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【第58話】「軍」とは一体・・・?

時刻は20:00。


本日のスケジュールを全て終えた生徒達は、どっしりと溜まった疲労を癒すべく、寝室へと身を移す。


2人一部屋ということだが、ルームメイトの割振りは自由であり、仲の良い者同士で組むことを許されている。


そんな次第で、早くも合宿所の廊下は生徒の騒ぎ声で埋め尽くされていた。



それにしても、合宿の夜というのは何故あれほどまでに心が躍ってしまうのだろうか。


友人と同じ部屋で寝泊まりする行為自体は、その気になればいつでも可能だ。


だが、何でもない休日に寝泊まりするのと、合宿や修学旅行でするのとでは、やはり決定的な差を感じる。


その"差"の正体が何なのかは上手く説明できないが、あの不思議な高揚感は日常的に味わえるものではない。


きっと彼らは、今しか味わえない特別な時間をこれから共に過ごすのだろう。




〜フォルティス魔法学院特別合宿所 ラウンジにて〜



合宿の実質的なメインイベントが開催されている中、喋り声一つ無いラウンジのソファーに、三刀屋 光は腰を下ろしていた。


———シルヴィア、レイリス、ナギサ、九条という異色の面子を連れて。



一人用のソファーが十数個、四角形になる様に並べられており、それぞれが適当な位置に座っているといった状況の中、光が第一声をあげた。


「コ、コホン.....えっとまずは皆、せっかくの自由時間に呼び出してしまってすまなかった。 今回は大事な話があって集まってもらっ——」


「その前に一つ聞かせてくれ。 これが前に貴様の言っていた"選りすぐりのメンバー"ということで相違ないか?」


話の途中だというのに、光の向かい側に座っていたレイリスが突然そんな質問を振ってくる。


この男、軍人の癖に会議というものを知らないのだろうか。



しかし光は、彼のそんな恥ずかしい行為を咎める様な真似はしない。


部下の質問には優しく真剣に答えてあげるのが、団長ってものだ。



「YES」


とだけ光が言うと、レイリスは更に質問を続ける。


「ね、念のため聞かせて貰うが.....決してふざけているわけではないんだな?」


「.....YES」


「......」


「......」



五人の間に何とも言えない微妙な空気と、少しばかりの沈黙が流れる。


「あはは...」と苦笑いのシルヴィアに、足をプラプラさせながら不思議そうに首を傾げるナギサと、眠そうに欠伸をする九条。


そして、額に手を当て呆れた様子で首を横に振るレイリス。



説明が遅れてしまったが、この集まりは他でもない、シルヴィア防衛軍(仮)の記念すべき第一回目の会議である。


光がスカウトしたのは、既に決定していたレイリスに加えて、ナギサと九条の二人。


シルヴィアに関しては光が呼んだのではなく、本人たっての希望で無理矢理に加入する流れになった。



彼女を危険な目に合わせてしまっては本末転倒なので何度も断ったが、自慢の頑固っぷりを発揮され押し切られてしまった形だ。


実際、戦力としては喉から手が出るほど欲しい人材なので、嬉しいと言えば嬉しい。


そもそも、下手に城で匿うよりかはレイリスや光の傍に置いておいた方が安全まである。


シルヴィアが自分も参加すると言った時は正直驚いたが、むしろこれで良かったのかもしれない。



それはさておき、なぜ今この場が妙な空気になっているのか説明を.....するまでもないだろう。


「軍」というくらいだから、少なくとも10人は連れてくるものだとレイリスは思っていたのだ。


だが、蓋を開けてみるとここに居るのはたったの五人。


しかも、そのうち新顔はナギサと九条の二人のみ。


こんな状況に出くわしたら、レイリスじゃなくとも困惑してしまうだろう。



レイリスは深い溜め息をついた後、手を額に乗せたまま天を仰ぎ、もう一度光に問う。


「この際5人なのは良しとしよう。 小規模な分隊だと考えればいい。 問題はその内訳だ.....僕が何を言いたいのか分かるか?」


「......」


「あれだけ大層なこと言っておきながら、新メンバーはたったの二名.....これはなんの冗談だ? 貴様は無能か? それとも阿呆か?」


「......」


「著しく人脈が無いタイプだと察してはいたが、まさかこれほどとはな。 まったく、貴様は友好関係さえまともに築けない未熟者か? 出直してこい」



辛辣な言葉の暴力が、光の身に絶え間なく襲いかかる。


そんな様子を見てさすがに可哀想になったのか、シルヴィアが焦った様子で止めに入ってきた。


「レ、レイリス!! もういいでしょう!! 光さんをそんなにいじめないであげてください!」


「これは失礼いたしました、シルヴィア様。 あまりにも彼が愚かで惨めに見えましたので、つい」



三刀屋 光という人間は、中傷や暴言なら何を言われようが気にも留めない。


その程度、高校時代に飽きるほど言われてきたので、もう慣れっこだろう。


しかし、そんな彼にも受け流しきれないジャンルが存在する。



そう、彼は人間関係諸々に関する悪口には滅法弱い。


この話題は基本、抽象的な内容ではなく"事実"を突かれることになる。


「キモい」「ウザい」などといった曖昧な攻撃よりも、「人脈が無い」「ぼっち」などの方が光にとっては圧倒的にキツいのだ。



レイリスと口論になった際、いつもは言い負かすほどの口達者になるのだが、今回ばかりは議題が悪い。


何一つ言い返せず図星を突かれ続け、ガクリと落ち込むしかなかった。



「まーまー三刀屋氏、元気出しなよ!! 君にはエレベーターくんがいるんだから大丈夫だって!!!」


「.....エレベーターじゃねえよ。 なんだよエレベーターって。 お前は若いんだから階段使えよ」


隣に座っていたナギサが「ニヒヒ」とはにかみながら光の背中をバンバンと叩き、励ましの言葉を掛けてくれる。


わざと間違えているとしたら中々の煽りスキルだが、それにしても顔だけは本当に可愛い。



そういえば、数時間前に彼女と会った時は目も合わさずに逃げられてしまったのに、今はその様子が一切見られない。


ここにいるのは、黙ってれば可愛い系女子筆頭の、光が知っているナギサ=トワイライトだった。



「よく分かんないけど、そろそろ私達を集めた理由説明して貰って良い? 大事な話があるんだろ?」


中々話が進まない為、寝落ち寸前みたいな顔をしている九条がその重そうな口を開き、声を上げた。


「そ、そうだった.....実はな———」



前置きが長くなってしまったが、集まってもらった四人の前で、光はこれまでの経緯を可能な範囲で話した。



これまで末元に二度会っていること、FOD当日に大規模な襲撃を受けていたこと、シルヴィアの命が狙われていること、潜伏先が一切不明であること。


そして、とにかく今は一刻も早く末元の身柄を確保しなければならないということ。



しかし、末元の居場所が全く分からない以上、光一人でがむしゃらに動き回ったところで解決できる可能性は0に近い。


そこで、優秀かつ信頼できる戦士の力を是非とも貸して頂きたい.....というのが今回の目的だ。



「.....ざっとこんな感じだが、その...どうだろうか? もちろん無理にとは言わない、嫌なら断ってくれ」


説明を終えた光は、ほんの少し不安そうな表情でナギサと九条の顔を見る。


するとナギサは席を立ち、右手を元気よく上げ、


「はいはーい!! 何か楽しそうだし、ナギサちゃんはバリバリOKです!! てかシルヴィア様を助けるなんて当たり前だし!みたいな的な感じでOK的な??!」


と言い、全く悩む素振りすら見せずに参加表明をしてくれた。



「.....それでこそ神の子だ。 悪いけど、これからよろしく頼むな」


「いいっていいって!! こんなに大事なことを三刀屋氏だけに任せてたら心配で夜も眠れないもん!」


一人でボランティアをする様な子なので、まあ受けてくれるだろうとは思ってはいたが、まずは一安心である。


最後に失礼なことを言われたような気もするが、今日の所は大目に見てあげよう。



「それで、九条はどうする? さっきも言った通り強制はしないが.....」


「ん?...うーん....そうだなあ.....」


ナギサは二つ返事で了承してくれたが、九条の反応はイマイチだった。


何か引っかかる点があったのか、腕を組み難しい顔をしている。


そして、しばらく考えた後にこう言った。



「なんつーかさ、私はやっぱりあいつがそんなことするとは思えないんだよな。 だってあの光良だぜ? 見間違いなんじゃないの?」


元の世界に居た頃、九条と末元はそこそこ仲が良かった。


同じトップカーストの人間ということで、話す機会も多かったのだろう。


だからこそ九条としては、かつての友人が人を殺そうとしているだなんて話、にわかには信じられないのだ。



しかし、光はその耳で確かに聞いた。


そして実際に襲われたのだ。


その事実が揺らぐことは無い。


「残念だが、さっき話したことは全て事実だ。 何なら鎌瀬も"あっち"側についているのがほぼ確定している。 誰かに洗脳されているという線はあるかもしれないが、どっちにしろこのまま野放しにしてはおけない」


「いや、鎌瀬はどうでもいいんだけどさ.....まーでもいっか、私も久々に光良の顔見たいし協力してもいいよ。 どうせ暇だしね」


九条の言葉に、光は「えっ」と驚いた声をあげる。



「本当か?! 正直ダメ元で誘ってみた部分もあったから、そう言って貰えるとマジでありがたい」


「さすがにクラスメイトが命狙われてるって聞いて黙ってらんないっしょ。 ましてや相手が相手だし。 でも何で私なわけ? 他に誰か居なかったの?」



今回の人選に関して、九条が疑問に思うのも無理はない。


他の四名がチート悪魔、鉄壁王女、天才軍人、雷神巫女というぶっ飛んだ面子の中、自分だけは"普通"なのだから。


また、彼女はこの世界に来てからまだ数ヶ月しか経っておらず、魔法についてもまだまだ未熟。


言ってしまえば、他の学院の生徒達全員が人生の先輩なのだ。


故に「周りの生徒は自分よりも優秀に決まっている」という感覚を自然と持つようになっていた。



「そりゃーその辺の下っ端みたいなのよりは強いかもしれないけどさ、正直あんまり自信はないっていうか....」


本当に自分なんかが役に立てるのだろうかと、不安が拭えない様子の九条。


普段は良い意味で気の強い彼女だが、珍しく弱気な表情をしながらそう呟いた。



対して、光は一片の迷いも見せずニヤリと笑い、話の続きをする。


「安心しろ、九条なら即戦力間違いなしだ、俺が保証する。 この面子に混ざっても埋もれることなく活躍できるはずだ」


自信満々にそう言う光。


きっと彼は内心、「これで九条の奴も乗り気になってくれるだろう」とか思っていたのだろう。


だが悲しいことに、彼女の反応は光が予想していたものとは大きく違っていた。



「いや、なんでお前が私をそこまで買ってるのかマジで分かんないんだけど....あ、もしかして口説いてる? てか口数多いな今日、合宿でテンション上がってんの?」


「え.....三刀屋氏、この人のこと口説いてるの?! え?! え?!」


「ひ、光さん?! そうなんですか?!」


「クク....貴様は案外ジョークの才能があるのかもしれないな」



せっかくの結成記念日だというのに、ことあるごとに必要性のない精神攻撃をされている気がする。


人間という生物は、なぜ複数集まるとこうも攻撃的になってしまうのだろうか。



しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。


気を取り直して、九条の説得を続ける。



「.....黙って聞け。 俺が九条を買っている理由はただ一つ、その実力を傍で見ていたからだ」


「あー、そういえばそうだったっけー?」


光はFODの練習の際、何度か彼女と練習試合をしたから分かるのだ。


使い慣れたスピード強化魔法と、愛用武器「サザン・クロス」を介したトリッキーな戦術。


他の一般的な生徒に比べると、現時点で彼女は抜きん出た強さを誇っている。



「妙な十字型の剣と高速移動を組み合わせた戦闘スタイル...あれは自然に身に付いたってレベルじゃない。 俺も初めてみた時は正直驚いた」


「まあそうだけど、大したもんじゃないぜ? ほとんど我流だし、ガチの相手に通用するかどうか.....」


「いや、通用する」


「何でそう思うの?」


九条がそう聞くと、光は腕を組み、核心を突く様な言い方で、


「その力には確かな"実績"がある....そうだろう?」


と言い放った。



「......!」


光の言葉を聞いた九条は何かに気付いたかのように、ハッとして俯き加減だった顔を上げる。



少し前まで九条・木乃葉・天谷の三人はギルドに所属し、自らクエストをこなすことで生計を立てていた。


その際には、この限りなく広い世界の各地を渡り歩く必要があり、中には魔物が出現する様な場所もあったはず。


実際に襲われたことだってきっとあるだろう。



それでも彼女たちが今こうして元気に生きているのは、九条が二人を守ってきたからだ。


お世辞にも戦闘向きとは言えない木乃葉と天谷を守れるのは自分だけ。


その為には"力"が必要だった。


分からないなりに色々と試行錯誤しながら、時にはギルドメンバーを尋ね、日々努力を重ねてきたのだろう。


こうして出来上がったのが、今の九条 鈴音という戦士なのだ。



「前に木乃葉から聞かせて貰ったんだ。 鈴音ちゃん凄いんだよ!!って一生惚気てたぞあいつ」


「そっか...困った子だなー、ほんと.....」


九条は少し照れ臭そうに頭を掻く。


自分が知らない所で、友人が自分のことを褒めているのを知った時は、誰だって嬉しくなるものだ。



「あと、俺たちの中にドラグ—ンがいないからってのも理由の一つだ。 もちろん、ドラグーンなら誰でもいいわけではない。 実力と信頼両方を兼ね備えてる奴じゃないとな」


「へ、へえー.....にしても、三刀屋って意外と褒めるの上手いんだな.....ちょっと嬉しかったよ」


そう言う九条は、髪を指でクルクルとさせながら視線を逸らし、ほんの少しだけ顔を赤くしていた。


元モデルだけあって、こういったポーズはとても様になっている。


勿論、間違っても恋愛的な意味で照れているわけではなく、単に褒められて恥ずかしくなっているだけだ。


ともあれ、九条が少しでも自分の実力に自信をつけてくれたのなら、わざわざ苦手な会話を続けた甲斐はあっただろう。



「ジーーー......」


ここまでの光と九条のやり取りを見て、不満そうにしている人物が約一名いた。


頬を片方ぷくっと膨らませながら、その子は光の顔をジト目で見ている。



「ん? どうしたナギサ、何か意見があるならどんどん言って———」


「いえ別に。 相変わらず冴えない顔してるなって見てただけ」


「あ、そうですか.....すんませんでした.....」


「.....べーっだ」



ナギサから唐突に悪口を言われ、心にグサッと矢が刺さる。


ただ、舌を少し出してむくれているその顔は正直めちゃくちゃ可愛いので、しばらく見ていたいくらいだ。


にしても、彼女の機嫌がコロコロ変わるのは、雷のゴロゴロに因んでいるのだろうか。


神の子が考えていることは、一般人には分からない。



ここでふと、レイリスが口を開く。


「そう言えば、僕はその.....ナギサくんだったかな? 彼女のことをよく知らないんだが」


「あ、私もその子、学院で見たことはあったけど全然知らないや」


言われてみれば、レイリスと九条はナギサと初対面であった。


こういったシチュエーションの場合、会議の頭に自己紹介をするのが普通だが、光にそんな企画・進行力は無い。


とはいっても、初回なので仕方ない部分もある。次回に期待しよう。



レイリスの質問にはシルヴィアが答えてくれた。


「彼女は1-Bのナギサ=トワイライトさんです。 見た目は小さ.....可愛らしいですが、レイリスもビックリの大魔法使いですよ」


「ま、またちっちゃいって言ったぁ?! 酷くないですか?! わざとですか?!」


シルヴィアの紹介内容に不満があったのか、ナギサは席を立ち、キーキーと騒ぎ出す。



そこへ追い打ちをかける様に、九条が自分の自己紹介を兼ねてこう言った。


「へーこんなに小さくて可愛いのに中身は凄いんだ、びっくり。 あ、私は九条 鈴音だよ。 よろしくな」


「ち、ちいさくないってば!!! とりあえずよろしく!!!」


もはやナギサは、怒っているのか喜んでいるのか分からない、おかしな態度になってきている。



最後にレイリスが、イケメンスマイルでナギサへ、


「僕はレイリス=ヴィルターナだ。 その小柄な体から繰り出される魔法、非常に興味がある.....ぜひ今度見せてくれないか?」


と言ったのだが、何故かナギサは急にクールダウンをし、冷めた声色でこう返した。


「あ、騎士団のイケメンの人ですよね、知ってますよ。 あと小柄じゃないです。 そこは本当に気を付けてください」



多分、彼女はいまキレている。


日頃から身長が低いことを気にしているというのに、あまりにも小さい小さい言われるものだから、さすがにイラっとしてしまったのだろう。


別にレイリスみたいな胡散臭いイケメンが嫌いだとか、決してそういうわけでない。



とにかくこうして無事、想定していた通りのメンバーを集めることに成功した光。


自己紹介も済ませ、これから全員の仲も深まっていくことだろう。



ナギサは持ち前の明るさのおかげか、出会って30分で既に溶け込んでおり、ラウンジには彼らの話し声と笑い声が響いていた。


光は黙ってその様子を眺めつつ、今後の計画を考える。



中々考えがまとまらず「うーん」と唸る光に、シルヴィアがこっそり声を掛けにきた。


「光さん、ありがとうございます。 私の為にここまでしてくださって.....」


「ん? ああ、気にしないでくれ。 まだ何も解決できてないし、お礼を言うのはまだ早いさ」


「もー、そういうことじゃなくって....気持ちが嬉しいんです。 こうして皆さんで集まったっていうだけでも、なんだか少し気が楽になった気がします」


やはり、シルヴィアは今こうしている間も不安でいっぱいなのだろう。


気が楽になったというのは本当かもしれないが、気休め程度でしかないはずだ。


彼女を一日でも早く楽にしてあげたい。


光はそう思う気持ちがより一層強くなる。



「.....俺が全部終わらせる。 だからもう少しだけ待っててくれ」


右手を強く握り、勝利を誓う。


ここまで来た以上、相手が誰だろうが負けるわけにはいかない。


末元と鎌瀬だけでなく、帝国とやらの組織共々根絶やしにする。



それが光に課せられた使命だ———


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