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【第56話】口は災いの元

「ププ.....相変わらず一人で飯食ってるのか、さすがだぜ三刀屋。」


誰にも邪魔されず、ゆっくりと夕食を楽しんでいる所に現れた片桐・真田・不動の三人。


彼らが構えるその表情は、明らかに何かを企んでいる様子だった。


苛立つ気持ちを抑え、光はひとまず冷静な対応をする。



「.....で、二人もお仲間を連れて俺に何の用だ?」


「おいおい、そんなに睨むなよ...俺達は同じ南ヶ丘学園の仲間じゃないか。」


「ふ、ふひひ...そうだぜ三刀屋...僕らは仲間なんだ。」


「む、昔一緒に数学のノートを貸し借りしたよな? あれは助かったぜ~。」


(こいつら.....そういうことか)



たったこれだけの会話だが、彼らの目的の方向性を光は察していた。


表面だけ見れば、仲の良い友人に笑顔で話し掛けているように見えるかもしれない。


しかし、その表情の裏に隠れているのは人間の「闇」だ。


他人を利用しようと考えている時にだけ現れる、独特の薄ら笑い。


"この顔"は今までの人生において、嫌というほど見てきた。



光は彼らのリーダー的存在である片桐に、鋭い視線を向ける。


「そんな話をしにわざわざ来たのか?.....さっさと本題に入れ。」


「クク.....実は今俺たちさあ、クラスの中での立ち位置がかなり危ういんだよ...いわゆる低カーストってやつ? 女子どころか男にも相手にされない始末なんだ、ひでえだろ?」


「皆酷いんだ...僕のこと気持ち悪いっていう人までいるし...もう耐えられないよ...」


「そこでだ! 俺たちが復権する為に!...お前のその"力"を貸してくれないか? 勿論それなりの報酬は用意してあるぜえ...!」


片桐は両手を広げ、まるで何かの演説をしているかの様な雰囲気でそんなことを言い始めた。



(元々俺と似たようなポジションだった真田と不動はともかく、片桐がそこまで落ちてたとはな.....にしても、内容がしょうもなさすぎる)


少しでも警戒していた自分が馬鹿らしく思えてきた。


彼らの考えていることは中学生一年生レベルだ。


クラスメイトにいびられたから、怖い先輩に暴力でねじ伏せて貰うと言っているのと、何ら変わらない。


それに加えて、今まで散々見下してきた相手に都合の良い時だけ頼るなんて、白々しいにも程がある。


正直、長いことぼっちだった光としては、彼らの気持ちは痛いほど分かるのだが、かといって依頼を受ける義理も無い。



光はグーの手で頬杖をつき、早く目の前から消えろと言わんばかりの表情で答えた。


「断る。 そうなった経緯は知らんが、自分で何とかしろ。 で、話はそれだけか? なら―――」


「.....まあ待てよ。」


今はこれ以上話すこともない為、その場から離れようとするが、片桐に肩をポンっと掴まれる。


そして片桐は不敵に笑い、小声で語り掛ける様に呟いた。



「.....お前、末元を追ってるんだろ? 偶然だが、シルヴィア=ルー=エルグラントとお前の会話を聞いちまってな。 実は俺―――」



聞いた瞬間、脳裏に一本の閃光が駆け抜けていくのを光は感じた。


同時に眼孔がカッと開き、今にも深淵の底へと引きずり込んでしまいそうな形相で片桐を睨みつける。


その瞳は、カノープスと対峙した時に見せた奇妙な状態に近い、見るもの全てを恐怖させる悪魔の眼。


以前のような完全体ではないものの、酷く充血しており、普段とは明らかに様子が違った。



「ヒイィッ!!!.....お、お前なんか目が変―――」


「拘束しろ.....ナイトメア・プリズン。」


「え....? うわああぁぁ!!!!」


「な、なんだ??! う、上から何か来て―――」



突如ラウンジ全体に響き渡った、耳を塞ぎたくなるほどの不協和音。


何も無い所から現れた、無数の目玉が張り付いている不気味な漆黒の牢獄。


そして、片桐・真田・不動の三名がその牢獄へと飲み込まれていくという、嘘みたいな光景。



気付けば、楽しく談笑していた生徒たちの声は無になっていた。


ここでいま何が起きたのかを把握できている生徒は、誰一人としていないだろう。


彼らはもう、黙って息を呑むことしか出来なかったのだ。



そんなことには目もくれずに、光は檻を空中に浮遊させると、それを後方に連れながらラウンジをゆっくりと歩き始めた。


「.......」


この期に及んで、これ以上何をしようと言うのだろうか。



生徒達の間に嫌な緊張感が走る。


もしかしたら次は自分が狙われるのではないかと、震えが止まらない。


中には恐ろしさで涙ぐむ生徒までいた。



しばらくすると、自らが属する1-Aの生徒が集合している辺りで光は足を止めた。


そして、探していた人物へと声を掛ける。


「.....レイリス、"関係者"を発見した。 ついて来い。」


相手は、自らが率いる軍の一員でもあるレイリスだった。


突然奇妙な魔法を使ったかと思えば、今度は学院内で神格化されているレイリスに対し、タメ口で命令する三刀屋 光という人物。


ただでさえ激しく混乱していた生徒達は、もう何が何だかサッパリ分からないといった様子で唖然としている。



一方、声を掛けられた当人であるレイリスだが、特別驚くわけでも、怒るわけでもなかった。


それどころか、何かを察したかのようにニヤリと微笑み、


「.....ほう、それは一大事だ。 OK、僕もすぐに向かおう。」


と落ち着いた様子で光に返した。


この辺りはさすが現役の軍人というか、やはり彼が普通の学生ではないことがよく分かる。



レイリスの返事を聞いた光は、再び無言で歩き始める。


結局、混乱状態の生徒達に何のフォローもすることなく、そのままラウンジから出ていってしまった。



『や、やっと行ったか.....殺されるかと思った.....』

『何だったのあの人....ちょっと頭おかしいんじゃないの?』

『せっかくの飯が不味くなっちまったぜ.....』



当然、ラウンジ内は光への愚痴で溢れていた。


こんなにも最悪な空気にしておきながら、身勝手に消えていく光の行動は褒められたものではない。


普通の環境なら、明日から孤立確定コースだろう。


だがここは、イケメンで天才で現役の軍人で皆の人気者であるレイリス=ヴィルターナさんの出番だ。



彼も自分の役割をよく理解しているのか、「はぁ」と軽くため息をつき、ゆっくりと席を立つ。


そして咳払いを二回挟んだ後、生徒全員の心に直接言い聞かせる様な情に満ちた声で語り始めた。


「皆、せっかくのディナータイムに水を差してしまい、本当にすまなかった。 今のは後日開催予定の演劇の練習でね、彼がどうしても本番に近い環境でやりたいっていうから、皆が一度に集まっているこの場を利用させて貰ったんだ。 だから責任は僕が全て取る...この通りだ.....どうか許してくれないだろうか?」


嘘100%の内容をさも真実かの様に演説し、頭を下げるレイリス。


もうこの男は軍人なんてやらずに、演者にでもなった方がいいのではないだろうか。


そう思えるほどに、完璧なフォローであった。



とにかく、あのレイリス"様"がここまでやってくれたのだ。


文句を言う人間や、これ以上疑いの目を向ける生徒など居るわけがない。



『なーんだそういうことなら事前に言って欲しかったですよ~!!』

『レイリス様の演劇とか早く見たいんですけど!? いつやるんだろう?!』

『てか何で悪魔の人なんかと共演するんだろう? え、マジでなんで? あの人、いる?』



一時は取り返しのつかないほど絶望的な空気だったのに、たった一文でこの変わりよう。


生徒達は無事に調子を取り戻し、むしろ盛り上がりが以前より増していた。


こればっかりは「さすがレイリス」としか言いようがない。



「ふぅ.....全く、世話の焼ける団長だ。」


レイリスも上手くいって一安心といった様子だ。


彼はそのまま、同じテーブルに座っていたシルヴィアに対し、


「.....ということですのでシルヴィア様、僕は少し席を外します。」


と報告する。



それを聞いたシルヴィアは席を立ち、少し戸惑った表情でこう返す。


「わ、私も付いていきます!」


彼女としても決して他人事ではない為、自分もついていきたいのだろう。


だが、レイリスは彼女の要望を聞く気は無かった。



いつもの爽やかスマイルを作り、シルヴィアに頭を下げる。


「これは僕と彼の仕事です。 シルヴィア様は皆とごゆっくりお過ごしください。」


「え、ちょっと待ってくださ...行ってしまいました.....」



本当ならシルヴィアにも来て貰うべきなのだが、せっかくの楽しい時間を邪魔したくはない。


それに、今その場に居なくとも後で内容を伝えれば済む話である。


だから光もレイリスも、彼女には付いてくるように言わなかったのだ。


他の生徒達が盛り上がりを取り戻す中、シルヴィアはモヤモヤとした気持ちを残したまま、飲み物を一口飲んだ。




そしてこのラウンジにはもう一人、同じように浮かない顔をした女の子がいた。


「.....三刀屋氏、あんな怖い顔してどうしたんだろう。」


「え? ナギサ、ミトヤシって何? 木の実の名前?」


「.....ううん。 何でもない。」


「そっかそっか、ちっちゃいんだからいっぱい食べて大きくなるんだぞー。」


「べ、別にちっちゃくないから!!!...いやちっちゃいのかな...ちっちゃいかあ...いやでもちっちゃくはないような....んー....やっぱちっちゃいなあ....はあ....」



どうやら、ナギサは光の荒事を比較的近い距離で見ていたようだ。


そう言えば休憩時間に突入した直後、光がわざわざ教室まで来て話しに来てくれたのに、彼女は何を思ったのか、慌てた様子で逃げてしまった。


一応、あれからずっと気にはしていたらしい。


そんな気持ちのまま、過去最大級に怪しい行動を取っている姿を目の前で見せられたのだ。


もうむしゃくしゃして堪らないだろう。



(うーーダメだーーめっちゃ気になるーー......でも......)


しかし、あの雰囲気の中に乱入する勇気はさすがのナギサにも無かった。


頭を抱え、心の中で唸ることしかできない。


気にはなりつつも、大人しくラウンジで過ごすことを彼女は決めたのであった。




~フォルティス魔法学院 特別合宿所 バックヤード にて~


「.....拘束解除。」


光がそう呟くと、ナイトメア・プリズンが元の黒いオーラへと形を戻し、右腕に吸い込まれるように消えていく。


同時に片桐・真田・不動の三名が、数分振りにシャバへと解放された。



「ウ...ウワアァァ!!!! お、落ちついてくれ三刀屋!! 頼む!!」


「終わった...殺される...やっぱりこいつに関わっちゃいけなかったんだ.....」


「タスケテ...ママ......」



ひと気の一つも感じられない、暗く静かな場所に三人を連れてきた光。


例の眼は先程よりも落ち着いているが、まだ少し充血部分が残っていた。


それから10秒も待たずに、今度はレイリスが到着する。



「やぁ、待たせたね.....ところで、君たちが関係者ってやつかい?」


レイリスは糸目になるくらいの作り笑いをしながら、片桐にそう言う。


「レ、レイリス=ヴィルターナ...様...なんであんたまで.....」


まさかヘカトンケイルのNo.3まで現れるとは思ってもみなかった片桐達は、より一層怯えた様子で身体をくっつけ合う。



「ちょっとした質問タイムに混ぜて貰うだけさ.....ただのお話で終わるかどうかは君たち次第だけどね(ニコッ)」


『ヒ、ヒイイイイイイイイ!!!!!』



これで役者は全員揃った。


楽しい楽しい尋問タイムが今、始まる―――

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