索している最中に何か気になることがあったら、遠慮なく指示を出してくれ」


「OK、了解した」



こうして淡々と説明をしている光の様子を見る限り、一つ目の特別授業「対人訓練」で学んだことが活かされているのだろう。


特に専門的な知識をひけらかしているわけではないが、内容はしっかりと的を得ていた。


二日間、自分達だけで試行錯誤しながら戦い抜いた経験は、無駄ではなかったということだ。



一通りの作戦を伝え終わった光は、洞窟の入口をジっと見つめる。


(俺はあまり直感とかそういうのは信じないタイプだけど、今だけはハッキリと分かる。 この先には多分.....いや間違いなく、ヤバい奴が待ってる。 良くも悪くも、シルヴィアを取り巻く環境に何かしらの変化が起きることになるだろう)


先程から激しく脈を打っていた心臓の鼓動を抑える様に、光は胸に右手を当てた。


決して物怖じしているわけではないが、初陣ということもあり、緊張しているのだろう。



自分はメンバー全員の命を背負っている立場なのだ。


光はその意味を今一度よく考える。


そして、無駄な力を抜く様に「ふうっ」と大きく息を吐いてから、ディアヴォルスの団員一同に出陣の号令を行った。



「.....行くぞ!」

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