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【第59話】俺はまだ、彼女のことを何も知らない

.....最悪だ)


会議という名のメンバーお披露目会を無事に終えた光は、今宵の宿(寝室)へと足を運んでいた。


昨日からハードなスケジュールが続いていた為、疲労が溜まっていることだろう。


ふかふかのベッドでゆっくり身体を休め最終日に備える、それも生徒の仕事の一つだ。



だが若者は睡眠ごときに貴重な時間は浪費しない。


仲間同士で一つの部屋に集まって、騒ぎ、遊び、語る。


結局、合宿というのは夜が一番楽しい時間帯なのだ。



『しゃあ!! 俺の勝ち!!100ルビちゃんと払えよ!』

『クッソーもう一回だ!!!』

『ぎゃははは!!! やめとけってお前に勝ち目はねえよ!』


廊下に一歩出れば、多方面から生徒の騒ぎ声が聞こえてくる。


テンションが上がってしまうのは分かるが、さすがにうるさすぎるのでそろそろ注意されて欲しい。



そんな中、声どころか物音さえほとんど漏れてこない部屋が、たった一つだけ存在していた。


勿論、中に人がいないわけではなく、ルームメイト全員が今も勢揃いしている。


まあ、全員といっても"二人"しかいないのだが.....。



「フッ、こんな時まで勉強か....正直、貴様はもっと不真面目な人間だと思っていたよ」


「そうか.....」


「僕も昔は父さんによく勉強させられていたな....中位魔法を初めて成功させた時は思わず泣いてしまったのをよく覚えている」


「それは大変だったな.....」



残念なことに、光はレイリスと同室にさせられていた。


他の男子メンバーが次々とペアを組んでいく中、最終的に余ったのがこの二人だったのである。



正確には、軍の会議のせいで出遅れてしまったというべきだろう。


ただ仮に光が部屋決めの時間に混ざっていたとしても、会話に参加できず、結局は余っていたに違いない。


もとより、彼はこうなる運命だったのだ。



それでも嫌なものは嫌なので、特に会話はせず、話し掛けられても相槌を打つことだけに徹している光。


ベッドで仰向けになり教科書を広げ、勉強をしている風を装いつつ、レイリスが先に寝るのをひたすら待っていた。



「それにしても九条くんとナギサくんはいい子だったな。 貴様とまともにコミュニケーションが取れるというだけでも、かなり貴重な存在だ」


「そうだな.....」


「二人はシルヴィアとも仲がいいみたいだし、上手くやっていけそうで何よりだ」


「確かにな.....」


「特にナギサくんに関しては正直驚いたな、まさか既に中位魔法を使いこなしてるなんてね。 さすがの僕も彼女に興味が湧いてきてしまったよ」


「.......」


「そうだ、日課の鍛錬に今度誘ってみるか....この僕に一対一で魔法を教えて貰えると聞けば、彼女もきっと喜ぶだろう」


「.....殺すぞお前」


「え?」



光の一途な想いはレイリスには伝わっておらず、むしろ鬱陶しいくらいに絡んでくる。



さすがに可哀想になってきたので、少しだけ話に乗ってあげることにした。


「それよりお前、よく天才だとか何だとか言われてるけど、昔からそんな感じだったのか? 」


「....ああ、僕は昔から天才だった。 学問や体術は勿論こと、魔法で僕に勝る奴など誰一人いなかったよ」


(うわあ...終わってるわこいつ....日本だったら多分いじめられ...いやイケメンだから許されるのか?)


「僕の才能はとどまることを知らず、気付いたら父さんを越えていた。そして弱冠9歳にしてヘカトンケイルの入団試験を受け、トップの成績で合格。 本当、自分でも驚くくらい出来過ぎたストーリーさ」



2人掛けテーブルの椅子に座り、過去を懐かしむ様に語るレイリス。


話の通り、やはり彼は正真正銘の天才だったらしい。


きっと今までもこれからも、苦労や挫折というものを知らないパーフェクトな人生を過ごしていくのだろう。



「ケッ...顔が良くて、才能あって、周りに恵まれて、なに不自由なく暮らせるとか、嫉妬で刺されても文句言えねえぞお前」


光は彼のことを素直に褒め称えるも、嫉妬で無意識に顔が歪んでしまっている。


元の世界では凡人以下の存在だった光からしてみれば、輝かしい経歴を持つレイリスを妬むのも無理はないだろう。



しかし、ここでふとレイリスが顔色を変えた。


いつもの鼻につく様な表情とは一変、どこかやりきれない思いや激しい不安、後悔などが心の奥底に沈んでいる...そんな表情に。



「....確かに途中まではそうだったかもしれないな」


「途中...?」


「.....僕の体には一生消えることのない呪縛がかかっている。 いや、消してはならないんだ...これは僕が受けて然るべき罰なんだ」


「すまん、何言ってるか全く分からん。 呪縛って何だ? 魔法の話か?」


「フッ、魔法か...そんな生易しいものではないさ。 一種の心の病みたいなものだ。 変な話をして悪かった、忘れてくれ」



誰もが羨む綺麗な顔と才能を持ってる癖に、一体何に対して病んでいるというのか。


彼はこの世に存在する全ての男性に謝罪をした方がいい。



ともかく、何か事情がありそうなことは確かなので、光もこれ以上は聞かなかった。


別に興味がないとか、どうでもいいとか思っているわけではない、神に誓っても。



それはそうと、光にはイケメンの贅沢な悩み事なんかより、ずっと前から聞きたかったことが一つある。


内容が少々繊細というか、触れたら負けみたいな空気があったため今まで封印していたのだが、やはり気になってしまうお年頃。


聞くには丁度いいタイミングなので、この際半端なプライドは捨て、思い切って聞いてみることにした。



勉強している風の体制のまま、視線だけをレイリスに向ける。


「....前から気になってたんだが、お前とシルヴィアってその...どういう関係なんだ? 6年の付き合いとか何とか言ってたけど.....」


「ん? ああ、シルヴィアか....懐かしいな....」


(え、なに、またその顔? こいつ何なの? 病んでるの?)



光が質問を投げると、またしてもレイリスは溜め息を漏らし、窓から見える景色を遠い目で眺め始める。


様子を見る限り、さきほど言っていた彼の「呪縛」には、シルヴィアが関係しているということなのだろう。



レイリスはフッと軽く笑い、気になるその内容を話してくれた。


「彼女と出会ったのは10歳の頃だったかな。 城の庭を歩いている時に偶然すれ違ったんだが、今とはまるで別人のような子だったよ....」


「は? 別人?」


「希望の光などどこにも無い、あるのは痛みと闇、そして孤独.....僕にそう訴えかけてくる様な、そんな眼をしていたんだ。 とてもじゃないが、小さな子供が意図して出来る様な眼ではなかったね」


「ちょっと待ってくれ、情報量が多くて理解が追いつかないんだが...痛みとか孤独ってどういうことだ? お前はシルヴィアの話をしてるんだよな?」


予想していた内容とあまりにも高低差があったので、思わずベッドから立ち上がり、光は苦笑いでその真意を問う。



「そう.....これはあのシルヴィアの話だ。 なに、今の明るい彼女しか知らない貴様が驚くのも無理はない」


「い、一体シルヴィアに何があったっていうんだよ.....俺にはそんなこと一言も―――」


よく考えてみたら、光はシルヴィアの過去については未だに何一つ聞かされていなかった。


分かっているのは、このエルグラント王国の第一王女であり、自分を勇者として導いた張本人だということ。



――――それ以外、何も知らない。



帝国や予言諸々の話については国家機密の為、光に詳しく話せないのは仕方ないことだろう。


しかし、彼女の過去や素性まで隠す必要は果たしてあるのか。


あるいは、彼女の存在自体が国家機密だとでも言うのだろうか。


いずれにせよ、部外者として扱われている光に、それを知る術は無かった。



「シルヴィアは....俺には話してくれないのか....」


寂し気な表情をしながら俯く光。


そんな様子を見たレイリスは「はぁ」と溜め息をつき、こう言った。


「....彼女も好き好んで黙っているわけではない。 それくらいは脳筋バカの貴様でも分かるだろう」


台詞に少々棘はあるが、きっと彼なりに光を慰めているつもりなのだろう。



実際、レイリスの言う通りだ。


シルヴィアの性格を考えれば、むしろ光に黙っていることに対して後ろめたさを感じてるはず。


彼女にも事情があるのだから、話せる時が来るまで待っていてあげよう。


光は心の中で、そう呟いた。



「それもそうだな.....うしっ! 今日はもう寝るとするか」


「なんだ、もう聞かなくていいのか? これからが本番だったのだが....」


「もう十分聞いたから結構だ。 つーか俺から聞いといてなんだけど、シルヴィアの過去が国家機密だっていうなら、お前がそんなにベラベラ話したらまずいだろ」


「フッ...どうせ貴様もいずれ知ることになるだろうからな、今知るか後で知るかの違いでしかない。 つまりノープロブレムだ」


「......とにかく今は遠慮しとく。 じゃあお先」


そう言って、光は再びベッドに潜り込む。



別に不貞腐れているわけではない。


シルヴィアの過去は気になるが、今はそれよりも先にやることがある。



時刻はまだ22時と、寝るには少々早い時間帯だが、布団を頭まで被り無理矢理にでも脳の活動を停止させる光であった。

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