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【第61話】ディアヴォルス

~特別合宿所 B教室にて~


1-Bの生徒が集う教室に、バタンッ!!と大きなドアの開閉音と共に現れたのは通称「悪魔の人」、三刀屋 光。


その男は、つい先程まで縄跳びでもしていたかの様にハァハァと息を切らしている。


ただでさえ色んな意味で有名人だというのに、そんな様子を見せられたら他の生徒は恐怖を感じざるを得ない。



『ちょ、ちょっとなんかあの人ヤバくない?...って、悪魔の人じゃん...こわ』

『もしかしてまた演技の練習ってやつ? やるならレイリス様とセットでやって欲しいんだけど』

『ッヒ!? こっちくるよ!!』


教室内に異様な緊張感が漂う中、光はある女子生徒の所へと向かう。


乱れた呼吸を整え、ここに来た目的を彼女に伝えた。



「.....ナギサ」


「な、なに?.....そんなに慌ててどしたの? てか、あのダイナミックな登場の仕方はさすがのナギサちゃんもビックリしたよ」


ナギサはドン引きしたような表情でそう言う。



しかし光は一切気にせず、話を続けた。


「あとで理由は詳しく説明するから、とにかくこの授業は俺とパーティーを組んでくれ」


「うぇっ?! べ、別にいいけど....あ、でも―――」


「よし、じゃあ行くぞ」


「え...あ.....」



ナギサから了承を得ることが出来た(?)ので、駆け足気味に教室から去ろうとする光。


だがその時、彼を引き留めるかのように一人の生徒が荒々しく声を上げた。



「―――ちょっと待ちなさいよ!」


「.....あ?」


振り返ると、そこにはナギサの友人だと思われる女子生徒が腕を組み、こちらに鋭い視線を向けながら立っていた。


眉間にシワを寄せ、目の前の怪しい男に対する不満と苛立ちが入り交じった様な、そんな表情をしている。



「あんた、この前もナギサにちょっかい出してた人だよね? 一体何のつもり? 」


「リ、リっぴー待って!! 三刀屋氏は別にそういうのじゃ―――」


「大丈夫、あたしがこいつにハッキリ言ってやるから。 ナギサはそこで待ってて」


どうやら、この生徒は「リっぴー」というらしい。


イントネーションに平仮名が混ざってる感じがするので、おそらく本名ではなくあだ名だろう。



(....あーそういう感じね、いるいるこういう女子)


リっぴーからしてみれば、大事な可愛い可愛い友達が他クラスの男にたぶらかされてる様に見えるのだろう。


それも相手が「悪魔の人」と来たら、より強い警戒心を抱いてしまうのも無理はない。


だが、光としても今回に限っては譲るつもりなど微塵も無かった。



「この子はあたし達と組むことになってるの、だから部外者は帰って貰っていい?」


「それに関しては申し訳ないと思ってるが、今回は俺にも事情があってな。 色々あってナギサの力が必要なんだ」


「いや事情とか知らないし、どうせろくでもない話でしょ? 変なことに巻き込むのやめてくれる?」


「.......」


こちらの事情を何も知らない様な女に"ろくでもないこと"と半笑いで揶揄され、ほんの少しピキっとしてしまう光。


しかし、ここで逆ギレしても余計に状況が悪くなる為、心を仏にし話を続ける。



「....俺が行こうとしているエリアは雷属性が弱点の魔物が多いから、ナギサがいてくれると助かるっつーか、ラクっつーか...」


「は? あんた悪魔の力持ってるんだから属性なんて関係ないでしょ」


「くっ....(こいつ目が本気だ...ナギサは絶対に渡さないという意思を感じる)」


「はい、もういいよね? そもそもここ1-Aの教室じゃないし、皆も怖がってるから早く出てって。」



迫りくるリっぴーの圧に、光は押されていく一方。


実際、傍から見たら彼女の言っていることの方が正しく聞こえてくるし、他の生徒も当然彼女の味方だ。


最初は皆、珍しいものを見ている時の様な目を光に向けていたが、今は違う。


気付けば、光を完全に"敵"としてみなしていた。



この圧倒的不利な状況を覆すには、観客の認識を一転させる決定的な何かが必要だろう。


(まずいな.....正直、シルヴィアとレイリスの名前を出せばすぐに済む話ではある...そうすればこいつは間髪を入れずに退いてくれるだろう....だが....)


自分でも理由はよく分からないが、その方法で解決したところで、納得できない様な気がしてならなかった。


いつもなら面倒事は極力避け、利用出来るものは利用して、自分が一番楽を出来る生き方をとってきたのに。


なぜか今向き合っているこの問題に関しては、自分の力だけで解決したいと思ってしまったのだ。



「お、俺は―――」


「....リっぴー!! ごめん!!!」


これまでアワアワと光たちの口論を見ているだけだったナギサが、突然声を上げた。


光とリっぴーは思わず「えっ」と驚き、ほぼ同時に彼女の方を向く。


ギャラリーも一斉に視線をナギサへと移し、次に発せられる言葉に今日一番の注目が集まっていた。



「ご、ごめんってなにが? どうしたの?」


焦った様子でリっぴーがナギサに聞く。



ナギサはしばらく言葉に詰まっていたが、突然何かを決心したかの様にキリっとした表情に変わると、こう言い放った。


「あの.....やっぱり今回は僕、三刀屋氏のところに行く!! もちろん、あとでちゃんと埋め合わせはするから!!」


いつもより早めの口調で友人にそう告げると、今度はなにを思ったのか、光の左手首をガシっと荒めに掴んだ。


「ほら三刀屋氏、いくよ!!!」


「え、なに.....うおぁッ?!!」



牽引車も顔負けするほどの、物凄い力で身体を引っ張られる感覚。


更に、強めの静電気が流れているかの様な、謎の刺激が左手首を襲う。



そして、目の前で起きている光景に騒然とする1-Bの生徒達。



そう、ナギサはリっぴーの返事を待つことなく半ば強引に光を連れ、ダッシュで教室から飛び出していったのだ。




(い、一体何が起きた.....?)


あの場にいた人間の中で最も混乱しているのは、おそらく光だろう。


劣勢を跳ね返すべく、それなりに効果が期待できそうな起死回生の台詞を必死に考え、もう喉まで出かかっていたというのに。


気付いたらナギサに手を引かれ、教室を出ていた。



そして今も尚、自分と彼女は廊下を同じ速度で走っている。


「お、おい....良かったのか? あいつすげえ顔してたけど.....」


「大丈夫、あんなので仲悪くなったりしないよ」


「ならいいんだが....」



実際、リっぴーや他のクラスメイト達の中にナギサを悪く言う人間はいないだろう。


悪く言うどころか、あとで全員から過剰な程に心配されるはず。


確実に言えるのは、「誘拐犯」「変質者」「ロリコン」などの称号を三刀屋 光が新たに獲得するということだけだ。



「.....ナギサ、ここまでくればさすがにもう追ってこないと思うぞ」


合宿所の中は広く、A教室からB教室に行くには棟を跨がなければならない。


しばらく走り続け、リっぴーを撒いたことが確認できた二人は一度停止する。



「おっと、確かにもう大丈夫そうだね.....って!? あの...ご、ごめん!!!」


足は止めたが、手首はナギサにガッチリと掴まれていたままだった。


この反応を見るに、彼女は今まで自分が何をしていたのか、気付いていなかったのだろう。



「.......」


頬を紅く染め、焦った様子で手をパッと放すナギサ。


視線は下と右、そして光が立っている左側の3つをランダムに移動している。


森での別れ際の時もそうだったが、この子のそういう仕草は本当にやめた方がいい。


健全な男子にあらぬ勘違いをさせ兼ねない行為は、一種の犯罪だということを理解すべきだ。



とにかく、結果的に光はナギサに助けられる形となってしまった。


光は自分の会話術の未熟さを悔いつつ、軽く謝罪をする。


「....いや、こっちこそ色々とすまなかった。 もっといいやり方があったはずなのに、リっぴーとかいう奴の圧に屈してしまっていた」


「まー、結構リっぴーって気が強い女の子だしね。 あのまま続けても三刀屋氏じゃ無理だったと思うよ。 昨日の会議の時もだけど、君、口喧嘩最弱じゃん」


「そうかもな....とにかく助かったよ、サンキュー。 んじゃ、レイリス達と合流するぞ。 説明はそこで合わせておこなう」


「了解であります!! 三刀屋大元帥!!」


「5人しかいない軍に元帥もクソもあるか....」



いつもの適当なノリに付き合わされながらも、光は1-Aの教室へと戻っていく。



ところで、ナギサがあのタイミングで割り込んでこなかった場合、あの後どのような展開になっていたのだろうか。


あの時、光が言いかけていた台詞の内容は一体何だったのだろうか。


極限近くまで追い込まれた末に出てきた言葉だったので、おそらく光本人も既に失念してしまったに違いない。



ただ、今も左手首に微かに残る、自分ではない誰かのぬくもり。


それが如何にして自分の所へやってきたのか、元の持ち主は誰だったのか。


不思議なことに、それだけはハッキリと覚えていた。




~特別合宿所 A教室にて~


「では、今回このメンバーでパーティーを組んだ目的を説明する」


いまA教室に残っているのは、光、シルヴィア、レイリス、ナギサ、九条の5人のみ。


他の生徒たちは早々にパーティー決め、もう出発の準備をしている頃だろう。


光は遊び心など一切無しの真剣モードで、この度の招集目的を話し始めた。



「セシルから説明があった通り、最終日の授業は実際に魔物が出現するエリアに行き、自分達の力で狩るという内容になっている。 が、その条件の中に"危険領域"には近づくなというものがあった」


「そりゃお前、私みたいな普通の生徒は危険領域に入るわけにもいかないし、当然っしょ」


「ああ.....だが結論だけ先に言おう。 俺達はこれから、SSS級の魔物が出るとの情報がある"ゼラの洞窟"へ向かう」


光はそう言って、配布された地図の一部分を指差す。



その位置は"アーミの湖"という、今回の授業の対象エリアから、少し離れた場所にあった。


つまり光は、セシルには"アーミの湖"に行くと嘘の報告をし、そこに転移させて貰った後、徒歩で"ゼラの洞窟"へと向かうつもりなのだ。



「え、SSS級って....三刀屋、正気か? てか危険領域には行くなって言われてるじゃんよ?」


真っ先に九条が反応し、開始早々ぶっ飛んだことを言い出した光に問う。


SSS級モンスターと言えば、中~上級レベルのギルドパーティーは愚か、熟練の戦士たちでさえ手に負えないほどの強さを誇る化け物だ。


そんな魔物が潜んでいるエリアに行くなんて急に言われたら、驚くなという方が無理だろう。


ましてや、九条は半ばギルドで過ごしていた経験がある為、魔物に関しては光よりも詳しく、その恐ろしさも良く知っていた。



「そんなヤバいとこに行かなくても、このメンバーが揃ってれば余裕で優勝できるだろ? 何で急に.....」


「九条、昨日俺が話したことを覚えているか?.....末元が現れる場所の法則性についての話だ」


「......!! ま、まさかお前、今から光良を探しに行くってのか?! 一応授業中だぞ?!」



昨晩片桐から尋問の末に聞き出した、末元の目撃情報に関する話。


それによると、SS級以上のモンスターが潜んでいるエリアに、彼は現れる可能性がある。


なら、片っ端からその条件に該当するエリアを探し回れば、いずれ彼に会うことが出来るかもしれない。


だから光はその一手として、今回の授業を利用するつもりなのだ。



「どうせ週末には一回目の探索に行く予定だっただろ。 それがほんの少し早まるだけだ。 全くもって問題無い」


「いやまあそうだけどさあ...かよわい女の子には心の準備ってものがなあ.....」


そう言って、九条は呆れた様子で溜め息をつく。



対して光は、少年時代の様なほんの少しヤンチャな笑みを浮かべ、


「規則を破るのは少々アレだが、九条が懸念している魔物の危険性については何の心配もいらない。 安心してくれ。」


と九条をなだめる様な台詞を吐くが、SSS級の魔物が現れるともなると、そう簡単に納得できるわけが無かった。



九条は不安からか、若干引き気味の表情でこう言った。


「何を根拠にそう言ってるのかサッパリ分からん.....SSS級ってマジでバケモンなんだぜ? そりゃお前は悪魔の力があるから余裕なのかもしれないけどさ.....」


それなりの戦闘能力があるとはいえ、九条は紛れもなく"普通"の女の子だ。


学院に入学してからは、元の世界に居た頃とさして変わらない日常を木乃葉と天谷と共に送っており、その生活に満足していた。


大体、彼女は昨日まで末元やシルヴィアに関することなんて何一つ知らなかったわけで、まさか自分がSSS級の魔物とやり合う日が来るなんて夢にも思っていなかったはず。



そんな九条を直々に指名し軍に引き入れた光には、その身の安全を確保する義務がある。


そして当然、光はそれに対する確固たる自信を持っていたから、迷わず九条を軍に誘ったのだ。



「九条、俺達の軍の面子をもう一度よく見てみろ.....これがその"根拠"ってやつだ」


光がそう言うと、九条は不安げな表情で周りを見回す。



すると彼女は、ものの数秒で光が言っていた言葉の意味が分かった。


「安心していい」という点において、これ以上の説得力を持つものは他に存在しないだろう。



気付けば、先程まで九条の顔にかかっていた暗い影がすっかり晴れていた。


「.....そっか、確かにいらない心配しちゃってたかもな、私」


いま、彼女の視線の先に映っている光景。


それこそが、光の言う"根拠"そのものであった。



「フッ.....魔物の様な下等生物、どんなにランクが高かろうが僕の敵ではないさ。 伊達に現役でヘカトンケイルNo.3を名乗ってはいない」


「ナギサちゃんもこの前SSS級っぽいやつ一撃で倒したし、案外いけるもんだって! それに、いざとなったら三刀屋氏がきっしょい魔法でやっつけてくれるから大丈夫だよ!!!」


「私は皆さんを援護することしか出来ませんが....だからといって足を引っ張るつもりはありません!」


「真に警戒すべきは魔物なんかより末元だ、どんな隠し玉を持ってるか分からないからな。 奴に出くわした時こそ、気を引き締めて臨まなければならない。 だが、皆は特に気にする必要は無い.....奴は俺がこの手で始末する」



天才、神子、王女、そして勇者。


世界一.....いや、宇宙一といっても過言ではないほどに頼もしいメンバーが九条の方を向き、頷いてくれていたのだ。


どんなに強大な敵が相手でも、このメンバーなら全く負ける気がしない。


彼らになら安心して自分の身を任せられる、そう思う九条であった。




この世界は果てしなく広い。


危険領域に指定されているエリアなど、言葉通り無数に存在する。


そう考えると、当作戦が本当の意味での成功を遂げる確率は、天文学的な数字になるだろう。



かといって他に代案も無ければ、手かがりも無い。


たとえ全てが徒労に終わったとしても、やるしかない。



シルヴィアを解放する為なら、光はどんなことでも全力で臨むと決めたのだから。



「さて、シルヴィア防衛軍改め....."ディアヴォルス"の初任務といこうか」

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