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【第6話】絶対絶命 そして 覚醒

「学校....学校かあ.....学校ねえ....ははっ....」


(えええええええ?!)


ふとした思いつきで魔法学院のことを話したら予想外の空気になってしまい、困惑するシルヴィア。


なぜか汗をダラダラと流し震える光を見かねて、慌てて謝罪をする。



「ご、ごめんなさい! 必ず学院に通わなきゃダメとかではなく、そういう選択肢もアリっていう話ですよ! 」


「....いや、こっちこそごめん。 諸事情で学校というものに抵抗があって.....気を取り直して先に進もう。」


(ホッ.....)


そんなやり取りをかわしながら、光とシルヴィアはハープの森を目指して歩いていく。



(でも今後のことを考えたら、自分がどんな能力を持っていて、どんな使い方が出来るのか最低限知っておくべきだよな......)


シルヴィアに学院の話を振られてから、ハープの森へ向かう途中、内心ではずっと魔法学院について考えていた。


今まで見たことがない、そんなもの存在するはずがないと言われた能力。


シルヴィアが言っていた、光は膨大な魔力を宿しているという話。


そして、今後この世界で一生暮らしていくのだとすれば、きっと今よりも様々な意味で強くなる必要があるだろう。


「高校で2年間ぼっちだったから」という何とも情けない理由で、魔法学院に入るのを躊躇している自分が恥ずかしくなる光だった。



~ハープの森 入口~



そうこうしているうちに、光とシルヴィアはハープの森に到着した。


「へー、ここでラムの葉ってのが取れるのか。 思ったより普通の森だな。」


「地形がシンプルで面積も比較的狭い森なので、遭難の心配はほとんどないですし、強い魔物が現れることもまずありません。」


「なるほど、クエスト初心者にとってはありがたいダンジョンだ。」



シルヴィアは以前ハープの森に訪れたことがあるのか、森についてからも迷いなく先へ進んでいく。


「地図によると、この辺が中間地点ってところか。 お、この雑草みたいなのがラムの葉?」


「それはただの雑草です。 受注書にある通り、ラムの葉は根元付近の部分が青いので、抜く前に根元の色をよく見てください。」


そう言って、シルヴィアは自ら採取したラムの葉を光に見せる。



「やけに詳しいんだな。 前にも来た事あるのか?」


「......私も少し前までは、ギルドに所属しながらクエストをこなしていましたからね。」



(......え、ここって王女が自らクエストに行くような世界なの?)


普通に考えれば、一国のお姫様がクエストというか、庶民的な仕事をすることはまず無いだろう。


なにか事情がありそうな雰囲気を察して、光もそれ以上は聞かず、黙々とラムの葉の採集をした。



「よし、これだけ集めれば3日分の宿代と食料分の金にはなるだろう。 ありがとうルーナ、おかげで効率よく進められたよ。」


「いえいえ、私もいい気分転換になりました。 気持ちの整理も出来たので、今日中にお父様の所へ戻ろうと思います。」


クエストに行く前に比べて、シルヴィアは少し元気を取り戻した様にも見える。



「......俺が勇者というか、ルーナが期待していたような人間じゃなくて、申し訳なかったな。」


「光さんに非はありませんよ。 私の早とちりが原因ですし、勇者様については、今後も調査を続けることになると思うので大丈夫です。」



(こんな時、漫画の主人公とか学校で一番モテてる奴って、どんなフォローをするんだろうな)


目の前で困っている女の子がいるのに、気が利いたことを言ってあげられない。


勿論、自分が勇者の代わりになることだってできない。


(所詮俺はただの根暗なぼっち野郎だ...変なことは考えないで、シルヴィアのことは本物の勇者に任せよう)



「目的は果たしましたし、とりあえずギルドに戻りましょうか。」


「あ、ああ...そうだな。 日が暮れる前に早く戻ろう。」


光はモヤモヤした気持ちのまま、ラムの葉が入っているカゴを持って立ち上がる。


そして、光とシルヴィアが歩き出した瞬間、どこからか奇妙な声が聞こえてきた―――



ガアアアアアァアア.......アアアアア.......



「な、何だこの声?! しかも結構近くないか、これ......?」


「この力.....魔物です!! それも、かなり大きな魔力......!」


シルヴィアは魔力感知の能力を使ったのか、近くにいる魔物の魔力を察知したらしい。



魔物なんて戦ったこともなければ、見たことさえない光はとにかく焦る。


「ど、どうするルーナ、走って逃げた方がいい?」


「そうしたいところですけど、残念ながら時すでに遅し.....みたいですね。」


シルヴィアの返答の意味がよく分からず、「え?」っと聞き返そうとした、その時だった。



「グアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」



思わず顔をしかめるような奇声を上げながら、巨大なドラゴンが光とシルヴィアの前に上空から現れたのだ。


「この魔物は......おそらくカノープス......です。」


「ま、マジかよ......だって都市伝説って言ってたじゃねえか.....」


光は初めて魔物という存在を目の当たりにしたことで、恐怖と動揺で身体が完全に固まってしまう。


しかも、いま目の前にいるのはただの魔物ではなく、凶暴かつ巨大なSS級の化け物だ。



数時間前までただの高校生だった光には、どう転んでもまともな思考ができる状況ではない。


(まずい......体が動かねえ。 シルヴィアもいるのに......頼む、動いてくれ!!!)



光がガタガタと震えながら立ち止まっている様子を見て、カノープスはニヤリと笑う。


そして、森の木が折れてしまいそうなほどの勢いで息を吸い込み、攻撃態勢に入ると、無防備な光に対し、強力な風属性の魔法を放った。



「ヴァァアアアアア!!!!!!」


(あ、これはマジで死んだかも.....)


異世界に来た影響で以前よりも光の肉体は強化されているが、これほど攻撃をまともに食らってしまった場合、命の保証はない。



(もっと何事にも精力的に取り組んでくれば良かったなあ.....てか、もう既に一回死んでたわ、俺)


光がおそらく2度目である自分の死を覚悟し、目を瞑った時。


透き通るような美しい音色の声が、森一帯に響き渡った。



「ウィンド・プロテクション!!!」



誰かがそう叫ぶと、薄緑色で彩られた盾が光の目の前に出現し、カノープスの攻撃を直前で食い止める。


「光さん!! 無事ですか?!」


やはり先程の声の持ち主はシルヴィアだった。


ガーディアンが得意とする防御魔法を使い、光を守ってくれたのだ。



「ル、ルーナ! 悪い....俺、体が思う様に動かなくて.....」


「想像以上に相手の魔法は強力です! 長くは持ちませんので、今の内に逃げてください!!」


シルヴィアのガーディアンとしての腕は確かなもので、並大抵の人間では彼女の鉄壁を崩すことは出来ないだろう。



しかし、それ以上にカノープスの攻撃は重く、強く.....そして、魔法の回転率が異常であった。


SS級は伊達ではなく、一度被弾しようものなら即死が待っているほどの攻撃を休むことなく連続で放ってくる。



「こ、これはちょっとまずいかもしれません.....」


一発防ぐ毎に盾へのダメージは蓄積し、同時にシルヴィアも魔力を消耗し続けている。



一方で光は、シルヴィアの防御魔法によって被弾こそゼロだが、まだ動くことさえできていない。


(なんで体が動かねえんだ......大体、仮に俺だけ逃げたとしても、シルヴィアは攻撃魔法が使えないから魔物にやられちまうんじゃ......?)



絶望的な状況の中、最悪なことにカノープスは見た目に反して頭が切れる魔物だった。


中々突破することが出来ない盾に攻撃するのを一時取り止め、今度はシルヴィア本人を標的にし、魔法を放ったのだ。



「くっ!!! ウ、ウィンド・プロテ―――」


シルヴィアは自分がターゲットにされたことに気付き、咄嗟に防御魔法を唱えようとする。


しかし今のシルヴィアには、瞬時に防御魔法の対象を切り替えられるほどの余裕は無い。



やがて時を置かずに、カノープスの魔法はシルヴィアに直撃した。



―――ズザァァァァ!!!



(なっ.....嘘だろ、おい......)


攻撃を正面から受けてしまったシルヴィアは、数メートル後方に吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだままピクリとも動かない。


気を失っているだけなのか、もしくは....



「シ、シルヴィア......そんな......」


「キヒヒヒイイ!!!!」


厄介な壁役を排除することに成功したからか、カノープスはどことなく上機嫌な様子で高らかに笑う。



もう誰も助けてくれない、残ったのは何の役にも立たない自分だけ。


まさに絶体絶命。


そしてこの絶望的な状況は、これで終わりではなかった。



『グギャアアアオアアアォォ!!!!!!』



この不愉快な奇声。


数分前、確かに聞いたカノープスの鳴き声だ。


そのカノープスと全く同じ奇声が、全方位から多岐にわたって聞こえてくる。



カノープスはSS級の超強力な魔物だ。


中級程度のギルドパーティーなら、一体で軽々殲滅できるほどである。


そんな言葉通り化け物みたいな魔物が今日この時、この場所には、なんと複数体潜んでいたのだ。



その数、およそ15体――――



絶望を超える絶望、まさに地獄だ。


一体でも全く手に負えないほどの化け物が新たに14体、光の前に現れた。


この状況を打破する手段は、無い。


待っているは「死」だけだ。



しかし、光はシルヴィアがやられたことで頭が真っ白になっており、周りの状況は全く見えていなかった。



(何で俺なんかを守ったんだ.....勇者でもなければ、カッコ良くもない、何の役にも立たない奴だぞ......)



彼にとって、短い時間ではあったが、シルヴィアと過ごした時間はかけがえのないものだった。


学校では誰にも相手にされず、人と話す機会なんて、学校行事の準備や一方的なダル絡みだけだった光。



そんな自分に対して、シルヴィアは王女殿下という立場であるにも関わらず、地味なクエストに最初から最後まで付き合ってくれた。


この世界の魔法やクラスのことについて、丁寧に説明してくれた。


上手く会話できない自分を笑ったりせず、笑顔で接してくれた。


自分の身を犠牲にしてまで、一人だけ安全な場所に逃がそうとしてくれた。



そこまでしてくれたシルヴィアが目の前でやられて黙っていられるほど、光は腐ってはいない。



その時、彼の中で何かが切れる音がした――――



「クッソオォォォォ!!!!!!」



今までの人生で一度も出したことが無い程大きな雄たけびをあげると、彼の身体に漆黒のオーラが現れた。


しかし、今回は何やら様子がおかしい。


以前は右腕に纏うだけだったが、今は全身からオーラが湧き出ており、その色は禍々しさが数段階、増している。



背中には、黒いオーラで形成された翼のようなものまで生えていた。


また、目は赤く充血し、瞳孔は奇妙に青と白の配色へと変化している。


もはやそれは、勇者どころか人間ですらない。



その姿はまるで、悪魔であった――――

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[一言] 日本の天皇陛下だって毎年稲刈りするし
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