【第57話】思わぬ収穫
「.....お前が末元に関して知っていることを全て話せ」
「わ、分かったから落ち着けよ!! まずその物騒な武器をしまえって!」
光はエグゼキューターを右手から伸張させ、片桐の首に刃を突き付けるような形で問い詰めていた。
ここまで威圧されてしまっていては、聞かれている側は出るものも出ないだろう。
言葉を発する際の僅かな動作ですら、今の片桐にとっては命取りになってしまう。
この様子では全くもって話にならないので、見かねたレイリスが「やれやれ」と小声で呟いた後、目の前の暴走列車にブレーキを掛けにいった。
「三刀屋 光、彼の言う通りだ。 一旦落ち着け。 僕が言えたことじゃないが、貴様はすぐに熱くなるその癖を直さないと、いつか必ず痛い目に合うぞ」
「.....(コクコク!)」
レイリスのフォロー気味の発言に、片桐は半泣きで頷く。
「.....痛い目、か」
一方で光にも心当たりがあったのか、特にレイリスに言い返したりはせず、暗い表情をしながら掌を見つめていた。
確かに以前末元から襲撃を受けた際、シルヴィアが軽いダメージを負っただけで、周りが見えなくなるほどに逆上してしまったことがある。
その結果、わずかな隙を魔物に突かれしまい、致命傷を負うことになった。
ナギサが助けに来てくれなかったら、あのまま二人共殺されていただろう。
冷静さを保ち、いつも通りの動きが出来ていれば、あそこまで追い込まれることは無かったはず。
レイリスの言う通り、シルヴィア関連のことになると沸点が極端に低くなってしまう癖は、治せるものならすぐにでも治したいところだ。
(そう言えば、日本に居た頃は誰かに対して本気でキレたことなんて一度も無かったな.....)
一応この件については、光本人も自覚はあるらしい。
犬猿の仲であるレイリスに指摘されたにも関わらず、真摯に受け止め、自分なりに反省をしていたのだ。
しばらくして、光は自分の中で考えがまとまったのか、片桐の首に向けていた右手をサッと払い、エグゼキューターを解除する。
そしてレイリスに背を向けたまま、こう言った。
「.....悪い」
それを聞いたレイリスは、一瞬だけ驚いた様な表情をするが、それも束の間。
すぐにいつものすかした表情へと戻り、腕を組みがらこう返した。
「フンッ、団長のフォローは部下の役目の一つだ、礼には及ばん」
お互い目を合わせはしないものの、光は的確なアドバイスをくれたお礼を伝え、レイリスも変につけあがったりはしなかった。
友人としては相性最悪の二人だが、業務的な付き合いに限って言えば、良いパートナーになれるのかもしれない。
「それで、片桐君と言ったかな?.....早速話を聞かせて貰おうか」
「ほ、本当にそんな大した話じゃないんだ!!! 実はこの前―――」
ほんの少し出遅れたが、ここでようやく本題に突入する。
片桐はまだ震えが止まっていない状態ではあるものの、大きく深呼吸をし、語り始めた。
~ 5日前 ~
「へへっ、ギルドに来るのも何だか久しぶりって感じだな」
「ふひひ...そうだね...目が覚めた時、片桐君が近くにいてくれて本当に助かったよ」
「俺達みたいな陰キャ二人組だけだったら詰んでたな、マジで」
先週末、俺達3人は学院に入る前に属していたギルドへ顔を出しに行っていた。
規模は小さいけど活気があって、メンバー同士の交流も盛んだったし、とても居心地の良い空間だった。
それで、当時よく世話になっていた人と飯を食いに行ったんだけど、その時にこんな話を聞いたんだ。
『そういや最近、SS級以上の魔物を思うがままに手懐ける怪しい男を見たって噂が流れてるの知ってるか?』
「え、SS級以上?! ちょっ、そんな奴いるわけないじゃないっすか、SS級とか討伐自体が無理ゲーっすよ? ありえねえっす」
『俺もそう思ってたんだが...ほら、これ見てみろ。 あ、絶対に大声は出すなよ?』
そう言って、その人は俺達に1枚の写真をこっそり見せてくれた。
どうやらその写真は極秘のルートで手に入れたらしく、世間にはほとんど出回ってないらしい。
情報屋に提供すれば高値で売れるとその人は喜んでいたが、俺達は写真を見て思わず声を上げそうになってしまった。
「お、おい真田、不動...こいつ.....」
「す、末元くんだ...やっぱりこっちに来てたんだね.....」
「SS級モンスターを手玉に取るとか、さすが末元だ...すげえや」
写真には、暗い森の中でひれ伏すSS級モンスターの姿と、その頭を笑顔のまま踏みつける末元の姿が写っていたんだ。
正直、末元の顔を見た時は寒気がしたよ。
なんつーか目が笑っていないっていうか、表情が冷め切っているというか、とにかく以前の末元がする様な顔じゃなかった。
あと、これは確かな情報じゃないんだけど、他にも末元の姿を見たって人が何人かいるらしい。
聞くところによると、SS級以上のモンスターの発見報告がある場所にしか現れないだとかなんとか。
曖昧すぎるけど、末元の情報は今の所それぐらいしか無いらしくて、住んでる所とかは全くもって謎。
SS級モンスターを手懐ける人間なんて普通有り得ないから、モンスター通の間では伝説扱いされているらしい――――
「と、とまあ短いけどこんな感じだ!! こ、これで満足か?!」
話を終えた片桐は「もう解放してくれ」と言わんばかりの声を上げる。
真田と不動も同様に、ガタガタと震えながら光の顔色を伺っていた。
一方、光とレイリスは何かを考える素振りをした後、お互いに目を合わせ、コクリと頷いた。
「.....片桐」
「な、なんだよ...これ以上はマジで何も知らねえぞ......」
「よくやった、かつてないお手柄だ」
「へ?」
返って来た答えが予想外だったのか、間抜けな声が漏れる片桐。
確かに彼からしてみれば、大した価値もない情報だったかもしれない。
だが、情報の価値というのは聞く人によって全く異なるものだ。
価値「0」の情報が「10」になることもあれば、100...いや、1万に膨れ上がることだって有り得る。
この度の一件はまさにそれだった。
片桐の何気ないエピソードは、光が最も欲していたと言っても過言ではないほどに重要な情報だったのだ。
手がかりとしては微々たるものかもしれないが、全くのゼロとそうでないとでは、天と地ほどの差がある。
今までは帝国とやらの居場所は愚か、末元がどこで何をしてるのかさえ、一切不明だった。
ゆえに、末元を追うにしてもどこから手をつければいいのか、結局何をするのが正解なのかも全く分からないといった状況だったのだ。
それがついに、念願の足跡を掴むことが出来た。
不本意ではあるが、こればっかりは片桐を褒めてあげる他ないだろう。
「よし、もうラウンジに戻っていいぞ。 それとお前らの依頼については.....あとで話くらいは聞いてやろう」
「え、あ、そ、そうか!! はははは...じゃ、じゃあまたあとでな!」
すっかり冷えてしまった汗を袖で拭い、苦笑いを浮かべながら、片桐たちは小物感満載の逃げ方で去っていく。
始まりこそどうなることかと思ったが、光としては結果的に良い方向に傾いたと言っていいだろう。
そして光は、ここでレイリスにちょっとした提案をする。
「この件はあとでシルヴィアにも伝えておいてくれ.....それと、騎士団の連中には黙っておいて貰えると助かる」
「.....その理由は? 僕の立場上、報告は義務なんだけど」
レイリスがそう言うと、光は右手を強く握り締めながら悔やんだ表情を浮かべ、つっかえていたものを吐き出すようにこう言った。
「いまこうして末元に自由を与えてしまっているのは、あの時取り逃がした俺の責任だ。 俺がしっかりしていれば、シルヴィアが日々恐怖に怯えることもなかった。 だから俺がこの手で決着をつける、それだけだ」
「そうは言ってもねえ...上官に虚偽の報告をする僕の身にもなってくれよ」
「.....頼む、この通りだ」
「お、おい.....」
光が取った行動を見て、さすがのレイリスも驚きを隠せなかった。
あれほど対立していた相手に、面と向かって深々と頭を下げる。
それが何を意味するのか、分からない男はいないだろう。
レイリスは呆れた感じで溜め息をつくと、わざとらしく前髪をかきあげてこう言った。
「.....正直、ただの学生が提供する情報には信憑性など微塵も無いし、アレを鵜呑みにするのは厳禁だ。 下手をすれば、かえって混乱を招くだろう」
それを聞いた光は、ハッと顔を上げてレイリスの顔を見る。
「ひとまずは黙っておいてやるが、今後どうするかはその時の状況次第だ。 我々は個人の感情で動いているわけではないからな」
「.....助かる」
「フン.....僕はもう戻るぞ。 貴様も二回連続で遅刻しない様にせいぜい気を付けるんだな」
「ああ.....それにしても意外だな、お前がこんな要求をのんでくれるなんて」
光がそう言うと、レイリスは何も語らず前を向き、ゆっくりと歩き始める。
そして後ろに立つ光に、ギリギリ聞こえるかどうかいった小さな声で、こう呟いた。
「僕も昔、貴様と似たような経験をしたことがある.....いや僕の方がより大きな失態だっただろう。 数年経った今でも、僕はあの日のことを一瞬足りとも忘れたことは無いし、今だってそうだ....まあ、だから貴様の気持ちは分からなくもないって話さ」
そう話すレイリスの横顔は、いつもの自信に満ち溢れた表情ではない。
どこか切なく儚げで、何かに対して強く後悔している様な表情だった―――




