【第60話】ついに合宿最終日! 気になるその授業内容は?
「うっ....眩し....」
三刀屋 光は朝というものが苦手だ。
もっと眠っていたいのに起床を強制され、つまらない学校に行くことを余儀なくされる。
それでも時には、"朝"の猛襲に抵抗してみたくなるのが人間のサガ。
目覚まし時計が何度鳴り響こうとも、聞こえない振りをして二度寝、三度寝を強行する。
あの独特な罪悪感と絶妙な快感が癖になってしまう人は少なくないだろう。
(今何時だ....? いや、何時でもいいか...とりあえずあと5分だけ....)
合宿三日目の朝、物音でふと目が覚めてしまった光。
彼は己の欲望のままに、魔の二度寝へと手を染めようとしていた。
しかしその試みは、ある人物によって無残にも打ち砕かれてしまう。
「だらしない奴だ....さっさと起きろ!!!」
とてつもなく不快で大きな声と同時に、身体に突然襲い掛かる寒気。
自分は一体何をされてしまったのだろうと、光は一瞬考える。
氷属性の魔法でも喰らわされたのだろうか、はたまた冷水でもぶっかけられたのだろうか。
正解はどちらでもなかった。
「.....なんで朝っぱらからお前の顔見なきゃならねえんだ」
「フッ、ようやく目が覚めたか。 では僕は先に朝食の会場へ向かうとしよう、貴様も遅れるなよ」
もはや見慣れてしまった胡散臭いスマイルでそう言うと、レイリスは部屋から出ていく。
さすがは現役の軍人、学生として過ごすようになってからも、その生活習慣は全く乱れていない。
寝室の床には、いまほどレイリスが強引に捲ったであろう、光の掛け布団が落ちていた。
「...数ある目覚め方の中でもぶっちぎり最悪のシチュエーションだった。 よりにもよって何であいつなんだよ、どうせならもっとさぁ....」
グチグチと文句を垂れながらも支度を始める光。
時刻は6時半、朝食は7時開始とのことなので十分に間に合うだろう。
顔を洗い、着替えと歯磨きを済ませ、髪型をほんの少し整えてからラウンジへと向かった―――
~ ラウンジにて ~
(また自由席×バイキング形式かよ...なんで学校ってこういうのが好きなわけ? )
光がラウンジに到着する頃には、既にほとんどのテーブルが埋まっていた。
生徒達が昨晩の話や最終日の授業の話などで盛り上がっている中、彼は例のごとく「ぼっち飯」に適してそうな席を最優先で探す。
(どこかいい場所は......無いだとォッ!?)
絶望のあまり、思わずム〇クの代表的な絵画作品である、"叫び"の様な顔をしてしまった。
昨日の夕食の時はポツポツといい具合に席が空いていたのに、なぜ今はほぼ満席状態となっているのか。
その理由は単純だ、前回とは参戦した時間帯が違うからである。
というのも、夕食の時はしばらく配膳係をしていた為、大半の生徒がその間に食事を済ませ、うち一部は早々に寝室へと移動していたのだ。
そのおかげですぐに良い席が見つかったのだが、残念なことに今回はまだ始まってすらいない。
つまり人数的にはピークの時間帯なので、光にとって都合の良い一人用の席などあるはずも無かった。
(仕方ない...木乃葉のところに入れて貰おう.....)
万策尽きた光は、しぶしぶ旧友の所へ助けを求めに行く。
よき理解者である彼女なら、きっと快く受け入れてくれるだろう。
「...お、おっす。 ここ座ってもいいか?」
「あ、光くんおはよう! 全然いいけど、なんか珍しいね」
木乃葉は昔と変わらない優しさを存分に発揮し、そう言ってくれた。
彼女にはこれからもずっと変わらないでいて欲しい。
「め、珍しいかあ?! そ、そんなことないだろ! ハハハハハッ...!」
「昨日はよく眠れた? そうだ、誰と同じ部屋だったの?」
「も、ももちろん!...えっと、レイリス...なんとかかんとかって奴!」
当然だが、木乃葉の座るテーブルには他の人間もいる。
逃げてきたことを察せられない様、あくまで自然な感じに振る舞う光。
しかし、木乃葉はともかく、他2名の目は無情にも誤魔化すことは出来なかった。
「三刀屋....あんたさぁ....」
「......はい」
「一緒に食べる相手いないから、こっちに逃げてきたんでしょ?」
「.......」
「ちょっ、愛華やめなって、かわいそうだろ!! 三刀屋も気にすんなよ? わ、悪気があって言ってるわけじゃ...ブプッ!!」
「いやあんたも吹いてるじゃん。 ほら、人ってそういうのが一番傷つくって知ってる~?」
「.......」
さすが、元の世界では学年丸ごと支配していた魔女達だ。
この世界では無類の強さを発揮している光に対しても、圧倒的優位に立ち回っている。
海で砂に埋められていた件と言い、やることが本当にえげつない。
九条に関してはこれから共に活動していく仲間だというのに、彼女に慈悲は無いのだろうか。
(選択肢、思いっきり間違えたな.....)
魔女によるガード不能の攻撃を受け、心に傷を負ってしまった光。
そしてなんとこの後食べたパンと牛乳に、何故か大量の塩が混ざっていたらしく、彼は余計な追撃まで貰うことになったのであった。
―――その時感じた塩気が、本当に"塩"のせいだったのかは誰にも分からない。
~特別合宿所 A教室にて~
朝食を終えた生徒達は、それぞれのクラスの教室に来ていた。
しかし、皆やけにソワソワしているというか、落ち着かない様子。
その理由はと言うと、実は最終日の授業内容を生徒はまだ知らないからである。
もっとも、1日目も2日目も当日まで予定を聞かされていなかったので今更みたいな所はあるが、やはり落ち着かないだろう。
「よし、全員いるなー、点呼は面倒だからやらないぞー。 はい、ということで早速最後の授業の説明をしたいと思うんだが―――」
セシルが前に出て話し始めると、生徒達はゴクリと唾を飲み込み、緊張感に満ちた顔に変わる。
森での無差別サバイバルゲーム、地獄の6時間ノンストップ耐久授業と来て、次に来るのは一体何なのか。
気になるその答えは、予想の斜め上の方向から飛んでくることとなった。
「最後の授業は"ドキドキ☆ワクワク☆真夏のLet's Hunting!!"だ。」
『...は?』
担任教師の頭が暑さでおかしくなったのではないかと、生徒達は一斉に呆れた声を出す。
こいつは一体何を言っているんだ?と言わんばかりの表情で、セシルをじっと見る生徒諸君。
授業名の響きが今までと方向性が違いすぎるので、戸惑うのも無理はない。
だが、決して彼女はふざけているわけではなかった。
「まあタイトルは少々アレだが内容は至って真面目だ。 お前らにはこれから魔物が現れるエリアに実際に行ってもらう。 そして自分たちの力だけで魔物を狩ってくるんだ。 とにかく、まずはこれを見てくれ」
そう言って、セシルは一枚の地図と授業の概要が書かれた紙を全員に渡す。
■特別授業その3 ドキドキ☆ワクワク☆真夏のLet's Hunting!!
☆各5名のパーティーに分かれて行動し、討伐した魔物の※グレードを合算した数値を競う
☆狩った魔物をあとで判別出来る様、牙や爪、角等の部位を一体につき一つ以上持ち帰ってくること
☆エリアへの移動は空間転移でおこなう
☆14時には作業を切り上げ、15時までに帰還する旨の連絡を入れること
☆緊急時は速やかにデバイサーで連絡を入れること
☆用紙に記載のあるエリア以外は危険領域に指定されてる為、絶対に近寄らないこと
※グレードとは、魔物自体の希少価値の様なもの。 A級、SS級といったランクとは異なる。
「えー内容は見ての通りだ。 勿論、ヤバい魔物が出る様な場所は除外してあるから安心しろ。 最終日くらいは存分に楽しんでこい」
生徒全員がそれなりに魔法を使えるとはいえ、所詮はただの学生。
怪我人や死人が出たら学院側も困るので、行ける場所は限られており、どこもいわゆる雑魚モンスターしか出ないエリアだった。
確かに、これならちょっとした冒険気分で実戦の経験を積めるだろう。
「あと今回のパーティーは自由だ。 仲間同士で組んでも構わんし、何なら他のチームから引っ張ってきてもいいぞ。 ただ、出発前に私に報告するのだけは忘れずにな。 んじゃ、解散!!」
マシンガンの様に自分だけ淡々と話し、説明が終わったと思ったら今度はいち早く教室から出ていくセシル。
あの様子だと、きっと昨晩ヤケ酒でもして、その酔いが抜けていないのだろう。
生徒らは一瞬ポカンとしていたが、すぐに活気を取り戻し、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
(魔物、討伐、エリア...そして危険領域、か.....)
普段こういう時の光は、他のグループが決まるのをひたすら待ち、最後に余った者同士で組むという戦略をとっていた。
そうすれば、断られるリスクを背負う必要もなく確実にグループを決められるからである。
しかし、今回は彼の様子がどこかおかしい。
待つどころか真っ先に席を立つと、ある人物の元へそそくさと向かい、こう言った。
「レイリス、あの2人に声を掛けておいてくれ。 俺はこれからナギサの所へ行ってくる」
「.....そういうことか。 OK、お安い御用だ」
たった一言レイリスにそう伝えた後、光はいつになく慌てた様子で別の教室へと走っていく。
光、レイリス、ナギサ、そして"2人"というワード。
ここまで出てくれば、軍のメンバー5人でグループを組むということは誰でも分かる。
ただ、雑魚モンスターしか現れないエリアに行くのに、わざわざこんなガチガチのメンバーで固める必要があるのだろうか。
実戦の練習をするにしても、彼らにとっては大した経験値にならないだろう。
そんな疑問が浮かび上がる中、レイリスはその真意をすぐに見抜いていた。
「早速やるつもりか....三刀屋 光」
そう呟き、レイリスは席に座ったままニヤリと微笑む。
彼は面倒な説明をしなくともこちらの意図を勝手に察してくれるので、話す方としては非常に楽だ。
―――そして、レイリスはスッと席から立ちあがり、光に言われた通りシルヴィアと九条の元へと歩いて行った。




